2016年9月25日日曜日

神田 昌典「2022―これから10年、活躍できる人の条件」


神田 昌典「2022―これから10年、活躍できる人の条件」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4569797601/>
新書: 224ページ
出版社: PHP研究所 (2012/1/19)
言語: 日本語
ISBN-10: 4569797601
ISBN-13: 978-4569797601
発売日: 2012/1/19

[書評] ★★★☆☆

今後10年間、2022年まで(本書は2012年発行)の間、日本はどうなる? 中国や北朝鮮・韓国はどうなる? 発行から年数(4年半)経っており内容が一部古いが、中国・韓国に媚びるでもなく嫌うでもなく、比較的政治的にバランスの取れた、かつ面白い視点を与えてくれる本だと思う。

進化生物学者・UCLAのジャレド・ダイアモンド教授の本を引いてきて(pp. 44-45、下記参考)、文明が崩壊する原因は(戦争でも病気でも食糧危機でもなく)歴史のターニングポイントで民族が「引き継ぐべき価値観」と「捨て去るべき価値観」の見極めの失敗だというものだ。日本もそろそろ変な主義主張を捨て、国家も国民も生き延びる方法を模索しないといけないのかもしれない。
本書に書かれた我々の近未来像は、日本・中国・台湾・韓国をはじめとする東・東南アジアと国境のなくなった状態で、共存共栄&競争とのこと(公用語は英語と中国語、時々日本語とハングル語)。製品やサービスのライフサイクルは短い。生き残るべき製品・サービスは、古い価値観のうち「引き継ぐべき価値観」を残しつつ、「新しい価値観を盛り込んだもの」になる。人材も同様で、グローバル市場(の一部、特に東アジア)の中で新たな価値創造を出来るフットワークの軽い人にならないと勝ち残って行けないという。毎日が新鮮な日とも言えるが、日々同じことを繰り返すだけの人は食べて行くのも厳しい時代になりそうだ。

◆面白い視点
  1. 本書は東アジアという舞台で日本と企業はどうなる?を論じており、米欧露(と最近ではトルコ・中近東)中心の地政学の本とは一線を画していると思う。
  2. 明治維新以後(西南戦争終結:1877年、立憲体制の確立:1889年)から、日本の歴史は70年周期で巡り、その都度、大変革に見舞われきた。太平洋戦争終結(1945年)から今年で71年。再び大変革の波がやってきているという主張は一読の価値あり。人の一生の長さに相当する期間でもあり、世代で言えば2~3世代位。「戦争」や「変事」の記憶・語り部が減ってしまった時代に次の動乱が起きやすいというのは人の世の常なのかも知れない。
  3. iPhoneを例にとってスマホの機能と市場規模を予想しているのだが、2012年1月発行の本なのに(当時はiPhone 4発売中)、今年2016年9月に発表・発売となったiPhone 7の発売時期・搭載機能の予想まで概ね当たっている。2016年現在、スマホは既に成熟市場、過剰機能搭載・カラーバリエーションが増える等の予想が見事(iPhone 7は現行型スマホの1つの完成形と言えるだろう)。2016~2017年辺りは、次のコンセプトの商品が出てくる時期なのかもしれない(先日発表されたiPhone 7・Apple Watch (完全防水)・AirPods (完全ワイヤレスのイヤフォン・マイク)は、その「次のコンセプトの商品」を占う製品なのかも知れない)
  4. 大きな組織(企業)は、ライフサイクルが短い(つまり当初は市場が小さい)製品には参入を躊躇いがちだが、ライフサイクルが短い事業にも積極的に参入をし、それらの中から大きな事業を育てていくようにしないと滅びる(今や参入可能なタイミングはシビアなので、まずは参入してみてから継続可否を判断するべき…FS (Feasibility Study)、採算性見積もり、等の甘さを突き「企画はまず潰す」方針でやっていたら時代に取り残されるということ)、という重大なヒントが書かれている。
  5. 個人についても、会社等の1組織に囚われない生き方と、そのための能力を身に付けることを強く勧めている(転職によるキャリアアップ等よりも、フリーランスの働き方も提案している…がコレはハードル高いなぁ)
◆ツッコミ所
  1. 地政学的リスクの読みが甘い傾向あり(21世紀に入り弱体化したとは言え米国はまだまだ健在であり、それ以上に近年ロシアやトルコの動きも気になるが、その辺りの強大国の影響が薄い分析になっている)
  2. 中国・台湾・日本・韓国を中心とする『儒教国経済圏』が出現すると言っている。いわば「共栄共存」構想だが、経済の繋がりは政治的緊張の緩和にはあまり役に立たず、2度の世界大戦を防ぐことが出来なかったことは歴史から学んでも良いだろう。
  3. なお、日本の「70年周期」は明治の変革以来3度目(2周期目の終わり)にすぎないので、この数字は慎重に扱いたい。そもそも日本が戦後主権を取り戻したのはサンフランシスコ講和条約(1951年)であり、ここから数えると2016年は65年目、本書の言う「70年」まではあと5年残っている。また、海外で言われる「周期性」の話については、地政学の大家:ジョージ・フリードマンが著書「100年予測」(ハヤカワNF文庫、2014/6/6)<http://www.amazon.co.jp/dp/4150504091/>で「米国は建国以降(独立戦争は~1783年)、概ね50年周期で、決定的な経済的、社会的危機に見舞われてきた」と書いており、こちらのほうが200年以上(現在5度目の周期の中期)と歴史も長く、蓋然性は強いのではないか。
なにはともあれ、2~3世代毎(50~70年毎)に周期的にカタストロフがやって来るというのは、ある程度納得できる議論ではある。筆者・神田氏の論によると、2015年頃にはそのカタストロフがやって来るとのこと。私の読みは、終戦ではなくサンフランシスコ講和条約後70年、つまり2021年。この激動の時代をどう生き抜くか。銀座や秋葉原に行くと、中国・台湾・韓国人がワンサと来ている。現在、iPhone等の世界的なハードウェア/ソフトウェアにおいて既に、市場の重点は欧米の次は中国になって来ている(日本の重要度は下がっている)。今後、日本国内で売られる商品も、インバウンド需要を狙い、ますます中国・台湾・韓国人向けに作られるようになるだろう。日本の公用語は、日本語の他、実質的に英語・中国語・韓国語も使われるようになるだろう。そんな客層に向けて「ジャパニーズ・サプライズ」を与え続けることの出来る人か、(自己主張の強い)大陸人と伍して行くことの出来る人しか生き残れないのかもしれない。

◆もうひとつ、ツッコミ所

本文末尾にFacebookページ等へのリンクが沢山書かれているが、2012/4/16以降更新無し。リンク切れ多し。

本書の内容、賞味期限はカナリ短いようだが(本書の内容、1/4~1/3位は既に賞味期限切れ…なので評価は×3とさせて頂く)ナカナカ刺激的なコトが書かれており、興味深く読めた。

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