2014年10月1日水曜日

ジム・コリンズ「ビジョナリー・カンパニー③ 衰退の五段階」

ジム・コリンズ (著), 山岡 洋一 (翻訳)「ビジョナリー・カンパニー③ 衰退の五段階」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4822248178/>
単行本: 316ページ
出版社: 日経BP社 (2010/7/22)
ISBN-10: 4822248178
ISBN-13: 978-4822248178
発売日: 2010/7/22

[書評] ★★★★★

偉大な企業が転落する際に共通して通る道筋を分析し、衰退からどのように回復すれば良いかを示す本。テーマとしてはシドニー・フィンケルシュタイン著『名経営者が、なぜ失敗するのか?』(日経BP社、2004)(Amazon拙書評)と近い。本書では、企業が衰退に至るステップを細かく分析している点が『名経営者が~』とは異なるが、分析結果の多くは重複している。

本書から得られる教訓としては、たとえば以下のような状況は、企業が衰退に至る兆候を表しているという点が挙げられる。
  • 実力(適切な人材を集められる速度)よりも速いスピードで事業を拡大しようとすると、必ずコケる。
    ※本書の内容ではないが、既存の組織内での新規事業などにもこれは言える。人材等の経営資源を充てすぎるとコスト増になってしまうが、人材が少なすぎる場合はその実力以上の成果は出しようがない。特に、予定外・予想外の障害に遭った場合が要注意である(当初からフル残業を見込んだ日程を組むなど本来論外であるが、一部の日本企業で時々見られる光景だ)。予想外の事態は新規事業にはつきものだが、そんな時に無理矢理当初予定通りに事業を進めようとすると、その事業自体がデスマーチ化してしまう。これは経営者の無能力を示す事態だ。必要な時に必要な資源(主に人とカネ)を割当てて事業をきちんと育てることが出来るかどうか、及び、予想外の事態が発生した場合に資源(人と予算)や日程・目標値を適切に再設定することが出来るかどうか、この2点も経営者の重要な能力だ。
  • 企業の基本的な目的、企業の存在意義に直接関係の無い組織改編をしている状況は、既に衰退段階に入っている兆しである。
  • “逆転一発勝負”を繰り返し、失敗する度に多額の現金を失い続けるような状況は、既に末期症状である証拠である。
    ※著者らは、既刊『ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則』(日経BP社、1995) (Amazon拙書評)で、偉大な企業の多くは社運をかけた大胆な目標(BHAG)を設定して従業員の心をひとつにし、難題を突破したと書いている。だが、本書を読むと、この“BHAG”は、「逆転一発勝負の目標」ではなく、「充分時間をかけて実績を得た上で充分信用できる分析データに基づいた大胆な目標」である必要があることが分かる。
衰退段階にある企業の特徴を挙げた項目を読んだ時、デジャヴュを感じ、正直少し気持ちが悪くなった(良薬は口に苦し、ということか)。だが、衰退段階から企業・国家を復興させた話も書かれているので(第8章)、多いに参考になると思う。たとえば、IBMを復興させたルイス・ガースナー。たとえば、ヨーロッパを席巻していたファシストに絶対に屈服しなかったウィンストン・チャーチル。彼らは、派手な復興劇を見せた訳ではない。厳しい状況を直視し、なすべきことを地道に行ったのだ。

本書も、『ビジョナリー・カンパニー② - 飛躍の法則』(日経BP社、2001)(Amazon拙書評)と同様、企業経営者を従業員や世間から厳しい目に晒させることになったと言えよう。

多少景気が良くなったとは言え、先の見えぬ激動の時代。企業トップだけでなく、従業員全員が、会社と自分自身に求められているのは何であるか、自分自身が何をしなくてはいけないかを、改めて考えさせてくれる本。

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