高橋 伸夫 (著)
「できる社員は「やり過ごす」 日経ビジネス人文庫」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4532191351/>
文庫: 261 p ; 出版社: 日本経済新聞社 ; ISBN: 4532191351 ; (2002/07)
[書評] ★★★★☆
タイトルから予想される内容を期待すると、裏切られる。この本は、「できる社員」の条件を説いたものではない。 最近導入されつつある、欧米流の仕事の進め方・人事考課に警鐘を鳴らしている本である(中にストレートにその旨書かれている訳ではないが)。 従来の日本型経営で有名な年功序列制度が持つメリットや、 上司の命令は絶対ではなく各担当が判断を行うことで優先順位付けを行って業務を進めるという業務スタイルの良さを述べる。その中で、日本企業においては、優れた社員は正しい優先順位づけを行い、 必要に応じて「やり過ごし」をするのだと説いている。
本書によると、欧米スタイルでは、上司の命令は絶対であり、また、現在が未来よりも重い。 私が思うに、狩猟民族であり、古くから契約に基づいて他人との役割分担をする欧米では、これが自然な方式なのだろう。
これに対し、日本スタイルでは、社員は上司の命令を自分で判断し、 自分の判断で優先順位づけをして、重要なものから取りかかる。 業務量が多過ぎる場合などは、重要性の低い業務は「やり過ごす」。 欧米の考え方では、上司の命令をやり過ごすなどもっての外なのだが、 日本ではこれが意外に会社をきちんと回転させるミソになっているのだ。また、未来のために現在多少の犠牲を払うのは仕方がない(というより寧ろ当然)、という「未来傾斜原理」が働いている。これは、各自の役割分担の境界線が悪く言えば不明瞭・曖昧、 良く言えば担当領域に重複があってメンバーが互いに補佐し合える仕組みをもち、 個より全体を優先する、日本型の仕事であるが故に可能な形態なのだろう。
筆者によると、現在多少我慢をしてでも未来の成果を期待する・未来のために現在努力をするという「未来傾斜原理」の働く日本の経営スタイルは、 欧米型の経営スタイル(「刹那主義」の経営)に負けるはずがないという。1970~1980年代の日本企業は確かに強かったが、1990~2000年代はそうとも言い切れないようだ。 欧米型に勝てて当然の日本経営が、こうも欧米企業に打ち負かされてしまっているのはどういう訳か。ひとつには、欧米企業のスタイルはうまく回っている時は、この上なく効率が良く、 意思決定が複数階級で行われる日本式経営では実現できないスピードが実現出来る(こともある)、ということが挙げられるだろう。またひとつには、優秀な欧米の大企業には、日本の古い体質の企業と同様、 師匠と弟子の関係があり、教育も兼ねて部下に大きな裁量を与えている場合が往々にしてある(各ステージの社員が判断するという、 「日本式」とほぼ同じスタイルになる)ということも挙げられるだろう。
欧米人は狩猟民族であり、全より個を尊重し、未来より現在が大切で、 個人対個人/個人対組織/組織対組織は契約にもとづいて動く。これに対して日本人は農耕民族であり、個より全を尊重し、未来のために現在は多少の我慢をし、 組織は契約を超えた領域で個のパフォーマンスの総計を超えた力を発揮する。これから世界に伍していくためには、日本の風土に根付いた、日本の風土にあった経営方策をとり、 日本人の長所を最大限に生かした経営が必要だと思う。
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