久しぶりの、ビジネス書(…で良いのかな?)。物語形式で読み易く、厚い割にサクッと読める本です。
細川義洋「プロジェクトの失敗はだれのせい? ~紛争解決特別法務室“トッポ―"中林麻衣の事件簿」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4774179515/>
単行本(ソフトカバー): 400ページ
出版社: 技術評論社 (2016/2/26)
言語: 日本語
ISBN-10: 4774179515
ISBN-13: 978-4774179513
発売日: 2016/2/26
[書評] ★★★★☆
大手ITベンダーRMKジャパン(架空の会社ですよ)に勤務するシステムエンジニア、麻衣。特別法務室(通称“トッポー”)に突然放り込まれる。そこで出遭う紛争の数々。
著者はITベンダー出身の、東京地裁民事調停委員IT専門委員。IT関連の企業間紛争と和解の実態については非常に詳しいようだ。本書では、ご都合主義的な人脈戦略あり、場外乱闘(?)ありと、小説としてはベタな展開が多いが(ストーリーテラーとしては専門家ではないようだ/笑)、物語形式で読み易い。ストーリーを楽しみたい人はじっくり読んでも良いし、結論だけ知りたい人は本文は斜め読みして、巻末の解説(25ページ+2行)だけじっくり読めば良いと思う。
ITプロジェクトの成功率は低いという。「納期、コスト、品質を遵守して完了するプロジェクトの割合は約7割」とのこと(本書「おわりに」より)。つまり3割のプロジェクトはどういう形にせよ失敗になるということだ。IT業界で失敗プロジェクトが多いというのは古くからの定説であり、対処法/指南書としては、(10年以上前の本だが)以下の本が有名だ。
しかし、これはIT業界だけの話だろうか? 確かに数万行、時に億単位のステップからなるプログラムを多人数でコーディングし、開発スパンが(他業界と比べて)短い物が多いという特徴はあるだろう。また、設計変更・機能改良に留まらず、「イチから開発」する要素が多いこともIT業界の特徴と言えるかも知れない。ここ10~20年くらいの間に、ソフトウェアの品質管理とプロジェクト・マネジメントに関して、システマティックな方法が色々出てきており、実用面でも役立っているようだ。
この手法、実はソフトウェア開発に限った話でなく、ハードウェアについても、サプライヤと顧客が一緒になって新製品を開発する際などにも使える手法なのではないか。重要部品の納品が遅れて製品リリースが遅れたり、各社の開発の足並みが崩れてプロジェクトが中断する等の事例は、ハードウェア業界でも少なくないのではないかというのが私の実感。製品の仕様(品質)・納期・価格等、顧客の要望に出来るだけ応えるというのが「顧客満足度の高い仕事」と思われがちだが、無理を重ねてプロジェクト自体が頓挫したりする可能性も考え、自社に出来ること・出来ないこと・仕様等の変更に伴う価格上昇・納期変更をキチンと顧客に伝えることはベンダー(サプライヤ)の“義務”だとまで言い切る書籍は珍しいと思った。
- 建設業界や自動車業界など、古くから下請け・孫請け…を含み垂直統合・サプライヤ指導を上手に行っている業界もあるが(トヨタの例が有名)、あらゆる技術に精通した「主導者」が不在となりやすい業界では、IT業界における品質管理・プロジェクトマネジメント(PM)の手法が参考になると思う。
なお、本書はあくまでもイントロ本、しかもプロマネ(PM)よりも紛争回避に重点が置かれている。本当のプロマネについては、メンバー・レベルなら例えば日経BP社の技術誌『日経エレクトロニクス』の「NE Academy」等の連載記事がオススメ。プロジェクト・マネジャーに求められるレベルに到達するには、社外研修も有効だろうが、一番良いのはメンバー・サブリーダー・リーダーとしての実経験(試行錯誤)を積むこと。つまり、失敗と成功を経験することしか無いのかも知れない(何の救いもない答でスミマセン)。
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