丸山 正明(著), 三島 良直(監修)「プロジェクトマネージャー養成講座 東工大COE教育改革 PM編」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4822232042/>
単行本: 253ページ
出版社: 日経BP社 (2005/9/3)
言語: 日本語
ISBN-10: 4822232042
ISBN-13: 978-4822232047
発売日: 2005/9/3
[書評] ★★★★★
10年少し前の本。東京工業大学の博士課程で、経理や財務といった経営的視点も持った技術者を育てるコース「東工大COE改革」が始まったが、その取り組みのうち「プロジェクトマネージャー養成コース」の内容を紹介する書籍。COE拠点のリーダーは、LCD (液晶ディスプレイ)等に使われている透明導電膜の「IGZO」を基礎研究のレベルから商用化まで牽引した、東京工業大学の細野秀雄教授(IGZO以外にも色々な研究成果があるが、本論から外れるのでココでは割愛させて頂く)。
- COEとはCenter Of Excellence Programの略で、2001年の文科省「大学の構造改革の方針」に基づいて2002年に「21世紀COEプログラム」という研究拠点形成等補助金事業が開始された。これは、ひと言でいえば、大学発のベンチャー企業など、一定の段階に達した研究成果を積極的に市場に出す仕組みのこと。欧米の大学から新製品・新技術がどんどん市場に出るようになっているのに対抗して、日本でも同様の流れを作ろうという動き。短期的に成果を出せる研究分野に国庫(要するに税金)がどんどん注ぎ込まれる仕組みであり、長期にわたる研究には予算が振り分けられないという問題点もある。長期的な研究にも一定の予算を割くべきと私は考える。
- 内容的には、どうしても発行当時('00年代半ば)の流行に乗った「研究開発リーダー育成」本ではある。が、この考え方自体は、今でも有効だろう。
- 日経BP社さんって滅多に増刷しないんですよね。年月を超えて役立つ書籍は、ダイヤモンド社さん・翔泳社さん・英治出版さんのように長期にわたり増刷し続けて欲しいものです。
- 入手困難品ですが、私の個人所有品は書込み&付箋紙ベタベタでかなりお見苦しいので、古本か図書館でアクセスして下さい(笑)。
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研究開発のマネジメント(技術マネジメント)の手法としては、これまでにも色々な物が提唱されてきた。栄枯盛衰というか、諸行無常というか、…実は10年以上有効であり続けている手法は殆ど無いというのが私の実感。だが、本書の骨子部分は今でも有効だと思う(基本に立ち返る必要を感じ、10年振りに再読)。プロジェクトマネジメントというキーワードで書籍を探すと、ITベンダー系の物ばかりが目立つが、私が求めていた技術マネジメントの処方箋は、機械系・電子系・化学系といった幅広い製造業に通用する方法論だ。
本書が書かれた頃の時代背景について述べておく:
- 昭和末期(1980年代)、世の中の消費傾向が、画一的な商品の大量生産・大量消費から、製品のカスタム化と少量多品種生産にシフトし始めており、ボリューム効果による利益は得にくい時代になり始めていた。工業製品は部品規格の統一が進むと同時に、顧客のニーズに合わせた(特に軽・薄・短・小・高性能の路線での)「オーダーメイド製品」が増え始めていた。製品開発については顧客密着型&提案型の外は、特に良いとされる手法があまり確立されていなかった(自動車・建設等一部業界は例外)。
- 20年位前(1990年代半ば)は、MBA (Master of Business Administration; 経営学修士)花盛りの時代で、企業をやめてビジネススクールに飛び込み、ベンチャー企業を立ち上げる人が多くいたし、MBAを取得した学生を経営幹部として採用する企業も多かった。そういう野心的な社員を引き留めて「社内起業」の形で新たなビジネスを試す企業も多かったように思う。
- 10年位前(2000年代半ば)は、特に製造業においてMOT (Management of Technology; 技術経営)が大流行した。この頃は、会社を辞めずに、夕方や週末に大学院に通って学位を取るようなビジネスマンが増えたと思う。ちょうどこの頃、大学の独立行政法人化(文科省主導の大学改革)が進められ、研究のアウトプットとは何かの議論が多くなった頃でもある。大学側でも従来の枠に収まった研究一筋ではいけないと、学部・学科の境界を超えた研究(学際研究)、事業化さえ怪しい産学共同プロジェクトが乱立した、そういう時期でもある(笑)。
- 近年は、「ズバリこれ!」な技術マネジメントの新しい手法は…無さそう。MOTやPMの考え方が浸透してきている段階か?
- 企業側から、入社後即戦力になるリーダーを育てて欲しいというニーズもあったことも、この教育改革の背景にあるだろう。
- 大学の独法化により、研究者魂を惹きつけるがどのように世の中の役に立つかどうかイマイチよく分からないテーマは続行が難しくなっているとも言われている。が、そのような分野にも一定以上の、金と人を割り振って研究をするべきだと思う。
- 特に2000年代以後、日本の大学の基礎研究に割り当てる資金については非常に厳しい状態となっており(本書にも競争によってJSTやNEDO等から資金を得られない研究員は食っていけなくなる生々しい事情が語られている)、テーマもカナリ近視眼的になっているようだ。
- この辺りの事情は、外国(特に米国)で大学発のビジネス・インキュベーションが巧く働いていることの影響と、「2番ではいけないのですか?」の発言に代表されるように、研究資金の財源を握る人たちが基礎研究の重要性を理解してくれなくなったことの表れだろう。今のままでは早晩(5~10年以内、概ね2020年頃~)には、基礎研究分野に関して言えば、日本人研究者はノーベル賞・フィールズ賞といった国際的な学術賞を殆ど受賞できなくなるだろう。
- 近年、毎年のように日本人がノーベル科学省/医学・生理学賞を受賞しているが、彼ら多くの日本人受賞の研究はバブル時代、潤沢に資金を使えた1990年頃までであり、当時まだ「よくわからないものの研究」にも日本が多額の資金と優秀な人材を投下してきた結果だと思う。2000年位からそのような、一見無駄にも思える研究への資金投下は激減したのは上述の通り(iPS細胞の山中伸弥先生と、青色LEDの中村修二先生のお二方はチョット事情が特殊かも知れないが)。
- 本書を買った当時、斜め読みして当たり前のことが多いな~と思ったことは記憶しているが、当たり前のことをキチンとやるのがビジネスの基本ではある。本書はその基本を思い出させてくれる良い本となった。
- 本PMコースの参考書リスト(p. 83)は今でも十分使える本が多いと思う。
- 第4章の、企業トップや出資者に「聴いてもらえるプレゼン技術」は、他のプロマネ指南書には少ないかも知れない(他の本で「エレベーター・プレゼンテーション」を推奨する記述を見たことはあるが)。
- 参考:エレベーター・プレゼンテーション…会社のエレベータにたまたま乗り合わせた自社役員などに向かって、自分の企画を15~30秒でプレゼンする…という所から言われる名称で、事業/商品企画のエッセンスだけを非常に短い時間内に伝える技術のこと。非常に難しく、かなりの練習が必要。
- 本書の内容に、プロジェクト管理技術も加えると、鬼に金棒なのではないだろうか(プロジェクトの種類によって適切な管理手法・体系が違うので、適宜学ばなければならないが)。当然のことながら、本書だけを読めばスーパーな技術者になる訳でもない。さらに勉強すべきことが色々出てくるが、本書を入口にするのは有効だと思う。
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