2016年10月30日日曜日

岸見 一郎・古賀 史健「幸せになる勇気―自己啓発の源流「アドラー」の教えⅡ」


岸見 一郎・古賀 史健「幸せになる勇気――自己啓発の源流「アドラー」の教えII」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4478066116/>
単行本(ソフトカバー): 296ページ
出版社: ダイヤモンド社 (2016/2/26)
言語: 日本語
ISBN-10: 4478066116
ISBN-13: 978-4478066119
発売日: 2016/2/26
[書評] ★★★★☆

『嫌われる勇気』(Amazon.co.jp, 拙書評)の続編。前著を酷評(?)しておいて、早くも続編の書評かよ!という気がしなくもないが、「毒食らわば皿まで」という感じだろうか(←2冊一緒に買ってしまったので読まないのも勿体なく、勢いで一気読みしたというのがコトの真相/笑)

前著に続き、本書も悩める青年と哲人の対話形式。この悩める青年、本当にやりたいと思った仕事(教職)に就き、教育の場でアドラー心理学を展開しようとして見事に失敗。アドラー心理学と訣別すべきかどうか、再び哲人のもとを訪れる……。

前著で抽象的で「???」だった内容が、具体的かつクリアに書かれているのが◎。私なりにまとめると:
  • 幸せになる為には、他者から愛される立場(子ども)から、経済的にも精神的にも自立した人間として、主体的に他者を愛すること。
  • 主語を「わたし」から「わたしたち」に変えること。「わたしの幸せ」を求めるのではなく、「あなたの幸せ」を願うのでもなく、「わたしたちの幸せ」を築き上げること。
  • 有限な人生において必ず待ち受ける他者との「別れ」を最良のものにする為に、「今を真剣に生きる」こと。
といった辺りに集約されるのだろうが、書評ブログなどに纏めるには私の文章力ではとても足りないし、興味を持った方には、是非前著とも併せ読んでみて欲しい。

自分自身に照らしてみると、できていないことばかりで耳が痛い(読書の場合は「目が痛い」か?)。が、色々考えさせられる本だった。前著・本書とも、数年寝かせてから再読してみたい。

2016年10月23日日曜日

岸見 一郎・古賀 史健「嫌われる勇気―自己啓発の源流「アドラー」の教え」


岸見 一郎・古賀 史健「嫌われる勇気―自己啓発の源流「アドラー」の教え」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4478025819/>
単行本(ソフトカバー): 296ページ
出版社: ダイヤモンド社 (2013/12/13)
言語: 日本語
ISBN-10: 4478025819
ISBN-13: 978-4478025819
発売日: 2013/12/13

[書評] ★★★☆☆

Amazon.co.jpの「心理学入門」のカテゴリで1位の本。既読という人も多いだろう。あざとい題名で人目を引いている感は否めないが、本書は(乱暴な意味で)他人に嫌われる生き方をしろと言っているのではなく、「他人に好かれようが嫌われようが、それは他人が決めること。自分自身の価値観(ライフスタイル)に勇気を持ち、自身が最善と思う生き方をせよ」という意味であろう。

日本では広く知られている名前ではないようだが、アルフレッド・アドラーは、フロイト、ユングと並び「心理学の三大巨頭」と言われる。このアドラーの思想を、悩める青年と哲学者の対談の形式でまとめた本。本書ではアドラー「心理学」と言っているが、「心理学」というよりは「哲学」、「生きる指針」に近い。

以下は興味深かった点。
  • 「すべての悩みは、対人関係の悩みである」と喝破している点(多くの人において、自己評価は他者に与えられた評価に過ぎないとする点)。他人の評価に沿って生きるのではなく、自分が最善だと思った行動をとるべきだという点。
  • トラウマに代表される、自分の過去が現在を決めてしまうという考え方を明確に否定している点。「いま」の自分には過去も未来も関係なく、「いま」を自分はどう考え、どう生きるか?
  • フロイト的な原因論ではなく、目的論で行動を分析している点。すなわち、例えば問題行動を含む全ての行動には、(意識的にせよ無意識的にせよ)目的があるとする点。
ただ、他人の価値観に左右されず、神が見ているという価値観にも左右されず、自分自身が最善だと思った行動をとり、日々真摯に生きるというのは、実践するのは非常に難しいだろう。

本書では、他人への貢献に喜びを感じ、他人や組織に(経済的にも、承認欲求の面でも)依存しないで自立している状態にあることを前提としている。そのような人はそもそも自己評価が高いだろうし、言うほど「悩んでいない」とも言える。企業や家族親類とのしがらみから逃れられず、そこに価値観の相克があるから人は悩むのだ。他人からの評価をあまり気にせず、自分自身の最善と思ったことをせよ、という指針は、極めて個人主義的なヨーロッパ的発想だと思う(アドラーはオーストリアの人)。また、愛についても述べているが、これは理想形に過ぎないのでは、と私は考える。生れも育ちも価値観も違う2人が家庭を築き、子をもうけ(子も学校や友人から家庭と異なる価値観を持ちかえって来る)、その過程で価値観の衝突が無い訳がない。

本書は「中庸である悩める人」に向けた本だと思う。自己評価の高い人にはアドラーの考え方は不要だろうし、心身とも弱った状態にある人には毒薬でさえある。アドラーはトラウマをきっぱりと否定するが、それではPTSDやうつ病といった心身症の説明がつかない。これらの症状に苦しむ人たち、すなわち自己肯定が出来ない状態・自己評価が非常に低い状態にある人に、アドラーの哲学を押し付けると、本人はさらに参ってしまうだろう(その先に待つのは過労死か自殺か)。こういう人たちは、(アドラーの主張とは異なるが)きちんと原因の認識と対処をすべきだ。その上で、原因論だけでなく目的論的な視点からも対処をするのが現実的なのではないか。例えば認知行動療法では、原因と目的とを分離し、自身が対処出来ることとして、目的論的な視点から物事の考え方を捉え直すよう促す側面もあるように思える(あまり詳しくないのだが、無責任なことは書けないのでこの辺で…)

アドラーの言うような生き方は難しいかも知れないが、原因論的な考え方だけでなく、目的論的な考え方も取り入れ、どこかで上手く折り合いをつけて行くのが現実的な生き方なのかも知れない。

以上、否定的なことばかり書いてしまったが、これは私自身に至らぬ点が多いからかも知れない。また、子どもや後輩の指導をする立場にいる人は本書から得る物が多いと思うが、これも実践は非常に難しいだろう。アドバイスのつもりで言った言葉が、子どもや後輩を追い込む煽り文句になりかねない。使いドコロには要注意だ。

ともかく、数年寝かせて、そのうち再読してみようと思える本ではある。(その時の私はこの本をどう思うかな?)

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参考リンク(Wikipedia)

2016年10月16日日曜日

西尾 維新「掟上今日子の家計簿」


西尾 維新「掟上今日子の家計簿」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4062202700/>
単行本(ソフトカバー): 256ページ
出版社: 講談社 (2016/8/23)
言語: 日本語
ISBN-10: 4062202700
ISBN-13: 978-4062202701
発売日: 2016/8/23

[書評] ★★☆☆☆

今年6~7月に1~6巻を一気読みした「忘却探偵シリーズ」の、第7巻。うっかりシリーズで読み始めてしまったので、惰性で購入~読んでしまった(笑)。本文中ではシャーロック・ホームズ(コナン・ドイル作)への言及が多いが、著者・西尾氏の作風は名探偵ポワロ(アガサ・クリスティ作)の影響が強いようで、叙述トリックの連発である。…と言うか、本文中にも、叙述トリックに関する薀蓄(ウンチク)もたっぷり(笑)。
  • 著者・西尾氏ご本人は、本書あとがきにて、シリーズ3巻の『挑戦状』、5巻の『退職願』から連なる、『今日子さんと刑事さん』シリーズと書いているが、『挑戦状』は語り部は不在の“神の視点”(『退職願』と本作『家計簿』は担当刑事が語り部)。
  • 叙述トリック…文章上の仕掛けによって読者のミスリードを誘う、ミステリー小説の書き方の技法の1つ。(詳しくはWikipedia等をご参照ください)
さて本作。短編×4本、それぞれ別の刑事が語り部。全員、探偵・掟上今日子に良い感情を持ってはいないものの、止むを得ず仕事を依頼する話。

忘却探偵シリーズのここ数冊は、同著者・別作品の〈物語〉シリーズと同じように、言葉遊びが増えている。これは食傷気味。本作、良くも悪くも凡作(決してケナしている訳ではありませんが)。これで¥1,350-はコストパフォーマンスが少々悪いかも知れない(苦笑)。推理小説(探偵モノ)で刺激的な作品を書き続けるのは難しいかも知れないが、シリーズの初期設定がブッ飛んでいるので、続編でももう少しパンチの効いた作風を求めたい。…などと言うのはただの贅沢か?

ちなみに今回のタイトルの「家計簿」、内容には全然関係無さそう…?

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以下余談。

先日Amazon.co.jpさんで確認したら、シリーズ8巻『掟上今日子の旅行記』(未刊、2016/11/16発売予定)に既にISBNコードが割り振られていた。また買ってしまいそう(笑)。てゆーか西尾さん、筆(現代ではキーボードかな)が速すぎです。この間に〈物語〉シリーズの最新刊『撫物語』も出ているし。どういう精神構造をしていると、これだけ多作になれるのだろうか(読む方が追いつかない/笑)。作品よりも西尾氏の方に興味があったりして(笑)。

忘却探偵シリーズ 刊行リスト
  1. 「掟上今日子の備忘録」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062192020/> (2014/10/15)
  2. 「掟上今日子の推薦文」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062194503/> (2015/4/23)
  3. 「掟上今日子の挑戦状」 <http://www.amazon.co.jp/dp/406219712X/> (2015/8/19)
  4. 「掟上今日子の遺言書」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062197847/> (2015/10/6)
  5. 「掟上今日子の退職願」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062199068/> (2015/12/17)
  6. 「掟上今日子の婚姻届」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062200716/> (2016/5/17)
  7. 「掟上今日子の家計簿」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062202700/> (2016/8/23)
  8. 「掟上今日子の旅行記」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062203766/> (2016/11/16)(※未刊)

2016年10月9日日曜日

小山 宙哉「宇宙兄弟(29)」


小山 宙哉「宇宙兄弟(29)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4063886387/>
コミック: 200ページ
出版社: 講談社 (2016/9/23)
言語: 日本語
ISBN-10: 4063886387
ISBN-13: 978-4063886382
発売日: 2016/9/23

[書評] ★★☆☆☆

ご存知『宇宙兄弟』の最新巻。

前巻(28巻)で始まった、月面電波望遠鏡の設置ミッションでは、技術的に予定通りに行かないトラブルが出たが、今回はその解決編…と思いきや、船外活動(宇宙服を着て月面で行う作業)中にまたまた事故発生。一番大変なのは…ネタバレになるが、表紙の人。

(南波日々人/なんば ひびと)の2026年の月ミッションに続き、兄(南波六太/なんば むった)も月ミッション(2029~30年頃?)でもまた遭難かよ!? こういう展開はちょっと食傷気味。人類初の活動をしているので物事が予定通りに進むことなどまず無く、色々トラブルが起こるのはむしろ当たり前なのだが(初めてのプロジェクトにトラブルがつきものなのは国でも企業でも同じ)、フィクションとは言え、大事故寸前を連発するのは国際的事業としてどうなのよと思う。日本よりも責任の所在がハッキリしているアメリカの組織でも似たようなポカをやらかすものだろうか? と思ってしまった(後述)。まあ度重なる事故・トラブルへの対処こそがドラマになるのだが(でも「プロジェクトⅩ」的なプロジェクトマネジメントは本来あってはならないものだと思う)

問題点を挙げるとキリが無いが、
  • 日々人の遭難事故の教訓が活かされていない(宇宙服の強度など)
  • 予定外・予想外の事態に対するコンティンジェンシープランの欠如
    • コンティンジェンシープラン…非常事態への緊急対応・初動計画。(IT用語辞典 e-Words)
などなど、NASAのマネジメントがもうボロボロ。

本書で月ミッションと国際宇宙ステーション・ミッションを統括しているNASA (アメリカ航空宇宙局、1958~)は、周知の通り実在する組織だ。NASAは組織が若かった頃は、歴史上初めて人類を月面に到達させたり(これは東西冷戦という背景もあり人・金・物が莫大に注ぎ込まれたこともあるだろう)、映画『アポロ13』等で有名なアポロ13号(1970)の事故への対応で見られたように、大組織のマネジメントと緊急事態への即応体制について、教科書に載るような優れた組織だった。が、その後、スペースシャトルで2度の大事故(爆発事故空中分解事故)を起こすなど、開発の遅れ・予算の削減・組織の官僚化/硬直化の悪影響がモロに出ている。本書でもNASAを腐りかけた組織として描いており(JAXAに対しては比較的好意的)、その悪影響としての事故続発を描いているものとして理解したい。

本書がモデルとしているNASAのコンステレーション計画は、実世界では2010年に中止が発表されてしまった。作者の小山さんはストーリー作りに苦労するだろうが、ワクワクする展開は次巻以降に期待!

2016年10月2日日曜日

小松公夫(著)「論理思考の鍛え方」


小松公夫(著)「論理思考の鍛え方」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4061497294/>
新書: 260ページ
出版社: 講談社 (2004/7/21)
言語: 日本語
ISBN-10: 4061497294
ISBN-13: 978-4061497290
発売日: 2004/7/21

[書評] ★★★★☆

今回はちょっと古い本。

最初に書いておくが、本書は自己啓発本ではない

自己啓発本の一種だと思って中身も確かめずに買った本(Amazon.co.jpさんのおすすめによる/笑)。先日読んだ田坂広志(著)「知性を磨く」「人間を磨く」に書かれた「知性」とは対極の内容を予想していたのだが、少し違った。いわゆる「詰め込み教育」につながるものとして批判されることの多い難関学校入学試験・採用試験等から見た、学校や職業が求める人材像(能力)に関する本である。
  • 田坂著(後述)では、知性とは本から読める知識知ではなく、経験を積むことによってしか得られない知恵だとする。
  • 田坂著では「ドラゴン桜」的な知識詰め込みを批判しているが、その「ドラゴン桜」の絵が本書のオビについていて、ちょっと笑えた。
本書の章立ては以下の通り:
  1. 有名小学校問題から幼児期に芽生える能力因子を考える
  2. 難関中学・東大入試問題から論理的思考能力の発達を考える
  3. 企業採用テストと国家公務員I種試験問題から社会人に求められる職業能力を考える
  4. ロースクール適性試験問題から法曹人に求められる能力因子を考える
  5. 医学部入試問題から医師に求められる能力因子を考える
本書から読みとれる内容は、それぞれの試験が問うている能力は何なのか。共通点は何か。子供の発達過程で身につけるべき能力は何か。職業上求められるのはどのような能力か。

本書を読んでも読者の論理思考の能力が磨かれる訳ではない。が、本書は子を持つ親や教師にとっては必読書かも知れない(子供に生きる力をつけさせる立場にある人)。本書の内容は、学校の入試担当教諭(担当スタッフ)・企業や官庁の採用担当者は既に充分理解しているのだろうが、「世の中に求められる能力とその評価の仕方、人の育て方」が分かる点が面白い。特に、
  • 入試や入社の試験(ペーパー試験・口頭面接)が見ている主な能力は何か
  • 学校や業務で必要とされる能力を、試験問題という形でどのように見ているか
  • 学校や企業が求める人材はどういう人か
が垣間見えるのは興味深い。

余談になるが、本書に載っている各例題は解いてみても結構面白い。読書中、突然レポート用紙を持ち出して問題を解くという奇行(?)に走ってしまった(笑)。興味深かったのは、大人向けの試験よりも(割と理詰めで考えられる)、小中学校の入試問題の方が難しかったこと(より柔軟な思考が必要)。年を取っても、柔らか頭を保ち続けたいものである。

本書は、タイトルから忌避する人も多いかも知れない。が、世の中に求められる人材であり続けたい人にとっては示唆の多い本だと思う。

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参考図書