2015年2月28日土曜日

祝田 秀全 「2時間でおさらいできる世界史〈近・現代史篇〉」

祝田 秀全 「2時間でおさらいできる世界史〈近・現代史篇〉」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4479304223/>
文庫: 296ページ
出版社: 大和書房 (2013/2/9)
言語: 日本語
ISBN-10: 4479304223
ISBN-13: 978-4479304227
発売日: 2013/2/9

[書評] ★★★★★

前著『2時間でおさらいできる世界史』(2012) (Amazon拙書評)が古代文明から現代まで広く浅く書かれたのに対し、近世以降について深く書かれた本。石黒拡親(著)『2時間でおさらいできる日本史』(2010) (Amazon拙書評)に対する『〈近・現代史篇〉』(2013) (Amazon拙書評)と同じような位置関係。

非常に読み易い。

本書は「世界史」を謳っているが、日本での出来事と世界の出来事の関連性に重点が置かれている。そういう意味で、世界史を「よそで起きた話」ではなく、「我が国との関係」を視点によく解るように書かれている本。諸外国と日本の関係については、米国・西欧・東アジア・東南アジアについては良く知られていることだと思う。だが、本書では、西アジアや東欧など「日本から遠い国」というイメージの地域で起きた事件と日本の関係もよくわかる。少なくとも私が学んだ歴史の教科書と比べて、世界のダイナミズムについて、非常に解り易い本。

教科書にナカナカ書かれていない事項、たとえば以下について(日本との関係を重点に)詳しく書かれているのが良かった。
  • 何故WASP (White, Angro-Saxon, Protestant;白人アングロサクソン系のプロテスタント)やユダヤ系が世界の覇権を握っているのか
  • キリスト教圏・イスラーム教圏の微妙な関係
また、以下について好感が持てた。
  • これまで長い間、戦前の日本の行いは全て悪いこととされていたのに対し(「一億総懺悔」など)、歴史家の恣意的な誘導があったことをキチンと示している点
  • とは言え、日本の行いで「絶対にやるべきではなかった」ことについてはその旨キチンと書いている点
この辺り、本書は比較的中立な視点から書かれていると思う。

日本の現代と今後どうあるべきかについて考える上で、『2時間でおさらいできる世界史』以上にオススメできる本。

2015年2月26日木曜日

祝田 秀全 「2時間でおさらいできる世界史」

祝田 秀全(著)「2時間でおさらいできる世界史」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4479303731/>
文庫: 288ページ
出版社: 大和書房 (2012/2/11)
ISBN-10: 4479303731
ISBN-13: 978-4479303732
発売日: 2012/2/11

[書評] ★★★☆☆

石黒拡親(著)「2時間でおさらいできる日本史」(Amazon拙書評)と同じ出版社から出された、似たコンセプトの本の「世界史」バージョン。

石黒本と同様、著者は予備校講師。世界史を概観する。

本書の狙いは、たとえば「まえがき」に書かれている通り。
  • かんちがいしないで、世界史は暗記じゃない!(p.004「まえがき」より)
  • 古代メソポタミア、エジプト、インダス、黄河の四大文明を習いました。文明は、みな大河流域にできあがった、と。しかし、ボクはそうではなく、〈なぜ文明を築いたほどの地域が、19世紀に植民地、あるいは植民地同然の状態になってしまったんだろうか〉と思ったのです。(p.004「まえがき」より)
ギャグや駄洒落が少し多いのが気になった(しかも対象年齢40代以上のネタ多し)。でもソコソコ読み易い。

2015年2月21日土曜日

石黒 拡親「2時間でおさらいできる日本史〈近・現代史篇〉」

石黒 拡親(著)「2時間でおさらいできる日本史〈近・現代史篇〉」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4479304185/>
文庫: 296ページ
出版社: 大和書房 (2013/1/12)
ISBN-10: 4479304185
ISBN-13: 978-4479304180
発売日: 2013/1/12

[書評] ★★☆☆☆

「2時間でおさらいできる日本史」(Amazon拙書評)と同じ著者による本で、開国・明治維新後の日本史にフォーカスしたもの。

開国以降の日本の歴史を“ざっくりと”掴むためだけなら、前著だけで充分かも知れない。という意味で、本書はターゲットがボヤケた中途半端な本になってしまっているかも知れない。ただ、本書で面白いのは、随所に出てくる「ところで…」となっている箇所。歴史上の人物の「建前と本音」、「○○はただの方便」等の雑学&薀蓄(うんちく)が詰っている。

なお、前著「2時間でおさらいできる日本史」で各時代区分の最初に「1分で納得!」として2ページ見開きまとめられていた箇所は(ここれは結構良かった)、本書では「キーパーソンかく語りき」という、歴史上の有名な台詞を書き並べたものになった。これはこれで面白いが、前著のような纏め方の方がスマートかも知れない。また、(前著の書評にも書いたが)近年の検証により、反日勢力によるデッチアゲであったことがわかってきた幾つかの事件について、前著より歯切れが悪くなってはいるものの、相変らず歴史的事実のような書き方がされていたのは少々残念。本書は2013年発行なのだから、歴史検証の結果は反映させられても良かったのではないだろうか。

2015年2月18日水曜日

石黒 拡親「2時間でおさらいできる日本史」

石黒 拡親「2時間でおさらいできる日本史」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4479303162/>
文庫: 272ページ
出版社: 大和書房 (2010/12/10)
言語: 日本語
ISBN-10: 4479303162
ISBN-13: 978-4479303169
発売日: 2010/12/10

[書評] ★★★★☆

予備校講師が書いた、日本史を概観する本。人名や年号は二の次で、歴史のダイナミズムが書かれていて読み易い。
  • 各時代区分(大和・飛鳥時代とか江戸時代とかの区分)毎に、その時代のキモを「1分で納得!」と題した見開き2頁にまとめ、それに続いて少し詳しく書かれた項目が続くというビジネス書に多いスタイルに好感が持てた。
  • 受験対策用の詳細な情報はばっさりカット。これ以上無いのではと思えるほどシンプルに書かれている。
  • 誰と誰がライバルだったのか、どういう流れで事件が起きたのか等わかりやすい。たとえば以下のくだりなど、教科書にはなかなか書かれていないストーリーだと思う。
    • 伊豆に幽閉されていた源頼朝は、北条時政に監視されていた。北条市は平氏の血を引く武士だったが、どういうわけかその娘の政子と頼朝がデキてしまい、頼朝はこの北条氏を味方につけて挙兵したのである。頼朝がどう口説いたのかも気になるが、こんな結婚を認めた北条時政も、人を見る目があるものだと感服させられる。(p. 072)
    • さて、関ケ原の戦いに勝利した家康は、石田三成らを処刑し、西軍の多くの大名の領地を没収(改易)した。西軍に属したものの関ケ原にはいなかった上杉景勝と毛利輝元については、領地を減らすだけにとどめた。また同じく西軍として関ケ原に参陣した島津氏は、ねばり強い交渉をおこなった結果、領地を減らされずにそんだ。ちなみに、この毛利氏と長州藩と島津氏の薩摩藩が、幕末に同盟を結んで江戸幕府を滅ぼすことになるのだ。なんという因縁だろうか。(pp. 130-131)
    • 本百姓が負担する税にはさまざまなものがあるが、メインの年貢は本途物成(本年貢)で、税率はだいたい四公六民だった。生産物の40%も取られるのはどんな気分なんだろうと思うが、現在の法人税もそれくらいの税率だから、国家とはそんなものなのかもしれない。(p. 137)
  • 国内政治と外圧(世界の情勢)との関係が有機的に示されている。
  • 政治改革等、誰が始めて誰が引き継ぎ、どう完了したか(あるいは頓挫したか)等がわかりやすい。
それなりに歳をとった人が日本史をざっくりと把握するのに非常に良いと思う。歴史の人間ドラマがちりばめられていて、結構楽しく読めるので、中学生・高校生位で歴史に興味を持たせるキッカケとしては良いかも(当然、読書ができるという素養は必要だが)。

ただし、
  • 近年の検証により、反日勢力によるデッチアゲであったことがわかってきた幾つかの事件が、さも事実であるかのように書かれているのは残念。本書の発行が2010年なので、既に情報が古いのかも知れないが…。
・  ・  ・  ・  ・

同じジャンルの本として、先日、菅野祐孝「菅野祐孝の日本一おもしろい日本史」(Amazon:拙書評)も読んだ。こちらが歴史的事項をほぼ時系列でツラツラと書いていてあまり面白くなかったのに対し、石黒本(本書)には読者を引き付ける力があった。勿論、菅野本を読み、Wikipediaで色々調べたという経験があるがゆえに、石黒本が面白いと思えた部分はあるだろう。なので、私は菅野本と石黒本を公平に比較する資質に欠けるかも知れない。だが、それを割り引いても石黒本(本書)の方が何倍も面白いと思う。

2015年2月14日土曜日

E・シュミットほか「How Google Works―私たちの働き方とマネジメント」

E・シュミット、J・ローゼンバーグ、A・イーグル、L・ペイジ(序文)
「How Google Works―私たちの働き方とマネジメント」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4532319552/>
単行本: 376ページ
出版社: 日本経済新聞出版社 (2014/10/9)
言語: 日本語
ISBN-10: 4532319552
ISBN-13: 978-4532319557
発売日: 2014/10/9

[書評] ★★★★☆

Googleの経営者による、Googleがどのように成功したかという本。

本書の結論を乱暴にまとめると、成功する企業になるには、①最高の人材を惹きつけること、②従業員が充分に力を発揮して大きな成果を出せる環境を準備すること、そして③単に表層的なものに留まらない本当の企業文化を作る、これに尽きる。従来型の企業組織や情報伝達プロセスは100年前の物であり、従業員が社内の情報やリソースにアクセスできる現代型企業には合わないモデルだという。テクノロジー(特にIT・ICT)の業界では、従来型の経営手法は通用しないと考えた方が良さそうだ。
  • 上記の3つの条件の中で最も重要なのは企業文化だ。例えば、ビジョンやミッションステートメントは、従業員が心から信じられるものでなければならない。単に紙に書かれた文字の羅列ではなく、繰り返し伝え、報奨によって強化されたものでなければならない。企業経営者が率先垂範して、時間をかけて定着させたものでなければならない。自分たちが教祖・宣教師となることなく、都合の良い従業員に囲まれたいだなんて、ムシの良すぎる話というものだ。たとえば、部下に質素を要求しておきながら贅沢をしている社長などは尊敬されないだろう。
  • 悪い情報がバイアス無しに素早く経営陣に届く組織になっているか(マネジャーが保身の為に「良い情報は大袈裟に」「悪い情報は控え目に」報告されるバイアスがかかることが多い;マネジャーが悪い情報を積極的に報告したことをキチンと評価する組織であれば、状況は多少は改善されるだろう)。経営者は、社内外からの「嫌な質問」に対して真摯に答えているか。「オープンドア・ポリシー」を掲げている会社は多いが、実際にそのドアをくぐろうとする社員はいるか。…等々。
  • この辺り、耳の痛い経営者も多いのではないだろうか。私にもこの辺りについて思うところがあり、語りだすと止まらなくなる。…が、そろそろ止めておきます(苦笑)。
Google経営者による自画自賛(自社自賛)の感は否めないし(本書では“グーグル・ウェーブ”を「良い失敗だった」と言い切っているがカナリ無理がある)、情報開示に意図的なフィルタリングが掛かっているのを感じる。だが、従来型組織に属している人間にとって、ナカナカ刺激的な本だし、大いに参考になる話題も多い。中堅以上の会社員は、Googleとは全く違う自分の組織を呪いたくなるかも知れない(笑)。

◆懸念事項

面白い本だが、ここに書かれたGoogleの経営方法、経営者に都合の良い部分だけをツマミ食い的に導入すると、あっという間にブラック企業が出来上がる。社員に有能でヤル気にあふれることを要求する。狭い仕事場で、猛烈な量の仕事を要求する。失敗することへの寛容さ(トライしたことと頑張りに充分報いる)・充分な給与・充分な福利厚生、…どれか1つが欠けただけで、地獄の職場ではないか。

世の経営者の方々には、是非とも悪用(中途半端なツマミ食い)をしないで頂きたい

◆サラリーマンとして役立つ点

35~37頁の「スマート・クリエイティブ」の定義は、自分が「出来るヤツ」であるかどうか、足りない点は何かを考える上で非常に参考になる。だが、ここに書かれた通りを実行しようとすると、あっという間に処理すべきモノに押し潰されてしまうだろう。

その1が、業務量だ。Googleのやり方を実行出来る人間というのは決して多くない(むしろ少数派だろう)。猛烈なハードワーカーであり、同時に幾つものプロジェクトに関わり、全てで成果を出し続ける。100メートル走のスピードでマラソンを走り続けるような働き方だ。家庭や趣味に充分な時間を割きたい人には受け入れ難い働き方だろう。

その2が、情報量だ。Googleでは可能な限りあらゆる情報を共有化するとのことだが、これは従業員にあらゆる文書(メールやファイルサーバ上の文書、他)に目を通していることを要求する。この量が閾値を超えると、当然1人の人間には処理出来なくなる。対処方法として、情報の取捨選択・読んだ「ことにする」・自分が知らない情報への対処方法…こういった「手抜き」の技術、そして「綻びへの対処」の技術が重要にになってくる。会社員にしても公務員にしても誰もが行っていることではあるが、Google型組織に所属している場合、この能力がズバ抜けて高い必要があるだろう。

Googleのやり方が何処でも通用するとは思いこまない方が良いだろうが、参考になる話題も多い。

◆翻訳の質について

本書は、内容もさることながら、翻訳が非常に良い! これは強調しておいて良いと思う。例文として、裏表紙に書かれている箇所を引用させて貰おう。
  • As Larry spoke, it dawned on Jonathan that the engineers he was talking about weren't engineers in the traditional definition of the role.
    ⇒ ラリーの話を聞きながら、ジョナサンはようやく気づいた。ラリーの言う「エンジニア」は、従来型の定義に当てはまるような存在ではないのだ。
  • Yes, they were brilliant coders and system designers, but along with their deep technical expertise many of them were also quite business-savvy and possessed a healthy streak of creativity.
    ⇒ たしかにグーグルのエンジニアはとびきり優秀なプログラマやシステムデザイナーだが、卓越した技術知識に加えて経営にも詳しく、発想力も豊かだ。
  • Coming from an academic background, Larry and Sergey had given these employees unusual freedom and power.
    ⇒ 大学院の雰囲気をそのまま経営に持ち込んだラリーとセルゲイは、そんなエンジニアたちに常識を超える自由と権限を与えた。
  • Managing them by traditional planning structures wouldn't work; it might guide them but it would also hem them in.
    ⇒ 彼らを従来型の経営計画の枠組みで管理しようとしても、うまくいくはずがない。参考にはなるかもしれないが、手足をしばるリスクもある。
  • "Why would you want to do that?" Larry asked Jonathan. "That would be stupid."
    ⇒ 「なんでそんなことをしなきゃならないんだ? バカげてるよ」とラリーは言った。
原文は英語の論理構造で書かれていて、日本語アタマな人には少々読み難い。でも、これを見事に日本語の論理構造に組み直している。それでいて、元の文章で伝えたいことを正しく伝えることが出来ている。こういうのを名訳と言うのだろう。こういう翻訳家がもっと増えると日本の政治や経済に貢献できるのではないだろうか。

2015年2月12日木曜日

篠原 匡 「腹八分の資本主義 日本の未来はここにある!」

篠原 匡 (著)「腹八分の資本主義 日本の未来はここにある!」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4106103273/>
新書: 191ページ
出版社: 新潮社 (2009/8/12)
ISBN-10: 4106103273
ISBN-13: 978-4106103278
発売日: 2009/8/12

[書評] ★★★☆☆

本書の内容は、目次を見てもらうのが良いだろう。
  1. 出生率2.04はどうして実現したのか――長野県下條村
  2. 「あるもの探し」で地域は活性化する――宮崎県児湯郡
  3. 林業が栄えれば水源も守れる――長野県根羽村
  4. 超高収益を実現した障害者企業、サムハル――スウェーデン・ストックホルム市
  5. 企業と農村の幸せな結婚――岩手県住田町、北海道赤平市、千葉県富里市
  6. 腹八分の資本主義――長野県伊那市
暴走する資本主義に対して正しい道を説く本ではなく(そういう意味ではタイトルはあまり正しくない)日本再生へのヒントを与える本

企業に勤務している人間としては、第6章に書かれた「会社は社員を幸せにするために存在する」(株主だけのために存在しているのではなく、社員・取引先・社会のために存在している)「会社は急成長ではなく、持続できる低成長をするべきだ」という内容には色々と考えさせられた。コリンズ&ハンセン『ビジョナリー・カンパニー④ 自分の意志で偉大になる』(Amazon拙書評)記載の「20マイル行進」(下記参照)と共通した考え方だ。持続可能な組織に必要な経営スタイルとして、今後ますます重要になる考え方となるだろう。

  • 「20マイル行進」…景気などに左右されず、確実に仕事を進める。状況が悪い時も結果を出し続けなければいけないが、好況の時に「やりすぎない」ことも非常に重要、という考え方。

2015年2月7日土曜日

水野 和夫「資本主義の終焉と歴史の危機」

水野 和夫「資本主義の終焉と歴史の危機」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4087207323/>
新書: 224ページ
出版社: 集英社 (2014/3/14)
言語: 日本語
ISBN-10: 4087207323
ISBN-13: 978-4087207323
発売日: 2014/3/14

[書評] ★★★☆☆

資本の自己増殖は利子率となって現れる。近年、この利子率が低下している。世界各国が金融緩和を行っているが(米国は最近軽く引き締めに入ったが日欧はまだジャブジャブだ)、市場にマネーが出回っても大規模なインフレは発生していない。どころか、デフレが続いている。過去の経済モデルには当てはまらない状態が続いている。これはどういうことか。

本書では、この状況は、従来型の資本主義経済が終焉を迎えつつあり次の経済モデルに移行する段階に入って来ているからであると述べる。

我々は、消費者としては安価にモノを求められる供給業者を求め、投資家としては成長する企業(基本的に安価に製品を供給する業者)に投資している。市民としては低所得者層の増加に心を痛めながら、経済活動としては低所得者層をむしろ増やす行動を取っている。だから物価は下がるし、経済全体として成長は望むべくもない。グローバル経済の発展がこの状況に拍車をかけている。第1次世界大戦後の米国や太平洋戦争後日本の「1億総中流化」みたいな状況は終わり、現在は中産階級の没落の段階にあるという。

本書の以下のような資本主義の歴史分析は解り易い
  • 12~13世紀:「1回限りの資本主義」…事業(主に海運事業)の度に出資者を募り、事業が終了すると、そこで利益を出資者に配分して、会社を解散するスタイル
  • 16世紀~:空間革命(資本が集中する「中央」に対して、生産地/消費地としての「周辺」を広げる重商主義~植民地主義~帝国主義)
  • 戦後:情報革命とさらなるグローバル化→世界の均質化→新たな「周辺」を作り出す必要性→情報・金融空間の発明→バブルの発生~崩壊→公的資金の投入(国民負担の増加);「富者と銀行には国家社会主義で臨むが、中間層と貧者には新自由主義で臨む」
また、以下のような資本主義の現状分析も鋭い
  • 利子率の低下は「資本主義の卒業証書」であり、資本を回転して利潤を生み出すのが難しい世界になった。
  • 利潤を生み出せなくなった資本主義は、資本家のみを潤し、中産階級を没落させる。
    →これこそが市民にとっての「下流社会」(三浦展著、Amazon拙書評)の到来と言えそうだ。
  • アベノミクスの成長戦略は資本主義の崩壊を速めるだけで良いことはあまりない。
しかし、本書は「歴史と現状の分析」にとどまっており、処方箋が書かれていない。これが一番問題だ。今後政治家や経済人が取るべき方針としては、ロバート・ライシュ著「暴走する資本主義」(Amazon拙書評)にはヒントが数多く書かれており、書籍としての完成度はライシュの本の方が優れているのは否めないだろう。

資本主義の今昔の解説書としては良いかも知れないが、それだけの本…のような気がする。ライシュの本を丁寧に読めば、本書は読書不要かも知れない。

2015年2月4日水曜日

ロバート・ライシュ 「暴走する資本主義」


ロバート・ライシュ(著), 雨宮 寛/今井 章子(翻訳)「暴走する資本主義」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4492443517/>
単行本: 379ページ
出版社: 東洋経済新報社 (2008/6/13)
言語: 日本語
ISBN-10: 4492443517
ISBN-13: 978-4492443514
発売日: 2008/6/13

[書評] ★★★★☆

著者はクリントン政権で労働長官、バラク・オバマが民主党大統領候補だった時代に政策アドバイザーを務めた人。経歴はこれだけでないのだが、長くなるので詳しくはWikipedia等を見て欲しい。

・  ・  ・  ・  ・

本書を乱暴にまとめると、資本主義が民主主義を食い潰しているという現実とそうなった理由、そして民主主義に手綱を戻す処方箋を示した本。

資本主義が民主主義を食い潰している理由は、主に以下の2点だと思う。
  1. 経済的主体としての個人の在り方が変わってしまったこと。すなわち、仕事をして給与を貰う「市民としての私」よりも、より安い商品を買い求める「消費者としての私」、そして投資をして大きなリターンを得たいと考える「投資家としての私」が勝ってしまっているのが原因だと言う。物を買う時は、従業員がまっとうな生活を送れるような消費行動をする必要があると述べる(実際問題として難しいだろうが)。本件については、篠原 匡 (著)「腹八分の資本主義 日本の未来はここにある!」(新潮社、2009/8/12)からの引用が良いだろう(ここに書かれている小売とは明らかにウォルマートのことだ)
    • どんなに儲けている会社があったって、従業員が貧しくて、社会に失業者が溢れていれば、それには何の意味もない。世界一売る小売が米国にあるけど、従業員の10%近くが生活保護を受けているという。それで『エブリデーロープライス』。いったい何なのって思うだろう (篠原著、p. 168より)
  2. 政治に大企業のカネが流れ込んだことが原因と述べる。近年顕著なロビー活動に代表される一連の活動だ。これに対する処方箋は、ロビイストの活動を制限する・ロビイストの金銭の出入りを明確にする、等を示す。既得権益層(大企業・ロビイスト・政治家)の多くは嫌がるだろうが、もしこれが実現できたら薮の中にある大企業と政治のカネの流れが明るみに出て、政府と大企業の癒着が多少クリーンとなり、資本主義の暴走を減速させることはできるだろう。
処方箋については、既得権益層の抵抗等を考えると今すぐ導入するのは難しそうだ。だが、社会と経済を持続可能とするために、指導者層だけでなく、一般層も社会を変えて行く意識を持たなければならないと考える。

資本主義の行き詰まりを感じている今日この頃、非常に刺激的な本だと思う。