E・L・カニグズバーグ(著), 松永ふみ子(訳)「ぼくと〈ジョージ〉」
<https://www.amazon.co.jp/dp/4001141493/>
単行本: 231ページ
出版社: 岩波書店; 新版 (2008/1/16)
言語: 日本語
ISBN-10: 4001141493
ISBN-13: 978-4001141498
発売日: 2008/1/16
[書評] ★★★☆☆
「頭がよく、ひかえめな少年ベンの体の中には、もうひとり別の少年が住んでいた。…」
スタジオジブリ・プロデューサー、鈴木敏夫氏が著作『ジブリの哲学―変わるものと変わらないもの』(Amazon、拙書評)で本書を引いて「思春期」を論じていたので、前から気になっていた本(『ジブリの哲学』を読んでから4年近く経ってしまったのは“積読”になっていた為/苦笑)。
主人公ベンは心の中に2つの人格を持っている。最初は精神分裂症にも見えるし、物語の中でも父親の後妻に分裂症と判断されて精神科医に通わされる羽目になる。が、これは別に精神分裂症でも何でもない。松永ふみ子氏による「訳者あとがき」には、「成長の危機(節)にある人間なら、だれでも起こる現象」と書いているが、成長の危機に限らず、我々は多くの場合、複数の人格を抱えているのではないか。建前の自分と、本音の自分。怠惰な自分と、自身を叱咤する自分。熱中している自分と、醒めている自分…etc.。
この「訳者あとがき」を読んで、私自身「思春期」を脱していないのではないかと少し心配にもなったが、鈴木氏の解説を読んで大納得。「余計なことを考える必要がなかった王権神授の時代と違い、近代以降の国民国家に暮らす人々は、自我に目覚め、自分自身と対話をしなければならなくなったのだ」。鈴木氏の解説は上述『ジブリの哲学』に全文引用されていて既読だったが、本作品を読んだ上で改めて読むと味わいが違う。
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本作品は、少年少女向け物語の形をしてはいるが、実は大人向けの小説なのではないか。私(読者)は、主人公ベンでもあるし、その別人格・ジョージでもある。バーコウィッツ先生やカー夫人(ベンの母親、離婚→シングルマザー)の中にも、またウィリアムやチェリル(化学の科目でベンとクラスメイトである年上の友人)の中にも、自分自身を見出すことができる。少年ベンが、正しいor間違っているではなく、社会とどう折り合いをつけるか、に基づいて行動出来るように“成長”している点に救いがあるが(とは言え様々な設定が異常ではある)、色々と考えさせられる本だった。
ハードサイエンス(最近はAIと脳科学の本が多い――年末年始は音楽系の小説をどっぷり読んだが――)やビジネス系の本の合間の「箸休め」になれば良いと思って読んだ本だったが、全然箸休めにはならなかった(苦笑)。
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