池上彰・佐藤優「大世界史 現代を生きぬく最強の教科書」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4166610457/>
単行本: 254ページ
出版社: 文藝春秋 (2015/10/20)
言語: 日本語
ISBN-10: 4166610457
ISBN-13: 978-4166610457
発売日: 2015/10/20
[書評] ★★★★★
前著「新・戦争論」(下記“関連図書1”参照)に続く、池上彰氏&佐藤優氏コンビによる、ホットな話題満載の近未来予想本。内容は論拠もハッキリしており、非常にわかりやすい。内容は主に以下の通り(目次通りではありませんが):
- イスラーム世界の変動、特にトルコの膨張(オスマン帝国の再建?)。
- 中国の膨張。明の時代の鄭和の大航海時代の版図を復活?
- ドイツ「帝国」の膨張が欧州を不安定化する?
- 米露の力関係と米大統領選のゆくえ
- 沖縄は日本のアキレス腱
- 数年後には世界中に核拡散?
- キリスト教(東方正教) vs イスラーム 宗教戦争、再び?
- 何の為に歴史を学ぶのか、どのように学ぶのか、教育はどうあるべきか
内容については賛否あるが、ツッコミを入れるなら概ね以下の通り(PRO=賛成、CON=反対):
- [CON] 議論の深さが足りないと思われる箇所が数ヵ所ある(一部勢力・諸外国への配慮か?)
- [CON] 高等教育での英語教育をあまり重視していない傾向あり。全ての講義を英語で行う必要はないが、語学と専門科目の一部はinput~think~outputのサイクルを繰り返し英語で行うという訓練も必要なのではないか?
- [PRO] エリートのナルシシズム、排外主義の高まり、横行する陰謀論、反知性主義…右左問わず近年日本に見られる危ない傾向として、これらの項目を指摘している点ついては100%同意。上述「もういちど読む山川世界現代史」の書評でも書いたが、中間層が没落し、鬱憤の溜まった層が増えて来ているから、この手の本が売れるのではないか。これは世界大戦前夜のような危険な兆候なのではないか。
- [PRO] 10章「ビリギャルの世界史的意義」とあとがき(「おわりに」)で、日本における現在の日本の教育の在り方への問題提起をし、また高等教育の極端な実学重視に警鐘を鳴らしている。これは私が何年も前から感じていたこととほぼ同じ。
- AO入試とか少数科目のみでの大学入試があっても悪くないが、それでキチンとした教養が身につけられるのかという疑問を私も抱いていた。
- 過度な実学重視だが、米国では20世紀末から、日本でも10年位前(国立大学が独立行政法人となり、大学が生み出している“利益”がその大学を評価するモノサシとなり始めた頃)から見られた傾向だ。たとえば理系学部/専攻だけでなく国立研究機関でも、すぐ現金を産みそうなテーマや技術ばかり取り組まれるようになって久しい。大学の1~2年次での一般教養(“パンキョー”)も大幅に削られているようだ(大学の後輩から話を聞くと自分が学生だった頃とは大分様子が違う)。佐藤氏が指摘している通り、すぐ役に立つ知識・技術は賞味期限が短い。大学・大学院で本当に教育すべきは、長年役立つ物の観方・考え方、それと脳にたくさん汗をかく習慣だと思う(私の場合、社会人になってから本当に役立った知識・技能のは、専門課程よりも教養課程で学んだ物の方が多い)。こういった教育無しには日本は早晩没落を避けられないだろう。待機児童が近年社会問題化しているが、国の将来を担うのは国民の教育であり、これは時間こそかかるものの極めてリターンの大きい投資だと考える。この教育制度も含め、5年後~10年後ではなく、100年後のヴィジョンが見える国家戦略を示し、キチンと議論できる政治家は現れないものだろうか? そういう政治家で優れた人が出てきたら、投票するだけじゃなくて個人献金をしても良いと思っている(庶民として国に貢献出来ることはこれが精一杯なのだが)。
関連図書:
- 池上 彰・佐藤 優「新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方」(文春新書、2014/11/20) (Amazon、拙書評)
- エマニュエル・トッド(著), 堀 茂樹(翻訳)「『ドイツ帝国』が世界を破滅させる 日本人への警告」(文春新書、2015/5/20) (Amazon、拙書評)
- 中野 剛志「世界を戦争に導くグローバリズム」(集英社、2014/9/17) (Amazon、拙書評)
- etc.