2016年10月9日日曜日

小山 宙哉「宇宙兄弟(29)」


小山 宙哉「宇宙兄弟(29)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4063886387/>
コミック: 200ページ
出版社: 講談社 (2016/9/23)
言語: 日本語
ISBN-10: 4063886387
ISBN-13: 978-4063886382
発売日: 2016/9/23

[書評] ★★☆☆☆

ご存知『宇宙兄弟』の最新巻。

前巻(28巻)で始まった、月面電波望遠鏡の設置ミッションでは、技術的に予定通りに行かないトラブルが出たが、今回はその解決編…と思いきや、船外活動(宇宙服を着て月面で行う作業)中にまたまた事故発生。一番大変なのは…ネタバレになるが、表紙の人。

弟(南波日々人/なんば ひびと)の2026年の月ミッションに続き、兄(南波六太/なんば むった)も月ミッション(2029~30年頃?)でもまた遭難かよ!? こういう展開はちょっと食傷気味。人類初の活動をしているので物事が予定通りに進むことなどまず無く、色々トラブルが起こるのはむしろ当たり前なのだが(初めてのプロジェクトにトラブルがつきものなのは国でも企業でも同じ)、フィクションとは言え、大事故寸前を連発するのは国際的事業としてどうなのよと思う。日本よりも責任の所在がハッキリしているアメリカの組織でも似たようなポカをやらかすものだろうか? と思ってしまった(後述)。まあ度重なる事故・トラブルへの対処こそがドラマになるのだが(でも「プロジェクトⅩ」的なプロジェクトマネジメントは本来あってはならないものだと思う)。

問題点を挙げるとキリが無いが、
  • 日々人の遭難事故の教訓が活かされていない(宇宙服の強度など)
  • 予定外・予想外の事態に対するコンティンジェンシープランの欠如
    • コンティンジェンシープラン…非常事態への緊急対応・初動計画。(IT用語辞典 e-Words)
などなど、NASAのマネジメントがもうボロボロ。

本書で月ミッションと国際宇宙ステーション・ミッションを統括しているNASA (アメリカ航空宇宙局、1958~)は、周知の通り実在する組織だ。NASAは組織が若かった頃は、歴史上初めて人類を月面に到達させたり(これは東西冷戦という背景もあり人・金・物が莫大に注ぎ込まれたこともあるだろう)、映画『アポロ13』等で有名なアポロ13号(1970)の事故への対応で見られたように、大組織のマネジメントと緊急事態への即応体制について、教科書に載るような優れた組織だった。が、その後、スペースシャトルで2度の大事故(爆発事故・空中分解事故)を起こすなど、開発の遅れ・予算の削減・組織の官僚化/硬直化の悪影響がモロに出ている。本書でもNASAを腐りかけた組織として描いており(JAXAに対しては比較的好意的)、その悪影響としての事故続発を描いているものとして理解したい。

本書がモデルとしているNASAのコンステレーション計画は、実世界では2010年に中止が発表されてしまった。作者の小山さんはストーリー作りに苦労するだろうが、ワクワクする展開は次巻以降に期待!

2016年10月2日日曜日

小松公夫(著)「論理思考の鍛え方」


小松公夫(著)「論理思考の鍛え方」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4061497294/>
新書: 260ページ
出版社: 講談社 (2004/7/21)
言語: 日本語
ISBN-10: 4061497294
ISBN-13: 978-4061497290
発売日: 2004/7/21

[書評] ★★★★☆

今回はちょっと古い本。

最初に書いておくが、本書は自己啓発本ではない。

自己啓発本の一種だと思って中身も確かめずに買った本(Amazon.co.jpさんのおすすめによる/笑)。先日読んだ田坂広志(著)「知性を磨く」と「人間を磨く」に書かれた「知性」とは対極の内容を予想していたのだが、少し違った。いわゆる「詰め込み教育」につながるものとして批判されることの多い難関学校入学試験・採用試験等から見た、学校や職業が求める人材像(能力)に関する本である。
  • 田坂著(後述)では、知性とは本から読める知識知ではなく、経験を積むことによってしか得られない知恵だとする。
  • 田坂著では「ドラゴン桜」的な知識詰め込みを批判しているが、その「ドラゴン桜」の絵が本書のオビについていて、ちょっと笑えた。
本書の章立ては以下の通り:
  1. 有名小学校問題から幼児期に芽生える能力因子を考える
  2. 難関中学・東大入試問題から論理的思考能力の発達を考える
  3. 企業採用テストと国家公務員I種試験問題から社会人に求められる職業能力を考える
  4. ロースクール適性試験問題から法曹人に求められる能力因子を考える
  5. 医学部入試問題から医師に求められる能力因子を考える
本書から読みとれる内容は、それぞれの試験が問うている能力は何なのか。共通点は何か。子供の発達過程で身につけるべき能力は何か。職業上求められるのはどのような能力か。

本書を読んでも読者の論理思考の能力が磨かれる訳ではない。が、本書は子を持つ親や教師にとっては必読書かも知れない(子供に生きる力をつけさせる立場にある人)。本書の内容は、学校の入試担当教諭(担当スタッフ)・企業や官庁の採用担当者は既に充分理解しているのだろうが、「世の中に求められる能力とその評価の仕方、人の育て方」が分かる点が面白い。特に、
  • 入試や入社の試験(ペーパー試験・口頭面接)が見ている主な能力は何か
  • 学校や業務で必要とされる能力を、試験問題という形でどのように見ているか
  • 学校や企業が求める人材はどういう人か
が垣間見えるのは興味深い。

余談になるが、本書に載っている各例題は解いてみても結構面白い。読書中、突然レポート用紙を持ち出して問題を解くという奇行(?)に走ってしまった(笑)。興味深かったのは、大人向けの試験よりも(割と理詰めで考えられる)、小中学校の入試問題の方が難しかったこと(より柔軟な思考が必要)。年を取っても、柔らか頭を保ち続けたいものである。

本書は、タイトルから忌避する人も多いかも知れない。が、世の中に求められる人材であり続けたい人にとっては示唆の多い本だと思う。

・  ・  ・  ・  ・

参考図書

2016年9月25日日曜日

神田 昌典「2022―これから10年、活躍できる人の条件」


神田 昌典「2022―これから10年、活躍できる人の条件」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4569797601/>
新書: 224ページ
出版社: PHP研究所 (2012/1/19)
言語: 日本語
ISBN-10: 4569797601
ISBN-13: 978-4569797601
発売日: 2012/1/19

[書評] ★★★☆☆

今後10年間、2022年まで(本書は2012年発行)の間、日本はどうなる? 中国や北朝鮮・韓国はどうなる? 発行から年数(4年半)経っており内容が一部古いが、中国・韓国に媚びるでもなく嫌うでもなく、比較的政治的にバランスの取れた、かつ面白い視点を与えてくれる本だと思う。

進化生物学者・UCLAのジャレド・ダイアモンド教授の本を引いてきて(pp. 44-45、下記参考)、文明が崩壊する原因は(戦争でも病気でも食糧危機でもなく)歴史のターニングポイントで民族が「引き継ぐべき価値観」と「捨て去るべき価値観」の見極めの失敗だというものだ。日本もそろそろ変な主義主張を捨て、国家も国民も生き延びる方法を模索しないといけないのかもしれない。
本書に書かれた我々の近未来像は、日本・中国・台湾・韓国をはじめとする東・東南アジアと国境のなくなった状態で、共存共栄&競争とのこと(公用語は英語と中国語、時々日本語とハングル語)。製品やサービスのライフサイクルは短い。生き残るべき製品・サービスは、古い価値観のうち「引き継ぐべき価値観」を残しつつ、「新しい価値観を盛り込んだもの」になる。人材も同様で、グローバル市場(の一部、特に東アジア)の中で新たな価値創造を出来るフットワークの軽い人にならないと勝ち残って行けないという。毎日が新鮮な日とも言えるが、日々同じことを繰り返すだけの人は食べて行くのも厳しい時代になりそうだ。

◆面白い視点
  1. 本書は東アジアという舞台で日本と企業はどうなる?を論じており、米欧露(と最近ではトルコ・中近東)中心の地政学の本とは一線を画していると思う。
  2. 明治維新以後(西南戦争終結:1877年、立憲体制の確立:1889年)から、日本の歴史は70年周期で巡り、その都度、大変革に見舞われきた。太平洋戦争終結(1945年)から今年で71年。再び大変革の波がやってきているという主張は一読の価値あり。人の一生の長さに相当する期間でもあり、世代で言えば2~3世代位。「戦争」や「変事」の記憶・語り部が減ってしまった時代に次の動乱が起きやすいというのは人の世の常なのかも知れない。
  3. iPhoneを例にとってスマホの機能と市場規模を予想しているのだが、2012年1月発行の本なのに(当時はiPhone 4発売中)、今年2016年9月に発表・発売となったiPhone 7の発売時期・搭載機能の予想まで概ね当たっている。2016年現在、スマホは既に成熟市場、過剰機能搭載・カラーバリエーションが増える等の予想が見事(iPhone 7は現行型スマホの1つの完成形と言えるだろう)。2016~2017年辺りは、次のコンセプトの商品が出てくる時期なのかもしれない(先日発表されたiPhone 7・Apple Watch (完全防水)・AirPods (完全ワイヤレスのイヤフォン・マイク)は、その「次のコンセプトの商品」を占う製品なのかも知れない)。
  4. 大きな組織(企業)は、ライフサイクルが短い(つまり当初は市場が小さい)製品には参入を躊躇いがちだが、ライフサイクルが短い事業にも積極的に参入をし、それらの中から大きな事業を育てていくようにしないと滅びる(今や参入可能なタイミングはシビアなので、まずは参入してみてから継続可否を判断するべき…FS (Feasibility Study)、採算性見積もり、等の甘さを突き「企画はまず潰す」方針でやっていたら時代に取り残されるということ)、という重大なヒントが書かれている。
  5. 個人についても、会社等の1組織に囚われない生き方と、そのための能力を身に付けることを強く勧めている(転職によるキャリアアップ等よりも、フリーランスの働き方も提案している…がコレはハードル高いなぁ)。
◆ツッコミ所
  1. 地政学的リスクの読みが甘い傾向あり(21世紀に入り弱体化したとは言え米国はまだまだ健在であり、それ以上に近年ロシアやトルコの動きも気になるが、その辺りの強大国の影響が薄い分析になっている)。
  2. 中国・台湾・日本・韓国を中心とする『儒教国経済圏』が出現すると言っている。いわば「共栄共存」構想だが、経済の繋がりは政治的緊張の緩和にはあまり役に立たず、2度の世界大戦を防ぐことが出来なかったことは歴史から学んでも良いだろう。
  3. なお、日本の「70年周期」は明治の変革以来3度目(2周期目の終わり)にすぎないので、この数字は慎重に扱いたい。そもそも日本が戦後主権を取り戻したのはサンフランシスコ講和条約(1951年)であり、ここから数えると2016年は65年目、本書の言う「70年」まではあと5年残っている。また、海外で言われる「周期性」の話については、地政学の大家:ジョージ・フリードマンが著書「100年予測」(ハヤカワNF文庫、2014/6/6)<http://www.amazon.co.jp/dp/4150504091/>で「米国は建国以降(独立戦争は~1783年)、概ね50年周期で、決定的な経済的、社会的危機に見舞われてきた」と書いており、こちらのほうが200年以上(現在5度目の周期の中期)と歴史も長く、蓋然性は強いのではないか。
なにはともあれ、2~3世代毎(50~70年毎)に周期的にカタストロフがやって来るというのは、ある程度納得できる議論ではある。筆者・神田氏の論によると、2015年頃にはそのカタストロフがやって来るとのこと。私の読みは、終戦ではなくサンフランシスコ講和条約後70年、つまり2021年。この激動の時代をどう生き抜くか。銀座や秋葉原に行くと、中国・台湾・韓国人がワンサと来ている。現在、iPhone等の世界的なハードウェア/ソフトウェアにおいて既に、市場の重点は欧米の次は中国になって来ている(日本の重要度は下がっている)。今後、日本国内で売られる商品も、インバウンド需要を狙い、ますます中国・台湾・韓国人向けに作られるようになるだろう。日本の公用語は、日本語の他、実質的に英語・中国語・韓国語も使われるようになるだろう。そんな客層に向けて「ジャパニーズ・サプライズ」を与え続けることの出来る人か、(自己主張の強い)大陸人と伍して行くことの出来る人しか生き残れないのかもしれない。

◆もうひとつ、ツッコミ所

本文末尾にFacebookページ等へのリンクが沢山書かれているが、2012/4/16以降更新無し。リンク切れ多し。

本書の内容、賞味期限はカナリ短いようだが(本書の内容、1/4~1/3位は既に賞味期限切れ…なので評価は★×3とさせて頂く)、ナカナカ刺激的なコトが書かれており、興味深く読めた。

2016年9月18日日曜日

田坂広志「人間を磨く 人間関係が好転する「こころの技法」」


田坂広志(著)「人間を磨く 人間関係が好転する「こころの技法」」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4334039227/>
新書: 243ページ
出版社: 光文社 (2016/5/19)
言語: 日本語
ISBN-10: 4334039227
ISBN-13: 978-4334039226
発売日: 2016/5/19

[書評] ★★★★★

本書の副題は「人間関係が好転する『こころの技法』」。私なりに言い換えると、人間関係を良好にするための「心の持ち方、姿勢」を示した本。自身が煩悩を持つ存在であることを認めた上で(自身が悪い感情等を持つことは否定しない)、人間関係を良くするために、様々な出来事(特に人との出会いや経験)とどう向かい合うかを述べる。

内容は以下の通り(目次から)。
  1. 心の中で自分の非を認める
  2. 自分から声をかけ、目を合わせる
  3. 心の中の「小さなエゴ」を見つめる
  4. その相手を好きになろうと思う
  5. 言葉の怖さを知り、言葉の力を活かす
  6. 別れても心の関係を絶やさない
  7. その出会いの意味を深く考える
本書の内容の多くは、部下を持つ者向けに書かれた、コミュニケーション力やコーチングのテキストと共通する。が、本書に特徴的なのは、
  • 人間関係における、不和や不信、反目や反発、対立や衝突、嫌悪や憎悪などの痛苦な経験への処し方
  • 不幸な出会い・苦痛な体験を、自身の人生において意味の無いものとせず、その出会いや体験から、自身の課題を認識して学習すること
を、上記のスキルと合わせて身に付ける方法と、その際の「心の置き所」を明確にしている点。先日TwitterやFacebookで話題になった「小児科に掲示してあった『声かけ変換表』」(子どもだけでなく大人にも通用する内容だった)とも一部共通する「心の置き方」。
  • この貼り紙自体は、リツイートされた画像を、作者が権利侵害を申し立てて削除させているようですが…。
怒りを燃料に、劣等感や屈辱の記憶をバネにしている社会人は(学生も)多いと思うが、本書に書かれた「こころの技法」は、ある意味その対極にある。私自身の経験と照らし合わせてみても、「反省点」多し。また、尊敬できる上司・先輩の多くが本書に書かれている通りの行動様式を取っていたことも興味深い。

本書も前著同様、暫く寝かせてから再読してみようと思う本の1冊だ。

2016年9月11日日曜日

田坂広志「知性を磨く― 「スーパージェネラリスト」の時代」


田坂広志(著)「知性を磨く― 「スーパージェネラリスト」の時代」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4334038018/>
新書: 229ページ
出版社: 光文社 (2014/5/15)
言語: 日本語
ISBN-10: 4334038018
ISBN-13: 978-4334038014
発売日: 2014/5/15

[書評] ★★★★☆

本書は、多くの専門家(スペシャリスト)を統合して動かすジェネラリストになるには、どのような“修行”(人生経験)を積めば良いかを示す本。経営者・管理職は勿論、2~3人の小編成のチームリーダや関係部署・協力会社の人に動いて貰わないと仕事が進められない全ての人(つまり大部分の組織人)にとって、考えさせられるところ大だと思う。

そもそも「知性」とは何か。筆者はこう書く。
  • 「知能」とは、「答えの有る問い」に対して、早く正しい答えを見出す能力。
  • 「知性」とは、「答えの無い問い」に対して、その問いを、問い続ける能力。(p. 15)
深い表現である。「知能」(正解のある問いに正しく答える能力)は、読書や机上の勉強により比較的簡単に身につけられる。が、「知性」はそんな簡単には身につけられない。この「知性」は、実社会生活を送りながら、たえず自己反省を繰り返し、答えを求め続けることによってしか得られないという。

同様に、「智恵」は「知識」とはどう異なるかについても書いている。
  • 「知識」とは、「言葉で表せるもの」であり、「書物」から学べるものである。
  • 「智恵」とは、「言葉で表せないもの」であり、「経験」からしか学べないものである。(p. 54)
経験を積んだ社会人は、若い世代と同じ「知識」のレベルで競争するのではなく、過去の経験から掴んだ「智恵」を活かすべきだという。

今後「知識社会」になっていくと言われて久しいが(言い出したのはP・ドラッカー氏だったか)、この「知識社会」では、その名とは裏腹に、(検索すればすぐ出てくるような)知識は役に立たなくなる。形式知・知識知ではなく、暗黙知・経験知が重要になって行く。今後さらに重要になる能力は、この暗黙知・経験知を自ら育み、さらに他人に伝える or 形式知化・知識知化する能力だろう。

本書でちょっと残念なのが、
  • 同じ文言を何度も書いている箇所が多く、少々くどい点。
  • 太字で強調している箇所が多すぎて、何を強調したいのかがよく解らなくなっている点。
  • 後半になるに従い、「紙数に限りがあるので」と、自身の別の著作を参照するように薦めている点。紙数に限りが…と言う割に、空行や同じ文言の繰り返しが多く、限りある紙面を無駄遣いしているようにも見える(笑)。
が、この辺りは一種の語り口調、一気読み(読み返し無し)でも読者に内容をきちんと理解させようという筆者の真摯な姿勢なのかも知れない。

何はともあれ、暫く経ってから(“寝かせて”から)再読してみようと思える本ではある。

2016年9月4日日曜日

田濤・呉春波(著),内村和雄(訳)「最強の未公開企業ファーウェイ――冬は必ずやってくる」

朝晩が少し涼しくなって来ましたね(1~2週間前まで夜もセミが鳴いていましたが、今ではすっかり秋の虫の声です)。読書意欲復活です。久し振りにビジネス書行きます。


田濤・呉春波(原著),内村和雄(翻訳)「最強の未公開企業ファーウェイ――冬は必ずやってくる」
<https://www.amazon.co.jp/dp/4492502661/>
単行本: 242ページ
出版社: 東洋経済新報社 (2015/2/13)
言語: 日本語
ISBN-10: 4492502661
ISBN-13: 978-4492502662
発売日: 2015/2/13

[書評] ★★★☆☆

「世界で最も革新的な企業ランキング」(Most Innovative Company Ranking by FAST COMPANY, 2010.02)で、①Facebook、②Amazon、③Apple、④Google、に次いで⑤中国企業・華為技術(Huawei Technogolies Co. Ltd.、ファーウェイ)がランクインした。

正式名称、華為技術有限公司(英:Huawei Technologies Co. Ltd.)。中国広東省深圳に本社を置く通信機器メーカー。日本では通信端末で馴染みがあるが(ハイエンドのスマホも有名だが、ポケットWi-Fiルータのシェアが結構大きいようだ)、世界的には、基地局・中継局供給とネットワーク構築が主業。世界最大規模の製造業で売り上げは40兆円に迫る。(一部Wikipediaより)

世界有数のグローバル企業でありながら、非上場。単なるセットメーカ(機器製造)でなく、通信システムの構築・敷設を行システムメーカでもある。15万人以上の従業員を抱え(2015年データでは17万人:百度百科より)、うち3万人以上が外国籍(非中国籍)。日本にも錦糸町・大手町・横浜にR&D等の拠点を持つ。ビジネス形態はB to B (対法人ビジネス)なので、一般人には解りにくい「謎」の中国系グローバル企業。そんなファーウェイの創業者・社長の任正非氏の経営哲学と、ファーウェイの過去・現在の説明、そして未来に向いている方向を示す本。

中国企業でありながら、成長の早い段階から欧米のビジネスシステムを取り入れ、グローバル化に対応。それでいて、白黒はっきりさせすぎない東洋的な経営思想も併せ持つ(「灰度哲学」)。日米欧のどの企業ともチョット違うファーウェイの実像に迫ることの出来る、面白い本だ(自社の経営状況と比較して、良い点・悪い点をチェックしながら読んでみても面白い)。

・  ・  ・  ・  ・

以下、雑感。

本書を読むと、以下を通じて高い業績を挙げ続けていることが分かる。
  • 非上場(1.4%が任会長保有、残り98.6%は社員持株制度)…資本市場からの四半期毎の業績圧力や株価変動に惑わされず、10年単位で戦略策定・実行が可能…他の企業よりも長期戦略に基づいた行動が取れる。また、世間に企業の経営情報を公開する義務が無く、顧客へのサービスのみで勝負が出来る。
  • 他の多くの企業(特に米国企業)のような利益至上主義、株価至上主義とは一線を画している…利益の少ない製品も地道に作り、着実にシェアを伸ばして行っている。
  • 政治と極力無関係な立場を維持…政治的な順風に乗ることもないが、逆風も最小限で済む。社員も政治活動は御法度(デモ参加、政治意見の表明等を含む)。
  • 「奮闘者を根幹とする」経営方針を緩めない一方で、市場・拠点のグローバル化に当たり、各国の法律(そして世界的には米国の法律)を遵守し、商取引上の問題・労働問題等が起きないようにしている。
  • 中国流のシブトい経営体質に、欧米の先進的ビジネスシステムを取り込み、世界的な商慣習・労働条件に適合した企業として上手くグローバル展開している。
  • 物事の白黒をはっきりさせず、灰色のものを受け入れる経営体質(「灰度哲学」)。幹部・管理職にも大きな度量が求められる。
  • 独り勝ちを目指さず、バランスの取れた競争環境を維持する。「すべての敵を滅ぼし、一人で天下を取りたいと願ったチンギス・ハーンやアドルフ・ヒトラーは、どちらも自滅してしまった。(中略)ライバルとは競争も必要だが、協力もまた必要だ。要は自分にとってプラスになればよいのだ」(p. 68)
  • 経営者と管理職は常に危機感を抱いており、常に危機に備えている。任社長の考えでは「有線や無線の情報伝送能力が一定のレベルに達した時、情報通信技術のイノベーションはスローダウンすると考えている。その時に生き残れるのは、グローバル市場を網羅し、マネジメントに優れ、良質のサービスを低コストで提供できる企業だけだろう。ファーウェイは自分が消滅する前にそのような水準に到達しなければならない」(p. 132)。また、ファーウェイでは太平の時期が長すぎ、平時に昇進した幹部ばかりというのが頭痛の種とのこと(平時任官した軍人は「官僚」としては有能だが、有事の際に全然役に立たないと言っているのと同じか)。
反面、従業員に優しくない会社という印象は拭えない。たとえば:
  • 「社内事情に詳しいある人物によれば、ファーウェイの経営幹部のうち少なからぬ人数が精神的プレッシャーに起因する何らかの疾病――不安神経症、鬱病、高血圧、糖尿病など――を抱えているという」(p. 124)
  • 会社が小さかった頃の「マットレス文化」(新入社員に仮眠用のマットレスとタオルケットを支給していた)の体質が色濃く残っている。(pp. 124-125)
  • 長期雇用が約束されていない。「ファーウェイでは終身雇用制を約束したことは一度もない」「会社と社会の間の人材交流も必要だ」「社内のポストや人材の流動性が重要である」(pp. 185-186, 233-234)
  • これまでに数度、1000人単位のレイオフを行っている(再雇用した場合も勤続年数等はリセットされる)。
  • 意地の悪い観方をすると、社員持株会制度を悪用?しているようにも見える。①中国の会社法から見て、ファーウェイの持株会制度はグレーである…持株会制度は法律施行前に開始していたとはいえ、非上場企業でもあり自分の持株を自由に売り買いすることは出来ない。②企業業績を反映した配当を餌に、従業員の通常収入(月収)を削っているように読めるフシもある。
また、日米欧の企業(メーカ系)と比較しての話だが、気になる点:
  • 非上場ゆえに企業情報が表に出てこない。(一般的な上場企業と比較して)会社情報・経営データがかなり不透明(社長・任正非氏の経歴もわからないことが多い)。
  • 自社主導のイノベーションを軽視しているのでは?という傾向が少し見られる。
    • 「1人当たり生産性を伸ばす」を重要な経営目標にしていると、必然的に失敗が多くなるR&D部門では直近の製品開発しか出来なくなるのでは? それで良いのか?
    • 「リードしてよいのは常にライバルの半歩先までだ。3歩先まで進むと顧客ニーズから乖離してしまいかねない」(pp. 202-204)と言っているが、R&Dステージでは2~3歩先を見つめ、技術開発・特許出願は先行して行わないと、「戦力になる特許」は決して取れないのでは?
    • スマホでは、まだまだ他社の後追い。Huawei P6はApple iPhone 6sのcopycatだとWIRED誌でもこき下ろされていた。
  • 2013年版R&D案内パンフには「特許申請数6万8,895件、取得特許数3万0,240件、LTE必須保有特許829件以上 (2012年現在)」とある。出願数がとにかく多い(2000~2010年頃シスコ等の競合他社から特許侵害を訴えられる等の手痛い経験から学んだ結果なのだろう)。このうち、自社技術の保護に役立っている特許がどれだけあるかは不明。また、特許を出願すると、特許査定/拒絶査定/最終処分未決を問わず(つまり権利保護能力の有無に関係なく)、18カ月で公開されてしまうという欠点(?)がある(技術の独占の引き換えに技術内容を公開する…というのが特許のフィロソフィなのだが、何でもかんでも出願していると、自社のR&Dの活動内容が1年半後には社外にバレバレになるし、費用もかさむ)。知的財産重視は中国企業としては珍しいし、だいぶ前から世界標準でもあるのだが、自社知財の保護方法は特許出願の他にもあるのでは?とも思える。この辺り、今後はどのように進めて行くのだろうか。
中国IT企業(製造業)に関しては、過去にレノボ(聯想)の本を読んでいる。聯想と華為、中身は大きく違う。「中国系IT関連メーカ」などという単純な括りは出来ないようだ(共通点もあるのだが、違いの方が目立つ)。
以上

2016年8月13日土曜日

高橋 由佳利 「トルコで私も考えた (6)トルコ料理屋編」

この書評ブログ、更新が滞っています。猛暑にやられて読書意欲が失せています。夏枯れです。今回はユルめにコミック。それでは行ってみよう、レッツ・ゴー! う、うぉ~?(ヤル気少な目/笑)


高橋 由佳利 「トルコで私も考えた (6)トルコ料理屋編」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4086195704/>
文庫: 188ページ
出版社: 集英社 (2015/11/18)
言語: 日本語
ISBN-10: 4086195704
ISBN-13: 978-4086195706
発売日: 2015/11/18

[書評] ★★★★☆

有名な作品の続巻。発売後半年以上経ってしまったが、やっと読んだ。
  • 本巻、文庫版コミックでは「最新刊」だが、サイズ少し大き目の「愛蔵版」では、さらに新しい物が1冊発行済み(→後述)。
本シリーズ、これまで旅行話~国際結婚の話~出産・子育て話~…と続いて来たが、6巻では神戸にトルコ料理屋を開いた時の話が中心。昨今のトルコ事情にも触れつつも、トルコ料理屋であったことや、時々店で開いているイベントの話、それに子供の成長話の続編等、ハートウォーミングな話が多い。
  • 本巻冒頭で、「この漫画はフィクションです 実在の人物・団体・事実とは あまり関係ありません」と書いているが、(書いていないこともあるだろうが)ほぼ実話をベースにしているのだと思う。というか、経験していないとココまで描けないよね~と思う。
  • 苦労話が多いのだが、シリアスに寄り過ぎず、色々と笑い飛ばしてみせるのは、さすがは関西系漫画家(笑)。
あとがきにも書いてあるが、料理屋の経営はかなり厳しいようだ。それでも、トルコの食文化等を日本人にも楽しんで貰いたいという熱い気持ちが充分伝わってくる(神戸は遠いけど、お店に行ってみたくなるなるじゃないか!)。そして、筆者は、苦労話も込みで漫画を描いてしまうという、徹底したエンターテイナーなんだなと思う。

近年、トルコのエルドアン大統領(Wikipedia)は、かつて近代トルコの父:ムスタファ・ケマル・アタテュルク(Wikipedia)が打ち立てた脱イスラム・世俗化による近代化路線に逆行し、オスマン帝国を再興させるような動きをしている。さらに、イスタンブールを中心にテロが頻発し、トルコは「行ってみたい国ランキング」をズルズルと滑り落ちて行っているような傾向もある。が、これは、新興国が先進国になる時の際どい状態であるとも理解できる。色々な意味で危うい国、トルコ。この漫画は(個人的な話を除けば)シリアスな成分少な目だが、トルコという国の国民性や文化、最近の状況を垣間見る“参考資料”としても、オススメできると思う(最新情報ではないし状況は刻々と変わっているとは言え、本書/本シリーズは、「トルコ」を理解する良い参考書になると思う)。

なお、通常の漫画と比較してページ当たりの情報量は何倍にもなるので(描く方も大変だろうなぁ)、初めて読む人は覚悟しておいた方が良いかも(笑)。

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新刊情報、筆者の旦那様のお店の情報、他:
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1~5巻の書誌情報(+メモ少々):

①高橋 由佳利(著)「トルコで私も考えた―トルコ入門編」(集英社文庫、2012/8/17)
<http://www.amazon.co.jp/dp/408619340X/>
文庫: 209ページ
出版社: 集英社 (2012/8/17)
言語: 日本語
ISBN-10: 408619340X
ISBN-13: 978-4086193405
発売日: 2012/8/17


②高橋 由佳利(著)「トルコで私も考えた―トルコ嫁入り編」(集英社文庫、2012/9/14)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4086193418/>
文庫: 227ページ
出版社: 集英社 (2012/9/14)
言語: 日本語
ISBN-10: 4086193418
ISBN-13: 978-4086193412
発売日: 2012/9/14

③高橋 由佳利(著)「トルコで私も考えた―トルコ日常編」(集英社文庫、2012/12/18)
<http://www.amazon.co.jp/dp/408619404X/>
文庫: 204ページ
出版社: 集英社 (2012/12/18)
言語: 日本語
ISBN-10: 408619404X
ISBN-13: 978-4086194044
発売日: 2012/12/18

④高橋 由佳利(著)「トルコで私も考えた―トルコもっと日常編」(集英社文庫、2013/1/18)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4086194058/>
文庫: 214ページ
出版社: 集英社 (2013/1/18)
言語: 日本語
ISBN-10: 4086194058
ISBN-13: 978-4086194051
発売日: 2013/1/18

⑤高橋 由佳利(著)「トルコで私も考えた―トルコ21世紀編」(集英社文庫、2013/4/18)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4086194236/>
文庫: 208ページ
出版社: 集英社 (2013/4/18)
言語: 日本語
ISBN-10: 4086194236
ISBN-13: 978-4086194235
発売日: 2013/4/18

6巻を読むにあたり、1~5巻を通しで再読した。1~4巻は、
  • 新興国あるある話…美味しそうな食事、文化ギャップ、日本との共通点など。
  • 国際結婚~子育ての苦労話(面白いけど、流産の経験などなかなか人に聞けないシリアスな内容もある)。
がメインで、5巻は
  • トルコ人の旦那様を持つ日本人女性の、日本における日常エッセイ。
  • 久し振りにトルコを訪れた際に、トルコが発展・変化の状況に驚く話。
が中心となっている。1~6巻で筆者の青春時代~現在を描いているとも言えるが、シリアス・パートとギャグ・パートのバランスが絶妙。これを実話ベースで描いてしまう筆者の高橋さん、スゴイ人です。