2015年12月13日日曜日

スティーヴン・ミズン「歌うネアンデルタール―音楽と言語から見るヒトの進化」

スティーヴン ミズン (著), Steven Mithen (原著), 熊谷 淳子 (翻訳)「歌うネアンデルタール―音楽と言語から見るヒトの進化」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4152087390/>
単行本: 492ページ
出版社: 早川書房 (2006/06)
ISBN-10: 4152087390
ISBN-13: 978-4152087393
発売日: 2006/06
[書評] ★★★★★

ちょっと前の本だが、タイトルに惹かれて読んでみた本。結果は大当たり! 大満足できる面白い本だった。本書オビに記載された「太古の地球は音楽に満ちていた」はなかなかイカシたコピーだと思う。

言語と音楽はどのように発生したか? 本書は、そのような疑問に答える為、
  • 解剖学的、脳神経学的な詳細な研究
  • 乳幼児が言語や音楽の能力を獲得していく過程についての詳細な研究
  • 化石という物的証拠による詳細な考古学研究
といった数々のアプローチから、ネアンデルタールを中心とした旧人類のコミュニケーション方法の発展の謎を解く。結論を乱暴にまとめてみると、概ね以下のようになるか:
  • ホモ・エルガステル(150~200万年前)は発声パターンや身振りによるコミュニケーションは行っていたが、二足歩行を始めたばかりであり、脳や声帯はまだアウストラロピテクス(200万年以上前)的であった。
  • ネアンデルタール(約25万年前~)は、火を使い精巧な石器を作る高度な文化を持ち、共同生活を送る狩猟採集者であり、氷河期を25万年にわたり生き延びる知恵を持っていた種(我々ホモ・サピエンスの歴史より長い!)
  • ネアンデルタールは、言語と音楽に分化していないコミュニケーション手段をもっていた。
    • ここでいう「音楽」とは、現代音楽とは違い、多様なピッチとリズムを持つ発話を指す。たとえて言うなら、我々が赤ちゃんに対して話すように、ピッチ変化が大きく、母音や休止がが長めで明瞭に発音され、句が短く、繰り返しが多いような発話のこと。
  • ただし、言語を持たなかった(つまり意識の抽象化・概念化が出来なかった)ため、文化の発展が無く(20万年以上の間殆ど変化無し)、現在から3万年くらい前に滅びてしまった。
    • 滅びたとは言っても、最近の研究によると現代人の多く(特にアフリカ人種以外)にはネアンデルタールの遺伝子が入っているらしい。ネアンデルタール(ホモ・ネアンデルターレンシス)とホモ・サピエンスは交雑可能なほど近い種だったということだ。
言語と音楽の分化については後半で軽く触れられているだけだが、ホモ・サピエンスはネアンデルタール同様のコミュニケーション法を発達させて言語を使うようになる。音楽(メロディー=ピッチとリズムの組み合わせ)は言語と一旦分化したが、「歌」という形で再度融合しているという。

◆余談
  1. なぜ表紙の絵がゴリラなのか? もう少し原生人類に近い姿を描いた方が良かったのでは? (下に示す原書の表紙絵の方が良いと思う!)
  2. 言語と音楽、言語と身振り手振り(身体言語)、音楽と身体の動き(踊り)をキッチリ分けて考えるのがいかにも西洋的(笑)。言葉-動き-音楽の間にはオーバーラップする部分が多く、厳密には「分化」も「融合」も無いと私は思うのだが。
  3. ネアンデルタールの生き残り(あるいは血を濃く残した人)が現代にいたらどうだろうか? がっしりと筋肉質で大きな体格は、多様性・個性として受け入れられるだろう。力持ちで手先が器用で模倣の超人。色々なことについて博識だけど他人との(現代的な)コミュニケーションはちょっと苦手。周りの人から気難しく思われがちだけど、仲良くなると感情豊かで仲間思いの人。同時に多数のことをこなすのは苦手だけど、ひとつの仕事をコツコツとやるのは得意。職人気質な人とか、肉体労働者としてなら、現代社会の中でも充分にやって行けるんじゃないかな? …と、ちょっと愉快な想像(妄想とも云う:-)。
原著の表紙。こっちの方が良いですねぇ。

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