2012年8月30日木曜日

佐藤哲也「未来を予測する技術」

佐藤 哲也 (著)
「未来を予測する技術 (ソフトバンク新書 46) (ソフトバンク新書 46) (新書)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4797341165/>
新書: 184ページ; 出版社: ソフトバンククリエイティブ (2007/8/16); ISBN-10: 4797341165; ISBN-13: 978-4797341164; 発売日: 2007/8/16
[書評] ★★★☆☆
 2002に世界最速のスパコン、「地球シミュレータ」が日本から世界に向けて発表された。このことは、日本よりもむしろ米国で大騒ぎになった。 冷戦時代、アメリカが宇宙開発でソ連のスプートニク号に遅れをとったことにちなんで、 「コンピュートニク」と米国で大騒ぎされ、米国が慌てて巨額の予算を注ぎ込み、 世界最速のスパコン開発スタートの契機となったコンピュータである。
 本書は、この「地球シミュレータ」の置かれている海洋科学技術センター・地球シミュレータセンターのセンター長が自ら書いた本。
 著者は、それまでの計算機シミュレーションが、システム全体のうち一部だけを切り出して行なわれていたものであるのに対し、 地球シミュレータの意義は、システムの一部だけでなく全体をシミュレート出来るようになったことであると説く。これにより、科学的信頼性をもって未来を観測可能とすることが出来たとも説く。
 地球シミュレータは、発表後、地球温暖化に関するシミュレーション等、 世界の科学界において、非常に重要な役割を果たしている。 本書では、未来を見る技術としての「シミュレーション文化」の萌芽と、その重要性について説く。
 シミュレーション専用計算機の開発という点で、 「スーパーコンピューターを20万円で創る」と共通する部分はあるが、スケールの馬鹿でかさで言えば、地球シミュレータの方がはるかに大きい。ただし、その道の専門家とは言え、商業誌作家でない人が書いた文章は、ちょっと渋めだ。テンポ良く読むというよりも、じっくりと噛み締めながら読むのに良い。 計算機科学に興味がある向きには非常にオススメできる本だ。

 脱線するが、現在は世界最速のスパコンは日米中がシノギを削って争っている領域だ(ニュースにもなるので知っている人も多いだろう)。先日まで2年間ほど日本の「京」が世界一だったが、IBMがBlue Geneシリーズのプロセッサを使った「Sequoia」というスパコンで世界一の座を取り戻した。「世界一」という称号は、 米国が威信を賭けて取り組んでいる領域なのだ。米国政府は、IBMだけでなく、CrayやSun Microsystems、Agilent、等々に毎年数十億ドルという莫大な予算を注ぎ込み、世界最速のスパコンを開発した。 現在の世界最速マシンは、IBM社の「Blue Gene」シリーズ。チェスの世界チャンピオンを打ち負かした「Deep Blue」と同じIBMのスパコンだ。…ということを判りながら今の仕事をやっていると、本当に面白いなぁ、と思う今日この頃だ。

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