2015年9月19日土曜日

安生 正「ゼロの迎撃」


安生 正「ゼロの迎撃」(宝島社文庫、2015/3/5)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4800238226/>
文庫: 498ページ
出版社: 宝島社 (2015/3/5)
言語: 日本語
ISBN-10: 4800238226
ISBN-13: 978-4800238221
発売日: 2015/3/5

[書評] ★★★★★

前著(『生存者ゼロ』、Amazon拙書評)と一緒に、某書店(実店舗)の「人気」コーナーに平積みされていのをつい手に取った作品。

日本の首都・東京で起こるテロを題材にした軍事ミステリー。「雨爆弾」による人工降雨と治水施設へのテロによる人工水害がテーマ。最近日本でも(これは天災ではあるが)河川の決壊により甚大な被害が出ており、そういう意味でも(悪い意味で)タイムリーな作品。

文句無しに面白い。自衛隊がその存在自体に抱える矛盾、仕事では優秀な人にも色々抱えた問題があること、等がリアリティを増している。さらに、任務遂行の上でジレンマを突きつけられ苦悩する姿など、生身の人間として共感できる点も多い。実戦経験が無い自衛官が悲惨な被害を見て命令拒否をし始めたのに対し、首相が行うスピーチは胸を打つ(日本の政治家にこれだけの行動・発言をとれる人がどれ位いるだろうか?)。安全保障がホットな話題の今、多くの人に考えて欲しいテーマであったりもする。

本書で、気懸かりなのが、一般向け作品に日本の首都圏の弱点を曝け出してしまっている点だ(これがリアリティをアップさせているのは確かなのだが)。大陸の某国は本書に書かれたような弱点は既に研究し尽くしていると思われるし、この弱点については日本側でも十分対策は打っていると考えるが、規模やエリアの違うテロの可能性が否定できない。

かつてトム・クランシー著『日米開戦』(1995/11、原著“Debt of Honour”1995/8)の記述が、その後に起きた2001年9月11日同時多発テロを遂行する上で大いに参考にされたに違いないことを考えると、本書もまた悪い意味で世界の歴史を動かした小説とはならないよう願うほかない。

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以下、『日米開戦』関連リンク:

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