2013年12月25日水曜日

守屋 洋 (著)「孫子の兵法」


守屋 洋 (著)「孫子の兵法」(知的生きかた文庫)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4837900186/>
文庫: 254ページ
出版社: 三笠書房 (1984/10)
ISBN-10: 4837900186
ISBN-13: 978-4837900184
発売日: 1984/10

[書評] ★★★★☆

「孫子」は言わずと知れた兵法書だ。単なる兵法書にとどまらず、人間組織に働く力学、経営戦略の書としても読める為、多くの政治家や企業トップにも愛読されているのは周知のことと思う。

本書は「孫子」13篇の全訳+解説となっている。現代風の解釈や、企業戦略に置き換えた場合の説明など、多少無理は見られるが、520円の文庫本で「『孫子』ってぶっちゃけ何?」かを知る目的、あるいは“取っ掛かり”としては良い本だと思う。

なお、経営戦略や組織の力学といった面で応用できる知識を得るためには、他にも何冊か読んだ方が良いだろうが、イントロダクションとして良いのではないだろうか。

2013年12月21日土曜日

宮崎 駿 (著)「続・風の帰る場所―映画監督・宮崎駿はいかに始まり、いかに幕を引いたのか」


宮崎 駿 (著)「続・風の帰る場所―映画監督・宮崎駿はいかに始まり、いかに幕を引いたのか」
<http://www.amazon.co.jp/dp/486052117X/>
単行本: 324ページ
出版社: ロッキングオン (2013/11)
ISBN-10: 486052117X
ISBN-13: 978-4860521172
発売日: 2013/11

[書評] ★★★★★

前作「風の帰る場所」(単行本(2002)・文庫版(2013)、拙書評)の続編とも言える本。渋谷陽一氏による、2008年~2013年に行なわれた4回のインタビューと(雑誌「CUT」掲載)、富沢洋子氏によるインタビュー(1983年)、『アニメージュ』編集部によるインタビュー(1984年)からなる。

宮崎駿氏が、映画の構想・企画を非常に早いうちから持っていることは、前作をはじめとする他の本にも書いてある。が、どのような作品を作るかという情報はなかなか出てこなかった。しかし、本書の元となったインタビュー記事では、氏が引退作とした『風立ちぬ』へのヒントが至る所に書かれている。『崖の上のポニョ』インタビュー(2008)で、「海の中の次は空、地面を離れたい」と言っていたり(既に『紅の豚』(1992)で空を舞台とした作品を作っていたのに、改めて言っている)、『借りぐらしのアリエッティ』インタビュー(2010)で、次の映画の主人公は男、悲劇的な結末と言っていたり。

本書は、『風立ちぬ』に至るまで、宮崎氏がどのように映画作りをしてきたかが読み取れる本としても非常に興味深い。年齢も含めた肉体的・精神的限界(かなりヤバい状態)まで自分を追い詰めないと、そういった作品を作ることが出来ないことも語っている。『アリエッティ』の時には引退作の構想が出来ており、並々ならぬ覚悟で『風立ちぬ』の製作に取り組んだことが読みとれる。

『風立ちぬ』のインタビューでは、いわゆる“零戦神話”を払拭して、本当の物語(に近い虚構なのだが)を作ろうとしたことや、そのための苦労などを伺い知ることが出来る。インタビューの時期は、映画完成後で、引退宣言の直前だと思われるが、宮崎氏の“何かをやり遂げた”感が詰まっている。

本書では、宮崎氏の世の中の捉え方、時代の読み方、「今、多くの人に受け容れて貰える映画」とはどんな物か。宮崎氏自身の言葉として、これらを知ることの出来る貴重な本だと言える。

・ ・ ・ ・ ・

本書はこれら2008~2013年のインタビューに続き、「『未来少年コナン』インタビュー」(“演出家・宮崎駿の誕生”、1983)、「長編監督デビュー以前総括インタビュー」(“宮崎駿はいかにしてできあがったのか”、1984)へと続く。『コナン』インタビューでは、どういった作品を作りたいかを語っており、多くの作品を経て『風立ちぬ』まで続く、氏の一貫した態度が分かり、興味深い。書籍「出発点」(Amazon拙書評)に書かれた内容の再掲だが、最近5年の宮崎駿氏に触れた後、氏の(文字通り)出発点となった話に遡って行く構成は、ちょっと巧いかも知れないと思った。

2013年12月18日水曜日

宮崎 駿 (著)「風の帰る場所 ナウシカから千尋までの軌跡」


宮崎 駿 (著)「風の帰る場所 ナウシカから千尋までの軌跡」(文春ジブリ文庫)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4168122026/>
文庫: 318ページ; 出版社: 文藝春秋 (2013/11/8); 言語: 日本語; ISBN-10: 4168122026; ISBN-13: 978-4168122026; 発売日: 2013/11/8

[書評] ★★★★★

雑誌「Cut」「SIGHT」に掲載された宮崎駿氏へのインタビューを書籍化した本。インタビューは、1990年11月~2001年11月の間に5回行われた。元は単行本として2002年7月に発行されたものであるが、今年11月に文庫化された。

宮崎駿氏のインタビュー記事をまとめた本はいくつかあるが(代表例は「出発点1979~1996」、スタジオジブリ・1996/08刊:Amazon拙書評)、本書もそういった本。本書記載のインタビューの間にコミック版「風の谷のナウシカ」が完結した(最終巻=7巻=は1995年1月発行)。そういった事情もあるのだろう、本書ではこのコミック版「ナウシカ」を中心として、宮崎駿氏の関わった作品群の互いの関連性が明らかにされている(これらの映画の製作期間の度にコミック版「ナウシカ」の連載が中断されたのは衆知の通り)。

「出発点」を始めとして、幾つかのインタビュー記事を読んだが、本書はその中でも、作品群の有機的なつながりを示しているのは興味深い。文庫版のオビに書かれた「決定的インタビュー集」は、決して大げさな誇張ではないと思う。

本書では、宮崎駿氏の思想や作品制作への心構えが解り易く示されている。世の中に終末観を抱きつつも、世界を肯定する作品を作りたいという、ある意味分裂した気持ちがハッキリと示されている。また、自身のセンチメンタリズムを肯定したいという気持ちも示されており、表現者としての氏の考え方に迫ることが出来る。

氏の引退宣言直後に文庫化する等、ジブリの商売上の戦略も見え隠れするが(笑)、それはともかく。クール・ジャパンと言われる日本のアニメ文化を語る上で絶対にはずせない人。無形文化財とも呼べる、宮崎駿氏がどうやってできたか。どのように世界をとらえてきたか。どのように作品に関わってきたか。そして、今後の方向性。日本の現代文化史を作りつつある1人のクリエイターを知ることの出来る、非常に貴重な本だと思う。


※単行本はコチラ:


宮崎 駿 (著)「風の帰る場所―ナウシカから千尋までの軌跡」[単行本]
<http://www.amazon.co.jp/dp/4860520076/>
単行本: 352ページ; 出版社: ロッキング・オン (2002/7/19); ISBN-10: 4860520076; ISBN-13: 978-4860520076; 発売日: 2002/7/19

2013年12月15日日曜日

大石 英司 (著)「尖閣喪失」


大石 英司 (著)「尖閣喪失」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4122058007/>
出版社: 中央公論新社 (2013/6/22)
ISBN-10: 4122058007
ISBN-13: 978-4122058002
発売日: 2013/6/22

[書評] ★★★☆☆

題名の通り、尖閣諸島を舞台とした日中の領土問題を題材とした小説。日本の政権交代のタイミングを狙って、中国が魚釣島に上陸する。日本側も当然、事前からその動きを知り、中国側の予想を上回る迅速さで対抗する。が、日本の自衛隊は、その武力だけで魚釣島の中国軍を撃退できるポテンシャルを持っているものの、さまざまな問題(障害)を抱えており、実力行使は難しい。たのみの米国に日米安保の発動を呼び掛けても、米国はその経済を中国に握られてしまっており、身動きがつかない。この状況は最早日中問題にとどまらず、日米問題・米中問題でもある。

いかにもありそうなストーリーに、いかにもありそうな登場人物(特に政治家)の発言。ディテールが詳しすぎる。もしかしたら本当に起こっていたかも知れない(!)話が、この本には書かれている。

世界における米国の地位が弱体化している今、国際社会の中で、米国に頼りっぱなしの日本という国のあり方を、再考させられる本。

2013年12月11日水曜日

近藤 史恵 (著)「キアズマ」


近藤 史恵 (著)「キアズマ」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4103052546/>
単行本: 301ページ; 出版社: 新潮社 (2013/4/22); 言語 日本語; ISBN-10: 4103052546; ISBN-13: 978-4103052548; 発売日: 2013/4/22

[書評] ★★★☆☆

「サクリファイス」から続くシリーズ4冊目の最新刊。前3作がプロの自転車ロードレース選手を中心とした話だったのに対し、本作は大学の自転車部が舞台となっている。これまでの作品が、主人公らが自ら死と向かいあっているのに対し、本作では、関係者(主人公ではない)が死と向かいあっている。心理描写の細やかさは従来通り。

同じ自転車スポーツを舞台とした川西蘭(著)「セカンドウィンド」シリーズより話は重いものの、これと似た爽やかな読後感がある。今回はシリーズでこれまで続いて来たサスペンス的要素が無いので、それのような展開を期待しながら読むと、肩透かしを食うかも知れない(ちょっと物足りなさも感じる)。

自転車競技の入門者が経験する様々なことが書かれていて、シリーズの過去3作がプロレーサーの話で、読者は「レースを見る人」に近い立場で読み進めるのに対し、本作では「自転車に乗る人」」としての感情移入をすることになる。

適度な展開スピードで読み易い。自転車スポーツに興味のある人ならば(という条件が付いてしまうので評点は満点には出来ない)、楽しく読めるだろう。

2013年12月8日日曜日

古川 琢也 (著)「ブラック企業完全対策マニュアル」


古川 琢也 (著)「ブラック企業完全対策マニュアル」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4863917945/>
新書: 208ページ; 出版社: 晋遊舎 (2013/5/27); 言語 日本語; ISBN-10: 4863917945; ISBN-13: 978-4863917941; 発売日: 2013/5/27

[書評] ★★☆☆☆

ブラック企業と呼ばれる会社組織の実態や、その被害に遭っている労働者がどうしたら良いかが書かれた本。本の紹介には「対策術を指南します」と書かれているが、労働者に対して「こうすれば良い」という答えは書かれていない。その代わり、ユニオン(社外の組合)、社労士、弁護士への相談を勧めている。個々人で状況など違うので、ある意味において正しい回答かも知れないが、じゃぁどうすれば良いのさ?と欠乏感は感じる。ユニオン、社労士、弁護士へのアクセス方法が書かれているので、「とっかかり」的には意味のある本だとは思うが。「完全対策マニュアル」はかなり大袈裟な題名だ。

さて。

本書は労働者側(労使の「労」側)に向けて書かれた本だが、「使」の立場、すなわち経営者や上司の側に立って考えてみると、実にやりにくい世界になったものだと思わざるを得ない。右肩上がりの時代には、残業も多かったが、残業手当も青天井。それがバブル崩壊以後は企業側にも余力がなくなり、仕方なく残業規制。人もずいぶん減らしたが、ノルマはあるし、1人あたりの業務量はむしろ増加している。サービス残業や名ばかり管理職の酷使は御法度。しかも、今会社のトップとなっている人たちが担当者~下級管理職をやっていた時代は、残業もバリバリできた時代。経費もバンバンつかえた時代。その頃の感覚を持ちあわせたまま、今の若手~中堅に当時と同じようなアウトプットを期待すること自体、無理があるのだろう。

この辺りの匙加減は非常に難しい。下手なことをすれば、すぐブラック企業として大手ネット掲示板に書き込まれてしまう。就職活動や転職活動をしている多くの人の目にとまれば、その企業は大きなダメージを受ける。実際には企業まるごとブラックという例は少なく、ブラックな職場とそうでない職場とが存在するのだろうが、2、3の悪い例を見てしまうと、会社全部がそうなのかと思ってしまう。労働者も生きにくい時代になったが、企業側もやりにくい時代だと思う。

キャッチーなタイトルに騙され、つい本書を手にしてしまったが、冷静に考えればわかることが多い(事例もニュースになった物ばかりだ)。そういう意味で、本書の評価はあまり高くすることが出来なかったが、コンビニで売られている新書だと考えると、まあこんな物なのかも知れない。

2013年12月4日水曜日

玉井 雪雄 (著)「じこまん~自己漫~ 1」 (コミック)


玉井 雪雄 (著)「じこまん~自己漫~ 1」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4537129557/>
コミック: 154ページ; 出版社: 日本文芸社 (2012/11/17); ISBN-10: 4537129557; ISBN-13: 978-4537129557; 発売日: 2012/11/17

[書評] ★★★☆☆

自転車漫画「かもめチャンス」の作者が、自身が自転車を始めたきっかけとハマり具合を面白おかしく描いた漫画。内容は濃い。読むのが疲れる位、濃い。限られたスペースに、絵がぎっちり。字数も多い。

自転車乗りが読むと「そうだよね~」と同感できる内容が多い。笑える所もあちこちにある。
他の自転車漫画・書籍に滅多に書かれない、事故や怪我の話がしっかり書かれている辺り、作者の良心?を感じる。しかし、内容は色々な意味でギリギリのものが多い。自転車乗りでない人が読んだら引いてしまう点は少なくないだろう。そういう意味で、自転車布教活動には「使えない」漫画。

内容は悪くなし、それなりに面白い。が、万人向けではない。まぁ、自転車乗りの人が、自分のサイクルライフと比較して読むの向けだろう。

2013年12月1日日曜日

鬼頭 莫宏 (著)「のりりん(8)」 (コミック)

 

鬼頭 莫宏 (著)「のりりん(8)」(講談社、2013/11/22)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4063524876/>
コミック: 200ページ; 出版社: 講談社 (2013/11/22); 言語 日本語, 日本語; ISBN-10: 4063524876; ISBN-13: 978-4063524871; 発売日: 2013/11/22

[書評] ★★★★☆

今日はコミックです。最近人気が出てきたらしい自転車漫画「のりりん」の最新巻です。

今回も楽しく読みました。前巻までに、ツーリング、ヒルクライム~ダウンヒルと、自転車乗りが経験する(ことが多いであろう)イベントがありました。本書では、集団走行の話が出てきます。やったことがある人にとっては「あるある」だし、経験が無い人が読むと「へぇ、そうなんだ」になると思います。

自転車ネタ以外のストーリー展開は、正直少し物足りないかもですが(ラブコメ的な展開はアッサリとスルーしてしまう/笑)、「サイクリングを楽しもう!」と思わせる所は満点を献上したいです。

サイクリスト(特に初心者)が守るべきコトや、知っておいた方が良いことなど、結構詳しく書かれています。それでいて、あまり説教臭くないのが良いです。そして、それらの内容は、巻を追うごとに段々レベルアップしてきています。昔は新人勧誘用の文献は「シャカリキ!」とかの体育会系の物でしたが、「のりりん」はユルめで、今の時代にマッチしているでしょう。

自転車にチョット興味あるんだけど、どうしよっかな?…な人にもおススメですよ♪