2017年5月28日日曜日

野呂一生「私時代 WATAKUSHI-JIDAI 野呂一生自叙伝」


野呂一生「私時代 WATAKUSHI-JIDAI 野呂一生自叙伝 (DVD付)」
<https://www.amazon.co.jp/dp/4845628988/>

単行本(ソフトカバー): 208ページ
出版社: リットーミュージック (2016/12/20)
言語: 日本語
ISBN-10: 4845628988
ISBN-13: 978-4845628988
発売日: 2016/12/20

[書評] ★★★☆☆

日本を代表するフュージョン・バンド、CASIOPEA (現:CASIOPEA 3rd)のリーダー/ギタリスト、野呂一生氏の自叙伝。音楽雑誌やCASIOPEAの映像作品(のトーク部分)から、幼少時・デビュー前・メンバー変更の経緯などをある程度は知っていたが、以下について今まで以上に詳しい話が読めたのが良かった。
  • 野呂氏の小学生時代の音楽教育~デビュー前の活動
  • 後にCASIOPEAを結成するメンバーとの出会い
  • デビュー裏話
  • CASIOPEAの歴史上の「異変」の経緯
    • 佐々木隆さん(初代Ds)脱退~神保彰さん(2代目Ds)加入(1979)
    • 野呂さんは実はアルバム『HALLE』(1985)をCASIOPEA最後のアルバムにしようと思っていた()
    • 桜井哲夫さん(初代Bs)・神保さんの脱退(1989)~鳴瀬善博さん(Bs)・日山正明さん(Ds)加入(1990)
    • 第2期CASIOPEAの活動休止(2006-2011)
    • CASIOPEA 3rdとしての活動再開(向谷さん脱退~大高清美さん(Org)加入、2012)
CASIOPEAのメンバー変更や活動休止は、当時ファンの間でも話題になり、その度に数々の憶測を呼んだ。本書では、それらの経緯について、当事者が説明をしている。が、読めば読むほど、CASIOPEAは良くも悪くも「野呂一生の野呂一生による野呂一生のためのバンド活動」であり、御自身がCASIOPEAの活動に息切れしてソロ活動などをすることはOKでも、他人が(自分と違うタイミングで)他の活動に注力するのは許せなかったのかなぁ、みたいな感想を持った。
  • 桜井さん・神保さんの脱退は、野呂さんが2ndソロアルバム『VIDA』のレコーディングの直後。野呂さん自身がCASIOPEAの活動に戻りたいと思った丁度その時、桜井さん・神保さんがCASIOPEAに専念できない状態だった。
  • 5年の活動休止後のCASIOPEA活動再開時、向谷さんと交渉決裂したのも、野呂さんがCASIOPEA (3rd)に集中したい時に、向谷さんがゲーム音楽・映像などの活動で多忙でCASIOPEAに専念できなかった…からじゃないかな? 向谷さんは事ある毎にCASIOPEAの活動を「過重労働」と文句?を言っていたので、CASIOPEAというバンドへの関わり方について、野呂さんと向谷さんの間に温度差があったことがわかる。
いずれも、メンバー間の「中」と「外」の活動のタイミング・バランスがずれてしまい、一緒に活動出来なくなったのだとわかる。
  • 本書はバンドという形だが、人と人との「濃ゆい」関わりを長期間続けることについて、色々考えさせられた。
  • その点、現在のCASIOPEA 3rdでは、鳴瀬さん・大高さん・神保さんとも他プロジェクトを抱えている一方、野呂さんもINSPIRITSというプロジェクトを抱えた状態なので、CASIOPEA 3rdのメンバー間で適度な距離・温度を保つことが出来ているのではないだろうか。
…と、野呂さんのやり方を一部批判するような書き方をしてしまったが、ファン必読の本であることは間違い無し! 何だかんだ言って私は音楽(特にギター)については野呂さんの影響を受けまくっているのです(笑)。

・  ・  ・  ・  ・

【余談:付録DVDについて】
付録DVDに、ギター1本でメロディーに和音を加えて弾く方法と、スケールの紹介があるが、正直難しすぎ(笑)。巻末に譜例が載っているが、あまり参考にならないかも(汗)。

・  ・  ・  ・  ・

【参考文献&映像作品】
  • 「A BOOK OF CASIOPEA (カシオペアの本)」(立東社)
    前半が野呂一生さん(Gt)・向谷実さん(Key)・桜井哲夫さん(Bs)・神保彰さん(Ds)の個別インタビュー&4人の対談、後半が向谷さんによるCASIOPEAの音作り(複雑な和音とその弾き方)紹介、付録に楽譜という、ファン垂涎の本。←持っていた筈(捨ててはいない)が、何処行ったんだろ?(下の写真はネット上で見つけたものです)
大型本『A BOOK OF CASIOPEA』
DVD『THE MINT SESSION』

2017年5月21日日曜日

タル・ベン・シャハー「ハーバードの人生を変える授業2 ~Q 次の2つから生きたい人生を選びなさい~」


タル・ベン・シャハー(著), 成瀬まゆみ(翻訳)「ハーバードの人生を変える授業2 ~Q 次の2つから生きたい人生を選びなさい~」
<https://www.amazon.co.jp/dp/4479305912/>
文庫: 368ページ
出版社: 大和書房 (2016/5/12)
言語: 日本語
ISBN-10: 4479305912
ISBN-13: 978-4479305910
発売日: 2016/5/12

[書評] ★★★☆☆

前著「ハーバードの人生を変える授業」(リンク等は後述)の続編。前著が人生や生活におけるネガティブな経験・記憶よりもポジティブなものに焦点を当てなさい、ネガティブなことから学ぶべきことを学んだら心から切り離しなさい、といった内容だったのに対し、本書は「頭で判っている“正しい選択”をキチンと選び、行動しなさい」という本。訳者あとがき(p. 364)の
  • 「正しい選択は、わかっていますよね。
    でも、それを、本当に、あなたは、選ぶことができますか?
    そして今日も、明日も、それを選び続けることができますか?」
    この本は、そう問いかけてきます。
    ある意味、「覚悟」を問う本です。
が、この本の全てとも言える。

前著同様、「分かっちゃいるけど、なかなかね…」な内容が多いのだが(苦笑)、幾つか良い点もあったので示しておく。
  • 面倒くさいこと、気の進まないことをやるのに以下の方法は有効だと思う。とりあえず始めてみて、勢いをつける作業を、筆者は「5分間テイクオフ」と呼んでいる。
    • ベストタイミングなどを待ったりせず、「いますぐ始める」という選択をしてください。(p. 54、強調は引用者)
  • 「あら探しする」よりも「いいこと探し」をし、自分や他人の長所に目をつける。
  • 失敗から学ぶことと同様、成功からも学ぶべき。
  • 現代社会のストレス対処法として、流れに身を任せることを勧める本が多い。が、本当に幸せになる為には、自ら積極的に選択~行動をすることが必要。
  • 夢をあきらめて現実的になることを勧める書籍が多いが(確かにこれで傷つくことは減るだろう)、夢を追い求め続けることこそが人生だ。
本書の主旨を乱暴にまとめると、感情主体の「自動反応」よりも、理性主体の「熟慮」により行動を選択しなさい、とでもなるだろう。しかし、日常生活で行なっている「選択」の多くを「熟慮」するのは、現実には難しいのではないか
  • 我々は日常的な判断の多くを「無意識」あるいは「流れ」で行っている。これを「意識的」に「熟慮」するスタイルに変えるのは、非常にシンドイ生き方ではないのか。
  • ひらめき、耽溺、無謀といった「自動反応」無しでは、生活に面白味が無くなってしまうのではないか。少なくとも、ある程度は「自動反応」任せにしないと、精神がもたない。
  • 理性では「こちらの選択が正しい」と分かっていても、感情面からなかなか行動できない人が多いのではないだろうか。本書は、この心理的・感情的な障壁の克服法については全く触れておらず、その点については突き放しているとも言える(人生を「自分自身が行う選択の連続」とする捉え方は、アドラー心理学(自身に対して厳しい生き方を求める)との共通点が多いように思う)
本書では「流れに身を任せる生き方」「目の前にある人生を生きること」を否定する。流れに身をまかせ、可もなく不可もない「ヌルい生き方」をしている人には、良い刺激を与える本と言えるだろう。だが、困難な状況にある人は、ある程度「流れに身を任せ」、「全ての責任を他人のせいにする」ことも必要だと思う。自身が「ヌルい」と思っている部分は本書に書かれたように意識的な選択を行うと有効だろうが、自動反応(感情)-熟慮(理性)のバランスは崩さない方が賢明だろう(シーナ・アイエンガー著『選択の科学』(後述)の方がバランスの取れたものの見方だと思う)。精神的に強い人はどんどん意識的な選択をしても良いのかも知れないが、凡人は「話半分」で良いと思う。

関連図書
余談1:著者・訳者について
  • 著者:タル・ベン・シャハー(Tal Ben-Shahar、英語版Wikipediaリンク)はテルアビブ(イスラエル)生まれ、ハーバード大学に学んだ人だが、ヒンドゥー教や仏教などの思想、そしてヨガなどの東洋文化に傾倒しているように見える。洋の東西を問わず、「心」や「周囲との調和」を研究する人が東洋思想に行き着くのは、昔も今も変わらないのかも知れない。
  • 訳者:成瀬まゆみ氏は専業翻訳家ではなく、ポジティブ心理学を使った「アタラシイジブン」づくりのコンサルタント(講演やセミナー等の活動を行なっている)。前訳でもそうだったが、読みやすく綺麗な日本語には好感を持てる(近年、ビジネス書の邦訳などで多少日本語が乱れているものが目につくようになって来ているが、本書の邦訳は正統派の日本語だ)
余談2:ポジティブ心理学

ポジティブ心理学」という言葉を初めて使ったのは、エイブラハム・マズローとされる。マズローは、企業研修などでよく聞く「自己実現理論」で、有名な「マズローの5段階欲求ピラミッド」を提唱した心理学者(1908-1970)。マズローのモデルは科学的ではないとの批判もあるが、社会組織における心理学や動機付けに関するひとつの見方として、今でも参考になると思う。

2017年5月14日日曜日

ネッサ・キャリー「エピジェネティクス革命 ――世代を超える遺伝子の記憶」


ネッサ・キャリー(著), 中山潤一(訳)「エピジェネティクス革命 ――世代を超える遺伝子の記憶」
<https://www.amazon.co.jp/dp/4621089560/>
単行本(ソフトカバー): 428ページ
出版社: 丸善出版 (2015/7/27)
言語: 日本語
ISBN-10: 4621089560
ISBN-13: 978-4621089569
発売日: 2015/7/27

[書評] ★★★★★

DNAの二重らせん構造の発見(1953年)からちょうど50年後の2003年、ヒトゲノム(Wikipedia)の解析が完了した(ヒトゲノム計画、Wikipedia)。ヒトを始めとする生物の設計図たるゲノム(DNA)が解読されることで、生命の秘密は解き明かされ、そして健康や病気の問題は近々容易に解決されると期待された。…が、現実はもっと複雑だった。

受精卵~細胞分裂数が少ない段階の胚細胞は、どのような組織にでもなり得る「万能細胞」であるが(人工的に作られたES細胞やiPS細胞もこの仲間)、一度分化した細胞やその子孫細胞は、(滅多なことが起こらな限り)まず元には戻らない。これが、「私たちの頭のてっぺんから腎臓が成長することはないし、目玉の中から歯が生えてくることはない(p. 2)理由だ。このような細胞分化から病気の発症・老化、そして再生医療の鍵となる「エピジェネティクス」(Wikipedia)のホットな話題が、本書のテーマだ。エピジェネティクスとは、乱暴に簡略化して言えば、「ゲノム(DNA)自体には変化を与えないまま、その遺伝子発現のオン・オフを制御する仕組みと、その学問領域」のこと。エピジェネティックな現象は、具体的には、DNAの特定の部位にメチル基やタンパク質が結びつくこと(修飾)で、当該部位の遺伝子発現が制御されることによって起こる。

著者のネッサ・キャリー(Nessa Carey、英語版Wikipedia)はウイルスと遺伝の専門家で、現在、研究成果の特許化・産業化に関わる英国組織の役員であると同時に、インペリアル・カレッジ・ロンドンの客員教授も務める、バリバリで現役の研究者。

さて、本書。めちゃくちゃ面白い! (本題に関係ないが、実店舗で序文・目次・あとがき等をざっと見てから購入した本は、オンライン購入よりも“当たり”が多いと思う。)

胎児の頃の栄養状態や、幼少時の精神的経験(トラウマなど)が、その後の人生に大きく影響することは以前から知られていたが、これに「エピジェネティクス」が関わっていることが示されている。またそれだけでなく、一部の経験(食生活や環境汚染の影響も含む)については、本人だけでなく子や孫にまで継代遺伝し得る(DNAによる遺伝ではなくDNAへの修飾による)例が示されている。本書は、我々は自身のDNAを書き換えることは出来ないが、子々孫々の健康に関わる問題として、自身の食生活や酒、薬、環境汚染物質などについて大きな責任を負っているという、重大な問題を突きつける。だがその一方で、希望も与えてくれる。それは、遺伝的決定論の否定だ。「氏よりも育ち」ではないが、氏(遺伝的形質)と育ち(環境や経験)の両方が重要であり、たとえば健康に良いとされること(例えば「食べ過ぎないこと」など)は、我々自身の健康だけでなく、継代遺伝により子や孫の健康にも寄与し得るということだ。

母系遺伝・父系遺伝の神秘や、がんとの戦い、老化とは何か、精神疾患、などなど多くの現象について、このエピジェネティクスがどう関わっているのか、興味深い話が多い。また、第2章には、山中伸弥教授のiPS細胞が生命科学に与えたインパクトについて、(山中教授ご本人による一般向け著作よりも詳しく/笑)書かれているので、ココだけでも読む価値はあると思う。

◆関連図書

◆余談:特許について少々…

第2章は、山中伸弥教授&高橋博士によるiPS細胞の研究とほぼ同時期にほぼ同じ内容の研究が、ボストン・ホワイトヘッド研究所のルドルフ・イェニッシュ教授らによっても行われていたことも示している。ここには、論文発表と特許出願の熾烈な競争の様子が生々しく描かれている(第三者の眼を通した描写であり、かつ、日本人よりも著者と同じアングロ=サクソン系のイェニッシュ教授の肩を持つような表現も見られるが…)。ノーベル生理学・医学賞は山中教授(とジョン・ガードン:後述)が受賞したが、同技術に関する特許出願~登録はイェニッシュが先という奇妙な現象についても言及されている(イェニッシュは、山中の発表を何かの間違いではないかと確かめたくて追試をし、山中が正しかったことを国際的な研究会の場で認めたとのこと。著者はこのイェニッシュの姿勢を「偉大だった」と書いているが、それではイェニッシュが山中より先に同じ技術に関する特許出願を行っていたことは説明できない)。生命科学や再生医療に関わるホットな領域であることから、互いに競争相手である両者が同じような研究を行っていた可能性は充分に有り得る。が、この発表&出願の順位の逆転において、科学論文につきものの査読というシステムの悪戯もあったのではないか(論文誌の編集委員や査読者は、競争相手の未発表論文を、「査読」という形で世間より数か月早く読むことが出来る…場合もある)、と考えてしまうのは、邪推が過ぎるだろうか
  • ジョン・ガードン(Wikipedia)…カエルの体細胞核移植によるクローン技術の開発に成功。のちのES細胞やiPS細胞の開発に結びつくことになった。山中教授と共に2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞。

2017年5月7日日曜日

タル・ベン・シャハー「ハーバードの人生を変える授業」


タル・ベン・シャハー(著), 成瀬まゆみ(翻訳)「ハーバードの人生を変える授業」
<https://www.amazon.co.jp/dp/4479305165/>
文庫: 240ページ
出版社: 大和書房 (2015/1/10)
言語: 日本語
ISBN-10: 4479305165
ISBN-13: 978-4479305163
発売日: 2015/1/10

[書評] ★★★★☆

本書は、「ポジティブ心理学」の本。乱暴なまとめ方をすると、
  • 感謝すること、良かったこと、に意識を向ける
  • 悪いこと(現在自分が直面している問題や嫌な記憶など)からは、そこから学ぶべきことを学んだら、悪い感情は意識の外に追い出してしまう
  • 自分はどうありたいのか/理想的な未来をイメージする
このような意識を持つ習慣を持つことによって、本当に人生は変わる、という内容。

また、自分の人生を良くするために、ポジティブな意識・学び/気付きを得るために、
  • 良いことも悪いことも自分の心の中に留めず、人と話し合うこと
  • 紙またはPCに書き出してみること
  • 自分が価値をおくことを書き出して、優先順位をつけ、自分の実際の生活と照らし合わせ、一貫性を持たせるように時々軌道修正を行うこと
といった作業を定期的に行なうことを勧めている。

良い経験や良い感情に焦点を合わせる、過去の辛い経験や現状自分の力ではどうにもならないことについてクヨクヨ悩むのはやめる、というのはポジティブな生き方をする上で重要かも知れないし、ポジティブに生きている(ように見える)人は決まってそうやっていると思う。ただ、本書で勧めている
  • 悪い経験の記憶からネガティブな感情を捨て去ること
  • あれもこれも欲張って頑張ってやるのではなく、現実的な時間配分をする
は最初は難しいのではないか。良い意識を保つことは、日頃から意識的に取り組む必要があり、仕事や家庭を抱えた人が習慣化するのはハードルが高いかも知れない。が、最初から出来ないと言っていると何もできないので、出来ることから少しずつ…なのだろう。

「言う(読む)は易し、行うは難し」な項目が多いような気もするが、日頃から意識して取り組むことで、気の持ちよう・生活習慣は少しずつ変えられるかも知れない。

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文庫本サイズだが、小説などと違って文字数少な目、紙面はスカスカ(笑)、内容も比較的軽いタッチで書かれており、読みやすい。実は本書、本屋(実店舗)で平置きされていたのをタイトルから衝動買い(笑)。700円と比較的安い本の割に、内容は悪くない。強くオススメできる本かと聞かれると微妙だが(苦笑)、値段・読書時間の費用対効果を考えると、外れではない本だとと思う。