鳥海 靖(著)「もういちど読む山川日本近代史」
<http://www.amazon.co.jp/dp/463459112X/>
単行本: 265ページ
出版社: 山川出版社 (2013/05)
言語: 日本語
ISBN-10: 463459112X
ISBN-13: 978-4634591127
発売日: 2013/05
[書評] ★★★★☆
『もういちど読む山川日本史』と同著者が書いた『日本近代史』。
- 五味 文彦・鳥海 靖(編)「もういちど読む山川日本史」
Amazon.co.jp→<http://www.amazon.co.jp/dp/4634590646/>
拙書評→<http://yuubookreview.blogspot.jp/2016/03/blog-post_13.html>
- 序文「日本近代史をどうみるか」に8ページも割かれている。これは、山川の歴史教科書への批判に対する答えなのだと思う。
- 明治憲法制は、(マルクス主義者等から批判されるような)立憲制を装った絶対主義ではなく、天皇さえも憲法に縛られる立憲主義であった。
- これは明治憲法制定時に伊藤博文が強調していた点でもあり、後に美濃部達吉が述べた「天皇機関説」そのものである。
- 日露戦争以後、絶対主義(「天皇主権説」)の方向に傾いたのは、軍部が必要以上に力を持ち、国内外の政治を動かすようになったからである。
- 天皇自らが積極的に国家統治の大権を発動したことは殆どない。
- 選挙制度や基本的人権といった観点で、現在(戦後)の体制と比較すると不十分な点が見られるが、当時の先進国(欧米)も似たり寄ったりだった。
- 日本は国民に権利を与えすぎていると、西欧から批判があったくらいである。
- (本書にも書かれている訳ではないが)米国で人種差別制度が無くなったのは1964年のことである。さらに、制度面はともかく、実態としては現在でも有色人種に対する差別は根強く残っている(近年のニュースでも分かる通り)。
- 日中戦争~アジア・太平洋戦争の頃の日本の政治体制を「ファシスト」と言う人がいるが、独・伊の一党独裁体制と比較すると、独裁性は弱く、「ファシスト」と表現するのは不適切。
- 大政翼賛会は一党独裁制ではなく単なる寄せ集め所帯。戦時の臨時体制。挙国一致体制も戦時体制であり、いわゆる全体主義とは異なる。
- (これまた本書に明記されていることではないが)日独伊三国防共協定、および、米英に「ファシズムに対する民主主義の防衛戦争」という口実を与えてしまったことが、戦後、戦前の体制を「ファシズム」と言わせてしまう原因になったのではないか?
- 日露戦争の日本の勝利とその後の日本の東洋でのプレゼンスの増大(米国の東洋におけるプレゼンスは当時まだ小さかった)、及び日露協調路線(米国等が避けたい状態)が、米・英・仏・中などの反日感情を高め(黄禍論・日本人移民排斥運動などとしても現われた)、日本の孤立化~アジア・太平洋戦争へと突き進む素地を作った点も否定できない。
本書について足りない点(文句をつけたい点)があるとすれば:
- 米英(とくに米国)の戦争責任・戦争犯罪に関する記述が全くない。ちなみに、非戦闘員の殺害や非軍事施設の破壊(焼夷弾による都市空襲や原爆による都市破壊など)は、第一次世界大戦後のハーグ陸戦条約(国際法)に書かれた戦争犯罪行為にあたる。が、無条件降伏とはつまり諸外国に対する責任追及を放棄したということなので、これらを「教科書」に書くのは不適切なのかも知れない。
- 戦後の被占領状態~主権回復~高度経済成長~…のことが全く書かれていない(敗戦の記述までで終わり)。せめて主権回復(サンフランシスコ平和条約)までは書いて欲しかった。吉田茂・幣原喜重郎らの(正史に書かれていない)活躍についてはテキスト化出来ない等あったのかも知れないが…。
- 事実(正史)と著者の意見とが一部ゴチャ混ぜに書かれていたり、一文一文が長かったりして、『~山川日本史』より読みにくい。もっと淡々と書いて欲しかった。
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