岸見 一郎・古賀 史健「嫌われる勇気―自己啓発の源流「アドラー」の教え」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4478025819/>
単行本(ソフトカバー): 296ページ
出版社: ダイヤモンド社 (2013/12/13)
言語: 日本語
ISBN-10: 4478025819
ISBN-13: 978-4478025819
発売日: 2013/12/13
[書評]
★★★☆☆
Amazon.co.jpの「心理学入門」のカテゴリで1位の本。既読という人も多いだろう。あざとい題名で人目を引いている感は否めないが、本書は
(乱暴な意味で)他人に嫌われる生き方をしろと言っているのではなく、「他人に好かれようが嫌われようが、それは他人が決めること。自分自身の価値観
(ライフスタイル)に勇気を持ち、自身が最善と思う生き方をせよ」という意味であろう。
日本では広く知られている名前ではないようだが、アルフレッド・アドラーは、フロイト、ユングと並び「心理学の三大巨頭」と言われる。このアドラーの思想を、悩める青年と哲学者の対談の形式でまとめた本。本書ではアドラー「心理学」と言っているが、「心理学」というよりは「哲学」、「生きる指針」に近い。
以下は興味深かった点。
- 「すべての悩みは、対人関係の悩みである」と喝破している点(多くの人において、自己評価は他者に与えられた評価に過ぎないとする点)。他人の評価に沿って生きるのではなく、自分が最善だと思った行動をとるべきだという点。
- トラウマに代表される、自分の過去が現在を決めてしまうという考え方を明確に否定している点。「いま」の自分には過去も未来も関係なく、「いま」を自分はどう考え、どう生きるか?
- フロイト的な原因論ではなく、目的論で行動を分析している点。すなわち、例えば問題行動を含む全ての行動には、(意識的にせよ無意識的にせよ)目的があるとする点。
ただ、他人の価値観に左右されず、神が見ているという価値観にも左右されず、自分自身が最善だと思った行動をとり、日々真摯に生きるというのは、
実践するのは非常に難しいだろう。
本書では、他人への貢献に喜びを感じ、他人や組織に
(経済的にも、承認欲求の面でも)依存しないで自立している状態にあることを前提としている。そのような人はそもそも自己評価が高いだろうし、言うほど「悩んでいない」とも言える。企業や家族親類とのしがらみから逃れられず、そこに価値観の相克があるから人は悩むのだ。他人からの評価をあまり気にせず、自分自身の最善と思ったことをせよ、という指針は、
極めて個人主義的なヨーロッパ的発想だと思う
(アドラーはオーストリアの人)。また、愛についても述べているが、これは理想形に過ぎないのでは、と私は考える。生れも育ちも価値観も違う2人が家庭を築き、子をもうけ(子も学校や友人から家庭と異なる価値観を持ちかえって来る)、その過程で価値観の衝突が無い訳がない。
本書は
「中庸である悩める人」に向けた本だと思う。自己評価の高い人にはアドラーの考え方は不要だろうし、心身とも弱った状態にある人には
毒薬でさえある。アドラーはトラウマをきっぱりと否定するが、それではPTSDやうつ病といった心身症の説明がつかない。これらの症状に苦しむ人たち、すなわち自己肯定が出来ない状態・自己評価が非常に低い状態にある人に、アドラーの哲学を押し付けると、本人はさらに参ってしまうだろう
(その先に待つのは過労死か自殺か)。こういう人たちは、
(アドラーの主張とは異なるが)きちんと原因の認識と対処をすべきだ。その上で、原因論だけでなく目的論的な視点からも対処をするのが現実的なのではないか。例えば認知行動療法では、原因と目的とを分離し、自身が対処出来ることとして、目的論的な視点から物事の考え方を捉え直すよう促す側面もあるように思える
(あまり詳しくないのだが、無責任なことは書けないのでこの辺で…)。
アドラーの言うような生き方は難しいかも知れないが、原因論的な考え方だけでなく、目的論的な考え方も取り入れ、どこかで上手く折り合いをつけて行くのが現実的な生き方なのかも知れない。
以上、否定的なことばかり書いてしまったが、これは私自身に至らぬ点が多いからかも知れない。また、子どもや後輩の指導をする立場にいる人は本書から得る物が多いと思うが、これも実践は非常に難しいだろう。アドバイスのつもりで言った言葉が、子どもや後輩を追い込む煽り文句になりかねない。使いドコロには要注意だ。
ともかく、数年寝かせて、そのうち再読してみようと思える本ではある。
(その時の私はこの本をどう思うかな?)
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参考リンク(Wikipedia)