2015年2月7日土曜日

水野 和夫「資本主義の終焉と歴史の危機」

水野 和夫「資本主義の終焉と歴史の危機」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4087207323/>
新書: 224ページ
出版社: 集英社 (2014/3/14)
言語: 日本語
ISBN-10: 4087207323
ISBN-13: 978-4087207323
発売日: 2014/3/14

[書評] ★★★☆☆

資本の自己増殖は利子率となって現れる。近年、この利子率が低下している。世界各国が金融緩和を行っているが(米国は最近軽く引き締めに入ったが日欧はまだジャブジャブだ)、市場にマネーが出回っても大規模なインフレは発生していない。どころか、デフレが続いている。過去の経済モデルには当てはまらない状態が続いている。これはどういうことか。

本書では、この状況は、従来型の資本主義経済が終焉を迎えつつあり次の経済モデルに移行する段階に入って来ているからであると述べる。

我々は、消費者としては安価にモノを求められる供給業者を求め、投資家としては成長する企業(基本的に安価に製品を供給する業者)に投資している。市民としては低所得者層の増加に心を痛めながら、経済活動としては低所得者層をむしろ増やす行動を取っている。だから物価は下がるし、経済全体として成長は望むべくもない。グローバル経済の発展がこの状況に拍車をかけている。第1次世界大戦後の米国や太平洋戦争後日本の「1億総中流化」みたいな状況は終わり、現在は中産階級の没落の段階にあるという。

本書の以下のような資本主義の歴史分析は解り易い
  • 12~13世紀:「1回限りの資本主義」…事業(主に海運事業)の度に出資者を募り、事業が終了すると、そこで利益を出資者に配分して、会社を解散するスタイル
  • 16世紀~:空間革命(資本が集中する「中央」に対して、生産地/消費地としての「周辺」を広げる重商主義~植民地主義~帝国主義)
  • 戦後:情報革命とさらなるグローバル化→世界の均質化→新たな「周辺」を作り出す必要性→情報・金融空間の発明→バブルの発生~崩壊→公的資金の投入(国民負担の増加);「富者と銀行には国家社会主義で臨むが、中間層と貧者には新自由主義で臨む」
また、以下のような資本主義の現状分析も鋭い
  • 利子率の低下は「資本主義の卒業証書」であり、資本を回転して利潤を生み出すのが難しい世界になった。
  • 利潤を生み出せなくなった資本主義は、資本家のみを潤し、中産階級を没落させる。
    →これこそが市民にとっての「下流社会」(三浦展著、Amazon拙書評)の到来と言えそうだ。
  • アベノミクスの成長戦略は資本主義の崩壊を速めるだけで良いことはあまりない。
しかし、本書は「歴史と現状の分析」にとどまっており、処方箋が書かれていない。これが一番問題だ。今後政治家や経済人が取るべき方針としては、ロバート・ライシュ著「暴走する資本主義」(Amazon拙書評)にはヒントが数多く書かれており、書籍としての完成度はライシュの本の方が優れているのは否めないだろう。

資本主義の今昔の解説書としては良いかも知れないが、それだけの本…のような気がする。ライシュの本を丁寧に読めば、本書は読書不要かも知れない。

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