2014年4月12日土曜日

楠木 建 (著)「ストーリーとしての競争戦略」

久しぶりにガッツリとしたビジネス書を読みました。本書、世間で流行してから時間が経ってしまいました(1年以上“積読”状態でした)。


楠木 建 (著)「ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4492532706/>

単行本: 518ページ
出版社: 東洋経済新報社 (2010/4/23)
言語: 日本語, 日本語
ISBN-10: 4492532706
ISBN-13: 978-4492532706
発売日: 2010/4/23

[書評] ★★☆☆☆

有名企業の成功例を実例に挙げ、他社との差別化戦略について語った本。戦略とは、
  • 合理性だけでは先行できない
  • 先見性だけではトップランナーとして走り続けられない
という点について述べると同時に、他社と本当の違いを持つ為には、
  • 業界を知悉した「賢者」にとっての「常識」を覆すような(「常識」に反した)、捻りのあるストーリーを持つことが必要である
と述べる。

成功している戦略ストーリーの競争優位の本質は、それを構成する要素間の交互効果にあるが、それは一見してすぐにわかるようなものではない。うまく出来た戦略について、外見だけを「ベストプラクティス」として模倣した者は、模倣しようとする結果として自滅して行くと言う。実例として、トヨタのJIT (Just In Time)システムを模倣した米フォード社の自働化システムの破綻を示す。またこれを、地方のコギャルで解り易く説明する。すなわち、地方のコギャルは、化粧や服装やアクセサリのバランスの妙を知らずに外見だけ真似るから(システムとしての交互効果がわかっていない)、どうしても極端に走ってしまい、本物の渋谷のコギャルのオシャレとはほど遠いものになってしまっていると言う。

このような理由から、優れた戦略ストーリーの競争優位が長期の持続性を持つ理由は、その企業の戦略の模倣を困難にする障壁があるというよりも、追いつこうとする企業が戦略を模倣しようとする結果、自滅していくからではないかと述べている。

本書では先述の「捻りのあるストーリー」を、「思わず人に話したくなるような面白いストーリー」と言っているようだが、オビの惹句:「戦略の神髄は思わず人に話したくなるような面白いストーリーにある」の例証としては不足感を拭えない。なぜなら、面白く語れるかどうかは、ストーリーそれ自体よりも、ストーリーテラーの話術ないし語る(騙る?)力によるところが大きいからだ。
  • ただし、そのような「捻り」の利いた「面白い」ストーリーを全メンバーが共有すれば、組織全体で大きな力を発揮できるであろうことは容易に想像がつく。
企業や組織活動から離れた立場である学者が、後付けで「面白い戦略や成功した戦略が良い戦略である」と評するのは簡単なことだ。だから、このオビの惹句はチョット誇大広告かなと思う。


ところで。

本書の一番の問題点は、冗長に過ぎるということだろう。引例と主張とがゴチャ混ぜだし、1文が長くて結論はなかなか見えて来ない。段落や章についても、個別の結論が全然見えてこないので、何度放り出そうと思ったことだろうか。特に前半は「読み進める気力」を維持するのが大変だった。特に、論理的に読む人にとって本書は非常に読みにくく、また非常にクドい書き方だと思う(私が論理的に読む人だと主張するツモリは無いが)。全7章のうち、最初の2~3章は飛ばしても構わないと思う(本書の主張を手短にまとめれば、不要な章を省いて不要な例証を削り、…最終的な厚さは元の約1/3位で収まるかも知れない)

着眼点は面白いかも知れないが、話者自身が「思わず聞き込んでしまいたくなるような面白いストーリー」に書けていないのは如何ともし難い。そういう意味で、★は2点だけです(100点満点では40点、試験なら赤点ですよ!>著者様)。

2014年4月9日水曜日

西尾 維新 (著), VOFAN (著)「終物語 (下)」


西尾 維新 (著), VOFAN (著)「終物語 (下)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4062838680/>

単行本(ソフトカバー): 396ページ
出版社: 講談社 (2014/4/2)
言語: 日本語
ISBN-10: 4062838680
ISBN-13: 978-4062838689
発売日: 2014/4/2

[書評] ★★★★☆

西尾維新氏による「〈物語〉シリーズ」17冊目にして最新刊、〈物語〉シリーズ・ファイナルシーズン最終巻。高校3年生の主人公・阿良々木暦(あららぎ こよみ)、大学受験当日の朝のできごとから、卒業式までの短い期間のエピソード。時系列的にあっちこっち飛びまくってきた本シリーズだが、最終巻ではその跳躍が無く読み易い。

本シリーズでは「怪異」をテーマにしているので、陰惨なシーンや、心の闇に関する記述が多かったが、本巻では目を逸らしたくなるシーンは少な目。むしろ、個人として自分をとりまく人達や社会とどう折り合いをつけていくのか、自分の中の良い部分・悪い部分をどう受け入れるのか、そういったものが著者のメッセージであったように思う。本シリーズでは、人間としての業(ごう)を肯定している。また、自分の将来に対してヴィジョンを持つべきこと、日常を続けるにはそれなりに痛みを伴うこと、そしてその痛みを乗り越えて生きて行かなければならないことを伝えている。
  • 苦労の末に手に入れた、当たり前だった。
    (p.372より引用)
が印象的だった。


なお、ファイナルシーズンには再終巻(?)があり、「続・終物語」で本当の完結となるらしい。本巻の最後の方に伏線があったので、どのように回収されるのか、待ち遠しい。