2014年5月11日日曜日

山口 栄一(著) 「イノベーション 破壊と共鳴」

今回もまた少し前の本ですが:


山口 栄一 (著)「イノベーション 破壊と共鳴」(NTT出版、2006/02)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4757121741/>

単行本: 312ページ
出版社: NTT出版 (2006/02)
ISBN-10: 4757121741
ISBN-13: 978-4757121744
発売日: 2006/02

[書評] ★★★★☆

イノベーションに関する議論と言えば、クレイトン・クリステンセン教授(ハーバード・ビジネス・スクール)による“持続的イノベーション”と“破壊的イノベーション”が有名だ。
  • 参考:クレイトン・クリステンセン『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』(翔泳社、2001) <http://www.amazon.co.jp/dp/4798100234/>
本書では、クリステンセン教授の言う、(1)持続的イノベーション・(2)破壊的イノベーションとの区別は正しくなく、
  • 性能持続型イノベーション vs. 性能破壊型イノベーション
  • パラダイム持続型イノベーション vs. パラダイム破壊型イノベーション
という2軸で考えなければならないという。これを説明するのに、
  • 真空管→マグネトロン(レーダーや電子レンジで使われる)、メーザー、レーザー
  • 三極真空管→トランジスタ(バイポーラ型)、IC、MOSFET、HEMT
  • 青色発光デバイス
といった、理系(の一部)の人間には非常に馴染みの深いものを例にとっている。そして、イノベーションの進み方を捉えるには、
  • 知の創造
  • 知の具現化
という2軸を用いると良いという。

たとえば、真空管とトランジスタは動作原理は全く異なるが、トランジスタは(量産化初期の性能はともかく潜在的には)真空管を凌駕する特性を持つものであった。これはクリステンセンが言うような「破壊的イノベーション」(「性能破壊型イノベーション」)ではなく、「パラダイム破壊型イノベーション」であるとする。

本書では、パラダイム破壊の具体的説明をする際、電磁気学や量子力学(分子量子力学・固体物理学)にまで立ち入った話題が容赦無く出て来るので、理系の素養のない人にはかなり苦痛な読み物かも知れない。が、私は幸いにして非常に面白く読めた。

非常に解り易い。ナルホド、と非常に納得。クリステンセン教授の話に多少疑問符を抱いていた自分にとっては、目から鱗が何枚も落ちた気がした。イノベーションや技術のライフサイクルについては色々な捉え方や評価方法があるが、技術を大局的に見る方法として、本書の考え方は非常に参考になる。

大学や国の研究機関などは勿論、メーカの研究開発業務に携わる人にとっても非常に参考になる話が多いと思う。技術のマネジメントに携わる立場でも、個々の研究・開発担当者という立場でも。

・  ・  ・  ・  ・

以下、余談というか雑談:

① 本書の『第1章「戦後日本」とは何だったか』は、ハッキリ言って蛇足だったのではないだろうか。
  • 「合計特殊出生率が低下している」のではなく、妊娠・出産に適した年齢の女性の既婚率が低下している(既婚女性に関する合計特殊出生率はむしろ増加している)
  • 中央と地方の差異を少なくする戦後の国策が、地方を萎えさせた
これらは、データとしては非常に興味深い。

しかしながら、
  • 戦後の日本が他の先進諸国にキャッチアップするための仕組みであり、人口増加と経済発展を前提として各制度が出来ていて、時流に合わなくなってきている→イノベーションの起きにくい社会になっているので改革が必要
だという。戦後の混乱期~高度成長期にこそ合ってきた制度だが、そろそろ見直しが必要ではないか?という点については大いに同意できるが、これとイノベーションが起きやすいか否かの話は直結しないと考える。かなり強引な話だ。筆者自身がこれらの制度の所為で泣きを見たのか?と思えてしまうような、恨み節のオンパレードである(読んでいて楽しくない)。

② 青色発光デバイスの研究開発について、
  • 中村修二 米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授
  • 日亜化学工業
の間で大規模な特許訴訟が行われたことは周知の通りだが(詳しくはWikipedia「404特許」等を参照)、この辺りについて、本書では比較的中立な書き方がされていたのは好印象。中立・やや中村氏寄りとも言えるが、技術者の立場を理解しようとすると、どうしてもこうなってしまうだろう。

③ 5章で、また2000年~2001年、2004~2005年の総選挙/参院選の得票率の大きな変動(いわゆる「小泉劇場」での選挙戦の結果)を引っぱってきている。これも本論には不要、蛇足だろう。

小泉劇場での得票率の推移は、多くの票が民主党→自民党へと流れたことを表している。この現象をもって、“国民の集合意識とは、政治における「パラダイム破壊型イノベーション」の希求だった”と主張しているが、この現象がイノベーションの希求だったというデータは何処にも無い。①もそうだが、データから情報を“読み取り過ぎる”(恣意的解釈をする)人は政治を語ってはいけないのではないだろうか。

1章を削除、5章から政治の話を削除して多少手を加えれば、技術イノベーションの新しい捉え方を世に問う、もっと優れた本になると思う。(1章・5章も含めて)データ収集やインタヴューなど、非常に丁寧な仕事をしているので、ポイントを絞って主張して貰えれば、もっと良い本になるのになぁ、と少し勿体ない気がする。

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