2015年3月11日水曜日

池内恵「イスラーム国の衝撃」

池内恵「イスラーム国の衝撃」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4166610139/>
単行本: 238ページ
出版社: 文藝春秋 (2015/1/20)
言語: 日本語
ISBN-10: 4166610139
ISBN-13: 978-4166610136
発売日: 2015/1/20

[書評] ★★★☆☆

突然の国家樹立宣言。欧米人(含・日本人)の処刑とその映像のインターネット公開。最近では、邦人の湯川遥菜・後藤健二両氏の殺害が大ニュースになった。世界に大きな衝撃を与えた、この「イスラーム国」(ISIL)を解説するのが本書である。
  • 「イスラーム国」は世間的には国家として認められておらず、欧米では「ISIL」と呼ぶのが妥当とされている(ISILは「イラクとレバントのイスラム国」の略で、国家(State)であることを認めないため単に“アイシル”と発音するのが世間の主流)。
このISILが、どのように発生した“国”なのか、どのような哲学を持って地盤を広げてつつあるのか、…が本書のテーマ。

ISILは、単なるテロリスト集団ではなく、(国際的に認められていないとはいえ、ISIL側の主張によると)「国」の体裁をとっており、現にイラクとシリアの一部地域を実効支配している。指導者がイスラームの正統指導者「カリーフ」に就いたと宣言し、過去のイスラーム帝国の栄光を再現しようとしている。そして、綿密に計算・演出されたメディア戦略を展開している。

第1次世界大戦で植民地化され第2次世界大戦後に独立した中東各国の歴史と、独立後の宗派対立(シーア派とスンナ派)・民族対立問題(クルド人問題)をはじめとし、世界の政治の流れの中でどのようにISILが生まれたかについては非常に解り易い。

情報量が非常に豊富な反面、イスラム教(イスラーム)に関する背景知識を要求する本(所詮は学者さんの書いた本ということか)。本書を読む前に後記の2冊を一読しておくと良いだろう(特に小杉本はお薦め)

なお、本書は基本的に米国視点だ(東大の先生という「公人」の立場上、あからさまな反米姿勢はとりにくいのかも知れないが)。その点を踏まえつつ、ISILの発生の経緯と今後の影響を捉えるには良い本かも知れない。なお、繰り返しになるが、イスラーム文化について背景知識を持ってから読んだ方が良いだろう。

◆参考書:
  • 小杉泰「イスラームとは何か? その宗教・社会・文化」(Amazon拙書評)
  • 中村広治郎「イスラム教入門」(Amazon拙書評)

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