2013年1月12日土曜日

伊藤洋一「カウンターから日本が見える ―板前文化論の冒険」

伊藤 洋一 (著)
「カウンターから日本が見える 板前文化論の冒険 (新書)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4106101831/>
新書: 208ページ ; 出版社: 新潮社 (2006/9/15) ; ISBN-13: 978-4106101830 ; ASIN: 4106101831
[書評] ★★☆☆☆
 食べ歩きが好きな伊藤洋一が、趣味的に書いた本だろう。それなりに面白い。
 ただ、本書の末尾でいきなり、日本の文化論に持っていってしまう辺りに、 無理矢理自論につなげているのではと、強引さを感じた。また、料理人や職人が尊敬される文化の日本は将来が明るいというが、ちょっとばかり楽観的に過ぎるのではないか(この辺り、「日本力」とも通じる)。
 取材がちょっと甘いかな、と思った。 名だたる料理人やその縁故者に取材はしているようだが、それ以外の取材をあまりきちんとやっていないなぁ、と思った。また、取材も自身の趣味の食べ歩きのついでに話を聞いたものをベースとした著述だけをしているように思える。
 特に、Wikipediaに頼りすぎているのは、どうかと思う。Wikiは確かに便利だが、きちんとauthorizeされていない情報、 誰もが書き込める(つまり間違った情報である可能性も否定できない)情報であるので、 裏を取らずに自分の著作に引っ張って来るのは、手抜きの感が否めない。
 多忙な伊藤氏のこと、いちいち出向いて調べたりはしにくいのかも知れないが、 書を著す以上は、それなりにきちんとした取材をして、 裏の取れた情報に基づいて書き物をしてもらいたいと思う。
 伊藤氏は、Podcast(「伊藤洋一のビジネストレンド」 「伊藤洋一のRound Up World Now!」)を聴くに、日米や諸外国の政府諸機関の発行する報告書や様々な経済紙など、 本当に幅広い情報ソースを持ち、また本当に色々なことを良く知っている人だと思うが、そうであるだけに、詰めの甘い著作を見ると、その落差にガッカリしてしまう。
 コツコツと事実データを集めて主義・主張を著すというより、 世の中のパッと見の情報を素早く分析して結論を出して意見を口述する方が得意な人なのだろう。
 とは言え、株とか為替とかの「お堅い」話の解説をメインとする人が、 軽い乗りの本を書いているというのも面白い。 気楽に読める本としては良いかも知れない。

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