木谷 勤(著)「もういちど読む山川世界現代史」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4634640686/>
単行本: 254ページ
出版社: 山川出版社 (2015/4/17)
言語: 日本語
ISBN-10: 4634640686
ISBN-13: 978-4634640689
発売日: 2015/4/17
[書評] ★★★★☆
先週書評を書いた『もういちど読む山川世界史』(Amazon, 拙書評)の執筆陣の1人による『現代世界史』。産業革命・市民革命以後の先進国の帝国主義的膨張政策から現代について、『~山川世界史』の後半部よりもコッテリと語る。アメリカの社会学者・歴史学者、イマニュエル・ウォーラステインによる「世界システム論」(Wikipedia)を援用し、世界の近代史を、グローバルなヒト・モノ・カネの動きと、それに依って立つ権力の変遷で説明する。色々な事象について、その背景も含めた解説が深く、非常に面白い。世界経済の「中心」の国々(大国)だけでなく、「周辺」「半周辺」の国々(アフリカ、インド、中東、東南アジアなどの植民地・半植民地)にもキチンとスポットを当てられており、民族自決運動や解放運動、大国(欧米やソ連)との関係について詳述しているのは好感が持てる。
オビに「現代史を読むと今の世界が見えてくる!」と書いてあるが、歴史から学べることは確かに多いと思う。たとえば、近年日米欧に見られる中間層の没落は危険な兆候ではないか(そうでなくても日本には中・韓との領土問題や北朝鮮との諸問題などの課題が山積している)。分厚い中間層が経済安定の鍵ということは、昔よく聞かれた言葉だ。第一次世界大戦後、ヴェルサイユ体制のもと、この中間層が没落した国、イタリアではムッソリーニが、ドイツにはヒトラーが、それぞれ民主的な手順で国の指導者に選ばれ、全体主義国家と独裁体制を作った。その後何があったかは説明するまでもないだろう。
近年、日本も中間層の没落が指摘されて何年も経つが(小泉純一郎首相(当時)も安倍晋三首相も大企業とその経営者を優遇するばかりで、労働者=中間層=は没落せざるを得ないような政策ばかりが目立つ)、アベノミクスの効果は庶民には届かず、近年巷には偏向した歴史書や排外主義的な書籍が溢れており、かなりキナ臭い状況だ(言論と出版の自由は尊重したいが、この手の本が売れる社会というもの自体がヤバいのだと思う)。海外に目を向けても、米国では排外主義・差別主義的な言動が多いドナルド・トランプ氏が大統領候補として躍進していたり、フランスでも極右政党の国民戦線が拡大していたり、ドイツのメルケル首相の出自が東ドイツに残ったナチスに繋がっていたり、トルコが(自称「イスラム国」とは別の勢力として)オスマン帝国の再建を目指しているように見えたり…。ひとつ間違えればこの世の終わりが来るんじゃないか的な危惧を感じる。
以下、気になった点(PRO=賛成、CON=反対)。
- [CON] 同じ山川出版社から出ている他のテキストで不適切とされている用語が所々で使われている。同じ出版社なのだから統一して欲しい。
- [CON] 山川教科書批判派の指摘通り、一部に少々左寄りの傾向がある(自虐史観が強い)。以前の歴史教科書には日本の戦前体制がファシストであったという断定的な書き方は無かったと思うのだが、本書では天皇制ファシズムのような書き方。帝国主義的植民地支配という点は否定できないが、日本の場合は軍部の暴走によるものであって(五・一五事件(1932)や二・二六事件(1936)を通して軍部が権力を掌握)、独伊のように怒れる民衆がファシズムを呼んだ訳ではないし、ファシスト党による一党独裁体制とは少し違うのではないか(政党は解散して大政翼賛会を形成したが「一党」と呼ぶよりは「寄せ集め所帯」と言った方が実体に近いのではないか)。
↑近年、中国の検定教科書が「日本の軍国主義」から「ファシズム」に表現を改め、中華民国があたかも“自由経済・民主主義陣営”の一翼を担ったと主張し始めているのと同じタイミングで、あたかも日本もファシズム国家であったかのような書き方が…時期が一致しているのは偶然か?(『もういちど読む山川世界史』の書評にも同様のことを書いたが。) - [PRO] (米英人の多くは認めたがらないかも知れないが)アングロ・サクソン人が他国を支配する際に使う汚いやり口がしっかり書かれている。「あの山川がここまで書くようになったのか!」と思いながら読んだ(これはオリバー・ストーン等の米国の歴史修正論者の主張=米国流自虐史観=と近い視点だと思う)。彼らが、被征服民の内部分裂や抗争を非常に上手に利用し、自らの手を汚すことなく効率的に世界中を支配していった様子がよく分かる(世界各地で似たことを何度も繰り返し行っている)。
- 日本が明治維新後急速に国力をつけ、列強に肩を並べたキッカケとされる日露戦争も、実は英露間の覇権争いの代理戦争だったと書かれている。確かに、英国は日本に武器・弾薬を売り軍資金も貸し付けたが(日本の戦時国債は英米独の特にユダヤ人富豪層に多く売ったらしい)、実際にロシアと戦争をして血を流したのは日本で(勿論ロシア人も血を流した)、結果的に英国は美味しい所だけ持っていったことがよく分かる。日英同盟は日本が一流国の仲間入りをする為に、日本から申し入れたものだと思っていたが(司馬遼太郎「坂の上の雲」ではそのようなことにされている)、観方を改めなければならないかもしれない。
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