2015年3月14日土曜日

国枝昌樹「イスラム国の正体」

国枝昌樹「イスラム国の正体」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4022735961/>
新書: 224ページ
出版社: 朝日新聞出版 (2015/1/13)
言語: 日本語
ISBN-10: 4022735961
ISBN-13: 978-4022735966
発売日: 2015/1/13

[書評] ★★★★☆

世界的ニュースとなっているイスラム国(ISIL)。イラク北西部とシリア東部を実効支配しているISILとその今後について、元外交官(シリア大使)が分析・予想する。

指導者の正体、外国人義勇兵のリクルート方法、メディア戦略といった現在のISILの様子について、かなり濃密な情報が書かれている。また、ターリバーン政権やアル=カーイダ(ビン・ラーディンら)との繋がり、「アラブの春」に代表されるアラブ諸国における反体制派の動きとの関連等々、背景事情も解かりやすくまとめられている。特に、ISILの周辺国や西欧諸国の思惑(特にイラクとトルコがISIL掃討の足枷になっている点)、次の米国大統領選を見越したアラブ諸国の動き等も含め、国家間の力学をも捉えた分析は非常に鋭い。

ほぼ同時期に出た、池内恵(著)「イスラーム国の衝撃」(Amazon拙書評)とは少し違う視点からの分析である。大使としてイスラム社会に一定期間居た経験もあるのだろう、イスラームとムスリムの考え方・行動に対して肌感覚での理解があるように思えた。

欧米諸国によるイラク・シリアへの軍事介入(国際法違反の疑いが濃い)に対して肯定的である点などを含め、この本も西欧の物差で物事を計っている…と最初は思った。が、
  • イスラム社会に民主主義を導入するのは非常に困難(ただの夢物語に過ぎない)
  • 当面はマシな独裁政権と付き合うのが国際社会にとっての現実的な解だろう
といった実際的な見通しを述べている辺りは好感を持てた。ただし、
  • イスラム帝国回顧主義的な哲学は生き残るだろうが、ISILは数年で消滅する…という見通しは、ちょっと楽観的過ぎるのではないか?
と思える点もあり、少し気になった。

何にせよ、日本に居ながらにしてISILの実態に近づくには優れた本だと思う。「ISILって本当のところ、どんな組織なの?」「今後どうなるんだろう?」といった向きには、オススメできる本。

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