海堂 尊(著)
「死因不明社会―Aiが拓く新しい医療 (講談社ブルーバックス)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4062575787/>
新書: 280ページ, 出版社: 講談社 (2007/11/21), ISBN-10: 4062575787, ISBN-13: 978-4062575782, 発売日: 2007/11/21
[書評] ★★★☆☆
現役の医師であり小説家でもある海堂尊氏が、
- 日本では死者の解剖が少ない…日本における死者の解剖率は2パーセント台、残り98パーセントは体表から見た検案だけで死亡診断書が書かれている。また、変死体についても解剖率がわずか9パーセントにすぎない
ということを問題視して著した作品。解剖が少ないということは、
- 死者の本当の死因がわからないままのことが多い
- 事故・事件による死亡が隠蔽される可能性がある
- 医学の発展にとっても良いことが無い
という観点から書いている。
本書は、ノン・フィクションとしては珍しく、筆者のヒット作「チーム・バチスタの栄光」(単行本、文庫・上、文庫・下)やその後のシリーズ作に登場する架空の人物、厚労省官僚の白鳥圭輔室長(架空の人物)に対して、ジャーナリストがインタビューを行っている、というカタチで解説を行なっている。
- 全ての死者について、(解剖実施の有無にかかわらず)画像診断を行いなさい!
ということに尽きると思う。画像診断とは、X線やMRIによるCTスキャンを指すが、これを行なうことによって、
- 解剖の要否が判断できる
- 体表から見た検案だけでは見逃してしまうような死因が解る
- 事故・事件等の死亡を明らかにすることが出来る
- 情報の蓄積により、医学の発展にも寄与する
というメリットがあるという。
本書では、オートプシー・イメージング(Ai)という概念/手法を提案している。すなわち、全ての死者に対して、まず画像診断を行い、その結果から必要に応じて解剖による診断を行なうという手順だ。解剖が必要と判断された場合には、解剖の必要性について、遺族への説明もし易いとのこと。
しかし、医学の発展等に寄与するとは言っても、遺族にとっては出来れば遺体は切り刻まれたくない、というのが実際の心情であろう。
本書は、解り易い解説で、Aiの必要性について説く。医学の発展云々は、医療現場の当事者にとっては願いであり、本書での主張も理解できる。しかし、Aiにより解剖が必要と判断された場合について、本当に遺族が解剖の実施を受け容れるか? 説得力が不十分ではないか? その辺り、ちょっと疑問も残る感は否めない。
0 件のコメント:
コメントを投稿