2015年9月26日土曜日

塩野 七生 「コンスタンティノープルの陥落」


塩野 七生 「コンスタンティノープルの陥落」(新潮文庫、1991/4/29)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4101181039/>
文庫: 291ページ
出版社: 新潮社; 改版 (1991/4/29)
言語: 日本語
ISBN-10: 4101181039
ISBN-13: 978-4101181035
発売日: 1991/4/29

[書評] ★★★★☆

歴史小説『東ローマ帝国の最期』。

ローマ帝国(B.C.27-)から分割統治されて成立した東ローマ帝国(ビザンチン帝国、A.D.395-1453)だが、15世紀には首都コンスタンチノープル(現在のイスタンブールの旧市街エリア)のみを残す弱小都市国家になってしまっていた。周囲をオスマン帝国の勢力圏に囲まれ、キリスト教(ギリシア正教)の国家としては離れ小島のような状態。オスマン帝国のスルタン(皇帝)がモハメッド二世に代替わりして間もなく、攻め落とされてしまう。

洋の東西の出会う場所で、地理的にも要衝であるイスタンブールの歴史と国家の変遷の中でも一大ドラマである。長らくキリスト教国家だったエリアがイスラーム世界に呑み込まれた激動の歴史。オスマン・トルコはその後勢力を伸ばすが、第一次世界大戦で敗戦して西欧列強によって占領・解体され、その後、トルコ独立戦争(1919)~トルコ共和国成立(1923)という歴史を考えると、遠いようで実は近い歴史だ

最近、高橋由佳利さんの漫画「トルコで私も考えた」を読んだこともあり(Amazon拙書評)、非常に興味深く読めた。それに、本書の塩野節(?)も味わい深く、ナカナカ良かった。塩野氏の著作は本書の他にも古代~中世ヨーロッパに関する作品が多いようだが、機会があったら他の作品も読んでみようと思う。

2015年9月23日水曜日

高橋 由佳利 「トルコで私も考えた」(文庫版コミック既刊×5冊)

高橋 由佳利 「トルコで私も考えた」(文庫版コミック×5冊)

[書評] ★★★★★

アジアとヨーロッパの境目。イスラム教と他の宗教の境目(でも民族も言語もアラブやペルシャとは違う)。親日国。…そんなトルコに旅行して、人々と文化に惹かれ、現地の男性と結婚し、今は日本は神戸でトルコ料理店の女将をやっているという著者によるトルコ紀行記・エッセイ漫画。

有名な作品なので紹介するまでもないかも知れないが、とにかく、メチャクチャ面白い!

トルコの人が日本・日本人に抱くイメージや、トルコと日本との文化のギャップをユーモアたっぷりに描き出す。何にでもオチをつけたがる著者のサービスっぷりもたまらないが、たぶん日常の行動もサービス精神旺盛な人なのだろう。その著者の性格がトルコの人々にも好かれ、現地の人たちと“相思相愛”になれたのだと思う。

難点は、コミックサイズでも小さかったであろう文字がさらに小さくなってしまっていること。それと、トルコ料理を(特に家庭料理について)多くのページが割かれているので、読んでいるだけで腹が減る。ダイエッターの敵だ!?(謎)

某ビジネス誌(お堅い物)で高く評価されていたので、つい手に取った本だったが、予想以上に面白かった。たぶん、この漫画をキッカケにトルコに行ってみたり、トルコ語を学び始めたりした人が多いことだろう。
  • トルコ語は、日本語は文法が似ているらしい。日常会話に必要な単語(昔からある表現)は気合で覚えるしかなさそうだが、近代以降に現れた物を表す単語の多くはドイツ語かラテン系言語が語源のようなので憶えやそうだ(←綴りを見ると外来語だとわかる)。20~30年前は「中国語だ!」「いや、スペイン語だ!」と云われたものだが、今学んで実用的な言語は「トルコ語!」と「アラビア語!」あたりかも知れない(もう遅いってか?/笑)。
それにしても麻薬的な面白さ。寝不足に要注意だ!(笑) ちなみに、コミック版6冊目「トルコ料理屋編」は既刊だが、著者の旦那様の経営するお店のブログによると
  • 先日、「トルコで私も考えた・トルコ料理屋編」の文庫版の打ち合わせ…
とのこと(2015/08/28付)。遠からず文庫版も出るはず。楽しみだ。

・  ・  ・  ・  ・

以下書籍情報:


高橋 由佳利(著)「トルコで私も考えた―トルコ入門編」(集英社文庫、2012/8/17)
<http://www.amazon.co.jp/dp/408619340X/>
文庫: 209ページ
出版社: 集英社 (2012/8/17)
言語: 日本語
ISBN-10: 408619340X
ISBN-13: 978-4086193405
発売日: 2012/8/17


高橋 由佳利(著)「トルコで私も考えた―トルコ嫁入り編」(集英社文庫、2012/9/14)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4086193418/>
文庫: 227ページ
出版社: 集英社 (2012/9/14)
言語: 日本語
ISBN-10: 4086193418
ISBN-13: 978-4086193412
発売日: 2012/9/14


高橋 由佳利(著)「トルコで私も考えた―トルコ日常編」(集英社文庫、2012/12/18)
<http://www.amazon.co.jp/dp/408619404X/>
文庫: 204ページ
出版社: 集英社 (2012/12/18)
言語: 日本語
ISBN-10: 408619404X
ISBN-13: 978-4086194044
発売日: 2012/12/18


高橋 由佳利(著)「トルコで私も考えた―トルコもっと日常編」(集英社文庫、2013/1/18)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4086194058/>
文庫: 214ページ
出版社: 集英社 (2013/1/18)
言語: 日本語
ISBN-10: 4086194058
ISBN-13: 978-4086194051
発売日: 2013/1/18


高橋 由佳利(著)「トルコで私も考えた―トルコ21世紀編」(集英社文庫、2013/4/18)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4086194236/>
文庫: 208ページ
出版社: 集英社 (2013/4/18)
言語: 日本語
ISBN-10: 4086194236
ISBN-13: 978-4086194235
発売日: 2013/4/18

2015年9月19日土曜日

安生 正「ゼロの迎撃」


安生 正「ゼロの迎撃」(宝島社文庫、2015/3/5)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4800238226/>
文庫: 498ページ
出版社: 宝島社 (2015/3/5)
言語: 日本語
ISBN-10: 4800238226
ISBN-13: 978-4800238221
発売日: 2015/3/5

[書評] ★★★★★

前著(『生存者ゼロ』、Amazon拙書評)と一緒に、某書店(実店舗)の「人気」コーナーに平積みされていのをつい手に取った作品。

日本の首都・東京で起こるテロを題材にした軍事ミステリー。「雨爆弾」による人工降雨と治水施設へのテロによる人工水害がテーマ。最近日本でも(これは天災ではあるが)河川の決壊により甚大な被害が出ており、そういう意味でも(悪い意味で)タイムリーな作品。

文句無しに面白い。自衛隊がその存在自体に抱える矛盾、仕事では優秀な人にも色々抱えた問題があること、等がリアリティを増している。さらに、任務遂行の上でジレンマを突きつけられ苦悩する姿など、生身の人間として共感できる点も多い。実戦経験が無い自衛官が悲惨な被害を見て命令拒否をし始めたのに対し、首相が行うスピーチは胸を打つ(日本の政治家にこれだけの行動・発言をとれる人がどれ位いるだろうか?)。安全保障がホットな話題の今、多くの人に考えて欲しいテーマであったりもする。

本書で、気懸かりなのが、一般向け作品に日本の首都圏の弱点を曝け出してしまっている点だ(これがリアリティをアップさせているのは確かなのだが)。大陸の某国は本書に書かれたような弱点は既に研究し尽くしていると思われるし、この弱点については日本側でも十分対策は打っていると考えるが、規模やエリアの違うテロの可能性が否定できない。

かつてトム・クランシー著『日米開戦』(1995/11、原著“Debt of Honour”1995/8)の記述が、その後に起きた2001年9月11日同時多発テロを遂行する上で大いに参考にされたに違いないことを考えると、本書もまた悪い意味で世界の歴史を動かした小説とはならないよう願うほかない。

・  ・  ・  ・  ・

以下、『日米開戦』関連リンク:

2015年9月16日水曜日

安生 正「生存者ゼロ」


安生 正「生存者ゼロ」(宝島社文庫、2014/2/6)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4800222915/>
文庫: 491ページ
出版社: 宝島社 (2014/2/6)
言語: 日本語
ISBN-10: 4800222915
ISBN-13: 978-4800222916
発売日: 2014/2/6

[書評] ★★★☆☆

某書店(実店舗)の「人気」コーナーに平積みされていのをつい手に取った本。

根室沖海上の石油掘削ステーションで発生した“事故”をキッカケとしたバイオ(かつミリタリーな)・サスペンス。

自衛隊の組織に関するリアリティは半端ではなく、それだけでも読ませる(最近のミリタリー物でこの手のリアリティは珍しくなくなりつつあるが)。ただ、“バイオ”の方は作り物っぽさがどうしても否定できない。

移動中(電車・飛行機等)の時間つぶし用、気分転換用エンタメ本としては面白いが、何度も読む本でなさそう…。

2015年9月13日日曜日

村上 春樹「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド (上・下)」

 

村上 春樹(著)「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻」
<http://www.amazon.co.jp/dp/410100157X/>
ペーパーバック: 471ページ
出版社: 新潮社; 新装版 (2010/4/8)
言語: 日本語
ISBN-10: 410100157X
ISBN-13: 978-4101001579
発売日: 2010/4/8

村上 春樹(著)「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4101001588/>
ペーパーバック: 410ページ
出版社: 新潮社; 新装版 (2010/4/8)
言語: 日本語
ISBN-10: 4101001588
ISBN-13: 978-4101001586
発売日: 2010/4/8

[書評] ★★★★★

先日『職業としての小説家』<http://www.amazon.co.jp/dp/4884184432/>を出したばかりの村上氏だが、今日は村上氏のちょい昔の本を。

さて、本書。「ハードボイルド・ワンダーランド」と「世界の終り」との二つのSFストーリーが交互に描かれた、ちょっと不思議な小説。1985(昭和60)年初出の本だが、30年を経た今読んでも色褪せない面白さがある。「ハードボイルド・ワンダーランド」と「世界の終り」の二つの世界の関係につては、これを示唆するキーワードは早いうちから出てくるものの、最後まで読まないと決定的な繋がりがわからないという仕掛けがあり、つい二度読みしたくなる。

若い人よりも、ある程度社会経験を積んでから読んだ方が面白いだろう。生きることの意味、心とは何か、世界の不完全さ、…等々、色々なことを再考させられる。

良作。

2015年9月10日木曜日

佐々木 毅「民主主義という不思議な仕組み」


佐々木 毅(著)「民主主義という不思議な仕組み」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4480687653/>
新書: 174ページ
出版社: 筑摩書房 (2007/08)
ISBN-10: 4480687653
ISBN-13: 978-4480687654
発売日: 2007/08

[書評] ★★★☆☆

「民主主義」とは何か? その歴史と、長所・短所について平易に書かれた本(ルビの振り方等から、対象読者層は高校生位か?)。

20世紀に起こった全体主義・共産主義の実験社会を経て民主主義に至った歴史と、現在の民主主義の限界についての解説はよく解る。が、問題提起をする一方で、国民がどのようにマスメディアに接するべきか、政治指導者によって作られた(かも知れない)世論をどう捉えるべきか、といった視点に欠けている辺りが片手落ちだ(*)。…とケチを付けてしまったが:選挙時の投票以外にも、我々にできる市民行動の例が示されている点は評価できる。

そもそも民主主義って…?な人や、民主主義の限界を知りたい人にお薦めできる。

(*) こういう視点を求めるならば、例えば以下の本はお薦め。
  • 池上 彰・佐藤 優「新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方」(Amazon拙書評)

2015年9月6日日曜日

小山 宙哉 「宇宙兄弟(26)」 (コミック)


小山 宙哉(著)「宇宙兄弟(26)」(講談社・モーニングKC、2015/7/23)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4063884759/>
コミック: 208ページ
出版社: 講談社 (2015/7/23)
言語: 日本語
ISBN-10: 4063884759
ISBN-13: 978-4063884753
発売日: 2015/7/23

[書評] ★★★★☆

主人公・南波六太、前巻で月面ミッションでロケット発射!まででした。本巻ではとうとう月面着陸です。着陸はスムーズに…行かないのですが(まぁお約束ですね)、それをクリアした頃に、地球に残してきた恩人の身に重大時が!

読ませる1冊です。

ところで、この「宇宙兄弟」。人生訓のような名言が多いんですよね。気に入ったものを幾つか挙げておきます。
  • “真実”は見つけ出そうとするな 作り出せ」(21 巻、p. 25)
  • お前の役に立つ脳みそは1 個だけじゃねぇだろ 使える脳みそは――全部つかっとけ」(21 巻、p. 26)
  • ねえシャロン……この先また怖くなったりして“生きる意味”とかに迷っちゃってもさ 最後には必ず“生きる”ことを選んでよ 生きててほしいんだよ」(24 巻・p. 194)
  • 昔さ「人は何のために生きてるの?」――って シャロンにきいたの覚えてる? そん時シャロン こう答えてたよ 私が思うに――そんなつもりはなくても人はね――誰かに“生きる勇気”を与えるために生きてるのよ 誰かに――勇気をもらいながら」(24 巻・pp. 195-196)
  • さっきのはまあヒヤッとしたが…前を向いて行こう 大なり小なり宇宙でのトラブルは日常茶飯事だ」(26 巻・p. 152)

2015年9月5日土曜日

石塚 真一 「BLUE GIANT 6」 (コミック)


石塚 真一(著)「BLUE GIANT 6」(小学館・ビッグコミックススペシャル、2015/7/30)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4091872573/>
コミック: 208ページ
出版社: 小学館 (2015/7/30)
言語: 日本語
ISBN-10: 4091872573
ISBN-13: 978-4091872579
発売日: 2015/7/30

[書評] ★★★☆☆

主人公・宮本 大(ミヤモト ダイ)はサックスプレーヤー。プロのジャズミュージシャンになることを目指して、高校卒業後、単身東京に出てきた。ジャズバーや小屋に出入りして、腕に磨きをかける。前巻(Amazon拙書評)で衝撃の出会いをした、ピアニスト・雪祈(ユキノリ)。本巻では、大のルームメイト(正確には大が居候させて貰っている部屋の主)・玉田をドラマー(初心者)として加え、バンド活動を開始し、初ライブを行う。

今回の展開はちょっとビミョーかもです(超初心者の玉田君は本当にジャズドラムを叩けるのか?等、リアリティに乏しいというか…あ、でもこれは1巻から同じかも/笑)。でも、絵と文字だけで描かれた「コミック」という媒体なのに、読んでいると音が聴こえてくるような作風は相変わらず(これはスゲェ!と思う)。

最初の頃に比べるとちょっと作品の勢いが落ちているような気がするが、頑張って描き続けて欲しいですね。

アニタ・T・サリヴァン「ピアノと平均律の謎 -調律師が見た音の世界-」


アニタ・T・サリヴァン(著) 岡田作彦(訳)「ピアノと平均律の謎 -調律師が見た音の世界-」(白揚社2005/6/30)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4826901232/>
単行本: 143ページ
出版社: 白揚社; 新装版 (2005/07)
ISBN-10: 4826901232
ISBN-13: 978-4826901239
発売日: 2005/07

[書評] ★★★☆☆

音楽演奏(器楽演奏、歌唱)につきまとう純正律と平均律の話。ピアノは通常平均律で調律されるが、これは妥協の産物だという話。それと、調律師がどのように(純正律からずらして)平均律にピアノを調律しているかという話。フレットのある弦楽器(ギター、マンドリン等)も平均律だが、音叉とハーモニクスで調律する場合(音の間隔が純正律で決まる)にはハーモニクス音を少しずらす必要がある。この辺りは同じなんだな~とか、ちょっと興味深く読めた。

何故平均律が使われるようになったかという件については、16~19世紀の音楽に多様性が表れ始め、さまざまな調(キー)や曲中での転調に対応する為の妥協策だとのこと。ナルホド。

楽典とか、音楽と数の関係について興味ある人向け(私はこういう本は好きだ)。そうでない人には苦痛な本かも知れない。…という意味で5点満点中3点。