2013年11月24日日曜日

近藤 史恵 (著)「サヴァイヴ [単行本]」


近藤 史恵 (著)「サヴァイヴ [単行本]」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4103052538/>
単行本: 234ページ; 出版社: 新潮社 (2011/06); ISBN-10: 4103052538; ISBN-13: 978-4103052531; 発売日: 2011/06
[書評] ★★★☆☆

サイクルロードレースの世界選手権大会に日本代表として出場する選手を中心とした数人について、それぞれ関わりのある複数のエピソードからなるサスペンス小説。テンポよく読ませるし、読者をグイグイ引き込む力を持った作品だ。必要以上の言葉を使っていないのだが、状況や各登場人物の気持ちの描き出し方が光っており、途中までつい、単なるドラマだと思って読んでしまった。が、突然、本シリーズはサスペンス作品だということを思い出される。
 本作品でのテーマは、八百長ドーピング。非常にタイムリーな話題だ(特に後者)。本作品では、どのように自転車スポーツ業界が腐敗して行くのかを描き出す。特に、腐敗しつつある業界の中で、当事者たる選手たちの心理描写は非常に魅力的。

  • 才能や人気のある若手を祭り上げることなら、どのスポーツだってやっている。どこまでなら許されるのか、どこが越えてはいけないラインなのか。俺たちは怪我と隣り合わせで走っている。ひとつ間違えば、死ぬことだってあり得る。それでも取り替え可能な部品に過ぎないのだろうか。 (本書p.195より)

などは、選手側としての悲痛な心の叫びだろう。モラルが無くなりつつある現代ビジネス社会において、組織の歯車の1つに過ぎない我々はこういった辺りに強い共感を感じるのだ。元プロロード選手ポール・キメイジ氏がドーピングについて訴えた本、「ラフ・ライド」(Amazon拙書評)を読んで日が浅かったこともあるが、ガツンとやられた感じがした。

ただ、本書が結末らしい結末が無く、問題提起のみで終わっており、読後感があまりスッキリしない(というのは私の勝手な意見だが)。「もう嫌、こんなスポーツ!」と思わせてしまう感すらあり。なので、勝手ながら少し減点、★3つとさせて頂く。

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書き方のスタイルは、本作に至るまでのシリーズ作「サクリファイス」(Amazon拙書評)、「エデン」(Amazon拙書評)と同様だ。各エピソードの主人公(選手)の視点から描いている。本作品では、日本国内と海外の両方が舞台となっていて、この描き出し方が全然違うのが非常に面白い。たとえば、日本国内の描き出し方は、基本的に1文が短い。文と文の間の論理的繋がりはあまり明示されていない。「ポツン、ポツン、…」と短い状況説明や台詞を並べる手法を効果的に用いている
(読者はその間を自動的に補って読んでいる)。人物同士の会話など、多少ブッキラボウに過ぎるのではないかという程だ。海外の描き方と比較すると、昭和の映画のようなイメージだ。恐らく、彼等の会話は(今の我々の普通の会話よりも)訥々としており、会話スピードも速い。

これに対し、海外の場所や人物の描き方は、流れるように描かれている。現地に行ったことがない人にも非常にイメージしやすい描き方をしている。

  • ポルトガル人らしく、2Bの鉛筆でぐりぐりと描いたような濃い顔立ちをしている。眉も髪も黒々としているが、日本人の黒とはその線の太さが違う。(本書p.216より)

等、所々にコミカルな描き方もあり、読んでいて楽しい気持ちにさせる。ツールやジロといった海外の有名なレースに時々出てくるような地名が多く、私のような自転車ファンには場所やイメージがつかみやすい。単なるサスペンス小説ではなく、本シリーズがテーマに用自転車スポーツのファンも満足させる作りになっている。

本シリーズの次の作品、「キアズマ」も既刊となっている(Amazon)。早く読みたい。

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