2012年8月18日土曜日

ミシェル・アルベール「資本主義対資本主義」

ミシェル アルベール (著), 久水 宏之 (監修), Michel Albert (原著), 小池 はるひ (翻訳)
「資本主義対資本主義 [単行本]」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4803503575/>
単行本: 334ページ; 出版社: 竹内書店新社; 改訂新版 (2011/10); ISBN-10: 4803503575; ISBN-13: 978-4803503579; 発売日: 2011/10
[書評] ★★★☆☆
 本書の著者は、フランス最大手の保険会社AGFの会長である。
 旧ソ連邦の崩壊によって、これまでの世界政治の枠組みが変わると共に、 社会主義経済は否定されたが、それゆえに残った資本主義経済が一色ではないことが鮮明になる。アングロサクソン型もしくはネオアメリカ型(米国、カナダ、英国)と、アルペン型もしくはライン型(ドイツ、スイス、日本も含む)という分け方が提示されている。
 資本主義を二分するこうした観点は示唆に富んでいる。アングロサクソン型とアルペン型それぞれの長所・短所を挙げ議論を行った上で、 長期的な観点から、著者の母国・フランスの経済を今後どう進める際によるべき羅針盤として、 著者はライン型に軍配を上げている。
 なお、原書は1990年に筆者がフランスの経済月刊誌エクスパンシオン誌に書いた論文が元になっている。1990年といえば日本はバブル崩壊の直前であり、筆者はネオアメリカ化が急激に進んでいる日本経済に対して警報を発していた。また、時代は東西ドイツの統一の直後(というか統一が始まった頃)でもあり、 国家経済を破綻させずにいかに東西両独の経済を統合するかという難しい問題に取り組んだ実績は欧州統合の際に何をしたら良いかを示してくれているという。
 実際にこの論文(本書)の後、1993年にマーストリヒト条約が発効となり、欧州連合(EU)が設立された。EUの統一通貨としてユーロが1999年に仮想通貨として導入、2002年に現金通貨として導入された後、2008年金融危機やその後のEU加盟国(スペイン、ポルトガル、ギリシャ、イタリア、アイルランド)の債務状況など問題は多々あるにせよ、1990年の段階でこれだけ先読みしている眼力は素晴らしいの一言に尽きる。
 翻訳監修者・久水氏の解説にもあるが、日本はバブル期前後から急速にアングロサクソン型に傾斜してきている。また、いまだに戦時型を卒業したあとの日本型資本主義のアイデンティティか見えないことに警鐘を鳴らしている。 今後の日本を作るリーダーに是非読んでほしい1冊だ。

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