2013年8月14日水曜日

谷川流 「涼宮ハルヒ」シリーズ

御無沙汰いたしております。暫く更新が無く申し訳ありません。ここ数ヵ月、ライトノベルの世界を彷徨っていました(従来と同様な路線の本もボチボチ読んでいますが、そのレビューは改めて書きます)。

閑話休題。

今回紹介するのは、言わずと知れた大人気ライトノベルです。

①谷川 流 (著), いとう のいぢ (イラスト)
「涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫) [文庫]」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4044292019/>

[シリーズ書評] ★★★★☆

アニメ化・TV放送され(2006年、2009年)、2010年には映画「涼宮ハルヒの消失」も上映されました。小説を追いかける形でコミカライズもされていますが、画風がちょっと同人誌的でアレなので(笑)、万人に薦められるのはライトノベルの方かと。

1作目「憂鬱」~最新刊「驚愕(前・後)」までで、ヒロイン・涼宮ハルヒと語り部・キョンの高校入学~2年生への進級直後までを描きます。高校生活の精緻な描写とブッ飛んだSF的展開(それでいて納得できる程度には辻褄が合っている)が面白いです。「分裂」~「驚愕(前・後)」では話の落とし所が見えず、ストーリー展開を追うだけでハラハラしました。が、「分裂」から「驚愕(前・後)」まで4年以上経っており、この間、作者が展開に悩んで来たことが推察できます。

特に活動的でもなく、特別な所が無い(と自覚している)語り部・キョンが、涼宮ハルヒと関わることで色々な事件に巻き込まれて行くという話ですが(振り回されモノ)、多くの人が経験している高校生活を舞台にしていること(所謂学園モノ)、ラブコメ的要素あり、ハーレム的要素あり、色々な萌え要素を重要登場人物にうまく割り振っていたりして、幅広いファン層を掴むのに成功していると思います(高橋留美子のマンガ「うる星やつら」との共通点が多いような気がします)。特に、キョン(どこにでもありそうな渾名)の本名が最後まで明かされなかったりで、読者の誰もが感情移入しやすい作りになっていると思います。

ただ、シリーズの後半になるにつけ、以前に出てきた設定(とアニメでの描写)に縛られる、展開がより荒唐無稽になって行っている傾向は見られます。この辺り、アニメ化された作品の宿命なのかも知れませんが(しかもそれが原作を凌駕する作品として映像化してしまう京都アニメーションによるものだったからなおさらです)。

このシリーズ、本当は最初の「憂鬱」で終わらせても良かったのかも知れないし、「消失」辺りで終わらせておいても区切りは良かったのかもしれません。アニメ化されて大人気シリーズとなってしまい、止めるに止められなくなっているような気もします(この辺りについては、原作は小説でなく4コマ漫画ですが、「けいおん!」の引き際は巧かったと思います)。

「分裂」で広げた風呂敷は「驚愕(前・後)」で一旦収まったものの、シリーズの終了宣言はされていないようです。この後展開があるのか、あるとしたらどのような展開となるのか、気になります。が、作者の悩みも(少しだけ)分かるような気もして、次回作を期待して良いのかどうか、チョット複雑な気持ちですね。


②谷川 流 (著), いとう のいぢ (イラスト)
「涼宮ハルヒの溜息 (角川スニーカー文庫) [文庫]」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4044292027/>

③谷川 流 (著), いとう のいぢ (イラスト)
「涼宮ハルヒの退屈 (角川スニーカー文庫) [文庫]」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4044292035/>

④谷川 流 (著), いとう のいぢ (イラスト)
「涼宮ハルヒの消失 (角川スニーカー文庫) [文庫]」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4044292043/>

⑤谷川 流 (著), いとう のいぢ (イラスト)
「涼宮ハルヒの暴走 (角川スニーカー文庫) [文庫]」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4044292051/>

⑥谷川 流 (著), いとう のいぢ (イラスト)
「涼宮ハルヒの動揺 (角川スニーカー文庫) [文庫]」
<http://www.amazon.co.jp/dp/404429206X/>

⑦谷川 流 (著), いとう のいぢ (イラスト)
「涼宮ハルヒの陰謀 (角川スニーカー文庫) [文庫]」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4044292078/>

⑧谷川 流 (著), いとう のいぢ (イラスト)
「涼宮ハルヒの憤慨 (角川スニーカー文庫) [文庫]」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4044292086/>

⑨谷川 流 (著), いとう のいぢ (イラスト)
「涼宮ハルヒの分裂 (角川スニーカー文庫) [文庫]」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4044292094/>

⑩谷川 流 (著), いとう のいぢ (イラスト)
「涼宮ハルヒの驚愕(前) (角川スニーカー文庫 168-10) [ペーパーバック]」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4044292116/>

⑪谷川 流 (著), いとう のいぢ (イラスト)
「涼宮ハルヒの驚愕(後) (角川スニーカー文庫 168-11) [ペーパーバック]」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4044292124/>

2013年5月18日土曜日

近藤史恵「エデン」

近藤 史恵 (著)
「エデン」
<http://www.amazon.co.jp/dp/410305252X/>
単行本: 250ページ; 出版社: 新潮社 (2010/03); ISBN-10: 410305252X; ISBN-13: 978-4103052524; 発売日: 2010/03
[書評] ★★★☆☆
「サクリファイス」の続編。 前作に続き、スピード感のある書き方で読ませる。スポーツ自転車に乗る人や、サイクルスポーツの観戦が好きな人には面白い1冊だと思う。

2013年5月12日日曜日

近藤史恵「サクリファイス」

近藤 史恵 (著)
「サクリファイス (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4103052511/>
単行本: 245ページ; 出版社: 新潮社 (2007/08); ISBN-10: 4103052511; ISBN-13: 978-4103052517; 発売日: 2007/08
[書評] ★★★★★
 プロの自転車チームとレース活動を舞台にしたミステリー小説。 読者をぐいぐいと引きつける力がある。あっという間に読みきってしまった。 自転車レースに興味のある人は勿論、そうでな人が読んでも面白いと思う。ただ単に面白いだけでなく、自転車レースに関しても深く理解できるようになる。 今まで、自転車レースを知らない人に、チーム内のエースとかアシスト選手の関係、レースの駆け引き、等々の説明をするのは難しかったが、この本は、チーム編成やレース展開に合わせて、ストーリーの中で自転車レース独特のルールや世界観がきっちりと説明されているので(物語の流れを断つことなく巧く説明しているのは非常に上手だと思う)、 自転車初心者にもオススメできる。
 スポーツ小説としてもミステリー小説としても一級品。 自転車レースに興味のある人がいたら、是非オススメしたい。

2013年5月9日木曜日

M.E.ポーター「競争優位の戦略―いかに高業績を持続させるか」


M.E.ポーター (著), 土岐 坤 (翻訳)
「競争優位の戦略―いかに高業績を持続させるか [単行本]」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4478370192/>
単行本: 659ページ; 出版社: ダイヤモンド社 (1985/12); ISBN-10: 4478370192; ISBN-13: 978-4478370193; 発売日: 1985/12
[書評] ★★★★☆
 ハーバード大学のマイケル・ポーター教授による、企業の競争戦略論に関する研究書・第2弾。前著「競争の戦略」よりさらに深い議論をしている。 会社が成功するか失敗するかの決め手は「競争優位」であること、 市場シェアや業界リーダーといった立場は手段ではなく、結果であるという。
 競争優位の基本戦略はコスト・リーダーシップと差別化の2つである。 競争優位を確保し維持するために、この2つの基本戦略を選 び実行する方法を詳細に述べたのがこの本である。 競争優位の分析方法して「価値連鎖」を挙げ、 社内外の価値活動の連結関係を知ることが競争優位へいたる有力な方法であるという。この価値活動をまず主活動と支援活動とに分け、それぞれがさらに個々の価値活動に細分化される。
 この本も読み易い本ではないが、企業分析・戦略分析・企画・立案に関わるような仕事を(再度)する時が来たら、何度も読み返すことになりそうな本。
 デジタル化、ネット化の進んだ現在、本書の内容が通用しない市場分野も一部あるかとは思うが、 製造業、サービス業には今でも十分通用する本だと思う。

2013年4月30日火曜日

M.E.ポーター「競争の戦略」

M.E. ポーター (著), 土岐 坤 (翻訳), 服部 照夫 (翻訳), 中辻 万治 (翻訳)
「競争の戦略 [単行本]」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4478371520/>
単行本: 500ページ; 出版社: ダイヤモンド社; 新訂版 (1995/3/16); 言語 日本語; ISBN-10: 4478371520; ISBN-13: 978-4478371527; 発売日: 1995/3/16
[書評] ★★★★☆
 ハーバード大学のマイケル・ポーター教授による、 企業の競争戦略論に関する最初の研究書。 企業・業界の研究に関して非常に有名な本なので、 細かな説明は不要だろう。
 経営学に経済学の理論を持ち込むことによって、 業界構造分析と経営戦略論を論じる。 企業の収益性は優れた商品やサービスだけで決まるのではなく、 業界構造のあり方によって決まるというのがポーター教授の主張(の1つ)。
 解り易い本ではないが、企業分析を行なう際に、何度でも読み返す価値のありそうな本。

2013年4月29日月曜日

西原理恵子「生きる悪知恵―正しくないけど役に立つ60のヒント」

西原 理恵子 (著)
「生きる悪知恵 正しくないけど役に立つ60のヒント」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4166608681/>
新書: 214ページ; 出版社: 文藝春秋 (2012/7/20); 言語 日本語; ISBN-10: 4166608681; ISBN-13: 978-4166608683; 発売日: 2012/7/20
[書評] ★★★☆☆
 人気漫画家・西原理恵子さんが、 「おカネ」「男と女」から「ビジネス」「家族」「トラブル解決法」まで、 波瀾万丈の人生で培った処世術を伝える「人生相談」エッセイ。
 サイバラさんは、相談に対してまっすぐ答えず、課題解決のために問題を設定し直す。 例えば、英語が苦手という人に対しては「フィリピンハブに行け!!」、 姑との不仲に悩む人には「姑の方が先に死ぬ」とバッサリ。 「同僚が小銭を借りて返してくれない」という相談に対して「そんなつまらないことにイライラしちゃうあなたは、仕事が辛いんじゃない?」と切り返す。
 副題に「正しくないけど役に立つ60のヒント」とあるが、 正しくないことなんか1つも書かれていないと思う。 悪知恵という程のことも書かれていない。 至極真っ当なことばかりだが、 誰でもやっている知恵を「再確認」することが出来る。

2013年4月28日日曜日

リー・M・シルヴァー「人類最後のタブー―バイオテクノロジーが直面する生命倫理とは」


リー・M. シルヴァー (著), Lee M. Silver (原著), 楡井 浩一 (翻訳)
「人類最後のタブー―バイオテクノロジーが直面する生命倫理とは」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4140811862/>
単行本: 540ページ; 出版社: 日本放送出版協会 (2007/03); ISBN-10: 4140811862; ISBN-13: 978-4140811863; 発売日: 2007/03
[書評] ★★★★☆
 面白い! この1語に尽きると思う。
 遺伝子工学は人間の“種”としての発展にとっても、今後避けては通れないという話。 著者は遺伝子組み換え等について、積極派でも消極派でもなニュートラルな立場だと言うが、その意見は先鋭的だ。 今後数百年、数千年、数百万年にわたって人類が繁栄するには、バイオテクノロジー、 特に遺伝子工学を“賢明に”利用して、生物医学と生物圏を地球規模で管理していく必要があると説く。
 人類は有史上、農産物や家畜を作るために、種の掛け合わせをするなどして地球上の生物のうち有用なものを改良してきた。 遺伝子組み換えは、この延長線上にあるものであり、避けては通れないものだと言う。ヒト以外の種に対する遺伝子工学は、近いうちに実験レベルではなく、実用レベルで使われるようになるだろう。 現に遺伝子組み換えの作物(大豆、トウモロコシなど)は既に世の中に出回っている。 生態系への影響が十分確認されたか否かはよく分からないが、とにかく既に使われ始めてしまっている。
 問題になるのは、作物・家畜の枠を超えた部分への遺伝子工学の適用だ。 特に、ヒトの胚に対する遺伝子操作が挙げられる。 重篤な病気を避ける為であれば実施は納得できるが、たとえば頭のいい子を作りたいというような優生学的な願望にこの技術を広く応用するとなると、 歯止めがなくなり人間社会全体にどのような影響が出るかは予測できない。
 キリスト教、ユダヤ教、イスラム教といったアブラハム宗教が中心となる社会の中では、 人間の生命、生死の尊厳、霊性といったものに対する畏怖が根強く残っており、ヒトの胚に対する遺伝子治療、あるいは優生学的な遺伝子操作は強く進められることはないと考えているが、 東アジア・東南アジアの企業がそういうことを始めるのを止める力は無い。

 遺伝子組み換え、遺伝子操作に対する嫌悪感の本質は何だろうか。それは、「何が起こるかわからないし、影響が十分に確認出来ていない」ということに尽きると思う。 言うなれば、原子力エネルギーの活用と同じなのだ。 原子力エネルギーの場合は、放射性物質の管理などもあり、大規模な資本投下を行なわないと事業化は難しい。また、武器への転用なども考慮し、世界の監視の下、国家が管理しなければならない技術となっている。しかし、遺伝子操作については、技術革新に伴い、ソコソコの規模の資本で行なうことが出来るようになってきている。 本書には書かれていないが、家畜のクローン化やヒトの胚に対する遺伝子操作は既に行なわれているのかも知れない。おそらく、キリスト教的信条に縛られない、東南アジア辺りのバイオテクノロジー企業によるものになるだろう。

 読んでいて度々連想したのは、「風の谷のナウシカ」(映画じゃなくて原作の方)に出てくる「旧世界のテクノロジー」だ。 家畜を含め多くの動物を作り変えただけでなく、汚染されてしまった地球を浄化するために腐海を生み出した。そして、旧文明の人間たちは、人類を含めた全ての生物を汚染された大地にも適用できるよう、人工的に作り変えた。 作り変えられた生物は、大地の毒なしでは生きていけず、 土鬼(ドルク)の聖都シュワの墓所に隠された旧世界のテクノロジーは、 地球が浄化された後に清浄な大地に適応した人間を作り戻す計画だった。。。

 また、人間の臓器のスペアの製造にブタを使うという話。 「攻殻機動隊」では、ユーザの遺伝子情報から、臓器のスペアをブタの中に作る企業が出てくる。 攻殻機動隊は1995年発表の作品であり、本書の発行より遥かに前であるが、 「攻殻機動隊」が先端技術をリサーチして作られたことがよく分かる(あるいは、たまたま、かも知れないが)。

 いずれにせよ、非常に面白い本である。バイオテクノロジーとサイバーテクノロジーの行く先を占う本として、 興味のある人には最上級クラスでお薦めができる本だ。