2015年12月27日日曜日

吉成真由美(インタビュー・編) 「知の逆転」


吉成真由美(インタビュー・編)、ジャレド・ダイアモンド、ノーム・チョムスキー、オリバー・サックス、マービン・ミンスキー、トム・レイトン、ジェームズ・ワトソン(著)「知の逆転」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4140883952/>
新書: 304ページ
出版社: NHK出版 (2012/12/6)
言語: 日本語
ISBN-10: 4140883952
ISBN-13: 978-4140883952
発売日: 2012/12/6
[書評] ★★★★★

社会は今後どうなって行くのか? テクノロジーは宗教に取って代わるのか? インターネットは我々の生活や教育にどのような影響を与えるのか? 今後の教育のあるべき姿とはどのようなものか? 若い人に推薦したい本は? …これらの問いについて、米英の著名な科学者6人に、サイエンスライター・吉成真由美(よしなり まゆみ)氏がインタビューしてまとめた本。

アメリカ特有の社会制度・教育制度に対する指摘が多いが(チョムスキーとワトソンはかなり辛口)、日本にも通ずるものがあるはずだ。最近読んだ本では、ミチオ・カク氏がテクノロジーに関して徹底的に楽観的なのに対し(たとえば「2100年の科学ライフ」:Amazon拙書評)、本書の登場人物は慎重な姿勢の人が多い。

著名な科学者たちが世の中をどのように見ているのかという視点で読んでも良いし、将来に対する示唆を得られるという意味でも意義のある本(我々凡人にも得るものがある)。技術系の社会人は勿論、高校生や大学生にもお薦めできる本だ。新書なので2~3時間もあれば読める。短い割に得るものは多い(卒研生や大学院生に是非読んで欲しい)。読書歴や推薦図書を訊かれた時の受け答えなどに、各科学者のキャラクターが出ているのも面白い(科学者にもSF好きが多いのはひとつの発見だった)

インタビュー相手は以下の6人。
  1. ジャレド・ダイアモンド: UCLA教授(進化生物学・生理学)。文明論についても詳しく、近代以降西欧が覇権を握ったのは民族による能力差ではなく、単に地理的条件に恵まれたためにすぎないとする『銃・病原菌・鉄』など著作多数。
  2. ノーム・チョムスキー: MIT名誉教授(言語学)、米国の政策に厳しい批判の目を向けた著作多数、『メディア・コントロール』『ウォール街を占拠せよ』など。
  3. オリヴァー・サックス: コロンビア大学メディカルセンター教授(神経学・精神医学)。人間の認知という入り口から、文明論まで幅広い著作が多い。代表作は『音楽嗜好症』など(←音楽の認知に関して書かれたとても面白い本です)。
  4. マービン・ミンスキー: MIT教授(工学、特に人工知能=AI)。AIの黎明期からの研究者で「AIの父」と呼ばれる。このほか哲学にも詳しく、『心の社会』等の著作がある。
  5. トム・レイトン: MIT教授(応用数学)、アカマイ・テクノロジーズ社チーフ・サイエンティスト/取締役。アカマイはインターネットのインフラ会社で、閲覧者に近いサーバへの振り分けやセキュリティ対策等、色々なサービスを提供している。
  6. ジェームズ・ワトソン: DNAの二重螺旋構造を解明してノーベル生理学・医学賞を受賞した著名な学者(理系人間なら知っているべき科学者の1人)。
この中に、1人でもインタビューを読んでみたい!な科学者がいれば、是非本書を手に取ってみて欲しい。(そして、そのついでに(笑)、他の人のインタビューも読んでみて欲しい。)

ズバリ、良書。

2015年12月20日日曜日

ミチオ・カク「2100年の科学ライフ」


ミチオ・カク (著), 斉藤 隆央 (翻訳)「2100年の科学ライフ」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4140815728/>
単行本: 480ページ
出版社: NHK出版 (2012/9/25)
ISBN-10: 4140815728
ISBN-13: 978-4140815724
発売日: 2012/9/25

[書評] ★★★★☆

今世紀末、2100年までにテクノロジーがどのように変化するかを予言/予見する本。とっても面白い。技術系の仕事をしている全ての人にオススメ! あと、理系の進路を考えている高校生にもオススメ(ちょっと難しいかも知れないけど頑張って読んでほしい)

内容は、①コンピュータの未来、②人工知能の未来、③医療の未来、④ナノテクノロジーの未来、⑤エネルギーの未来、⑥宇宙旅行の未来、⑦富の未来、⑧人類の未来、⑨2100年のある日(未来の生活がどのようなものかを描いた小説?)、の9章立て。

内容を読んで思ったのは、小説・映画・漫画・アニメ等を作っているクリエイター達は、技術にメドもついていない位前から、本当に色々なことを想像→予見していたんだなぁということ。ワープ航法による宇宙旅行など、どう考えても実現が困難な技術もあるにはあるが、ナノテクノロジーやロボットの進化と医療の融合、ネット化の今後などは、何十年も前から予見した方向に進んでいるように思われる(正統派のビジネス誌や技術誌が時々アニメ『攻殻機動隊』や『機動戦士ガンダムSEED』、最近のものだと映画『トランセンデンス』など…に出てくるような技術とその社会的影響について真面目に論じているのは、こういう訳だろう)

なお、内容については数点、私と見解が異なる。すなわち、⑤エネルギーの未来は楽観的に過ぎるのではないか(新興国の発展と米国型浪費生活の蔓延により、エネルギー問題はもっと深刻になると思われる…エネルギーや環境の問題は、こと米国内では一部の企業(浪費社会の上に成り立つ企業群)により意図的に市民に対して隠蔽されていると思われる)。⑦富の未来は、技術と経済の関係についての考察は鋭いものの、結論は少し外しているかもしれない。⑧は主に遺伝子操作による人類の変化だが、西欧的思想に引きずられている気がする(中国や北朝鮮などの国家は遺伝子操作をした兵士を作るかも知れないし、DNAをいじることに対して政治的・宗教的ブレーキが働きにくい国も沢山あると思う…具体的に言えば、韓国かシンガポール辺りの研究者が遺伝子操作を受けた人間を近いうちに作り出すのではないだろうか)。⑨の2100年物語はハッキリ言って蛇足。

…と文句を書いてしまったが、人工知能やナノテクノロジーとこれを利用した医療については非常に興味深く読めた。また、文明論については耳が痛い内容が多い。500年前頃まで覇権を誇っていた中国(明)が凋落したのは帝国が内向きになって世界から取り残されてしまった為、またほぼ同じ時期にオスマン帝国が凋落したのは宗教的不寛容に陥ってイスラムの神学論争いを始めてしまった為という。後者は、まるで現代の某国だ(憲法解釈という神学論に時間を費やしそれ以外の大切な政策をおざなりにしている! このままでは某国というより亡国だ)。

業務上、市場調査や未来の技術を占う立場にある人は必読。というか、数多の調査機関やシンクタンクが出している高価な未来予測(実はよく外れる)などよりよっぽど役に立つのではないだろうか。少なくとも未来予測のイントロ本として、あるいはエンタメ本として面白いので、興味のある人はどうぞご一読を!

・  ・  ・  ・  ・

これまでにも多く未来予測が発表されているが、多くは科学者ではない、科学のアウトサイダーによるものである。本書は、科学者(インサイダー)による未来予測だ。筆者のミチオ・カク氏は、ニューヨーク市立大学の物理学教授にして、米TV番組「サイエンス・チャンネル」の司会者等も務める理論物理学者。難解な先端物理学を大衆に解かりやすく解説する本を何冊も書いている優れたサイエンス・ライターでもある。多数の著作があり、ハードSFが好きな人が読む未来技術としてナイスな本が多い。

2015年12月13日日曜日

スティーヴン・ミズン「歌うネアンデルタール―音楽と言語から見るヒトの進化」

スティーヴン ミズン (著), Steven Mithen (原著), 熊谷 淳子 (翻訳)「歌うネアンデルタール―音楽と言語から見るヒトの進化」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4152087390/>
単行本: 492ページ
出版社: 早川書房 (2006/06)
ISBN-10: 4152087390
ISBN-13: 978-4152087393
発売日: 2006/06
[書評] ★★★★★

ちょっと前の本だが、タイトルに惹かれて読んでみた本。結果は大当たり! 大満足できる面白い本だった。本書オビに記載された「太古の地球は音楽に満ちていた」はなかなかイカシたコピーだと思う。

言語と音楽はどのように発生したか? 本書は、そのような疑問に答える為、
  • 解剖学的、脳神経学的な詳細な研究
  • 乳幼児が言語や音楽の能力を獲得していく過程についての詳細な研究
  • 化石という物的証拠による詳細な考古学研究
といった数々のアプローチから、ネアンデルタールを中心とした旧人類のコミュニケーション方法の発展の謎を解く。結論を乱暴にまとめてみると、概ね以下のようになるか:
  • ホモ・エルガステル(150~200万年前)は発声パターンや身振りによるコミュニケーションは行っていたが、二足歩行を始めたばかりであり、脳や声帯はまだアウストラロピテクス(200万年以上前)的であった。
  • ネアンデルタール(約25万年前~)は、火を使い精巧な石器を作る高度な文化を持ち、共同生活を送る狩猟採集者であり、氷河期を25万年にわたり生き延びる知恵を持っていた種(我々ホモ・サピエンスの歴史より長い!)
  • ネアンデルタールは、言語と音楽に分化していないコミュニケーション手段をもっていた。
    • ここでいう「音楽」とは、現代音楽とは違い、多様なピッチとリズムを持つ発話を指す。たとえて言うなら、我々が赤ちゃんに対して話すように、ピッチ変化が大きく、母音や休止がが長めで明瞭に発音され、句が短く、繰り返しが多いような発話のこと。
  • ただし、言語を持たなかった(つまり意識の抽象化・概念化が出来なかった)ため、文化の発展が無く(20万年以上の間殆ど変化無し)、現在から3万年くらい前に滅びてしまった。
    • 滅びたとは言っても、最近の研究によると現代人の多く(特にアフリカ人種以外)にはネアンデルタールの遺伝子が入っているらしい。ネアンデルタール(ホモ・ネアンデルターレンシス)とホモ・サピエンスは交雑可能なほど近い種だったということだ。
言語と音楽の分化については後半で軽く触れられているだけだが、ホモ・サピエンスはネアンデルタール同様のコミュニケーション法を発達させて言語を使うようになる。音楽(メロディー=ピッチとリズムの組み合わせ)は言語と一旦分化したが、「歌」という形で再度融合しているという。

◆余談
  1. なぜ表紙の絵がゴリラなのか? もう少し原生人類に近い姿を描いた方が良かったのでは? (下に示す原書の表紙絵の方が良いと思う!)
  2. 言語と音楽、言語と身振り手振り(身体言語)、音楽と身体の動き(踊り)をキッチリ分けて考えるのがいかにも西洋的(笑)。言葉-動き-音楽の間にはオーバーラップする部分が多く、厳密には「分化」も「融合」も無いと私は思うのだが。
  3. ネアンデルタールの生き残り(あるいは血を濃く残した人)が現代にいたらどうだろうか? がっしりと筋肉質で大きな体格は、多様性・個性として受け入れられるだろう。力持ちで手先が器用で模倣の超人。色々なことについて博識だけど他人との(現代的な)コミュニケーションはちょっと苦手。周りの人から気難しく思われがちだけど、仲良くなると感情豊かで仲間思いの人。同時に多数のことをこなすのは苦手だけど、ひとつの仕事をコツコツとやるのは得意。職人気質な人とか、肉体労働者としてなら、現代社会の中でも充分にやって行けるんじゃないかな? …と、ちょっと愉快な想像(妄想とも云う:-)。
原著の表紙。こっちの方が良いですねぇ。

2015年12月6日日曜日

オリバー・ストーン監督「オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史DVD-BOX」 (DVD)


オリバー・ストーン監督「オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史DVD-BOX」
<http://www.amazon.co.jp/dp/B00FXSJKL4/>
監督: オリバー・ストーン
言語: 英語(日本語吹き替えあり)、字幕: 日本語
ディスク枚数: 5
販売元: 角川書店
発売日 2013/12/20
時間: 600 分

[評価] ★★★☆☆

『プラトーン』、『7月4日に生まれて』等の代表作で有名なオリバー・ストーン監督による「正しいアメリカ」への疑義を呈する映像作品。同タイトルの書籍については先日書評を書いたばかりだが、映像作品はTV放映の一部しか見ていなかったので、この機会にDVDを全部観た。

◆書籍版との違い

この映像作品では
  • もしもこの人が大統領になっていたら or なっていなかったら、歴史は変わっていたのではないか?
という点に重点が置かれている。書籍版は詳細な情報がビッシリ載っていたが、この映像作品はその中でも特に政治力学を中心としたストーリー立てになっている。米国が「あるべき姿の合衆国」にならなかった理由として、間違った人を間違ったタイミングで大統領に据えてしまったことを挙げる。そして、その間違った人を動かす裏側の政治的・経済的力学を明るみに出している。
  • 米大統領の選出過程には不透明なところが多い。近年で一番有名な例は、2000年の米大統領選(ブッシュ・ジュニア vs アル・ゴア)。ブッシュ陣営が票数を操作し、ジョージ・W・ブッシュ(ジュニア)が不正な方法で大統領に就任したくだりについては、マイケル・ムーア監督の映画『華氏911』(原題Fahrenheit 9/11、2004、Amazon)の冒頭部に詳しい。
  • 大統領就任後、政策を方向転換させた大統領も何人かいるが、そういう人は例外なく政治生命(場合によっては身体的生命)を奪われている。J.F.ケネディがその代表。たとえばJFKは核による人類滅亡という虚無と正面から向き合った頃から政策を変えていくが、その過程でJFKは政敵を増やして行き、暗殺されてしまう(真犯人は50年経った今でも薮の中)。
  • 不透明な大統領選は2000年に限らない。さらに近年の例では、オバマの大統領選にあたってウォール街の資金提供者に頼ったため、大統領就任後には彼らを優遇する政策しか取れなくなり、アメリカの格差を拡大させてしまっている。
◆感想

①PRO
  • 映像の力を利用して、米国を中心とした世界の歴史の重要なターニングポイントをわかりやすく伝えている点は秀逸。
  • 書籍版(約1500ページ)では広範な情報を述べていたのに対し、この映像作品では細かな情報をバッサリとカットし、大統領の人事と業績に集中しているのが良い。
  • 歴史を捉え方に「if (もしも)」を入れて興味深くしている点も優れている(よく「歴史にifは無い」と言うが、本作品ではこれを逆説的に巧く使っている)。
②CON
  • 内容が濃すぎる。ぼーっと観ていると内容が十分に掴めない(他のことをしながら観ると理解が進まず、結局2度観・3度観と時間を費やすことになる)。
  • 作りが、アメリカ合衆国の歴史を充分に認識していることを前提となっている。非アメリカ国民には事前情報無しには内容は伝わりにくいのではないか。(キッチリ観ようと思ったら、書籍版を読んでおくのが一番だろう。)
衰退しつつある国家とは言え、依然として日本に多大な影響力を持つアメリカ。このアメリカを中心として捉えた世界史を考える上で、貴重な情報源である点は間違いないと思う。

余談になるが:多くの情報が抹消されてしまう日本と異なり、米国では多くの情報が蓄積されており、年数の経ったものから機密解除される。これらをベースとした情報の信頼性は高いと思う。

◆内容紹介(2章×ディスク5枚=合計10章)
  1. 第二次世界大戦の惨禍 (World War II)
  2. ルーズベルト、トルーマン、ウォレス (Roosevelt, Truman & Wallace)
  3. 原爆投下 (The Bomb)
  4. 冷戦の構図 (The Cold War 1945-1950)
  5. アイゼンハワーと核兵器 (The '50s: Eisenhower, The Bomb & The Third World)
  6. J.F.ケネディ~全面核戦争の瀬戸際~ (JFK: To The Brink)
  7. ベトナム戦争 運命の暗転 (Johnson, Nixon & Vietnam: Reversal of Fortune)
  8. レーガンとゴルバチョフ (Reagan, Gorbachev & The Third World: Rise of the Right)
  9. “唯一の超大国”アメリカ (Bush and Clinton: American Triumphalism ― New World Order)
  10. テロの時代 ブッシュからオバマへ (Bush & Obama ― Age of Terror)

2015年11月29日日曜日

西尾維新(著)、VOFAN(イラスト) 「愚物語」

西尾維新(著)、VOFAN(イラスト) 「愚物語」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4062838893/>
単行本(ソフトカバー): 308ページ
出版社: 講談社 (2015/10/6)
言語: 日本語
ISBN-10: 4062838893
ISBN-13: 978-4062838894
発売日: 2015/10/6

[書評] ★★★☆☆

久しぶりにライトノベルのお時間です。

〈物語〉シリーズの最新刊(19冊目)。このシリーズ、前巻『続・終物語』で今度こそ打ち止めだと思っていたのだが、…新刊が出てしまいました。内容は、過去に出てきたヒロインのうち3人を主人公とするストーリー3本立て。しなくても良い伏線の回収(笑)。

第一話「そだちフィアスコ」は、暦クンの元クラスメイト・老倉育(おいくら そだち)の、転校先での出来事。新クラスで自己紹介に失敗したあと、友達作りもなかなかうまくいかない。最初こそ学校内での自分の立ち位置を確保する為に行動するが、クラスメイトの対立や友人関係の捩れを見て、これを正す行動をとってしまう。その結果育チャンは学校で友達のいない生徒になってしまうのだが、この打算を超えた行動パターンこそ、一番嫌いなはずの暦クンそのものだ。育チャン、性格にも行動にも色々と問題はある(そんな育チャンが語り部だから、文章も陰鬱)。でも、弱さを抱えた人間が弱さを抱えたまま一段階成長する姿は、本シリーズにしては珍しく、救いがある。

第二話「するがボーンヘッド」は、語り部・神原駿河(かんばる するが;暦クンの1学年下の後輩)が高3夏休み初日に自室(汚部屋!)を掃除し始めた時に、数カ月前に処分した筈の左手の木乃伊が出てきた(木乃伊:初出は『化物語(上)』で高2春、処分は『花物語』で高3春)。この左手の木乃伊は古い手紙を握っていたが、そこに書かれていたのは暗号。木乃伊がらみの話なのだが、怪異譚というより軽妙なナゾナゾ話。

第三話「つきひアンドゥ」の語り部は、なんと人間ではなく式神の斧之木余接(おののき よつぎ)チャン(初出は『偽物語(下)』)。阿良々木家に監視役として来ていたが(『憑物語』で暦クンの妹・月火(つきひ)チャンがUFOキャッチャーでゲットしてきた)、人形であるはずの余接チャン、アイスクリームを食べている所を月火チャンに目撃されてしまう。何とかソレっぽい話で月火チャンを納得させようとするのだが、…ドタバタ劇の後は無間地獄(笑)。

三話とも、前作を読んでいないと解らない内容だらけ。ファンサービスのような本。心の闇という陰鬱なテーマと、軽妙なお化け話が適度にちりばめられた娯楽本としては良いかも知れません。

・  ・  ・  ・  ・

何度も完結している筈の本シリーズでまた新刊が出た経緯を愚考すると:
  • 現在ファイナルシーズンのTVアニメ放送中
  • ファーストシーズンの未放送分(『傷物語』)の映画化(2016年1月~公開予定)
といった大人の事情があり、メディアミックス戦略上、新刊を出さない訳には行かなかったのかも知れません。

作者の西尾さん、ここ暫くは「忘却探偵シリーズ」執筆で超多忙な筈なのですが、旧シリーズの続編も並行して書かなければならないとは…。本作に続いて、シリーズ20冊目「業物語」の出版も発表されています。売れっ子作家というのも相当シンドそうですね(作者の西尾さん、昔は売れないことを自虐ネタとして作品中に盛り込んでいた位なのですけどねぇ)。西尾さん、現在三十代半ばで体力的には暫くは大丈夫だとは思いますが、メディアに酷使され過ぎないことを祈ります。

・  ・  ・  ・  ・

◆既刊リスト
①「化物語(上)」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062836025/> (2006/11/1)
②「化物語(下)」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062836076/> (2006/12/4)
③「傷物語」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062836637/> (2008/5/8)
④「偽物語(上)」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062836793/> (2008/9/2)
⑤「偽物語(下)」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062837021/> (2009/6/11)
⑥「猫物語(黒)」 <http://www.amazon.co.jp/dp/406283748X/> (2010/7/29)
・セカンドシーズン
⑦「猫物語(白)」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062837587/> (2010/10/27)
⑧「傾物語」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062837676/> (2010/12/25)
⑨「花物語」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062837714/> (2011/3/30)
⑩「囮物語」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062837765/> (2011/6/29)
⑪「鬼物語」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062837811/> (2011/9/29)
⑫「恋物語」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062837927/> (2011/12/21)
・ファイナルシーズン
⑬「憑物語」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062838125/> (2012/9/27)
⑭「暦物語」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062838370/> (2013/05/20)
⑮「終物語(上)」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062838575/> (2013/10/22)
⑯「終物語(中)」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062838613/> (2014/1/29)
⑰「終物語(下)」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062838680/> (2014/4/2)
⑱「続・終物語」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062838788/> (2014/9/18)
・オフシーズン
⑲「愚物語」 <http://www.amazon.co.jp/dp/4062838893/> (2015/10/6)
⑳「業物語」【未刊】

この各冊が文字量多め。文庫本で言えば350~400ページ程度の少し厚めの文字量(言葉遊びが多い作者なので、その分は割り引いて考えても良いのですが)。これを10年足らずで20冊書いていると思うと、驚嘆すべき多作ですね!

◆拙書評
①~⑭ <http://yuubookreview.blogspot.jp/2013/08/blog-post_16.html>
①~⑭(再読) <http://yuubookreview.blogspot.jp/2013/09/blog-post.html>
⑮ <http://yuubookreview.blogspot.jp/2014/02/vofan.html>
⑯ <http://yuubookreview.blogspot.jp/2014/03/vofan.html>
⑰ <http://yuubookreview.blogspot.jp/2014/04/vofan.html>
⑱ <http://yuubookreview.blogspot.jp/2014/11/vofan.html>

2015年11月21日土曜日

小山 宙哉(著) 「宇宙兄弟(27)」 (コミック)


小山 宙哉(著)「宇宙兄弟(27)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4063885232/>
コミック: 208ページ
出版社: 講談社 (2015/11/20)
言語: 日本語
ISBN-10: 4063885232
ISBN-13: 978-4063885231
発売日: 2015/11/20

[書評] ★★★★☆

ハイ、表紙からも分かる通り、ヒロイン・伊東せりかチャンに事件の起こる巻。

月面に到着した主人公・南波六太(ムッタ)。月面最初のミッションは、月面着陸・移動モジュールの可動部に詰まってしまったレゴリス(月の砂)の掃除という、予定外の地味な作業。そんな折、同じタイミングでISS (国際宇宙ステーション)で無重力環境実験を進めていたヒロイン・伊東せりかチャンに黒い影が迫る。せりかチャンに恨みを持つ某氏が、根も葉も無い話をネットに流し、大炎上…。JAXA(宇宙航空研究開発機構)や文科省に対するバッシングまで始まり、とうとう政治家(文科大臣)まで動き出す…。

ひどい話だが、ネット時代(つまり2015年の今現在)、充分に起り得る話だ(実社会の方でも近年色々な「炎上」が起きていますね)。国や企業の苦情窓口関係者やCSR担当者には、本作に登場する文科大臣のダメダメな対応っぷりを反面教師にして欲しい。(このエピソードで、作者・小山さんが、保身や言い訳に走って大事なことを見落としている政治家に対して、色々と不満を抱いていることもよく分かる。)

近未来SFストーリーのはずが、妙に、CSR(企業の社会的責任)、コンプライアンス(法令順守)、コーポレートガバナンス等を含めたリスクマネジメントや、モンスタークレイマーの問題といった、今の世相を反映しているようで、チョットお気楽には読めなかった(そういう意味では大人向けのコミックと言える)。特に本巻では、ネット上の情報のあり方や、個人や組織がそれらをどう捉え、どう処理すべきかを考えさせられる作品。

・  ・  ・  ・  ・

…というか。最近の現実社会の方では、謂われのあるクレーム(企業の不祥事)やその経過(制裁金とか行政処分とか)といったニュースが目白押しで(その企業の下請けや部材納入業者まで株価が暴落する等の大きな影響が出ています)、比較的平穏・日常的なニュースが吹き飛んでいるような…。

2015年11月15日日曜日

池上 彰「超訳 日本国憲法」


池上 彰「超訳 日本国憲法」(新潮新書、2015/4/17)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4106106132/>
新書: 256ページ
出版社: 新潮社 (2015/4/17)
言語: 日本語
ISBN-10: 4106106132
ISBN-13: 978-4106106132
発売日: 2015/4/17

[書評] ★★★★★

日本国憲法の全文の説明、必要に応じて憲法の成立過程についても説明する本。常人には解かり難い法律文書を、現代日本語として解り易く「超訳」してくれる。

過去にも憲法の一部(たとえば基本的人権、参政権、教育の義務、等々)について個別に解説する文献はあったが、憲法前文も含めた全文について解説した本は(少なくとも一般人が買うような本には)無かったのではないだろうか。しかも内容は必要にしてかつ充分、(チョットした薀蓄を除けば)余計な内容が殆ど無いのが良い。それでありながら、憲法に規定されていないけど重要な法律については必要箇所だけ引用して補足しており、憲法に対する理解がより深まるという作りになっているのが非常に良い。

新書で200頁少々、文章量は文庫本の半分位。読むのが速い人なら通学・通勤の1往復の間に読み終えられる位。今という時代だからこそ、こういう本を読むことは大切だと思う。

・  ・  ・  ・  ・

オマケに北朝鮮・中国・米国の憲法の冒頭部が出てきて日本国憲法との成り立ちの違いが分かるように書かれている。北朝鮮や中国に「憲法」が存在していたこと自体ビックリものだが、その内容にはもっとビックリだ。…が、どうビックリなのかは、是非本書を読んで欲しい。

2015年11月8日日曜日

池上 彰「知らないと恥をかく世界の大問題 (6) 21世紀の曲がり角。世界はどこへ向かうのか?」


池上 彰「知らないと恥をかく世界の大問題 (6) 21世紀の曲がり角。世界はどこへ向かうのか?」<http://www.amazon.co.jp/dp/4040820150/>
新書: 284ページ
出版社: KADOKAWA/角川マガジンズ (2015/5/10)
言語: 日本語
ISBN-10: 4040820150
ISBN-13: 978-4040820156
発売日: 2015/5/10

[書評] ★★★★☆

以前上司だった人に薦められて読んでみた本。

さて、池上氏はNHKキャスターを卒業した後、ジャーナリストとして活躍されている人で、現在は東京工業大学の教授も務めている。…などという説明は不要だろうが、この人の解説はTVでも文章でも解り易いことで定評がある。

さて、本書。発行が今年5月で、その後「安全保障法案」(一部の人から「戦争法案」などとも言われた)が成立する等、内容が少し古くなってしまっているが、考え方としては充分生きていると思う。その内容だが、
 ・安全保障問題
 ・中国、北朝鮮との諸問題
 ・改憲(特に憲法9条)
 ・ISIL
等を中心として、世界情勢を分析し、日本は今後どのような道をとるべきかについてのヒントが多い。特に、米国が衰退しつつある今という時代、日本が世界で生き残るためにどうすべきか考える上で重要な指針(考えるべきポイント)を示してくれる。非常にわかりやすい。社会人は勿論、高校生や大学生(で政治になんか興味がないよという人)にもオススメできる。

著者・池上氏は、元外交官・佐藤優氏との共著「新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方」(Amazon拙書評)等でやや右寄りな発言をしていたと思うのだが、本書では安全保障問題や改憲については慎重な意見だ。また、戦後の歴史認識について近年右寄りの人たちから、敗戦の条件が間違っていたとか極東裁判自体に正統性が無かったといった意見が出ているが、本書では「そういった諸々の事も含めて降伏文書に署名したのだから、今さら“ちゃぶ台返し”は無しですよ」と釘を刺す。この辺りにも好感を持てた。

2015年11月1日日曜日

オリバー・ストーン&ピーター・カズニック「オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史」(文庫版全3冊)

オリバー・ストーン&ピーター・カズニック「オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史」(文庫版全3冊)

[書評] ★★★★☆

『プラトーン』、『7月4日に生まれて』等でアメリカ合衆国の標榜する「正義」への疑いを世間に問うた映画監督、オリバー・ストーンによる大作。アメリカ史修正主義(批判的な観点から歴史を論じる)の大家、アメリカン大学のピーター・カズニック教授の協力を得て書かれた著作。映像作品と書籍の二本立てで作られた作品で、テレビ番組シリーズは日本でも放送されたので、記憶している人も少なくないだろう。

さて、本書。一言で言えば、アメリカ人によるアメリカ史の訂正及び批判(自虐史観とも言える)。新聞等や最近機密解除された情報も含め、参照文献2,000点以上(インタビュー数も同じくらい多い)という大プロジェクトを敢行して書かれた大作。

全体として:
  1. 個人の自由と権利を重視する、キリスト教的視点・西洋的視点中心なモノサシでしか書かれていない点は否めない。ムスリム等の宗教観や異なる社会文化など異質な価値観も認めると、もっと違う見方も出来るのではないか? アメリカ人的「幸福感」「正義感」という狭い窓からしか世界を見ておらず、そのアメリカ人的価値観を(アメリカ人以外の)読者に押し付けているという意味では、アメリカの外交政策と似たり寄ったりである(苦笑)。
  2. 内容に左寄り(そして親中)の傾向あり。特に近年の中国の膨張傾向に対するアメリカの姿勢(軍事体制・経済政策)を強く批判している。アメリカの外交政策にも色々と問題はあるだろうが、「転ばぬ先の杖」としての軍事力(使わないに越したことはないが存在しなければ抑止力にならない)や国際経済政策は認めるべきではないだろうか。
  3. 翻訳の質や表記法が統一されておらず、日本語として読みにくい箇所がある(英語の論理構造のままでマトモな日本語になっていない箇所がある)。特に、JFKの章(第7章)は本書のハイライトの1つだと思うのだが、ここで誤訳が目立つのは残念。
…と、原作には多少の偏向があり、また翻訳の質について一部問題はあるものの、アメリカ(を中心とした占領軍)により作られた社会体制の日本に住む人間として、是非読んでおきたいアメリカ近現代史。

◆日本人として読むべきポイント:
  • アメリカ人が主張する「正義」を批判的な目で見たアメリカ史
    • アメリカの軍事力は「世界の警察官」だったことは無く(「警察官」という表現自体がアメリカの戦争を正当化するレトリックに過ぎないが)、米西戦争以降一貫して「米国富裕層が搾取するために手足となって働くギャング」だった。被搾取階級としてアメリカ国内の中間層~貧困層だけでは飽き足らず、中南米や東・東南アジアからも富を搾取する為に帝国主義的膨張を推し進めた。共産主義と戦ったがこれもアメリカ帝国を維持し搾取出来る国を維持する為である。
    • 中東と中央アジアからは石油や鉱物資源を搾取する為に戦争を起こし、結果として戦争以前より状況を悪化させ混沌を作ってしまった。イスラエル・パレスチナ問題とイスラム教諸国における諸問題は、民族間・宗派間抗争の問題もあり、冷戦の構造にうまく嵌らない複雑な問題だが、アメリカがキッカケとなって状況を悪くした例が多い。
    • アメリカは常に敵を持ち、これに対抗して行かないと存続できない国のようだ。他国の政治・経済に介入し、ひっきりなしに戦争を起こしていることが「当り前」になってしまっている恐るべき国家。
      ⇒以上から、近年アメリカが衰退し始めたのは、冷戦終結に始まる世界情勢の変化により、アメリカが搾取することの出来る新たな領域が無くなってしまったからではないか?と見ることも出来る。
  • 核戦争による世界滅亡を免れた「奇跡」としての世界史
    • ケネディもレーガンも暴走しないだけの冷静さは持っていたが、世界を滅亡させない為の懸命の努力をしたのは、フルシチョフでありゴルバチョフである。このソ連指導者2名は、自身の政治生命を守ることよりも国民と国土そして人の住む地球を滅ぼさないことを優先した結果失脚したが、人類にとって賢明かつ適切な判断であった。
    • 朝鮮戦争、ベトナム戦争、カンボジア、ラオス、…これらの戦争において、アメリカの指導者が核兵器を用いる気満々で、賢明な視点を持った人の努力と偶然により、核戦争に至らずに済んだことがよくわかる。
    • キューバ危機に関する記述は秀逸(2巻・第7章「JFKとキューバ危機」)。近年機密解除された文書を参照したこともあるのだろうが、映画『13デイズ』の描写以上に崖っ淵に立たされた状態だったことがわかる。現在世界がこのように存在していること自体奇跡だ。
  • 現代日本人として読んでおくべきアメリカ現代史
    • 戦後日本が連合国(米国)の統治下で何をされたか、日本が主権を回復した後もどれだけ米国に苦役を強いられて来たか、日本国民として知っておくべきだろう(日本国民は戦後GHQにより進められたWGIPという“洗脳”政策からいい加減脱しても良いのではないか?)。
    • 「格差先進国」米国の愚策とその結果から、日本の取るべき道を考えることが出来る。
      ⇒安倍政権の経済政策には疑義を禁じ得ない。「国の競争力を上げるため」と称して導入したホワイトカラー・エグゼンプションと女性活用政策だが、裏を返せば、長時間労働し女性も働かないと家計が持たない社会にすることを前提とした政策だ。国の競争力充実という意味では、庶民を馬車馬の如く働かせることよりも、教育の充実と国内産業の保護・育成といった政策が重要な筈だ(どう贔屓目に見ても、これらの重要テーマはおざなりにされている;選挙とか任期とかのある民主主義体制において、任期よりも長期にわたる政策というのは立て難いのかも知れないが、そういう観点で政治を行って貰わないと、本当に日本は沈没すると思う)。
      • 教育の充実は、①中間層以下も労働力としてレベルアップする、②親の資産格差→子供の教育格差→子供の資産格差、という格差の相続を押しとどめるのに重要。
      • 保護育成すべき国内産業政策としては特に、食糧安全保障に関わる農業と、エネルギー安全保障に関わる電力政策及び新エネルギーの振興政策を挙げておきたい。
    • 資本主義経済・民主主義体制の限界と、近年日本でも見られる新自由主義(ネオコン)的政策の危険性について知り、国民(と関係各国の国民)を幸せにすることの出来る政治とはどんなものかを考えるヒントになる(北欧で比較的うまく機能している方法を日本流に取り込むのはどうだろうか)。
◆内容(目次)紹介

 第1巻 2つの世界大戦と原爆投下
  序章 帝国のルーツ ―― 「戦争はあこぎな商売」
  第1章 第一次世界大戦 ―― ウィルソンvsレーニン
  第2章 ニュー・ディール ―― 「私は彼らの憎しみを喜んで受け入れる」
  第3章 第二次世界大戦 ―― 誰がドイツを打ち破ったのか?
  第4章 原子爆弾 ―― 凡人の悲劇
 第2巻 ケネディと世界存亡の危機
  第5章 冷戦 ―― 始めたのは誰か?
  第6章 アイゼンハワー ―― 高まる軍事的緊張
  第7章 JFK ―― 「人類史上、最も危険な瞬間」
  第8章 LBJ ―― 道を見失った帝国
  第9章 ニクソンとキッシンジャー ―― 「狂人」と「サイコパス」
 第3巻 帝国の緩やかな黄昏
  第10章 デタントの崩壊 ―― 真昼の暗黒
  第11章 レーガン時代 ―― 民主主義の暗殺
  第12章 冷戦の終結 ―― 機会の逸失
  第13章 ブッシュ=チェイニー体制の瓦解 ―― 「イラクでは地獄の門が開いている」
  第14章 オバマ ―― 傷ついた帝国の運営

◆以下書籍情報


オリバー・ストーン&ピーター・カズニック(著)、大田 直子ほか(翻訳)「オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史 1: 2つの世界大戦と原爆投下」(ハヤカワ・ノンフィクション文庫、2015/7/23)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4150504393/>
文庫: 440ページ
出版社: 早川書房 (2015/7/23)
言語: 日本語
ISBN-10: 4150504393
ISBN-13: 978-4150504397
発売日: 2015/7/23


オリバー・ストーン&ピーター・カズニック(著), 熊谷 玲美ほか(翻訳)「オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史 2: ケネディと世界存亡の危機」(ハヤカワ・ノンフィクション文庫、2015/7/23)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4150504407/>
文庫: 472ページ
出版社: 早川書房 (2015/7/23)
言語: 日本語
ISBN-10: 4150504407
ISBN-13: 978-4150504403
発売日: 2015/7/23


オリバー・ストーン&ピーター・カズニック(著), 金子 浩ほか(翻訳)「オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史 3: 帝国の緩やかな黄昏」(ハヤカワ・ノンフィクション文庫、2015/7/23)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4150504415/>
文庫: 549ページ
出版社: 早川書房 (2015/7/23)
言語: 日本語
ISBN-10: 4150504415
ISBN-13: 978-4150504410
発売日: 2015/7/23

2015年10月25日日曜日

松田卓也「2045年問題 コンピュータが人類を超える日」


松田卓也「2045年問題 コンピュータが人類を超える日」(廣済堂出版、2012/12/22)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4331516830/>
新書: 223ページ
出版社: 廣済堂出版 (2012/12/22)
言語: 日本語
ISBN-10: 4331516830
ISBN-13: 978-4331516836
発売日: 2012/12/22

[書評] ★★★★☆

コンピュータの進歩の先に何が待っているのか? 未来はバラ色なのか? コンピュータの「知性」が人間の知性を超えると考えられる2045年。これ以降はコンピュータはコンピュータによって作られるようになり、どのような世の中になるかは人間の知性で推し測ることは出来なくなるという「2045年問題」。これらについて平易に説明する本。

このテーマ(技術的特異点)については、レイ・カーツワイル氏の『ポスト・ヒューマン誕生』という大著がある。が、これは難しい本だ(苦笑)。本書は分量も少なく(新書・220ページ)、内容も平易。2時間もあれば読み切れる。

導入部分は『2001年宇宙の旅』『攻殻機動隊』『ターミネーター』『マトリックス』等のSF映画を参照しつつ、コンピュータと人間社会の未来について解かり易く説明する。その上で、以下を説く。
  • 人工知能(AI)研究の重要性 …日本は1982年の「第5世代コンピュータ・プロジェクト」で大失敗してからAI研究には及び腰だが、欧米は積極的に取り組んでいる(第5世代~の時と比較しても桁違いの規模)。情報を制する者が世界を制するのと釘を差している。
  • コンピュータが感情を持つことの危険性(カーツワイル氏は楽観的だが、松田氏は悲観的)
  • 情報格差が経済の格差に帰着する。個人が情報社会で脱落しない為には、コンピュータを使う技能と英語力が重要(英語が使えれば情報収集能力が10倍になる!)。iTunes UやKhan Academyの無料コンテンツで勉強する、ひとつ上のオタクになりましょうと提案。
  • 21世紀半ば~後半に人類の文明の発達が止まるという予想がある(デニス・メドウズ、ヨルゲン・ランダース『成長の限界』)。化石燃料等の再生不可能資源に立脚した科学技術文明が停滞~崩壊する前に、科学文明を次のフェーズに進めなければ本当に文明が崩壊する可能性があるが、残された時間は少ないかも知れない。ここでもコンピュータとAIがキーになる。
カーツワイル氏の「特異点」、あるいは「2045年問題」について手っ取り早く読めるイントロ本としても良いし、今後コンピュータ・AIがどのような物になるのかを占う本として面白い。オススメ。

・  ・  ・  ・  ・

参考図書:

2015年10月18日日曜日

玉井 雪雄(著)「じこまん~自己漫~ (3)完」(コミック)

玉井 雪雄(著)「じこまん~自己漫~ (3)完」(コミック)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4537133066/>
コミック: 160ページ
出版社: 日本文芸社 (2015/6/29)
言語: 日本語
ISBN-10: 4537133066
ISBN-13: 978-4537133066
発売日: 2015/6/29

[書評] ★★☆☆☆

2巻発売から1年半近く経っての3巻発売だったので、チェックが遅れました。中年サイクリストとして「あるある」な話が多く共感できる箇所は多いが、役立ちそうな情報はヘヴィー・ダイエット時の食事メニューとか、低糖質生活をしている時の注意点くらい(これらについてもキチンとした情報源に当った方が良いのは言うまでもない/笑)

本巻でのメイン話は、アメリカの自転車イベント「デス・ライド」に出るまでと、出てからの話。忙しかったとかあるのだろうが、ネガティブな話にはちょっと辟易とさせられる。出場後も言い訳めいた記述がチラホラ…。読んでいてあまり楽しくない。唯一の救いが、筆者の御嬢さんが自転車に乗れるようになり、サイクリングの楽しみを知ったという話くらいかなぁ。

1~2巻を読んだ人が惰性で読んでしまう(かも知れない)本。そうでない人は全然面白くないだろうな~(笑)。

・  ・  ・  ・  ・

既刊:

2015年10月12日月曜日

ウォルター・ルーウィン「MIT白熱教室」(DVD 5枚セット)


ウォルター・ルーウィン (出演) 「MIT白熱教室」(DVD 5枚セット)
<http://www.amazon.co.jp/dp/B00BUBZPY4/>
出演: ウォルター・ルーウィン
言語: 英語・日本語(吹き替えトラック有)、字幕: 日本語, 英語
ディスク枚数: 5
販売元: NHKエンタープライズ
発売日 2013/05/29
ASIN: B00BUBZPY4
EAN: 4988005766458

[評価] ★★★★☆

先日「トマ・ピケティ パリ白熱教室」のDVDセットを観た勢いで、同じNHKから出された“白熱教室”シリーズの理系編も(久しぶりに)観た。

本作品は、MIT(米国・マサチューセッツ工科大学)のウォルター・ルーウィン教授による一般向けの物理学の講義。MITに入学できるような優秀な学生でなくても充分理解出来るよう、よく噛み砕かれた講義となっている。その内容は以下の通り:
  • 第1回 ガリレオは本当に正しいのか? ~重力とエネルギー保存の法則~
  • 第2回 電車でジャンプしてもそのまま着地する理由
  • 第3回 電気はどうやって作るのか?
  • 第4回 空はなぜ青く夕焼けはなぜ赤いのか?
  • 第5回 完璧な虹を見る方法
  • 第6回 音に秘められた驚きのパワー
  • 第7回 神はサイコロを振らないのか? ~量子力学と不確定性原理~
  • 第8回 星はどう生まれ、どう死ぬのか
  • ウォルター・ルーウィン教授スペシャル・インタビュー
学問が日常生活や仕事に役立つかどうかなんて野暮なことは抜きに、純粋に物理学って面白い!と思わせる内容。日米で高校の教程に違いがあるので、第1~3回は日本では高校生レベル。第4回位からは大学レベルだが、難解な数式は極力使わず、よく工夫された実験が多い(見ているだけでも楽しい)。第7回の量子力学・不確定性原理はチョット難しいかも知れないが、子供の頃に雑誌「ニュートン」を見て(難しい理論とか全然理解できないながらも)ワクワクしたのを思い出す。子供に広く興味を持ってもらうための教材として多くの親御さんにお薦め出来ると思う。

ただ、日本語字幕・日本語音声に所々誤訳(?)があるようなので、出来れば英語音声で観て欲しい(ルーウィン教授の発音は聴き取りやすいが、場合によっては英語字幕を活用しよう)

個人的には、スペシャル・インタビューで、ルーウィン教授が
  • 研究者としての喜び…学問の発展に貢献出来たこと
  • 教育者としての喜び…世界を見る視点を変えることを通して、人々の人生を良くすることに貢献しているのを実感出来ていること
の両方に言及しているのが印象的だった。

2015年10月4日日曜日

「トマ・ピケティ パリ白熱教室」(DVD全3枚セット)


「トマ・ピケティ パリ白熱教室」(DVD全3枚セット)
<http://www.amazon.co.jp/dp/B00UMP7W6I/>
出演: パリ経済学校(PSE) トマ・ピケティ教授
販売元: NHKエンタープライズ
ASIN: B00UMP7W6I
EAN: 4988066210600

[評価] ★★★★★

一世を風靡したトマ・ピケティの「21世紀の資本」(2014/12/9)だが、大きめの本で700ページ以上ある(文字も小さい)。ちょっと読む気になれないな~と思っていたら、NHKの「白熱教室」シリーズでDVDが出されたので、観るだけなら読むより楽だろうと(笑)買ったのがコレ。

内容は明確でわかりやすい。「21世紀の資本」のエッセンスを知るだけなら、このDVDで充分かもしれない。
  • 資産格差の時代変遷 … 2度の大戦→資産の破壊→1940~1970年の間は資産の相続は少なかったが、1990年以降は資産の相続が再度増えており、19世紀までと同様に資産と教育レベルが相続されてしまっている。
  • 格差を拡大するスケールメリット(規模の経済) … 資産にもスケールメリットがあり、大きな資産の方が大きなリターンが得られる構図は昔も今も同じ(これも格差の拡大を加速する)。
  • 資産格差⇔教育格差 … 日本でも何年も前から、子供の教育レベルは親の収入によって大きく異なり、格差が拡大する方向にあると言われてきたが、全世界の膨大なデータ(先進国から途上国まで)でそれを裏づけた形である。
格差是正のための方策として、所得と資産に対する累進課税が挙げられている。
  • 所得と資産に対する累進課税→過去に(所得税を収めながら)苦労して蓄えた資産に対しても課税? 相続に対して課税するのは理解できたとしても、本人の貯蓄に対して課税するのは? 努力が報われない社会が理想なのか?
格差是正には痛みも伴うということのようである。


パリ経済大学(フランス)での講義だが、使用言語は英語。各回の冒頭部でピケティ教授の生の声が聴けるが(日本語字幕あり)、フランス訛りが強い英語。なお、本編は日本語吹き替え。

◆関連図書:
  • ロバート・ライシュ「暴走する資本主義」(東洋経済新報社、2008/6/13、Amazon拙書評)
  • ロバート・ライシュ「格差と民主主義」(東洋経済新報社、2014/11/21、Amazon拙書評)
  • ノーム・チョムスキー「アメリカを占拠せよ! 」(筑摩書房、2012/10/9、Amazon拙書評)
  • 水野和夫「資本主義の終焉と歴史の危機」(集英社新書、2014/3/14、Amazon拙書評)
  • トマ・ピケティ「21世紀の資本」(みすず書房、2014/12/9、Amazon)

これは「21世紀の資本」
本棚の肥やしになっています(笑)。

2015年9月26日土曜日

塩野 七生 「コンスタンティノープルの陥落」


塩野 七生 「コンスタンティノープルの陥落」(新潮文庫、1991/4/29)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4101181039/>
文庫: 291ページ
出版社: 新潮社; 改版 (1991/4/29)
言語: 日本語
ISBN-10: 4101181039
ISBN-13: 978-4101181035
発売日: 1991/4/29

[書評] ★★★★☆

歴史小説『東ローマ帝国の最期』。

ローマ帝国(B.C.27-)から分割統治されて成立した東ローマ帝国(ビザンチン帝国、A.D.395-1453)だが、15世紀には首都コンスタンチノープル(現在のイスタンブールの旧市街エリア)のみを残す弱小都市国家になってしまっていた。周囲をオスマン帝国の勢力圏に囲まれ、キリスト教(ギリシア正教)の国家としては離れ小島のような状態。オスマン帝国のスルタン(皇帝)がモハメッド二世に代替わりして間もなく、攻め落とされてしまう。

洋の東西の出会う場所で、地理的にも要衝であるイスタンブールの歴史と国家の変遷の中でも一大ドラマである。長らくキリスト教国家だったエリアがイスラーム世界に呑み込まれた激動の歴史。オスマン・トルコはその後勢力を伸ばすが、第一次世界大戦で敗戦して西欧列強によって占領・解体され、その後、トルコ独立戦争(1919)~トルコ共和国成立(1923)という歴史を考えると、遠いようで実は近い歴史だ

最近、高橋由佳利さんの漫画「トルコで私も考えた」を読んだこともあり(Amazon拙書評)、非常に興味深く読めた。それに、本書の塩野節(?)も味わい深く、ナカナカ良かった。塩野氏の著作は本書の他にも古代~中世ヨーロッパに関する作品が多いようだが、機会があったら他の作品も読んでみようと思う。

2015年9月23日水曜日

高橋 由佳利 「トルコで私も考えた」(文庫版コミック既刊×5冊)

高橋 由佳利 「トルコで私も考えた」(文庫版コミック×5冊)

[書評] ★★★★★

アジアとヨーロッパの境目。イスラム教と他の宗教の境目(でも民族も言語もアラブやペルシャとは違う)。親日国。…そんなトルコに旅行して、人々と文化に惹かれ、現地の男性と結婚し、今は日本は神戸でトルコ料理店の女将をやっているという著者によるトルコ紀行記・エッセイ漫画。

有名な作品なので紹介するまでもないかも知れないが、とにかく、メチャクチャ面白い!

トルコの人が日本・日本人に抱くイメージや、トルコと日本との文化のギャップをユーモアたっぷりに描き出す。何にでもオチをつけたがる著者のサービスっぷりもたまらないが、たぶん日常の行動もサービス精神旺盛な人なのだろう。その著者の性格がトルコの人々にも好かれ、現地の人たちと“相思相愛”になれたのだと思う。

難点は、コミックサイズでも小さかったであろう文字がさらに小さくなってしまっていること。それと、トルコ料理を(特に家庭料理について)多くのページが割かれているので、読んでいるだけで腹が減る。ダイエッターの敵だ!?(謎)

某ビジネス誌(お堅い物)で高く評価されていたので、つい手に取った本だったが、予想以上に面白かった。たぶん、この漫画をキッカケにトルコに行ってみたり、トルコ語を学び始めたりした人が多いことだろう。
  • トルコ語は、日本語は文法が似ているらしい。日常会話に必要な単語(昔からある表現)は気合で覚えるしかなさそうだが、近代以降に現れた物を表す単語の多くはドイツ語かラテン系言語が語源のようなので憶えやそうだ(←綴りを見ると外来語だとわかる)。20~30年前は「中国語だ!」「いや、スペイン語だ!」と云われたものだが、今学んで実用的な言語は「トルコ語!」と「アラビア語!」あたりかも知れない(もう遅いってか?/笑)。
それにしても麻薬的な面白さ。寝不足に要注意だ!(笑) ちなみに、コミック版6冊目「トルコ料理屋編」は既刊だが、著者の旦那様の経営するお店のブログによると
  • 先日、「トルコで私も考えた・トルコ料理屋編」の文庫版の打ち合わせ…
とのこと(2015/08/28付)。遠からず文庫版も出るはず。楽しみだ。

・  ・  ・  ・  ・

以下書籍情報:


高橋 由佳利(著)「トルコで私も考えた―トルコ入門編」(集英社文庫、2012/8/17)
<http://www.amazon.co.jp/dp/408619340X/>
文庫: 209ページ
出版社: 集英社 (2012/8/17)
言語: 日本語
ISBN-10: 408619340X
ISBN-13: 978-4086193405
発売日: 2012/8/17


高橋 由佳利(著)「トルコで私も考えた―トルコ嫁入り編」(集英社文庫、2012/9/14)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4086193418/>
文庫: 227ページ
出版社: 集英社 (2012/9/14)
言語: 日本語
ISBN-10: 4086193418
ISBN-13: 978-4086193412
発売日: 2012/9/14


高橋 由佳利(著)「トルコで私も考えた―トルコ日常編」(集英社文庫、2012/12/18)
<http://www.amazon.co.jp/dp/408619404X/>
文庫: 204ページ
出版社: 集英社 (2012/12/18)
言語: 日本語
ISBN-10: 408619404X
ISBN-13: 978-4086194044
発売日: 2012/12/18


高橋 由佳利(著)「トルコで私も考えた―トルコもっと日常編」(集英社文庫、2013/1/18)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4086194058/>
文庫: 214ページ
出版社: 集英社 (2013/1/18)
言語: 日本語
ISBN-10: 4086194058
ISBN-13: 978-4086194051
発売日: 2013/1/18


高橋 由佳利(著)「トルコで私も考えた―トルコ21世紀編」(集英社文庫、2013/4/18)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4086194236/>
文庫: 208ページ
出版社: 集英社 (2013/4/18)
言語: 日本語
ISBN-10: 4086194236
ISBN-13: 978-4086194235
発売日: 2013/4/18

2015年9月19日土曜日

安生 正「ゼロの迎撃」


安生 正「ゼロの迎撃」(宝島社文庫、2015/3/5)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4800238226/>
文庫: 498ページ
出版社: 宝島社 (2015/3/5)
言語: 日本語
ISBN-10: 4800238226
ISBN-13: 978-4800238221
発売日: 2015/3/5

[書評] ★★★★★

前著(『生存者ゼロ』、Amazon拙書評)と一緒に、某書店(実店舗)の「人気」コーナーに平積みされていのをつい手に取った作品。

日本の首都・東京で起こるテロを題材にした軍事ミステリー。「雨爆弾」による人工降雨と治水施設へのテロによる人工水害がテーマ。最近日本でも(これは天災ではあるが)河川の決壊により甚大な被害が出ており、そういう意味でも(悪い意味で)タイムリーな作品。

文句無しに面白い。自衛隊がその存在自体に抱える矛盾、仕事では優秀な人にも色々抱えた問題があること、等がリアリティを増している。さらに、任務遂行の上でジレンマを突きつけられ苦悩する姿など、生身の人間として共感できる点も多い。実戦経験が無い自衛官が悲惨な被害を見て命令拒否をし始めたのに対し、首相が行うスピーチは胸を打つ(日本の政治家にこれだけの行動・発言をとれる人がどれ位いるだろうか?)。安全保障がホットな話題の今、多くの人に考えて欲しいテーマであったりもする。

本書で、気懸かりなのが、一般向け作品に日本の首都圏の弱点を曝け出してしまっている点だ(これがリアリティをアップさせているのは確かなのだが)。大陸の某国は本書に書かれたような弱点は既に研究し尽くしていると思われるし、この弱点については日本側でも十分対策は打っていると考えるが、規模やエリアの違うテロの可能性が否定できない。

かつてトム・クランシー著『日米開戦』(1995/11、原著“Debt of Honour”1995/8)の記述が、その後に起きた2001年9月11日同時多発テロを遂行する上で大いに参考にされたに違いないことを考えると、本書もまた悪い意味で世界の歴史を動かした小説とはならないよう願うほかない。

・  ・  ・  ・  ・

以下、『日米開戦』関連リンク:

2015年9月16日水曜日

安生 正「生存者ゼロ」


安生 正「生存者ゼロ」(宝島社文庫、2014/2/6)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4800222915/>
文庫: 491ページ
出版社: 宝島社 (2014/2/6)
言語: 日本語
ISBN-10: 4800222915
ISBN-13: 978-4800222916
発売日: 2014/2/6

[書評] ★★★☆☆

某書店(実店舗)の「人気」コーナーに平積みされていのをつい手に取った本。

根室沖海上の石油掘削ステーションで発生した“事故”をキッカケとしたバイオ(かつミリタリーな)・サスペンス。

自衛隊の組織に関するリアリティは半端ではなく、それだけでも読ませる(最近のミリタリー物でこの手のリアリティは珍しくなくなりつつあるが)。ただ、“バイオ”の方は作り物っぽさがどうしても否定できない。

移動中(電車・飛行機等)の時間つぶし用、気分転換用エンタメ本としては面白いが、何度も読む本でなさそう…。

2015年9月13日日曜日

村上 春樹「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド (上・下)」

 

村上 春樹(著)「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻」
<http://www.amazon.co.jp/dp/410100157X/>
ペーパーバック: 471ページ
出版社: 新潮社; 新装版 (2010/4/8)
言語: 日本語
ISBN-10: 410100157X
ISBN-13: 978-4101001579
発売日: 2010/4/8

村上 春樹(著)「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4101001588/>
ペーパーバック: 410ページ
出版社: 新潮社; 新装版 (2010/4/8)
言語: 日本語
ISBN-10: 4101001588
ISBN-13: 978-4101001586
発売日: 2010/4/8

[書評] ★★★★★

先日『職業としての小説家』<http://www.amazon.co.jp/dp/4884184432/>を出したばかりの村上氏だが、今日は村上氏のちょい昔の本を。

さて、本書。「ハードボイルド・ワンダーランド」と「世界の終り」との二つのSFストーリーが交互に描かれた、ちょっと不思議な小説。1985(昭和60)年初出の本だが、30年を経た今読んでも色褪せない面白さがある。「ハードボイルド・ワンダーランド」と「世界の終り」の二つの世界の関係につては、これを示唆するキーワードは早いうちから出てくるものの、最後まで読まないと決定的な繋がりがわからないという仕掛けがあり、つい二度読みしたくなる。

若い人よりも、ある程度社会経験を積んでから読んだ方が面白いだろう。生きることの意味、心とは何か、世界の不完全さ、…等々、色々なことを再考させられる。

良作。

2015年9月10日木曜日

佐々木 毅「民主主義という不思議な仕組み」


佐々木 毅(著)「民主主義という不思議な仕組み」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4480687653/>
新書: 174ページ
出版社: 筑摩書房 (2007/08)
ISBN-10: 4480687653
ISBN-13: 978-4480687654
発売日: 2007/08

[書評] ★★★☆☆

「民主主義」とは何か? その歴史と、長所・短所について平易に書かれた本(ルビの振り方等から、対象読者層は高校生位か?)。

20世紀に起こった全体主義・共産主義の実験社会を経て民主主義に至った歴史と、現在の民主主義の限界についての解説はよく解る。が、問題提起をする一方で、国民がどのようにマスメディアに接するべきか、政治指導者によって作られた(かも知れない)世論をどう捉えるべきか、といった視点に欠けている辺りが片手落ちだ(*)。…とケチを付けてしまったが:選挙時の投票以外にも、我々にできる市民行動の例が示されている点は評価できる。

そもそも民主主義って…?な人や、民主主義の限界を知りたい人にお薦めできる。

(*) こういう視点を求めるならば、例えば以下の本はお薦め。
  • 池上 彰・佐藤 優「新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方」(Amazon拙書評)

2015年9月6日日曜日

小山 宙哉 「宇宙兄弟(26)」 (コミック)


小山 宙哉(著)「宇宙兄弟(26)」(講談社・モーニングKC、2015/7/23)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4063884759/>
コミック: 208ページ
出版社: 講談社 (2015/7/23)
言語: 日本語
ISBN-10: 4063884759
ISBN-13: 978-4063884753
発売日: 2015/7/23

[書評] ★★★★☆

主人公・南波六太、前巻で月面ミッションでロケット発射!まででした。本巻ではとうとう月面着陸です。着陸はスムーズに…行かないのですが(まぁお約束ですね)、それをクリアした頃に、地球に残してきた恩人の身に重大時が!

読ませる1冊です。

ところで、この「宇宙兄弟」。人生訓のような名言が多いんですよね。気に入ったものを幾つか挙げておきます。
  • “真実”は見つけ出そうとするな 作り出せ」(21 巻、p. 25)
  • お前の役に立つ脳みそは1 個だけじゃねぇだろ 使える脳みそは――全部つかっとけ」(21 巻、p. 26)
  • ねえシャロン……この先また怖くなったりして“生きる意味”とかに迷っちゃってもさ 最後には必ず“生きる”ことを選んでよ 生きててほしいんだよ」(24 巻・p. 194)
  • 昔さ「人は何のために生きてるの?」――って シャロンにきいたの覚えてる? そん時シャロン こう答えてたよ 私が思うに――そんなつもりはなくても人はね――誰かに“生きる勇気”を与えるために生きてるのよ 誰かに――勇気をもらいながら」(24 巻・pp. 195-196)
  • さっきのはまあヒヤッとしたが…前を向いて行こう 大なり小なり宇宙でのトラブルは日常茶飯事だ」(26 巻・p. 152)

2015年9月5日土曜日

石塚 真一 「BLUE GIANT 6」 (コミック)


石塚 真一(著)「BLUE GIANT 6」(小学館・ビッグコミックススペシャル、2015/7/30)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4091872573/>
コミック: 208ページ
出版社: 小学館 (2015/7/30)
言語: 日本語
ISBN-10: 4091872573
ISBN-13: 978-4091872579
発売日: 2015/7/30

[書評] ★★★☆☆

主人公・宮本 大(ミヤモト ダイ)はサックスプレーヤー。プロのジャズミュージシャンになることを目指して、高校卒業後、単身東京に出てきた。ジャズバーや小屋に出入りして、腕に磨きをかける。前巻(Amazon拙書評)で衝撃の出会いをした、ピアニスト・雪祈(ユキノリ)。本巻では、大のルームメイト(正確には大が居候させて貰っている部屋の主)・玉田をドラマー(初心者)として加え、バンド活動を開始し、初ライブを行う。

今回の展開はちょっとビミョーかもです(超初心者の玉田君は本当にジャズドラムを叩けるのか?等、リアリティに乏しいというか…あ、でもこれは1巻から同じかも/笑)。でも、絵と文字だけで描かれた「コミック」という媒体なのに、読んでいると音が聴こえてくるような作風は相変わらず(これはスゲェ!と思う)。

最初の頃に比べるとちょっと作品の勢いが落ちているような気がするが、頑張って描き続けて欲しいですね。

アニタ・T・サリヴァン「ピアノと平均律の謎 -調律師が見た音の世界-」


アニタ・T・サリヴァン(著) 岡田作彦(訳)「ピアノと平均律の謎 -調律師が見た音の世界-」(白揚社2005/6/30)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4826901232/>
単行本: 143ページ
出版社: 白揚社; 新装版 (2005/07)
ISBN-10: 4826901232
ISBN-13: 978-4826901239
発売日: 2005/07

[書評] ★★★☆☆

音楽演奏(器楽演奏、歌唱)につきまとう純正律と平均律の話。ピアノは通常平均律で調律されるが、これは妥協の産物だという話。それと、調律師がどのように(純正律からずらして)平均律にピアノを調律しているかという話。フレットのある弦楽器(ギター、マンドリン等)も平均律だが、音叉とハーモニクスで調律する場合(音の間隔が純正律で決まる)にはハーモニクス音を少しずらす必要がある。この辺りは同じなんだな~とか、ちょっと興味深く読めた。

何故平均律が使われるようになったかという件については、16~19世紀の音楽に多様性が表れ始め、さまざまな調(キー)や曲中での転調に対応する為の妥協策だとのこと。ナルホド。

楽典とか、音楽と数の関係について興味ある人向け(私はこういう本は好きだ)。そうでない人には苦痛な本かも知れない。…という意味で5点満点中3点。

2015年8月22日土曜日

上念 司「経済で読み解く大東亜戦争」


上念 司(著)「経済で読み解く大東亜戦争」(ベストセラーズ、2015/1/24)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4584136157/>
単行本(ソフトカバー): 256ページ
出版社: ベストセラーズ (2015/1/24)
言語: 日本語
ISBN-10: 4584136157
ISBN-13: 978-4584136157
発売日: 2015/1/24

[書評] ★★★☆☆

第1次世界大戦~第2次世界大戦前後、日本がどうして中国での戦線拡大~対米開戦に突き進んで行ってしまったかを、経済政策とその失敗を中心に解説した本。
  • 第1次大戦後長引いていた不況により、国民の心が荒んでいった。
    • 人心が「諸問題を一挙に解決する」と称するアブナイ思想に染まり易くなって行った。
    • 大マスコミ(新聞)が人々を目覚めさせる記事は書かず、売れる記事すなわち人々が求めるアブナイ思想を広めてしまった。
  • 経済政策の失敗
    • 金本位制によるデフレ(貨幣発行量が増やせず産業の発展にブレーキをかけてしまう)→不況・国民生活の困窮。
  • コミンテルンの意を受けて行動した日本のエリートが、日米を交戦させることによって日本を滅ぼそうとした。コミンテルンは米国でも反日キャンペーンを張り、日米の衝突を加速した。
    • レーニンは日米を衝突させ、日本の国力が低下した戦争終末期に、日露中立条約を更新しないと一方的に通達し、終戦の数日前に(後出しジャンケンのようなタイミングで)参戦してきた。
    • 大陸(旧満州国)で敗戦を知った多数の邦人を拘留し、シベリア等で強制労働に駆り出した。
    • 北方領土問題に至っては戦後70年を経た今でも解決していない。
その他にも当時の日本の首脳が色々とやらかした失敗や、ドイツでの出来事についても触れているが(「反ユダヤ主義」の歴史に関する記述だけでも一読の価値あり)、本論は概ね上記の通り。

過激な記述が多めなのが問題と言えなくもないが(多少ナショナリスト的)分析と論点は明確。戦争を生み出す経済状況を知り、戦争を回避するために取り得る経済政策を考える上で参考になる内容が多いと思う。

2015年8月16日日曜日

武田 綾乃 「響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のヒミツの話」


武田 綾乃(著)「響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のヒミツの話」(宝島社文庫、2015/5/25)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4800241197/>
文庫: 268ページ
出版社: 宝島社 (2015/5/25)
言語: 日本語
ISBN-10: 4800241197
ISBN-13: 978-4800241191
発売日: 2015/5/25

[書評] ★★★☆☆

「響け! ユーフォニアム」(1~3巻)のこぼれ話。吹奏楽部「あるある」話あり、本編(1~3巻)ストーリーに直接関係ない裏話あり。本編を読んだ人なら楽しめると思う。必読、というほどではないかな…(私が何を書こうと、ファンの方々は既に読んでいると思いますが/笑)

リンク:

2015年8月15日土曜日

山崎 豊子 「沈まぬ太陽〈1~5〉」

山崎 豊子(著)「沈まぬ太陽〈1~5〉」

[書評] ★★★★★

多くの人たちには説明するまでもない作品だが、30年前の1985年8月12日に起きた、航空史上最悪の事故、JAL123便の御巣鷹山事故(1985)を中心に、事故の温床となった組織の腐敗、政界・官僚との癒着の実態を描き出した作品(初出1995~1999)。
  • この作品は、多数の関係者を取材したもので、登場人物、各機関・組織なども事実に基き、小説的に再構成したものである。(1・2巻冒頭但し書き)
  • この作品は、多数の関係者を取材したもので、登場人物、各機関・組織なども事実に基き、小説的に再構築したものである。但し御巣鷹山事故に関しては、一部のご遺族と関係者を実名にさせて戴いたことを明記します。(3~5巻冒頭但し書き)
とある通り、小説とするために脚色は入っているものの、ベースは実話。10年以上にわたって海外の僻地に“流刑”された主人公も、実在の人物をベースにしている。臭い物に蓋の組織体質(事故を隠蔽し改善が行われない)、政財界・官僚との癒着、一部の従業員による業務上横領・特別背任行為が「既得権益」となっていた実態、…挙げたらキリがない。が、本作品を読むと、御巣鷹山事故が起こるべきして起こった人災であることと、また遺族がどんな扱いを受たかがよくわかる。

山崎女史の他の作品にも言えることなのだが、取材等を通じた事実確認は非常に丁寧だ。海外に赴任した人の生活が目に映るように描かれている。企業の中でどのように「裏金」が作られるのか、また一部の従業員がどのように私腹を肥やしているのかも生々しい。企業が政財界・官僚とどのように「癒着」しているのかの例もよく分かる。…読んでいて、腐敗臭に顔をそむけたくなる位だ。

本書を通して、御巣鷹山事故に関する詳しい話を知るのも良い(上述の通り、小説の体裁は取っているが、事実をベースとした作品である)。事故はどのように起こるのか、事故を未然に防ぐにはどうしたら良いのか、安全に関わる製品・サービスを扱う人と組織はどのようにあるべきかを考えるのも良い。政財界・官僚と企業の関係についてあるべき姿を考えても良い。…色々と考えさせられる作品。

人の生命や財産の安全に関わるサービスや製品に携わっている人には必読書と言って良いだろう。それ以外にも多くの人にお薦め出来る。

・  ・  ・  ・  ・

以下書籍情報:


山崎 豊子(著)「沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上)」(新潮文庫、2001/11/28)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4101104263/>
文庫: 409ページ
出版社: 新潮社 (2001/11/28)
ISBN-10: 4101104263
ISBN-13: 978-4101104263
発売日: 2001/11/28


山崎 豊子(著)「沈まぬ太陽〈2〉アフリカ篇(下)」(新潮文庫、2001/11/28
<http://www.amazon.co.jp/dp/4101104271/>
文庫: 483ページ
出版社: 新潮社 (2001/11/28)
言語: 英語
ISBN-10: 4101104271
ISBN-13: 978-4101104270
発売日: 2001/11/28


山崎 豊子(著)「沈まぬ太陽〈3〉御巣鷹山篇」(新潮文庫、2001/12/26)
<http://www.amazon.co.jp/dp/410110428X/>
文庫: 510ページ
出版社: 新潮社 (2001/12/26)
言語: 英語
ISBN-10: 410110428X
ISBN-13: 978-4101104287
発売日: 2001/12/26


山崎 豊子(著)「沈まぬ太陽〈4〉会長室篇(上)」(新潮文庫、2001/12/26)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4101104298/>
文庫: 510ページ
出版社: 新潮社 (2001/12/26)
言語: 日本語
ISBN-10: 4101104298
ISBN-13: 978-4101104294
発売日: 2001/12/26


山崎 豊子(著)「沈まぬ太陽〈5〉会長室篇(下)」(新潮文庫、2001/12/26)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4101104301/>
文庫: 420ページ
出版社: 新潮社 (2001/12/26)
言語: 日本語
ISBN-10: 4101104301
ISBN-13: 978-4101104300
発売日: 2001/12/26

2015年8月9日日曜日

エマニュエル・トッド 「『ドイツ帝国』が世界を破滅させる 日本人への警告」


エマニュエル・トッド(著), 堀 茂樹(翻訳)「『ドイツ帝国』が世界を破滅させる 日本人への警告」(文春新書、2015/5/20)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4166610244/>
新書: 232ページ
出版社: 文藝春秋 (2015/5/20)
言語: 日本語
ISBN-10: 4166610244
ISBN-13: 978-4166610242
発売日: 2015/5/20

[書評] ★★★★☆

表紙を開くと、“「ドイツ帝国」の勢力図”なる地図が現れてギョッとする。ドイツ周辺の数ヵ国が「ドイツ圏」、フランスは「自主的隷属」、その他の国のうち多くが「事実上の被支配」、…。

本書では、ドイツが冷戦終結、通貨統一(ユーロ)、米国のプレゼンスの低下を機に、欧州の政治と経済を支配し始めていると警鐘を鳴らす本。エマニュエル・トッド氏は本書で自国(フランス)はどうすべきかを説いているのだが、国際情勢を知る情報として、また日本の採るべき立場を考える上で、参考になる本だと思う(日本が危惧すべきはドイツと中国の接近であろう)。

①ドイツの科学技術力、②ロシアの国力、③中国の経済力と軍事力、を多少甘く見ている節があることや(※1)、「大不況の経済的ストレスに直面したとき、リベラルな民主主義の国であるアメリカはルーズベルトを登場させた。ところが、権威主義的で不平等な文化の国であるドイツはヒトラーを生み出したのだ。」(p. 63)といった、必要以上に恐怖感を煽るような表現が多いのはチョットいただけない。また、多少フランス視点に偏っている傾向も見られるが(これは仕方がない)、概ね世界情勢分析は鋭いと言って良いだろう。

※1: 本書の内容ではないが、世界を不安定にする3つの国はロシアと中国とドイツだという分析もある。トッド氏はこれらの国が嫌いな為過小評価してしまっているという読み方も出来る。

また、本書に「果たしてワシントンの連中は憶えているだろうか。1930年代のドイツが長い間、中国との同盟か日本との同盟化で迷い、ヒトラーは蒋介石に軍備を与えて彼の軍隊を育成し始めたことがあったということを。」(p. 37)とある。日本人の多くはそうは思っていないのかも知れないが、ドイツ国民には反日感情を持つ人も多いことも忘れてはいけない。有色人種に対する差別意識、第1次大戦(1914-1918)で租借地の青島と植民地の南洋諸島を攻略したことに対する恨み、高度経済成長によりGDPがドイツより日本の方が大きくなったことへの反感、…等々の色々な感情があるのかも知れない。

本書内、賛成できない意見、過激にすぎるな表現、評価分析が甘いのでは?と思える箇所、等が数ヵ所あったが、最近読んだこのテの本の中では断トツに面白かった。読んで損は無い

・  ・  ・  ・  ・

以下余談:ドイツがどのように欧州の政治・経済を支配するようになったのか。本書の内容から、この流れを簡単にまとめてみたい。
  • ・冷戦終結(1989)
    • 旧東ドイツ・旧東欧諸国の人々を、教育水準が高くかつ低賃金の労働力として上手に使い、自国の産業競争力を向上させた。
    • NATO、特に米国のお陰で軍事負担はほぼゼロである。(※2)
  • 欧州統合(1967:EC, 1993:EU)、通貨統一(1998)
    • ユーロ導入に対しドイツは当初は慎重だったが、ユーロに加盟した直後に自国内の給与水準を下げ、ユーロ圏内での圧倒的な貿易競争力を手にした。
    • ユーロ加盟各国は自国で通貨を発行できない(各国は通貨レート・物価水準を操作出来ない)。一国一通貨なら為替レートが変動するのだが(独マルク時代はマルク高になり輸出競争力が落ちる)、南欧・東欧の諸国が足を引っ張ってくれるお陰(?)でユーロ高にはならない。以後、ユーロ圏内では圧倒的な貿易黒字を出し続け、欧州を実質的に経済支配している。
    • ECB(欧州中央銀行)はフランクフルトにあり、ドイツはここからユーロ圏内の全ての国の銀行とカネの動きを監視することが出来る。
    • 現在では政治と経済は一体化しているので、ドイツはユーロ圏の経済と同時に政治も実効支配し始めている。それも、不平等な支配形態である(本書ではそう書いていないが「植民地」に近い支配形態)。この不平等を、本書ではたとえば「ギリシャ人やその他の国民は、ドイツ連邦議会の選挙では投票できない。」(p. 67)といった風に表わしている。
  • 欧州における米国のプレゼンスの低下(2010頃~)
    • 米国は第2次大戦の敗戦国の日独2国を長らくコントロールしていたが、近年はドイツのコントロールが出来なくなっているが、米国はこれを隠蔽するためにドイツに追従した動きをすることが多くなってきた。
    • ドイツとロシアは実質的に紛争状態。ウクライナ西部(親欧州側)の極右組織とドイツとはつながっている。
冷戦終結から後、時流に乗りor機を見て、ドイツはしたたかに国力と競争力を高めてきたことがよく分かる。また、文化も言語もメンタリティも違う国々(EU諸国)で通貨統合・経済統合をすること自体に無理があることもよく分かる。政治・経済とも日本と関わりの深い地域で起こっていることを知るうえで、貴重な情報と意見が読める本だ。オススメ。

※2: これについて本書の内容だけでは少し説明不足なので付記しておく。
  1. 第2次大戦後ドイツは武装解除されていたが、東西冷戦の激化を受けてドイツ連邦軍を組織(1950~準備、1955組織)、NATO加盟(1955)。
  2. 自国軍は持ったが「ドイツ連邦軍は自国領域およびNATO同盟国領域を防衛する目的で使われる。ただしNATO領域外へのその派遣は禁じられている」というのが長年のドイツ国内でのコンセンサスだった(「出せない」憲法解釈+「出さない」政治方針を堅持)。
  3. 湾岸戦争(1991)の時にはドイツ連邦軍は出さず(軍事財政の負担のみ)。NATO加盟諸国から、「小切手は切るが兵士は出さず、血を流さないのか」との批判が浴びせられる。
  4. この国際的批判に懲り、ボスニア危機(1994,1995)からは、NATO領域外にもドイツ連邦軍を派遣を出来るように憲法解釈と政治方針を変更。
つまり「EU内の他国並みの軍事負担(少なくとも費用負担)はしている」と言った方が正しいかも知れない。

2015年8月6日木曜日

ロバート・B. ライシュ(著)「格差と民主主義」

御無沙汰いたしております。久しぶりに書評をアップします。


ロバート・B. ライシュ(著)「格差と民主主義」(東洋経済新報社、2014/11/21)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4492444009/>
単行本: 219ページ
出版社: 東洋経済新報社 (2014/11/21)
言語: 日本語
ISBN-10: 4492444009
ISBN-13: 978-4492444009
発売日: 2014/11/21

[書評] ★★★★★

著者ライシュ氏は、労働長官(ビル・クリントン政権から3政権)、政策アドバイザー(バラク・オバマ政権)を務めた人。政府高官を経験していながら、ウォール街や米国大企業からの魔手に“汚染”されていない数少ない良識派である。

ズバリ、非常に分かりやすい。現在の資本主義の陥っている状況、政治と経済の一体化とその問題点をまとめ、我々市民が何をなすべきかを指し示す。

現在のグローバル資本主義社会の分析と問題解決への提言は、ピケティが「21世紀の資本」(2014) (Amazon)、「トマ・ピケティの新・資本論」(2015) (Amazon)を著しているが、本書はピケティ本ほど専門的でなく非常に読み易い。
  • ピケティの本は、本が大きく(A5サイズ+ハードカバー)、ページ数が多く(巻末付録まで入れると約700頁)、重く、字が小さく、専門的で難しい。話題の本として売れたようだが、一般読者には難し過ぎたようで、解説書もバンバン売れているらしい。
  • ライシュの本は、適度な大きさ(B6サイズ+ハードカバー)、適度なページ数(約200頁)、軽く、読み易い文字サイズ、解り易い。
…まぁ両者は本を書いた目的や対象読者層が違うので、難易度やページ数も違うのが当たり前なのだが、ともかく。ピケティは学者・専門家向け、ライシュ(本書)は万人向け

内容をざっくりまとめると、概ね以下のようになるだろうか。
  1. 政治と経済が一体化している。富裕層が政治を牛耳って自分達に都合の良くなる政治活動をしており、その結果として資本主義がもはや「富が集中するよう仕組みまれた不公正なゲーム」となっている。必然的に中間層は没落している。
  2. グローバル化した企業は株主と経営者のための経営を行っており、従業員や国民のための経営を行なわなくなってきている。雇用も市場も海外に求め、米国内に富を生み出さなくなって来ている。これら企業の経営者らによるロビィ活動は決して米国の為にならない。(同じことは日本企業にも言える。)
  3. 政治家にも逆進主義的右派が現われてきている(たとえば戦前日本のような極端な格差社会に戻そうとしている)。
  4. 私たちがすべきことは、政治に積極的に関与して民主主義を護り、発展させることである。投票に行くだけでなく、普段から政治家の動きをチェックし、国の為国民の為に活動している政治家を積極的にサポートし、裏切った政治家には次回選挙で罰を与えること。正しいと思えることのために人々と対話し、民意を盛り上げること。
いずれも、前著
  • 「暴走する資本主義」(2008) (Amazon拙書評)
  • 「余震(アフターショック) そして中間層がいなくなる」(2011) (Amazon)
と共通した問題分析・提言なのだが、本書はその集大成といったところ。米国民に向けて書かれた本だが、殆どの項目は日本にも当てはまる(日本では、政治を語る個人は少なく、政治に関わる個人はもっと少ないという点は違うが)。上述の通り、現在における資本主義の現実がハッキリ書かれていて、問題点もよくまとまっており(我々各個人の問題として書かれている)、これを解決するために我々個人が取れる(取るべき)行動も具体的かつ明快。好感の持てる本。

現在の政治・経済の分析や問題点について書かれた本は多いが、解決のための具体策と心構えをここまで明確に表した本はなかなか無いのではないだろうか。

良書。オススメ。

2015年6月30日火曜日

横山 秀夫 「64 (ロクヨン)」 (上・下)

御無沙汰いたしております。暫く更新が滞っていました(申し訳ありませんが、この先も滞りがちになりそうです)

 

横山 秀夫(著)「64(ロクヨン) 上」(文春文庫、2015/2/6)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4167902923/>
文庫: 355ページ
出版社: 文藝春秋 (2015/2/6)
言語: 日本語
ISBN-10: 4167902923
ISBN-13: 978-4167902926
発売日: 2015/2/6

横山 秀夫(著)「64(ロクヨン) 下」(文春文庫、2015/2/6)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4167902931/>
文庫: 429ページ
出版社: 文藝春秋 (2015/2/6)
言語: 日本語
ISBN-10: 4167902931
ISBN-13: 978-4167902933
発売日: 2015/2/6

[書評] ★★★★★

「64(ロクヨン)」とは、14年前に発生した未解決事件を表わす符牒。時効まであと1年という時期に、警察庁長官の視察が行なわれることになった。これを機に、中央と地方、組織の力のせめぎあいが始まる。このパワーゲームは、ロクヨンの被害者家族の気持とは全く別の所で進んでいく…。そして、視察の直前に、ロクヨンに酷似した身代金目的の誘拐事件が起こる。これらの2件の事件は、意外な顛末を迎える。

文句なしに面白い! と同時に、組織に属する人間として考えさせられることも多かった。組織の論理(トップの論理・担当側の論理)、個人の論理。一部の人が責務を放棄し不正を働く。上の人が、自分可愛さにそれを隠蔽するする。当然、誰かにしわ寄せが行く。真実を明るみに出そうとする人は斬られ、あるいは監視下に置かれ、自由を奪われる。これらの全てが組織防衛の為であると正当化され、真実を語ろうとした人ばかりが辛い目に遭わされる。殆ど組織犯罪である。他人事ではないと思った。