2015年4月15日水曜日

マイケル・E. ポーター「競争戦略論 (Ⅰ・Ⅱ)」

しばらくエンタメ系の本が続いたが(ダン・アリエリーの行動経済学はエンタメ本ではないが読み味はライトだった)、久しぶりにチョットお堅い本を。

 

マイケル・E. ポーター(著)、竹内 弘高(翻訳)「競争戦略論 Ⅰ」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4478200505/>
単行本: 270ページ
出版社: ダイヤモンド社 (1999/06)
ISBN-10: 4478200505
ISBN-13: 978-4478200506
発売日: 1999/06

マイケル・E. ポーター(著)、竹内 弘高(翻訳)「競争戦略論 Ⅱ」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4478200513/>
単行本: 355ページ
出版社: ダイヤモンド社 (1999/08)
ISBN-10: 4478200513
ISBN-13: 978-4478200513
発売日: 1999/08

[書評] ★★★★☆

◆概要:

ハーバード・ビジネススクールのポーター教授による、企業や産業、国家の競争戦略に関わる著作。業界団体・関連産業・産業地域(クラスター)や国家の競争戦略に関わる内容も見られるが、メインは企業戦略。経営戦略の古典とも言える本であり、一部古い情報もあるが、考え方については今でも充分参考になる。

日本企業にとって特に参考となるのは、以下の2章だと思う。特にⅡ-第2章は、Ⅱ巻の4割のページを割いており、力の入りようが分かるというものだ。
  • Ⅰ-第2章 「戦略とは何か」
    企業のポジショニング;誰を顧客とし、誰を顧客としないか。潜在顧客の全てを追おうとすると、自社のポジショニングが曖昧になる。競合他社のベンチマークに注力すればするほど、他者と類似した事業となってしまう(均一化が進んでしまい、商品やサービスの差別化が出来なくなってくる)。競争戦略の本質は差別化である。売上げやシェアに目が眩むと、ターゲットを絞るのは難しいが、得意とする市場・顧客・商品に絞り込むことで、高い収益性を確保できるというのは、考えてみれば当たり前の話ではある。
    • 顧客を絞るということは、潜在的な売上・シェアを見捨てるようなもので、心理的に難しいかもしれない。しかし、事業の利益率を向上させるには、このポジショニングを明確にすることが重要だと述べる。
    • ポジショニングを明確にするということは、やみくもな成長の対極である。顧客を絞らず売上げ・シェアの拡大に走ると、多くの場合、事業の利益率を悪くしてしまう(最悪の場合、拡大する資金繰りに行き詰まり、「黒字倒産」に至ってしまう場合もある)。
    • なお、自社のポジショニングの設定は事業部マネジャーの決めるべきものである。企業内の全ての活動は、これにフィットした形で進めなければならない。誰を顧客にするか/しないかは、開発・製造は勿論、社内の多くの(全ての)部署で徹底されなければならない。例えば、営業部門の従業員の業績評価にも反映させなければならない。営業部隊は「売上増」「シェア拡大」で評価されることが多いが、この業績評価の仕方自体を自社のポジショニングにフィットするように変えなければならないということだ(これが実践できている日本企業は少ないだろうが、日東電工の「グローバル・トップ・ニッチ」戦略はポジショニング絞り込みの好例である)。
  • Ⅱ-第2章 「クラスターと競争」
    業界団体、関連産業(企業集団)、学術団体、産業地域といったクラスター全体の競争力を上げる処方箋について書かれている。
    事業の競争力を、クラスター(企業をとりまく関連企業、業界、地域)といった観点から考えるのは、ある意味新鮮だ。
    なお、以下については別途検討が必要。
    • クリステンセン教授の言うところの「破壊的イノベーション」に襲われてしまうと、新興産業が出来て、既存業界が衰退してしまうこともあり得る。この対処法については、別途検討する必要がある(市場や業界の狭い範囲でなく、より広い範囲での技術動向などに注目する目利きの担当者を置く必要があろう)。
    • 業界団体の競争力向上に関するテーマであっても、工業規格や業界標準を策定する際は、企業同士の綱引きが起こり得る(規格制定はゼロサムゲームになりやすい)。これについても別の戦略が必要となろう(多くの場合、リーダー企業がデファクト・スタンダードを作り、これを業界規格にしてしまうという手法が用いられるが)。
◆内容(目次より):

Ⅰ-第1章:競争優位が戦略を決める
Ⅰ-第2章:戦略とは何か
Ⅰ-第3章:情報をいかに競争優位につなげるか
Ⅰ-第4章:衰退産業における終盤戦略
Ⅰ-第5章:競争優位から企業戦略へ
Ⅱ-第1章:国の競争優位
Ⅱ-第2章:クラスターと競争
Ⅱ-第3章:グローバル企業に学ぶ勝ち方
Ⅱ-第4章:多くの立地にまたがる競争
Ⅱ-第5章:資本の損失

◆関連図書
  • M.E.ポーター「競争優位の戦略―いかに高業績を持続させるか」(ダイヤモンド社、1985/12) (Amazon拙書評)
  • M.E.ポーター「競争の戦略」(ダイヤモンド社、1995/3/16) (Amazon拙書評)

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