2013年2月25日月曜日

梨木香歩「西の魔女が死んだ」

梨木 香歩
「西の魔女が死んだ (新潮文庫) [文庫]」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4101253323/>
文庫: 226ページ; 出版社: 新潮社 (2001/07); ISBN-10: 4101253323; ISBN-13: 978-4101253329; 発売日: 2001/07
[書評] ★★★☆☆
軽い読み物。 評判になっていたのでチョット読んでみたが、気楽に読める本だ。 魔女と書かれているからファンタジー色の強い内容かと思ったが、 日常的な描写が多く、肩に力を入れずに読むことが出来る。

2013年2月24日日曜日

ジュリアン・バーンズ「10 1/2章で書かれた世界の歴史」


ジュリアン バーンズ (著), Julian Barnes (原著), 丹治 愛 (翻訳), 丹治 敏衛 (翻訳)
「10 1/2章で書かれた世界の歴史 白水Uブックス」
<http://www.amazon.co.jp/dp/456007108X/>
単行本(ソフトカバー): 402 p ; 出版社: 白水社 ; ISBN: 456007108X ; (1995/08)
[書評] ★★★★☆
 「ノアの箱舟」のノアの実態、男女間の問題、船の難破を描いた絵画の描かれるまでのこと、 核戦争後の世界の人間の姿、…などなどを描いた風刺小説。軽い読み物としてオススメできる。

2013年2月23日土曜日

ソルジェニーツィン「イワン・デニーソヴィチの一日」

ソルジェニーツィン (著), 木村 浩(翻訳)
「イワン・デニーソヴィチの一日 (新潮文庫)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4102132015/>
文庫: 278ページ; 出版社: 新潮社; 改版版 (1963/03); ISBN-10: 4102132015; ISBN-13: 978-4102132012; 発売日: 1963/03
[書評] ★★★★☆
 極寒の地の刑務所という、行動が制限されるだけでなく、 生命にとっても非常に厳しい環境において、 小さなことがら1つひとつに小さな喜びを感じ、 生き抜いていく主人公の1日を小説とした本。
 政治思想犯として従刑した著者が自身の経験によるものが大きいと思うが、 自分の置かれた境遇に文句を言うのではなく、その中で自分のできることを精いっぱいやり、 喜びを見出して生き抜くことを説く本でもある。
 バプテストの生き方を皮肉りながらも、 本書の主人公(イワン・デニーソヴィチ)の生き方・考え方・ものの捉え方自体が、 聖書に出てくる物語のようである。 淡々と、そしてしみじみと読める本だ。

いかりや長介「だめだこりゃ」

いかりや 長介 (著)
「だめだこりゃ 新潮文庫」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4101092214/>
文庫: 257 p ; 出版社: 新潮社 ; ISBN: 4101092214 ; (2003/06)
[書評] ★★★★★
 五つ星にしたが、最初に断っておこう。この本から何かを得ようと思ってはイケナイ。この本は、いかりや長介氏がその半生を綴ったエッセイである。バンドマンに始まり、お笑い芸人となり、俳優業となり、と(本人によれば)流されるままにやってきた人生である。その中での苦労話や舞台裏の秘話等が綴られている。 何かを得るための本ではない。癒し系(?!)の本である。
 子供時代に「8時だよ!全員集合!」を見ていた頃は、この人がこんなシブ~いオジサン(おじいちゃん?!)になるとは思わなかった。 年齢をとって角が丸くなったことや、友人(荒井注氏ら)が亡くなって、 彼らの人生と自分の人生を振り返った人ゆえの達観したもの、というのもあるのだろうか。
 この本の中で著者は、多才な芸人でありながら、いたって控えめなことである。たぶん、文字に表わしていない努力も沢山しただろうし、 悔しい思いをしたことも数え切れないくらいあるだろう。それでも、周りの人に助けられて自分はこうしてやってこれた、という感謝の念を持っていること。そういう姿勢だったからこそ、この人はこうしてやって来れたんだろうな、と思う。
 おっと、「何かを得ようと思ってはイケナイ」なんて書きながらも、いかりや氏の姿勢には学ぶべきものがある、という結論になってしまった。ま、いっか。(笑)
 それにしても。こういう生きかたもアリなんだな、と思う(自分には真似できないけど)。いかりや氏の御冥福を祈りたい。

2013年2月21日木曜日

ジョージ・オーウェル「動物農場」

ジョージ・オーウェル (著), 高畠 文夫 (翻訳)
「動物農場」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4042334016/>
(角川書店、1995/05)
[書評] ★★☆☆☆
・「動物農場」「象を射つ」「絞首刑」「貧しいものの最期」の短編4本を収めた本。 文庫本で全280ページ中、作品が201ページ、1/3近い残りは解説等。
・動物農場が、全体主義(ソ連の共産主義やドイツのファシズム)に対する風刺であり、 寓話の形をとって、権力が堕落・腐敗する様子を書いているのは分かるが、 騒ぐほどの「名作」であろうか? 私にはよく分からない。
・他の3作品は著者オーウェルが自分の経験をもとに書いたエッセイに近い作品。

2013年2月20日水曜日

アラン・ライトマン「アインシュタインの夢」

アラン ライトマン (著), Alan Lightman (原著), 浅倉 久志 (翻訳)
「アインシュタインの夢 (ハヤカワepi文庫) (文庫)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4151200177/>
文庫: 171ページ; 出版社: 早川書房 (2002/04); ISBN-10: 4151200177; ISBN-13: 978-4151200175; 発売日: 2002/04
[書評] ★★☆☆☆
 誤解のないように最初に書いておくと、本書はフィクションである。
 相対性理論を発表する直前のアインシュタインが「見たかも知れない」夢、を題材に書かれた小説。 「もし時間(の流れ)が○○だったら、世界はこんな風に見えるのではないか」をテーマにしている。
 正直、あまり面白くなかった。 捉え方は人ぞれぞれだと思うが、エイヤッと気合を入れないと、1冊の小説として読み通すモチベーションを維持できなかった。
 書評は★1つでも良かったのだが、ニヤッと笑うことの出来る箇所が何箇所かあったことに免じて★2つ。

2013年2月19日火曜日

アニリール・セルカン「宇宙エレベーター」

アニリール・セルカン (著)
「宇宙エレベーター (単行本(ソフトカバー))」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4479391398/>
単行本(ソフトカバー): 192ページ、出版社: 大和書房 (2006/6/22)、ISBN-10: 4479391398、ISBN-13: 978-4479391395
[書評] ★★★★★
 トルコ人初の宇宙飛行士(欧州共同体の宇宙計画で宇宙に飛び立つ日を待つ宇宙飛行士)、アニリール・セルカンの書。 筆者はトルコのエリート技術者であるが、本書は随筆(エッセイ)っぽい内容だ。
 著者がトルコ国内の中学生向け発明・技術コンテストで優勝し、 奨学生としてスイスの高校に留学し、イタズラが原因で仲間たちと退学になって帰国後、 「タイムマシンを作ろう」と思い立ち、イタズラ仲間を世界中から集めて タイムマシンを作るプロジェクトに取り組んだ件は、 前著「タイムマシン (単行本) 」に詳しい。
 本書ではそのコンテストの件から始まり、東京大学で宇宙建築の研究に取り組み、 宇宙ステーションとの行き来に経済的なシステム「宇宙エレベータ」のシステムを考案する件、これが縁で宇宙飛行士になる道が開かれたことが書かれている。ここまでで前半。
 後半は、世界各地の「伝説」「宗教」など、宗教寄りの話もあり、また、時間旅行の可否や物理学の可能性といった方向にまで言及する。 色々考えさせられることも多いが、ポジティブであり、かつ不必要に気負うこともなく、 淡々としている書き方は非常に好感を持てる。


【追記】 後で「アニリール・セルカン」で検索したら、東大の博士論文でデータの盗用等により学位を剥奪されていた人だったのですね(“東京大学への告発”)。学術活動におけるデータ捏造や盗用が度々問題になっていた時期に、アナタもやっちゃったのね!的なというか。本書を読んだ時にはワクワクしながら読んだのだが、それだけにガッカリ感というか怒りというか、…そういう感情は否めない。

2013年2月18日月曜日

アニリール・セルカン「タイムマシン」

アニリール・セルカン (著)
「タイムマシン (単行本) 」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4822245551/>
< http://bpstore.nikkeibp.co.jp/item/main/148222455510.html>
単行本: 176ページ ; 出版社: 日経BP社 (2006/11/23) ; ISBN-10: 4822245551 ; ISBN-13: 978-4822245559
[書評] ★★★★☆
 著者は工学博士で、トルコ人初の宇宙飛行士。その著者が、自分の実体験に基づいて書いたノンフィクション小説である。 著者とその仲間がスイスの寄宿学校を退学になった後(この辺のくだりは、 同じ著者の「宇宙エレベーター」(大和書房、2006年)に詳しい)、 同じ仲間が再び世界中から結集して、 「タイムマシンを作ろう!」というプロジェクトを立ち上げる。 高校生位の年齢の子供が何人も集まってもロクなことは出来やしないんじゃないか? そう思いながら読んでみるが、これが意外や意外、結構イケルのである。もちろん、この為には周囲の沢山の人たちの協力があるのだが。 若き日の著者とその仲間たちが、自由な発想をし、 色々な人を巻き込んでチャレンジする様を描いた、心温まる物語。
 特に、著者の両親が、著者とその仲間の気持ちを最大限に受け止め、 出来うる限りのサポートをし、愛情に満ちた眼差しで見守ったことが非常によくわかる。 子供に対して、これだけ理解を示すことのできる親がどれくらいいるだろう?  色々な意味で、感動する本だと思う。

【追記】 「宇宙エレベータ」の書評にも追記したが、アニリール・セルカン氏は、東大の博士論文でデータやアイデアの剽窃により学位を剥奪されていた人。…と考えると、本書に書かれた内容も作り話、大法螺があるのではないかと思ってしまう。「感動する本」どころじゃなかったかも。

2013年2月17日日曜日

磯田道史「武士の家計簿」

磯田 道史 (著)
「武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書) [新書]」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4106100053/>
新書: 222ページ; 出版社: 新潮社 (2003/4/10); ISBN-10: 4106100053; ISBN-13: 978-4106100055; 発売日: 2003/4/10
[書評] ★★★☆☆
加賀百万石の「御算用者」猪山家の幕末~維新直後の家計を記した書類が発見されたところから、 江戸時代の経済活動の4分の1を占めていた武家の経済状況を洗い出す。 江戸時代から明治初期にかけての武家の台所事情を研究した書として、日本の経済の歴史の面では貴重な研究書かも。 世間体から交際費は圧縮できない武家の事情や、 江戸末期に向けて収入の減った士族が実際には困窮していた様子がよく分かり、興味深い。

2013年2月16日土曜日

井上章一「ハゲとビキニとサンバの国 ―ブラジル邪推紀行」

井上 章一 (著)
「ハゲとビキニとサンバの国―ブラジル邪推紀行 (新潮新書) [新書]」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4106103885/>
新書: 190ページ; 出版社: 新潮社 (2010/10); ISBN-10: 4106103885; ISBN-13: 978-4106103889; 発売日: 2010/10
[書評] ★★★☆☆
あはは。題名にある通り邪推中心で書かれた本だ。ブラジルは我々日本人がイメージしているような国じゃないよ、とも言う。 軽い読み物としては良いかも。

2013年2月15日金曜日

鮫島正洋「新・特許戦略ハンドブック」

鮫島 正洋 (著)
「新・特許戦略ハンドブック―知財立国への挑戦 (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4785713690/>
単行本: 705ページ ; 出版社: 商事法務 (2006/10) ; ISBN-13: 978-4785713690 ; ASIN: 4785713690 ; サイズ (cm): 21 x 15
[書評] ★★★★☆
 知財を活かした企業競争力強化に関する本。 副題にもあるが、2000年以降、小泉前首相が宣言した「知財立国」戦略に則った、 国・企業の「あるべき姿」を示す本。 但し、解説本・ガイドブックというよりも、16本の論文・解説論文を集めた論文集といった色合いが濃い。
 日本の知財立国宣言・知財戦略に沿った各企業の知的財産戦略への指針、 企業競争力上における知財(特許)の位置づけ及び活用方法、 個別の知的財産の価値の測り方、 知財教育のあり方等々、内容は多岐にわたる。 内容は広く、かつ深い。
 知財戦略のあるべき姿を一面から論じた書は多いが、 本書では多くの著者がそれぞれの論を展開し、 知財戦略というものを多面的に知ることが出来る。 各論文(16本)も一定以上に高レベルで内容も濃く、 広い視点での勉強・新しい視点を与えるキッカケにもなるし、 多くの人が色々なものを得ることの出来る本だと思う。
 論文集的な作りなのと分量が多く(600頁超)、 頭から全部読むと中弛みしがちだが、必ず役に立つと思う。 重くて持ち運びに不便だが、オススメできる良書。
 ちなみに、1章・11章は編者の鮫島弁護士・弁理士の講演を聴く人・聴いた人は、 予習・復習になるし、聴いていない人も参考になることが多いと思う。

大嶋洋一「エンジニアのための知的財産権概説」

大嶋 洋一 (著)
「エンジニアのための知的財産権概説―先行技術調査、明細書の書き方、審査プロセスまで、実務に役立つ特許マニュアル (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/product/dp/4789820173/>
単行本: 271ページ ; 出版社: CQ出版 (2004/04) ; ISBN-13: 978-4789820172 ; ASIN: 4789820173 ; サイズ (cm): 21 x 15
[書評] ★★★★☆
良くも悪くも、CQ出版らしい本。タイプミスが目に付くなど、本の作りについては若干弱い部分はあるが、 現場をよく知っている人が書いた、非常に解り易い良書。
 ・特許検索(国内・海外)
 ・特許出願~権利化のプロセス(但し、個人のパソコン出願の説明が主なので参考程度)
 ・特許情報の分析~戦略立案
等々、具体的で分かりやすく、かつバランス良くまとまっている。
 なお、本書の筆者は三洋電機を経て特許庁の審査官になった人。 現在、東京工業大の客員教授やメジャー雑誌への寄稿もしている、売れっ子審査官である(2005年4月より日経BP社「日経マイクロデバイス」に『大嶋洋一のIPイノベーション』を連載中)。
 特許の実務を学びたいが、どんな本を読めば良いのか迷っているという向きには オススメできる本だ。

2013年2月13日水曜日

池内寛幸「新版 弁理士ただいま仕事中」

池内 寛幸 (著)
「弁理士ただいま仕事中 (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4587034797/>
単行本: 154ページ; 出版社: 法学書院; 新版版 (2005/02); ISBN-10: 4587034797; ISBN-13: 978-4587034795; 発売日: 2005/02
[書評] ★★★★☆
 著者は大手化学メーカー(東レ)で研究者を10年、特許部担当者を7年間経験し、 弁理士試験合格後独立した人。 本書では弁理士の仕事内容、独立~特許事務所設立当初の苦労などを綴る。 国内外の特許、裁判制度を比較し、日本の国内の制度がどうあるべきかについても説く。 読み物としても面白い。

2013年2月12日火曜日

平塚三好「「もの」から「知財」の時代へ」

平塚 三好 (著)
「「もの」から「知財」の時代へ―頭脳が生む新しい価値を最大限に活用するノウハウ (東京理科大学・坊っちゃん選書) (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4274205908/>
単行本: 121ページ; 出版社: オーム社 (2008/10); ISBN-10: 4274205908; ISBN-13: 978-4274205903; 発売日: 2008/10
[書評] ★★★★☆
 専売特許制度の始まり、エジソンら発明者の活躍に始まり、 現在の知的財産権制度についても、平易に分かりやすく書かれている。 知的財産権・産業所有権といったものに馴染みの無い人にも非常に読みやすく書かれており、そういう意味では良書だと思う。
 知的財産について、深い話にはあまり触れられておらず、そういう意味では入門書だと思う。 学生~社会人1,2年生向けかも知れないが、 社会人歴が長い人が見ても再発見があると思う。 特許制度って何? を知りたい時に、いきなり特許庁や発明協会などの本を読む前に一読しておくと良いのではないか。 特に研究・開発に携わる若手エンジニアにはお薦め出来る本だと思う。

2013年2月11日月曜日

鴫原正義「発明・特許の雑学探検」

鴫原 正義 (著)
「発明・特許の雑学探検―なるほど!!おもしろウンチク学 歴史から見る知的財産 (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4902312220/>
単行本: 268ページ ; 出版社: オプトロニクス社 (2007/03) ; ISBN-10: 4902312220 ; ISBN-13: 978-4902312225 ; 発売日: 2007/03 ; 商品の寸法: 18 x 13 x 1.8 cm
[書評] ★★★★☆
 本書の表紙に、副題とは別に「なるほど!! おもしろウンチク学」などと書いてあるので、もっと軽い本、子ども向けの本を予想したが、全然違っていた。 良くも悪くも裏切られた感あり。
 5章立ての本で、1~3章は、歴史上の知財関連の重要なトピックスについて触れている。この辺りは、確かに「おもしろウンチク学」かも知れないが、ただの雑学に終わっていないのが良い。 優れた解説と指針を与えてくれる。
 なお、4章・5章は国内外の特許制度について概覧する。ただ淡々と述べるのではなく、なぜそうなったのか等の歴史的バックグラウンドまで書かれており、 非常に理解しやすい。
 特許、知財に関する入門書としてオススメできる。

2013年2月10日日曜日

丸島儀一「キヤノン特許部隊」

丸島 儀一 (著)
「キヤノン特許部隊 (新書)」
<http://www.amazon.co.jp/product/dp/4334031269/>
新書: 197ページ ; 出版社: 光文社 (2002/02) ; ISBN-13: 978-4334031268 ; ASIN: 4334031269
[書評] ★★★★★
知的に面白い! 本書の感想を述べるならば、この一言に尽きよう。
前半部分は、当時普通紙乾式コピー機の技術と知的財産に関して王者の地位にあった、ゼロックスを相手に、キヤノン独自技術を開発し、 知的財産をゼロックスに対してもライセンス(クロスライセンス)に持ち込んだ実話と、その裏話が書かれている。キヤノンがカメラという成熟産業の分野から一歩踏み出し、 事務機分野に参入した際にとった知財戦略を示す。キヤノンで知的財産の新戦略を展開した本人が書いているのだから当然かも知れないが、 生々しい話が多い。また、本としての作りもテンポ良くまとまっており、ぐいぐい引き込まれる。
 キヤノンという会社は、売上に占める輸出品(特に米国向け)の比率が非常に大きく、 他の日本のメーカよりも早い段階で知財戦略を練らなければならなかった。この経験が、キヤノンを(日本風の知財戦略の面で遅れのある企業でなく)知財先進企業に仕立て上げたのだと思う。
 後半は、企業や国家として、知財への取組みがどうあるべきかを説く。 小泉純一郎前首相がブチ挙げた知財立国の取組みであるが、カタチだけの政策になりかけている。お役人にこそ、本書は読んで欲しいと言える。
 何はともあれ、知財マインドをカケラでも持つ人にとって、 本書は「読むべし!」である。

2013年2月9日土曜日

John Derbyshire「素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~」

John Derbyshire(著), 松浦 俊輔(訳)
「素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~」
<http://www.amazon.co.jp/dp/482228204X/>
単行本: 479ページ; 出版社: 日経BP社 (2004/8/26); ISBN-10: 482228204X; ISBN-13: 978-4822282042; 発売日: 2004/8/26
[書評] ★★☆☆☆
理論数学上で長い間解かれずにいた(証明されずにいた)「リーマン予想」なるものに挑んだ人たちの群像劇。 群像劇なんて書くと人間模様中心のようであるが、 装丁は横書き、数学的な話が満載。 他の出版社でなく日経BPが出すだけのことはある。堅い、堅い。(笑)
よほどの数学好きじゃないと読むの辛いが(自分の頭が如何に錆びついていたかを実感させらた)、その中の人間ドラマを読み取るのは面白い。
マニア向け。(笑)

D・E・クヌース「至福の超現実数―純粋数学に見せられた男と女の物語」

D.E.クヌース (著), 松浦 俊輔
「至福の超現実数―純粋数学に魅せられた男と女の物語」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4760126465/>
単行本: 174 p ; 出版社: 柏書房 ; ISBN: 4760126465 ; (2004/11)
[書評] ★★☆☆☆
 本書はどのように形容したら良いのだろうか。TeXやMETAFONT等の作者であり、一部の人は学生時代などに非常にお世話になったであろう、 数学者にして計算機科学者であるクヌース先生の「小説」となっているが、 一般の小説とは全く趣が異なる。 本書は、小説の形をとった、数学の理論書(or パズル本)である。
 クヌース先生の「ドキュメント纂法」等、計算機科学に関する本はいくつか読んだが、 本書はそれらとも違う。理論数学に興味のある人以外は手を出すべきでは無さそうだ。 短い割に、読み進めるのにかなりのパワーを消費したような気がする。

2013年2月7日木曜日

サイモン・シン「フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで」

サイモン シン (著), Simon Singh (原著), 青木 薫 (翻訳)
「フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4105393014/>
単行本: 397 p ; 出版社: 新潮社 ; ISBN: 4105393014 ; (2000/01)
[書評] ★★★★☆
 本書は、かの有名な「フェルマーの最終定理」(方程式X^n+Y^n=Z^nはn≧3の時に整数解X,Y,Zを持たない、という定理(未証明の段階では「フェルマーの最終予想」と呼ぶべきか))が証明されるまでの300年の人間物語を、数学に素人の読者にもわかりやすく書いている。 序盤はワイルズ(フェルマーの最終定理を証明した数学者)を含む20世紀~21世紀初頭の数学者たちの話で始まる。その後、ピュタゴラス(ピタゴラス)ら古代の数学者に始まる数学の歴史を俯瞰したのち、 再びワイルズの話に戻り、フェルマーの最終定理の証明がどのようにしてなされたかを記しつつ、 大団円を迎える。
 訳者あとがきにも書かれているが、本書を読んでいて親近感を感じることに、 日本の数学者(谷山=志村予想の谷村・志村両氏)が重要な役割を果たしたことが きちんと示されている点が挙げられる。
 本書の残念なことは、ピュタゴラス(ピタゴラス)に始まる数学の歴史を俯瞰する個所で、 非常に間延びしていまっていることである。ここを淡々と読み進めると、ワイルズがフェルマーの最終定理を証明し終わる直前の、 息もつかせぬクライマックスへと走って行くが、 古代数学の歴史の部分で挫折する読者も多いのではないだろうか。 後のクライマックスのために、意図的に盛り上がりに欠ける部分を設けたのかも知れないし、 古代の数学者に関する文献が少なく、その人となりを述べることが出来なくて止むを得ず、このようなスタイルになったのかも分からない。いずれにしても、もう少し読者を惹き付け続けるスタイルにしてもらうことは出来なかったのか? そういう意味で、★ひとつマイナス。

2013年2月6日水曜日

ジェニー・ランドルズ「タイムマシン開発競争に挑んだ物理学者たち」

ジェニー・ランドルズ (著), 伊藤 文英 (翻訳)
「タイムマシン開発競争に挑んだ物理学者たち (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4822283267/>
単行本: 256ページ; 出版社: 日経BP社 (2007/7/19); 言語 日本語; ISBN-10: 4822283267; ISBN-13: 978-4822283261; 発売日: 2007/7/19
[書評] ★★★☆☆
 日経BP社から出ている本なので“お堅い”本かと思ったが、そうでもない。タイムマシンの実現の可能性について、物理学の理論:アインシュタインの相対性理論やホーキングの宇宙論、そして量子力学や不確定性原理などを参照し、タイムトラベルの可能性について論ずる。 本書によると、タイムトラベルは今すぐ一般化することは無いにしても、 全くの不可能ではないと言えそうだ。
 ちゃんと真面目に書いてあるし、軽く読めるのだが、 原著者が「UFO研究家」となっていることから、マユにツバをつけて読むべきと思ってしまうのは単なる先入観か? ま、娯楽的な読み物としては悪くないと思う。

2013年2月5日火曜日

上杉隆「上杉隆の40字で答えなさい きわめて非教科書的な「政治と社会の教科書」」

上杉 隆 (著)
「上杉隆の40字で答えなさい  ~きわめて非教科書的な「政治と社会の教科書」~ [新書]」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4479392041/>
新書: 256ページ; 出版社: 大和書房 (2010/9/18); 言語 日本語; ISBN-10: 4479392041; ISBN-13: 978-4479392040; 発売日: 2010/9/18
[書評] ★★★☆☆
題名通り、「きわめて非教科書的な」ニュースの読み解き方。お題を出し、それぞれに「40文字で答える」+解説、という形式。 筆者が日本の「記者クラブ」制度に疑義を持ち、 「自由報道協会」を立ち上げたという経緯も考えて読むべきだろう。 内容に毒はあるが、さくっと軽く読める。 大手メディアのニュースへの触れ方を考える上で有用だろう。

上杉隆「結果を求めない生き方 上杉流脱力仕事術」

上杉隆 (著)
「「結果を求めない生き方」上杉流脱力仕事術 [単行本(ソフトカバー)]」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4776206277/>
単行本(ソフトカバー): 172ページ; 出版社: アスコム (2010/9/20); ISBN-10: 4776206277; ISBN-13: 978-4776206279; 発売日: 2010/9/20
[書評] ★★★☆☆
一生懸命に働く人に対して、発想の転換をもたらす本。 「この世の中には自分の思い通りになることは少ないかもしれませんが、 自分の思い通りに行動すること自体は比較的、簡単で、それが楽しい」(p.75)とか、 「論争になること、つまり自分に対する批判があるというのはとても大事なことなのです。“批判=攻撃”だと思う人が多いかとは思いますが、実は“批判=情報”なんです。」(p.103)等、 気づきを与えてくれる言葉が随所に見られる。 筆者・上杉さんは、単なるジャーナリストではなく、 心理療法士的思考を持つジャーナリストなのではないだろうか。

2013年2月3日日曜日

森毅「21世紀の歩き方」

森 毅 (著)
「21世紀の歩き方 (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4791759443/>
単行本: 224ページ; 出版社: 青土社 (2002/02); ISBN-10: 4791759443; ISBN-13: 978-4791759446; 発売日: 2002/02
[書評] ★★☆☆☆
 森毅先生(元京大教授)の本を久しぶりに読んだ。だいぶ前に大学の友人(現在某大学の先生をやっている)に勧められて、 森毅先生のチャランポラン数学のすすめ」(青土社、1983/08)とか「エエカゲンが面白い」(筑摩書房、1991/10)とかを読んだと記憶する。 数学は厳密な学問だけど、実用数学は厳密じゃなくても良いんだよ、感覚が大切、 感覚ってことは、桁数の多寡じゃなくて対数軸で捉えることが大切だよ等々、 数学者が数学者ラシカラヌ?ことを説いていたのが新鮮だった。
 閑話休題。 本書でもモリツヨシ節は健在。ただ、ちょっと歳をとられたのか、説教臭い話が多かったかも知れない。これまで読んだ本が数学主体の本だったのに比べ、 教育論とかに寄った内容であり、日教組やら文科省(旧文部省)の批判が多かった所為かも知れない。

2013年2月2日土曜日

大前研一「「知の衰退」からいかに脱出するか?」

大前研一 (著)
「「知の衰退」からいかに脱出するか?」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4334975607/>
単行本(ソフトカバー): 440ページ; 出版社: 光文社 (2009/1/23); ISBN-10: 4334975607; ISBN-13: 978-4334975609; 発売日: 2009/1/23
[書評] ★★★☆☆
 平和ボケして世の中のことを考えなくなっている日本人に警鐘を鳴らす本。 良くも悪くも「大前節」を楽しめる本。しかも本書では大前氏の最近の本に多い「自慢話」が少ない分、非常に読みやすくもある。
 大前氏の本はメジャーになって暫くの頃までは、 徹底的な比較・検討、冷徹な分析が売りだったような気がするが、 本書では(最近の大前氏の本に多い自慢話こそ少ないものの)、きちんとした分析がなされている訳ではなく、 大前氏の思いを未整理のまま本にしたような内容。 議論としては未完成。まさに「言いっ放し」である。
 大前氏はビジネスブレークスルー大学の学長とか色々な仕事をこなし、ご多忙なのだろうが、否、ご多忙だからこそ、「企業参謀」の頃のような公平な比較検討、 客観的分析によるメッセージを読みたいと思うのは私だけではないだろう。
 言っていること自体は悪くないのだが、議論が尽くせていない。“大前節”を読みたい人向けの本になってしまっている。

2013年2月1日金曜日

梅棹忠夫「知的生産の技術」

梅棹 忠夫 (著)
「知的生産の技術 (岩波新書)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4004150930/>
新書: 218ページ; 出版社: 岩波書店 (1969/07); ISBN-10: 4004150930; ISBN-13: 978-4004150930; 発売日: 1969/07
[書評] ★★★☆☆
①情報の整理の仕方(スクラップ、カードのまとめ方)、②楽しみのためでなく知的生産活動のための)読書の方法、③記録のつけ方、④文章の書き方、…等々といった知的活動一般について、効果的・効率的な方法を示す本。
 40年以上前の本とあって、流石に古くさい部分もあるが、 基本的な姿勢は今でも参考になる。
 著者は、京都大学において、KJ法で有名な川喜多二郎氏とも同窓であり、 情報整理の仕方(スクラップブックやノートよりもカードを好む)は川喜多氏と共通している。カードの組み換え操作による「知的創造作業」は、KJ法そのものである。
 本書は漢字が極端に少なく仮名が多いため、ちょっと読み難い本となってしまっている(もう少し読みやすければ★4つなのだが)。 著者は手書きよりもタイピングを好んだ人であるが、 現代のように使いやすい日本語ワープロの無い時代、 仮名タイプ(恐らく1キー1文字の機械的仮名タイプライター)を使用していたためについた習慣と考えられる。ハードウェアの制限は時代の流れとは言え、同時代の人・川喜多二郎氏の本などと比べ、 今となっては読み難くなってしまっているのはチョット残念。