2016年3月27日日曜日

石塚 真一「BLUE GIANT 7」 (コミック)


石塚 真一(著)「BLUE GIANT 7」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4091874061/>
コミック: 208ページ
出版社: 小学館 (2015/11/30)
言語: 日本語
ISBN-10: 4091874061
ISBN-13: 978-4091874061
発売日: 2015/11/30

[書評] ★★★★☆

前巻で停滞していたドラムスの玉田君、ド素人だったのに猛練習の甲斐あって、日々進歩していることを、メンバー(テナーサックスの大/ダイ、ピアノの雪祈/ユキノリ)にも、聴衆にも認められるようになった。「上手くねえよ。でも…アイツ、上手くなったよ」(by 雪祈)、「ボクは君のドラムを、成長する君のドラムを聴きに来ているんだ。君のドラムはどんどん良くなっている」(by 聴衆の1人)、「たとえ百円でもギャラがもらえるなんて… とてつもなく、練習しがいがありますね」(by 音楽スクールのドラムスの先生:実は同い年)。

ひるがえって、雪祈(ユキノリ)。先輩ミュージシャンに「才能が何か分かってない。それが才能がない証拠すよ」と言ったりしつつも、実は大(ダイ)とタメ張れるような演奏が出来ていないことに、自分で気付いている。ツテを使って聴きに来てもらった大手ジャズ・バーのスタッフからも、「謙虚さのカケラもない、君の出す雰囲気。音楽をナメた君の態度、ニヤついた君の顔、正直二度と見たくないな」と言われてしまう。

才能があってもナメた態度の奴は切られるし、それほど優れいない者でも(一定以上であることは求められるが)一生懸命やっていれば認められる。大(ダイ)君は、(才能もあるのだろうが)血の滲むような努力と、そして純粋に戦っている姿が、メンバーにも聴衆にも認められている。…なんだか人生訓を説かれているようでチョットつまらないが(笑)、まあ一つの真実ではあろう。

それにしても雪祈クン。赤の他人から厳しい言葉を貰うという良い経験をしたと思う。

・  ・  ・  ・  ・

台詞無し・絵のみで何コマも(場合によっては何ページも)見せる構成と作図は流石だと思った。本来、絵から音は聞こえない筈なのだが、このマンガは不思議なことに音が聴こえてくるような気がする。それは、まあ、私が今まで聴いてきた音楽のうち、海馬に染み込んだものなのだろうが…(と考えると読み手ごとに「聴こえる(気がする)音」が違っていることになり、それはそれで面白いと思う)。

2016年3月20日日曜日

鳥海 靖(著)「もういちど読む山川日本近代史」


鳥海 靖(著)「もういちど読む山川日本近代史」
<http://www.amazon.co.jp/dp/463459112X/>
単行本: 265ページ
出版社: 山川出版社 (2013/05)
言語: 日本語
ISBN-10: 463459112X
ISBN-13: 978-4634591127
発売日: 2013/05

[書評] ★★★★☆

『もういちど読む山川日本史』と同著者が書いた『日本近代史』。
幕末~太平洋戦争終結の期間に関して、『もういちど読む山川日本史』より詳しく書かれた本。『~山川日本史』(山川の歴史教科書)が左翼的・自虐史観的と批判されるのに対し、本書は明治~昭和20年までの日本をある程度肯定的に捉えている点が特徴(かと言って近年流行している本(歴史修正主義本?)のように戦前体制を礼賛していることは決してなく、中立に近い書き方だ)。また、本書は明治維新以降の庶民の暮らしぶりや思想・文学についての記述も多い。
  • 序文「日本近代史をどうみるか」に8ページも割かれている。これは、山川の歴史教科書への批判に対する答えなのだと思う。
特に、以下は『~山川日本史』には書かれていない(書き方が弱い)項目。
  • 明治憲法制は、(マルクス主義者等から批判されるような)立憲制を装った絶対主義ではなく、天皇さえも憲法に縛られる立憲主義であった。
    • これは明治憲法制定時に伊藤博文が強調していた点でもあり、後に美濃部達吉が述べた「天皇機関説」そのものである。
    • 日露戦争以後、絶対主義(「天皇主権説」)の方向に傾いたのは、軍部が必要以上に力を持ち、国内外の政治を動かすようになったからである。
    • 天皇自らが積極的に国家統治の大権を発動したことは殆どない。
  • 選挙制度や基本的人権といった観点で、現在(戦後)の体制と比較すると不十分な点が見られるが、当時の先進国(欧米)も似たり寄ったりだった。
    • 日本は国民に権利を与えすぎていると、西欧から批判があったくらいである。
    • (本書にも書かれている訳ではないが)米国で人種差別制度が無くなったのは1964年のことである。さらに、制度面はともかく、実態としては現在でも有色人種に対する差別は根強く残っている(近年のニュースでも分かる通り)
  • 日中戦争~アジア・太平洋戦争の頃の日本の政治体制を「ファシスト」と言う人がいるが、独・伊の一党独裁体制と比較すると、独裁性は弱く、「ファシスト」と表現するのは不適切。
    • 大政翼賛会は一党独裁制ではなく単なる寄せ集め所帯。戦時の臨時体制。挙国一致体制も戦時体制であり、いわゆる全体主義とは異なる。
    • (これまた本書に明記されていることではないが)日独伊三国防共協定、および、米英に「ファシズムに対する民主主義の防衛戦争」という口実を与えてしまったことが、戦後、戦前の体制を「ファシズム」と言わせてしまう原因になったのではないか?
  • 日露戦争の日本の勝利とその後の日本の東洋でのプレゼンスの増大(米国の東洋におけるプレゼンスは当時まだ小さかった)、及び日露協調路線(米国等が避けたい状態)が、米・英・仏・中などの反日感情を高め(黄禍論・日本人移民排斥運動などとしても現われた)、日本の孤立化~アジア・太平洋戦争へと突き進む素地を作った点も否定できない。
近年の右傾化した人々にとっては、歴史肯定がまだ足りないかも知れないが、これが山川出版社として出せるギリギリのところだったのだろう。

本書について足りない点(文句をつけたい点)があるとすれば:
  • 米英(とくに米国)の戦争責任・戦争犯罪に関する記述が全くない。ちなみに、非戦闘員の殺害や非軍事施設の破壊(焼夷弾による都市空襲や原爆による都市破壊など)は、第一次世界大戦後のハーグ陸戦条約(国際法)に書かれた戦争犯罪行為にあたる。が、無条件降伏とはつまり諸外国に対する責任追及を放棄したということなので、これらを「教科書」に書くのは不適切なのかも知れない。
  • 戦後の被占領状態~主権回復~高度経済成長~…のことが全く書かれていない(敗戦の記述までで終わり)。せめて主権回復(サンフランシスコ平和条約)までは書いて欲しかった。吉田茂・幣原喜重郎らの(正史に書かれていない)活躍についてはテキスト化出来ない等あったのかも知れないが…。
  • 事実(正史)と著者の意見とが一部ゴチャ混ぜに書かれていたり、一文一文が長かったりして、『~山川日本史』より読みにくい。もっと淡々と書いて欲しかった。
ケチをつけたい点は多少あるが、『もういちど読む山川日本史』を読んだ人は勿論、山川の教科書に対して批判的な人にも是非読んで欲しい本。

2016年3月13日日曜日

五味 文彦・鳥海 靖(編)「もういちど読む山川日本史」


五味 文彦・鳥海 靖(編)「もういちど読む山川日本史」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4634590646/>
単行本: 354ページ
出版社: 山川出版社 (2009/09)
言語: 日本語
ISBN-10: 4634590646
ISBN-13: 978-4634590649
発売日: 2009/09

[書評] ★★★★☆

高校の社会科教科書として有名な山川出版社による「日本史」をベースに、一般読者向けに編集した本。一説によると、検定のある教科書よりも真実に近い「歴史」が書かれているとのことだが、普通に読んだだけでは一般の教科書と見分けがつかないだろう。

リーズナブルな価格(\1,500+税)でありながら、内容は充実している(正規の教科書はさらに安価らしいが)。山川の教科書(に限らず教科書検定を通った教科書全て)に対する批判もあるようだが、長年多くの高校に採用されてきた実績は大きい。ン十年前に習った「歴史」を再度読むには良い本だと思う。

色々な出来事の裏話や繋がりに関する記述は希薄だが、物語ではなく、正しい(とされる)事実を教育目的で書いたのが教科書なのだから、それは仕方がないというものだ。

気付いた点としては(私が抱いていたイメージとちょっと違うなぁと思った点)、
  1. 歴史考証が進んだ結果、我々が学んだ「日本史」とは異なる箇所がある(人物画に描かれた人や人名、地名、解釈等)。従来の教科書では…等々いちいち注釈が細かい!(流石教科書ベース!) 研究・考証が進んだ結果が反映されているのは良いことだと思う。
  2. 記載内容に近隣諸国への配慮が見られる。また、戦前の皇国史観に基づく歴史観の排除が見られる。これは私が歴史を学んだ時以上に徹底しているかも知れない。
といった辺りが挙げられるが、平易さ・読み易さ「だけ」を狙った本や、偏った歴史認識・国際感覚を広めようとする本よりずっと良いと思う(それらの全てが悪書だとは言わないが、悪影響を及ぼしかねない本は少なくないようだ)。

・  ・  ・  ・  ・

以下余談。

山川の教科書(あるいは現行の教科書検定制度)を否定する向きもあるようだ。戦後教育が戦前の国家体制を強く批判するものである点は否めないし、戦後70年以上経った現在の教科書にもその傾向は確かに色濃く残っている。が、山川否定派が主張する通りの教科書をつくると、ナショナリズムを煽り国民を洗脳するものとなりかねない(現にそのような教科書を採用している国もあるが、それこそまさに全体主義国の洗脳教育である)。このような危険性を考えると、現行通りの、反戦・平和路線の教科書で良いのではないだろうか。様々な歴史認識が存在することを教えるのは、長じてからでも良いのではないか(自分で価値判断が出来る年齢になってから自らの意志で学ぶべきものだろう)。山川の教科書を肯定するにせよ否定するにせよ、言論の自由はあるべきだし、色々な意見があって当然だ。山川の教科書と違う主張があっても良いと思うが、山川の教科書はこれまで通りに在り続けて良い、いやむしろ在り続けて欲しいと思う。

2016年3月5日土曜日

小保方 晴子(著)「あの日」

久しぶりに本屋をハシゴしました(教育教材が豊富な店とかサブカル系に強い店とか色々ありますが、どの店でもランクインしている本とかあり、世の中の流行が分かるのも面白いです)。某ネット通販サイト大手で「おすすめ」されちゃった本で、どうしても気になる物が何冊かありました。実物を見て(目次を見たりざくっと斜め読みしてみたりして)から買うかどうか決めたいと思ってリアル店舗に行ったのですが、何故か予定外の物も買ってしまい、大き目の紙袋に本がギッシリ(笑)。この癖直さないと、また本棚が大変なことになる…(てゆーか既に本棚に入りきらない分が、膝くらいの高さのタワーで縦列駐車している…/汗)。読むスピードも考えて買わないとな~。

閑話休題。今回は先週末リアル店舗でレジ脇に積まれていたのをつい手に取って買った本です(数週間前に話題にもなっていて気になっていましたし、目次と数ヵ所をチェックして、そのままレジへ)

小保方 晴子(著)「あの日」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4062200120/>
単行本: 258ページ
出版社: 講談社 (2016/1/29)
言語: 日本語
ISBN-10: 4062200120
ISBN-13: 978-4062200127
発売日: 2016/1/29
[書評] ★★★★☆

あのSTAP騒動の当事者、小保方晴子さんの手記。

理化学研究所の若い美人研究員がノーベル賞級の発見を行なったということでセンセーショナルに報道されたが、その後の顛末は周知の通り。

前半は研究者としてのシンデレラストーリー。後半は件のSTAP細胞にまつわる諸々の話。最後の方に書かれている、強引な取材や悪質な報道については、読んでいて心が痛む。早稲田大学の学位剥奪もどうなのよ?と思うところがあるが、この世界において正義というものは無く、それぞれの立場と都合があるに過ぎない…ということがよく分かる。青色発光ダイオードの中村教授もそうだったが、この手の事件が続くと、世界的な研究をしたいと希望を抱く学生が減るのではないだろうかとチョット心配。

一般人からは、正しいこと・真実だけが生き残ると考えられている学術界も、実は非常にドロドロした世界で、勝ち馬の尻馬に乗りたい人が多く、各研究者が利権争いをしていること、そして都合が悪くなった人は簡単にポイ捨てされる世界なんだなぁと再認識した(再認識…というのは、学生時代にボロ雑巾のように使われ磨滅させられ最後には捨てられてしまった人を何人か見てきたので)。特に今回は美人で優秀な女性研究者ということで、指導教官に(おそらく下心アリで)最初は可愛がられたけど、その教官と違う意見を言って少々「煙たい」存在になった途端に味方してもらえなくなった…というだけのコトかも知れない(始末が悪いことに、女子に限らない話だが、外見等で得をしている人のうち結構な割合が、自分がそれで得をしていることを自覚しつつも、同じ原因でチョットしたことで簡単に敵を作ってしまうこと(例えば美貌が仇になって嫌われやすいとか)については結構無自覚なんだよな~)。それが、ノーベル賞ものの研究内容だったから、ちょっとした不正?ズル?がものすごく大きな形で裏目に出た。それだけのことだったのではないだろうか。

本書から得られる教訓を挙げるなら:
  1. 研究内容(実験方法・結果)については全て自分の目で確認し、自分で評価しろ。
  2. データも論文も最新版を発表できるように常に準備しておけ。間違い等を指摘された時にはキチンと説明できるようにしておけ。
  3. 他人の褌で相撲を取ろうとする輩に気を付けろ。特に自分が簡単には逆らえない立場の人(上司や指導的立場にある人)が「がめつい」人の場合には要注意。
  4. チーム(プロジェクトチーム等)で仕事をする際は、各メンバーが納得する形で、全員がハッピーになるようなゴールを目指させ(そうしないとプロジェクト全体がコケるる可能性が非常に高くなる)
  5. 一度注目を受けると、過去に遡ってアレやコレが根掘り葉掘り暴かれてしまう(STAP騒動が無ければ小保方氏は早稲田大学から博士号を剝奪されることもなく、研究者として特等席とも言える立場に居続けることが出来ていただろう)。研究者に限った話ではないが、表舞台に出たいと思う人は、子供の頃から後ろめたいことは一切しないに限る。
  6. 自分のセックスアピールを利用するのもホドホドにせぇよ(研究内容と結果「だけ」で勝負せよ)
今回の騒動では、データや図表の不備(不正?)を指摘された辺りが発端だったと思うが、…当たり前と言えば当たり前のことなのだが、自論からずれるデータを除きたくなったり、サンプル写真に写り込んだゴミをPhotoshop等で消したくなったり、自社製品の性能や製造技術を良く見せる為にデータに下駄を履かせたくなったり、…といった「悪魔の囁き」は、多くの研究者が経験していることだろう。というか、「そういったデータ操作はは一切やったことがありません」などという人は殆ど居ないのではないだろうか;本質的でない“操作”はセーフだよと言う人もいれば、あらゆる“改竄”はアウトだと言う人もいるが、…キレイ事だけを言っていてはナカナカ生きていけないのがこの世界の難しいトコロ。

さて。

今回のSTAP再現実験で、STAP幹細胞が作られたのかどうかよくわからないまま終わってしまった一番の理由は、細胞の多能性を持つことを示すために取ったその手段、すなわち:
  • 多能性を誰の目にもわかる形にするため、キメラマウスを作製することを提案した人がいた(ハードルが何段階も上がってしまい、さらに小保方氏がコントロールできない領域の話になってしまった)
  • そのキメラマウスを作る過程には、小保方氏本人は直接関わることが出来なかった(技術も教えてもらえず、自分でやることは出来なかった)
の2点に尽きると思う。前者については、インパクトは小さくなるかも知れないが、他の検証方法ではいけなかったのだろうか(キメラマウスを作ればそれはインパクトは強かっただろうが)。また、ネイチャーに投稿した論文では、キメラマウスを作製したのが、小保方氏を自分の研究室に招聘しながらも受け入れてもらえなかった若山照彦氏の手によるものだったというのが何とも…。理研で行った再現実験では、この若山氏は協力を拒否している。

もしかしたら多能性を持つ細胞は出来ていたのかも知れないし、そうでないのかも知れない。素人目には薮の中だ。それにしても、一連の騒動から暫く経つが、その後STAP現象の追実験をしたという報告も聞かれないし、本書が出された後数ヶ月経つが、若山氏からの反論も無いようだ。あの騒動は一体何だったのだろう? と思うと同時に、何故かSTAP幹細胞に関わる米国出願特許が未だ無効になっていない等もあり、この辺りに陰謀論めいた何かを考えたくもなる…。
  • ちなみに、同じ時に同じ店で、STAP騒動についてM新聞社のS記者による暴露本(?)も見掛けた(斜め読みもした)。が、買わなかった…のは、事実無根と思える内容が多かったことと、悪意に満ちた書き方が鼻についたからだ。冷静かつ客観的に書かれた本があったら見てみたいが、…調査委員会の報告が「客観的だ」ということにされちゃっているから、小保方さん断然不利だなぁ…。
読後感として、どうにもスッキリしない本だ。が、大学や研究機関、企業内研究開発部署に所属する人間には、一読をお勧めする。自身が行っている研究の本当の目的は何か。自分が研究に求めるものは何か。色々考えさせられるはずだ。