たまには“積読”本でない、新しめの本も。
フレッド・ボーゲルスタイン(著), 依田卓巳(翻訳)「アップルvs.グーグル: どちらが世界を支配するのか」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4105065718/>
[書評] ★★★★☆
元々はPCメーカと検索サービスという異なる出自を持つAppleとGoogleが、スマートフォン、タブレットという同じステージでどのようにガチンコ勝負をしてきたのかを記す本。携帯端末でのWeb閲覧と広告媒体、音楽配信、TV/動画配信といったメディアの有り方を、この2社がどのように変えて行ったのか、今後どのように変わっていくのかを中心に2社のアプローチの差異も明らかにしていく。
また、AppleとGoogle(表向きはSamsung等のアンドロイド端末の製造メーカ)の特許紛争と、その際にAppleが取った戦略についても触れる。
面白いし、技術屋視点からも色々と得るものがある。
Appleが製品・ソフトをクローズな環境で強くコントロールしようとしてきたのに対し、GoogleはOSからソフトまでオープンな環境である程度市場に任せ、弱いコントロールをしてきたことはよく知られている。Appleの“王国”は、iPod, iPhone, iPadと次々と新しい製品を生み出しながら、それをiTunesとiTunes Storeの管理下に置き、音楽や動画やアプリの購入を1箇所で管理されたクレジットカード番号で決済できるようにしたこと(ユーザへの利便性の提供)にあると言う。Googleの価値提供は違うアプローチだ。
…といった戦略の違いはよく知られたことではあるが、本書から技術屋目線で得られる教訓で、特に大きなものは次の2点だろう:
- 時機を得た製品&サービス投入と、絶えざるビジョンの発信
- 特許戦略
前者については、故スティーブ・ジョブズ前CEOは非常に巧かった。機が熟し、技術が追いつく丁度その瞬間、新製品を投入してきた。Mac Worldでの魅力的な製品発表や、コンピュータやモバイルの将来ビジョンを示したことは、多くの人が知るところだろう
(発表前~発売の間、実は非常にタイトなスケジュールで無理をしてきたことが克明に描かれているが)。また、音楽配信を開始するにあたって、音楽業界の大手と強気とかなり交渉をしたことも知られているが、明確なビジョンあってのことだと思う。
このビジョン発信についてだが、ティム・クック現CEOは、本書にも書かれている通り、どうも無難なことしか言っていないような気がする。これがアップルの魅力を減じてしまっているようだ
(グーグルが次々と新製品/サービスを投入してきているのに比べると、どうしても見劣りがする)。
スティーブ・ジョブズ亡き後、アップルの株価が大きく下がっていることが、株式市場からのAppleの評価を示している。
後者の特許戦略についても色々と学べる点がある。
- Apple(というよりスティーブ・ジョブズ氏)はGUIについてMicrosoftとの不競争契約で失敗したことから多くを学んでおり、Google(Android陣営)とは戦略的に戦った。
- 携帯電話の市場には後発として入ったが、取れる特許は全て押さえて、特許訴訟も本気でやることによって、参入後の地位を安定化させた。
- 市場に出る技術だけでなく、周辺技術も可能な限り特許化する…実際に製品に使われない技術も特許化しておき、①他社の模倣を防ぐ、②競合に対する「目眩まし」とする周辺技術もキッチリ押さえてくる点と、徹底的な訴訟対策は、体力のある企業でないと難しいかも知れない。が、見習うべき点は多々あると思う。
AppleとGoogleの比較評価だけでなく、企業の技術戦略という観点からも、面白い本だと思う。