2015年12月27日日曜日

吉成真由美(インタビュー・編) 「知の逆転」


吉成真由美(インタビュー・編)、ジャレド・ダイアモンド、ノーム・チョムスキー、オリバー・サックス、マービン・ミンスキー、トム・レイトン、ジェームズ・ワトソン(著)「知の逆転」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4140883952/>
新書: 304ページ
出版社: NHK出版 (2012/12/6)
言語: 日本語
ISBN-10: 4140883952
ISBN-13: 978-4140883952
発売日: 2012/12/6
[書評] ★★★★★

社会は今後どうなって行くのか? テクノロジーは宗教に取って代わるのか? インターネットは我々の生活や教育にどのような影響を与えるのか? 今後の教育のあるべき姿とはどのようなものか? 若い人に推薦したい本は? …これらの問いについて、米英の著名な科学者6人に、サイエンスライター・吉成真由美(よしなり まゆみ)氏がインタビューしてまとめた本。

アメリカ特有の社会制度・教育制度に対する指摘が多いが(チョムスキーとワトソンはかなり辛口)、日本にも通ずるものがあるはずだ。最近読んだ本では、ミチオ・カク氏がテクノロジーに関して徹底的に楽観的なのに対し(たとえば「2100年の科学ライフ」:Amazon拙書評)、本書の登場人物は慎重な姿勢の人が多い。

著名な科学者たちが世の中をどのように見ているのかという視点で読んでも良いし、将来に対する示唆を得られるという意味でも意義のある本(我々凡人にも得るものがある)。技術系の社会人は勿論、高校生や大学生にもお薦めできる本だ。新書なので2~3時間もあれば読める。短い割に得るものは多い(卒研生や大学院生に是非読んで欲しい)。読書歴や推薦図書を訊かれた時の受け答えなどに、各科学者のキャラクターが出ているのも面白い(科学者にもSF好きが多いのはひとつの発見だった)

インタビュー相手は以下の6人。
  1. ジャレド・ダイアモンド: UCLA教授(進化生物学・生理学)。文明論についても詳しく、近代以降西欧が覇権を握ったのは民族による能力差ではなく、単に地理的条件に恵まれたためにすぎないとする『銃・病原菌・鉄』など著作多数。
  2. ノーム・チョムスキー: MIT名誉教授(言語学)、米国の政策に厳しい批判の目を向けた著作多数、『メディア・コントロール』『ウォール街を占拠せよ』など。
  3. オリヴァー・サックス: コロンビア大学メディカルセンター教授(神経学・精神医学)。人間の認知という入り口から、文明論まで幅広い著作が多い。代表作は『音楽嗜好症』など(←音楽の認知に関して書かれたとても面白い本です)。
  4. マービン・ミンスキー: MIT教授(工学、特に人工知能=AI)。AIの黎明期からの研究者で「AIの父」と呼ばれる。このほか哲学にも詳しく、『心の社会』等の著作がある。
  5. トム・レイトン: MIT教授(応用数学)、アカマイ・テクノロジーズ社チーフ・サイエンティスト/取締役。アカマイはインターネットのインフラ会社で、閲覧者に近いサーバへの振り分けやセキュリティ対策等、色々なサービスを提供している。
  6. ジェームズ・ワトソン: DNAの二重螺旋構造を解明してノーベル生理学・医学賞を受賞した著名な学者(理系人間なら知っているべき科学者の1人)。
この中に、1人でもインタビューを読んでみたい!な科学者がいれば、是非本書を手に取ってみて欲しい。(そして、そのついでに(笑)、他の人のインタビューも読んでみて欲しい。)

ズバリ、良書。

2015年12月20日日曜日

ミチオ・カク「2100年の科学ライフ」


ミチオ・カク (著), 斉藤 隆央 (翻訳)「2100年の科学ライフ」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4140815728/>
単行本: 480ページ
出版社: NHK出版 (2012/9/25)
ISBN-10: 4140815728
ISBN-13: 978-4140815724
発売日: 2012/9/25

[書評] ★★★★☆

今世紀末、2100年までにテクノロジーがどのように変化するかを予言/予見する本。とっても面白い。技術系の仕事をしている全ての人にオススメ! あと、理系の進路を考えている高校生にもオススメ(ちょっと難しいかも知れないけど頑張って読んでほしい)

内容は、①コンピュータの未来、②人工知能の未来、③医療の未来、④ナノテクノロジーの未来、⑤エネルギーの未来、⑥宇宙旅行の未来、⑦富の未来、⑧人類の未来、⑨2100年のある日(未来の生活がどのようなものかを描いた小説?)、の9章立て。

内容を読んで思ったのは、小説・映画・漫画・アニメ等を作っているクリエイター達は、技術にメドもついていない位前から、本当に色々なことを想像→予見していたんだなぁということ。ワープ航法による宇宙旅行など、どう考えても実現が困難な技術もあるにはあるが、ナノテクノロジーやロボットの進化と医療の融合、ネット化の今後などは、何十年も前から予見した方向に進んでいるように思われる(正統派のビジネス誌や技術誌が時々アニメ『攻殻機動隊』や『機動戦士ガンダムSEED』、最近のものだと映画『トランセンデンス』など…に出てくるような技術とその社会的影響について真面目に論じているのは、こういう訳だろう)

なお、内容については数点、私と見解が異なる。すなわち、⑤エネルギーの未来は楽観的に過ぎるのではないか(新興国の発展と米国型浪費生活の蔓延により、エネルギー問題はもっと深刻になると思われる…エネルギーや環境の問題は、こと米国内では一部の企業(浪費社会の上に成り立つ企業群)により意図的に市民に対して隠蔽されていると思われる)。⑦富の未来は、技術と経済の関係についての考察は鋭いものの、結論は少し外しているかもしれない。⑧は主に遺伝子操作による人類の変化だが、西欧的思想に引きずられている気がする(中国や北朝鮮などの国家は遺伝子操作をした兵士を作るかも知れないし、DNAをいじることに対して政治的・宗教的ブレーキが働きにくい国も沢山あると思う…具体的に言えば、韓国かシンガポール辺りの研究者が遺伝子操作を受けた人間を近いうちに作り出すのではないだろうか)。⑨の2100年物語はハッキリ言って蛇足。

…と文句を書いてしまったが、人工知能やナノテクノロジーとこれを利用した医療については非常に興味深く読めた。また、文明論については耳が痛い内容が多い。500年前頃まで覇権を誇っていた中国(明)が凋落したのは帝国が内向きになって世界から取り残されてしまった為、またほぼ同じ時期にオスマン帝国が凋落したのは宗教的不寛容に陥ってイスラムの神学論争いを始めてしまった為という。後者は、まるで現代の某国だ(憲法解釈という神学論に時間を費やしそれ以外の大切な政策をおざなりにしている! このままでは某国というより亡国だ)。

業務上、市場調査や未来の技術を占う立場にある人は必読。というか、数多の調査機関やシンクタンクが出している高価な未来予測(実はよく外れる)などよりよっぽど役に立つのではないだろうか。少なくとも未来予測のイントロ本として、あるいはエンタメ本として面白いので、興味のある人はどうぞご一読を!

・  ・  ・  ・  ・

これまでにも多く未来予測が発表されているが、多くは科学者ではない、科学のアウトサイダーによるものである。本書は、科学者(インサイダー)による未来予測だ。筆者のミチオ・カク氏は、ニューヨーク市立大学の物理学教授にして、米TV番組「サイエンス・チャンネル」の司会者等も務める理論物理学者。難解な先端物理学を大衆に解かりやすく解説する本を何冊も書いている優れたサイエンス・ライターでもある。多数の著作があり、ハードSFが好きな人が読む未来技術としてナイスな本が多い。

2015年12月13日日曜日

スティーヴン・ミズン「歌うネアンデルタール―音楽と言語から見るヒトの進化」

スティーヴン ミズン (著), Steven Mithen (原著), 熊谷 淳子 (翻訳)「歌うネアンデルタール―音楽と言語から見るヒトの進化」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4152087390/>
単行本: 492ページ
出版社: 早川書房 (2006/06)
ISBN-10: 4152087390
ISBN-13: 978-4152087393
発売日: 2006/06
[書評] ★★★★★

ちょっと前の本だが、タイトルに惹かれて読んでみた本。結果は大当たり! 大満足できる面白い本だった。本書オビに記載された「太古の地球は音楽に満ちていた」はなかなかイカシたコピーだと思う。

言語と音楽はどのように発生したか? 本書は、そのような疑問に答える為、
  • 解剖学的、脳神経学的な詳細な研究
  • 乳幼児が言語や音楽の能力を獲得していく過程についての詳細な研究
  • 化石という物的証拠による詳細な考古学研究
といった数々のアプローチから、ネアンデルタールを中心とした旧人類のコミュニケーション方法の発展の謎を解く。結論を乱暴にまとめてみると、概ね以下のようになるか:
  • ホモ・エルガステル(150~200万年前)は発声パターンや身振りによるコミュニケーションは行っていたが、二足歩行を始めたばかりであり、脳や声帯はまだアウストラロピテクス(200万年以上前)的であった。
  • ネアンデルタール(約25万年前~)は、火を使い精巧な石器を作る高度な文化を持ち、共同生活を送る狩猟採集者であり、氷河期を25万年にわたり生き延びる知恵を持っていた種(我々ホモ・サピエンスの歴史より長い!)
  • ネアンデルタールは、言語と音楽に分化していないコミュニケーション手段をもっていた。
    • ここでいう「音楽」とは、現代音楽とは違い、多様なピッチとリズムを持つ発話を指す。たとえて言うなら、我々が赤ちゃんに対して話すように、ピッチ変化が大きく、母音や休止がが長めで明瞭に発音され、句が短く、繰り返しが多いような発話のこと。
  • ただし、言語を持たなかった(つまり意識の抽象化・概念化が出来なかった)ため、文化の発展が無く(20万年以上の間殆ど変化無し)、現在から3万年くらい前に滅びてしまった。
    • 滅びたとは言っても、最近の研究によると現代人の多く(特にアフリカ人種以外)にはネアンデルタールの遺伝子が入っているらしい。ネアンデルタール(ホモ・ネアンデルターレンシス)とホモ・サピエンスは交雑可能なほど近い種だったということだ。
言語と音楽の分化については後半で軽く触れられているだけだが、ホモ・サピエンスはネアンデルタール同様のコミュニケーション法を発達させて言語を使うようになる。音楽(メロディー=ピッチとリズムの組み合わせ)は言語と一旦分化したが、「歌」という形で再度融合しているという。

◆余談
  1. なぜ表紙の絵がゴリラなのか? もう少し原生人類に近い姿を描いた方が良かったのでは? (下に示す原書の表紙絵の方が良いと思う!)
  2. 言語と音楽、言語と身振り手振り(身体言語)、音楽と身体の動き(踊り)をキッチリ分けて考えるのがいかにも西洋的(笑)。言葉-動き-音楽の間にはオーバーラップする部分が多く、厳密には「分化」も「融合」も無いと私は思うのだが。
  3. ネアンデルタールの生き残り(あるいは血を濃く残した人)が現代にいたらどうだろうか? がっしりと筋肉質で大きな体格は、多様性・個性として受け入れられるだろう。力持ちで手先が器用で模倣の超人。色々なことについて博識だけど他人との(現代的な)コミュニケーションはちょっと苦手。周りの人から気難しく思われがちだけど、仲良くなると感情豊かで仲間思いの人。同時に多数のことをこなすのは苦手だけど、ひとつの仕事をコツコツとやるのは得意。職人気質な人とか、肉体労働者としてなら、現代社会の中でも充分にやって行けるんじゃないかな? …と、ちょっと愉快な想像(妄想とも云う:-)。
原著の表紙。こっちの方が良いですねぇ。

2015年12月6日日曜日

オリバー・ストーン監督「オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史DVD-BOX」 (DVD)


オリバー・ストーン監督「オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史DVD-BOX」
<http://www.amazon.co.jp/dp/B00FXSJKL4/>
監督: オリバー・ストーン
言語: 英語(日本語吹き替えあり)、字幕: 日本語
ディスク枚数: 5
販売元: 角川書店
発売日 2013/12/20
時間: 600 分

[評価] ★★★☆☆

『プラトーン』、『7月4日に生まれて』等の代表作で有名なオリバー・ストーン監督による「正しいアメリカ」への疑義を呈する映像作品。同タイトルの書籍については先日書評を書いたばかりだが、映像作品はTV放映の一部しか見ていなかったので、この機会にDVDを全部観た。

◆書籍版との違い

この映像作品では
  • もしもこの人が大統領になっていたら or なっていなかったら、歴史は変わっていたのではないか?
という点に重点が置かれている。書籍版は詳細な情報がビッシリ載っていたが、この映像作品はその中でも特に政治力学を中心としたストーリー立てになっている。米国が「あるべき姿の合衆国」にならなかった理由として、間違った人を間違ったタイミングで大統領に据えてしまったことを挙げる。そして、その間違った人を動かす裏側の政治的・経済的力学を明るみに出している。
  • 米大統領の選出過程には不透明なところが多い。近年で一番有名な例は、2000年の米大統領選(ブッシュ・ジュニア vs アル・ゴア)。ブッシュ陣営が票数を操作し、ジョージ・W・ブッシュ(ジュニア)が不正な方法で大統領に就任したくだりについては、マイケル・ムーア監督の映画『華氏911』(原題Fahrenheit 9/11、2004、Amazon)の冒頭部に詳しい。
  • 大統領就任後、政策を方向転換させた大統領も何人かいるが、そういう人は例外なく政治生命(場合によっては身体的生命)を奪われている。J.F.ケネディがその代表。たとえばJFKは核による人類滅亡という虚無と正面から向き合った頃から政策を変えていくが、その過程でJFKは政敵を増やして行き、暗殺されてしまう(真犯人は50年経った今でも薮の中)。
  • 不透明な大統領選は2000年に限らない。さらに近年の例では、オバマの大統領選にあたってウォール街の資金提供者に頼ったため、大統領就任後には彼らを優遇する政策しか取れなくなり、アメリカの格差を拡大させてしまっている。
◆感想

①PRO
  • 映像の力を利用して、米国を中心とした世界の歴史の重要なターニングポイントをわかりやすく伝えている点は秀逸。
  • 書籍版(約1500ページ)では広範な情報を述べていたのに対し、この映像作品では細かな情報をバッサリとカットし、大統領の人事と業績に集中しているのが良い。
  • 歴史を捉え方に「if (もしも)」を入れて興味深くしている点も優れている(よく「歴史にifは無い」と言うが、本作品ではこれを逆説的に巧く使っている)。
②CON
  • 内容が濃すぎる。ぼーっと観ていると内容が十分に掴めない(他のことをしながら観ると理解が進まず、結局2度観・3度観と時間を費やすことになる)。
  • 作りが、アメリカ合衆国の歴史を充分に認識していることを前提となっている。非アメリカ国民には事前情報無しには内容は伝わりにくいのではないか。(キッチリ観ようと思ったら、書籍版を読んでおくのが一番だろう。)
衰退しつつある国家とは言え、依然として日本に多大な影響力を持つアメリカ。このアメリカを中心として捉えた世界史を考える上で、貴重な情報源である点は間違いないと思う。

余談になるが:多くの情報が抹消されてしまう日本と異なり、米国では多くの情報が蓄積されており、年数の経ったものから機密解除される。これらをベースとした情報の信頼性は高いと思う。

◆内容紹介(2章×ディスク5枚=合計10章)
  1. 第二次世界大戦の惨禍 (World War II)
  2. ルーズベルト、トルーマン、ウォレス (Roosevelt, Truman & Wallace)
  3. 原爆投下 (The Bomb)
  4. 冷戦の構図 (The Cold War 1945-1950)
  5. アイゼンハワーと核兵器 (The '50s: Eisenhower, The Bomb & The Third World)
  6. J.F.ケネディ~全面核戦争の瀬戸際~ (JFK: To The Brink)
  7. ベトナム戦争 運命の暗転 (Johnson, Nixon & Vietnam: Reversal of Fortune)
  8. レーガンとゴルバチョフ (Reagan, Gorbachev & The Third World: Rise of the Right)
  9. “唯一の超大国”アメリカ (Bush and Clinton: American Triumphalism ― New World Order)
  10. テロの時代 ブッシュからオバマへ (Bush & Obama ― Age of Terror)