2012年7月16日月曜日

M・ミッチェル・ワールドロップ「複雑系」

M.ミッチェル ワールドロップ (著), M.Mitchell Worldrop (原著), 田中 三彦 (翻訳), 遠山 峻征 (翻訳)
「複雑系―科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4102177213/>
文庫: 683 p ; 出版社: 新潮社 ; ISBN: 4102177213 ; (2000/05)
[書評] ★★★★★
 非常に面白い! 経済に興味のある人が読んでも、生物の進化に興味がある人が読んでも、はたまた計算機科学(特にアルゴリズムの理論)に興味のある人が読んでも、面白いと感じるだろう。 副題が「サンタフェ研究所の天才たち」となっていたので、 天才と呼ばれる人が何を考えているのか知りたくて買ったというのが本音だが、そんなことはどうでも良くなる程読ませる。 内容の豊かさもさることながら、作者の構成力・表現力が凄く良いのだろう(勿論、翻訳も)。
 複雑系とは、ケインズ経済学で説明できなくなってきた現代の経済活動の記述に使える(かも知れない)とか、メンデレーエフらの「遺伝の法則」や「適者生存」の理論だけでは説明できない生命の進歩(特に「突然変異」などの現象)を説明する手段の有力な候補として、 数年前に発生したムーヴメントを説明する有力な候補である。
 複雑系を注目する2大分野と言えば、経済学(経済理論)・生物学(進化論)となろう。
 経済理論は、古くはマルクス経済学に始まる。マルクス経済学は自由経済(の初歩)とその功罪を述べ、共産主義の理想を説く。 理想的な共産主義経済は、確かに自由経済(資本主義経済)と違って貧富の差の小さい、 理想郷の経済理論である。しかし、20世紀に見る共産主義経済の崩壊で、マルクス経済学の限界が見えてしまった。これに変わったのが、20世紀の後半にもてはやされたケインズ経済学である。ケインズ経済学は成長を続ける経済社会を説明し、 予測するのには役に立ったようだが、バブルの崩壊等といった経済現象を説明することが出来なかった(日本のバブル崩壊~「失われた10年間」より先にあった、 世界恐慌や70~80年代のアメリカの凋落と復活を説明することも出来ていないと思われる)。 日本がバブルの崩壊に続く10年間を喘いでいた頃、アメリカで注目され出したのが、 本書に書かれた複雑系による経済理論である。
 ※大学教養課程時代、経済企画庁・新保先生の経済学の講義を受講していた。 講義の内容は、ケインズ経済学に基づく理論で、 高度成長時代までの「繰り返す」経済変化を説明することが出来るというものであった(一言で言えば、「マルクス経済では説明できない“現在経済”の動きも、ケインズ経済で説明できる」となろうか)。が、バブルが弾けた後の世代となった今、その内容を見ると、やはり古いと言わざるを得ない。
 生物学(進化論)でも経済学同様、適者生存・状況の変化に適応したものが多く残る。 特に重要なのが、この「状況の変化に適応出来るか否か」である。これにより、メンデレーエフらの「遺伝の法則」と「適者生存理論」とだけでは説明しきれない「突然変異」などの説明が出来ることになるようだ。
 複雑系は、そのベースの中に、「強いものが生き残り、弱いものは淘汰される。 富めるものはより富む(「収穫逓増」)。それと同時に、状況の変化に対応できたものが生き残り、 適応できなかったものは消えゆく」という仕組みを確率論的な形で持っていることで、 多様性に富むもの(人や団体、生物種)が生き残ることをうまく説明できるようだ。しかし残念なことに、この複雑系は、現象を説明することは出来るが、(少なくとも現在のレベルでは)将来を予想する手法を与えるものではないようだ。

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