2012年9月29日土曜日

阿尾博政「自衛隊秘密諜報機関―青桐の戦士と呼ばれて」

阿尾 博政 (著)
「自衛隊秘密諜報機関 ―青桐の戦士と呼ばれて (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4062154633/>
単行本: 290ページ; 出版社: 講談社 (2009/6/5); 言語 日本語; ISBN-10: 4062154633; ISBN-13: 978-4062154635; 発売日: 2009/6/5
[書評] ★★☆☆☆
アメリカのCIA、旧ソ連および現ロシアのKGBなどに代表されるような情報機関が日本にも存在するということと、 具体的にどのような活動をしているかを示した本。 著者は自衛隊の情報機関に居た人。
読み物としては悪くないのだが、読後感がイマイチ宜しくない。 人様にナカナカ言えない仕事があること、そういう仕事に従事している人がいることは確かなのだろう。だが、そういう話を本として発行し、世に広める必要は無いのではないか。 世に出してしまうと、当然のことながら、自国民だけでなく、諸外国にも公の情報として知られることになる。そのこと自体、非常に拙いのではないだろうか。
違う言い方をしよう。「そういう話は墓場まで持って行って欲しかった」。

2012年9月28日金曜日

小川政邦(翻訳)「KGBの世界都市ガイド」

小川 政邦 (翻訳)
「KGBの世界都市ガイド (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4794964919/>
単行本: 382ページ、出版社: 晶文社 (2001/06)、ISBN-10: 4794964919、ISBN-13: 978-4794964915
[書評] ★★☆☆☆
 複数のKGBの職員(つまり旧ソ連時代のスパイ)が各国で過ごした経験をもとにまとめて「世界都市ガイド」なんつーフザケた題名をつけた本。 旧ソ連のスパイの生活に興味のある人には色々興味深いところもあろうが、 基本的に我々市井の人には関係の無い世界ではある。
 ま、たまにはこういうくだらない本もよろしいかと。

2012年9月27日木曜日

中村秀樹「本当の潜水艦の戦い方―優れた用兵者が操る特異な艦種」

中村 秀樹 (著)
「本当の潜水艦の戦い方―優れた用兵者が操る特異な艦種 (光人社NF文庫) (文庫)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4769824939/>
文庫: 317ページ ; 出版社: 光人社 (2006/05) ; ISBN-10: 4769824939 ; ISBN-13: 978-4769824930 ; 発売日: 2006/05
[書評] ★★★★☆
 元海上自衛隊潜水艦長が戦争の実態に基づいて検証し、 旧帝国海軍(そして海上自衛隊も)が潜水艦という艦種は特異な艦種を上手に使えなかった原因を分析し、正しい用法を示す。
 潜水艦の用法を誤った背景として、日本軍(帝国軍・自衛隊)の情報軽視の体質、そして、情報軽視の根本的な原因として、自己に都合の悪い現実に目を背ける硬直性を挙げる。この情報を重視する為には、情報収集に熱意を持つだけでなく、 好ましくない現実をも受け入れる柔軟性を必要とするが、日本軍にはこれが欠けていたと言う。
 また、日本の下士官は世界一という評価についても同様に分析する。 下士官とは、方針の決定者・命令者を補佐し、技量未熟な若年兵を指導監督しつつ、 頻発する不備・行き違いを臨機応変に高い技量で吸収して、 軍隊という巨大な組織の活動を支える役割を担う、とする。 日本人の民族性は、この下士官に最適な特徴といえる。 日本の軍隊は、陸海軍を問わず、下士官の技量と下級士官の献身において世界最高の水準にあった。
 リーダーの情報軽視・硬直性と、最高水準の下士官。 軍隊だけでなく、どこぞの企業のことを言っているようにも読める。 組織論として読んでも非常に興味深い。

2012年9月26日水曜日

野中郁次郎「アメリカ海兵隊―非営利型組織の自己革新」

野中 郁次郎 (著)
「アメリカ海兵隊―非営利型組織の自己革新 (中公新書) (新書)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4121012720/>
新書: 212ページ ; 出版社: 中央公論社 (1995/11) ; ISBN-10: 4121012720 ; ISBN-13: 978-4121012722 ; 発売日: 1995/11
[書評] ★★★★☆
 アメリカには、陸海空の三軍以外に「海兵隊」という軍隊が存在する。その起源は立国の時にまで遡るが、元々は英国軍隊の海兵隊に相当する軍隊として作られたようだ。 我が国では、大東亜戦争中期~後期、南洋でアメリカ軍の上陸を許したのが戦線の崩れへと繋がったが、ここでアメリカ軍の主力となって働いたのが海兵隊であった。
 海兵隊は、時代の流れとともに度々出てきた海兵隊不要論に掻き消されないよう、 自らの存在意義をイノベートしてきた。 米国独立戦争に始まり、米国の経験した大きな戦争だけでも、 南北戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争…、これらの戦争のたびに、その前後で、海兵隊は自らの存在価値・役割を大きく変えてきた。 存在が危うい時期を経験したからこそ、アメリカ海兵隊は自らをイノベートできたと言えるし、こうした歴史を通じて、常に世界最強の少数精鋭軍として君臨し続けてきたとも言える。
 時代の流れとともに存在意義を定義し直し、自らをイノベートする組織。 変化の激しい今の時代、企業人が読んでも得るところは大きいと考える。

2012年9月25日火曜日

勝谷誠彦「世界がもし全部アメリカになったら」

勝谷 誠彦 (著), 藤波 俊彦 (絵)
「世界がもし全部アメリカになったら (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/477620214X/>
単行本: 63ページ ; 出版社: アスコム (2005/05) ; ASIN: 477620214X
[書評] ★★☆☆☆
 アメリカが世界中を改宗して画一化しようという、「グローバル・スタンダード」。すなわち、全世界アメリカナイズですな。 実際には起こりそうもないが、もし全世界が現在のアメリカと同じになったら、 世界はこうなっちゃうよ、という数字遊びの本。
 現実の問題を非常に偏った形で表現しているが、アメリカがどれだけ病んだ国であるかを極端に表した本としては悪くないかも。
 でも、15~30分で読みきっちゃう本が800円というのはチト高いかな?という意味で、★2つにさせて頂きました。

2012年9月24日月曜日

宮嶋茂樹・勝谷誠彦「不肖・宮嶋 南極観測隊ニ同行ス」

宮嶋 茂樹 (著), 勝谷 誠彦
「不肖・宮嶋南極観測隊ニ同行ス 新潮文庫」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4101242313/>
文庫: 279 p ; 出版社: 新潮社 ; ISBN: 4101242313 ; (2001/07)
[書評] ★★★★☆
 戦場ジャーナリストとして有名な“不肖”宮嶋茂樹氏が、短期間とは言え、 極限の地、南極のいくつかの基地で活動した時の物語を、非常にオチャラけた感じに綴った本。 南極はいわゆる戦場ではないかも知れないが、 極限状態という意味では、戦場にも通じる部分がある。その極限において人間がどのようになるかといった点は、 戦場取材にも通じる所があると言えよう。
 宮嶋氏は、辛い経験も笑い飛ばし、その辛い生活・活動の中に面白いネタを見つける天才かも知れない。この人ほど「生きるパワー」に満ち溢れたジャーナリストを私は知らない。 南極に自衛隊員を派遣する政治的目的・科学的目的といった崇高な(?)話は一切出て来ない。しかし、極端な節約生活の中で、人間という生き物がどう振る舞うか、 自らを元気づけるためにどんなことをするか、そういったことがヘラヘラとした文章で述べられている。 勿論、山ほどの地道な作業が文章にされないまま、ネタになりそうな部分だけピックアップしているのだろうが。
 本書は、我々に元気を与えてくれる。が、しかし、処々に下ネタが散りばめられているので、そういうモノに抵抗を感じる人は要注意だ(笑)。まぁ、極限状態ほど人間を獣化させる物はない、ということで、 下ネタというよりも人間の自然な姿、と捉えれば良いのだろう。
 必要以上に?品の無い記述がある点を除けば、非常に面白い。 極限状態を仮想体験してみたい人にはお薦めできる。

2012年9月23日日曜日

宮嶋茂樹「不肖・宮嶋 in イラク 死んでもないのに、カメラを離してしまいました。」

宮嶋 茂樹 (著)
「不肖・宮嶋inイラク―死んでもないのに、カメラを離してしまいました。」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4776200880/>
大型本: 出版社: アスコム ; ISBN: 4776200880 ; (2003/07)
[書評] ★★★★☆
 先のイラク戦争を取材した際に撮影した写真集+少々の記事をまとめた本。 日本の新聞やテレビには絶対に出ない、死体の写真や千切れた人体の一部の写真など、 少々グロテスクな映像が多いので、そういう写真を受け付けられない人には見るのも辛いだろうが、これがアホなアメリカ人が一方的に始めた戦争による国民の姿だ。 刮目して見よ!と私は言いたい。
 本書の写真、特に夜間の砲撃・爆撃の写真は、 宮嶋氏も生命を危険に晒して撮影したものである。ブレたり、曲がったりした写真もいくつも入っているが、これらが全て、現場の生々しさを伝える。
 湾岸戦争を取材したTV放送では、TVゲームさながらの爆撃の映像などが放映されたが、あれは戦争のうち、圧倒的優位に立ったごく一部の視点に過ぎない。 圧倒的多数は、砲撃・爆撃を受ける一般市民なのだ。 宮嶋氏の写真は、この一般市民の視点、 現場で恐怖に怯えながら必死に戦う兵士たちの視線から映している。
 憲法第9条は変えるべきとか、太平洋戦争での日本の行いは正しかったのだとか、くだらない議論をしている人たちがいるが、 本当の戦争や戦場を知らないで何を語るのだろう。 改憲論をブチかます前に、橋田氏や宮嶋氏の本を読め! 写真を見ろ! それでも貴方は日本は先制的攻撃を出来るような憲法を持たなければいけないのか? そう言いたくなる。
 沢山の人に是非見て欲しい一冊である。

宮嶋茂樹「不肖・宮嶋 国境なき取材団」

宮嶋 茂樹 (著)
「不肖・宮嶋 国境なき取材団」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4104238031/>
単行本: 478 p ; 出版社: 新潮社 ; ISBN: 4104238031 ; (2003/06)
[書評] ★★★★☆
「不肖・宮嶋」シリーズの、ちょっとブ厚い本だ。いつものことながら、軽く読める。 主に自衛隊に同行して平和活動の取材をしたり、 戦場に赴いて取材をしたりした体験記がメイン。 「南極観測隊ニ同行ス」へのレビューにも書いたが、 宮嶋氏の文章は、辛い経験を書いているはずなのだが、 生きるパワーに満ち溢れている。 戦争の本質的な議論等は一切無いが、 取材の上での、戦場での人々のことや、 戦場という環境下での自分のことなど、ユーモラスに書いている。

2012年9月21日金曜日

橋田信介「戦場特派員」

橋田 信介 (著)
「戦場特派員」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4408007722/>
単行本: 349 p ; 出版社: 実業之日本社 ; ISBN: 4408007722 ; (2001/12)
[書評] ★★★☆☆
 ソ連崩壊・ロシアの属国の解放以来東欧で続く内乱や、 中央アジア・中東の内乱と外国(国連とは名ばかりの米英連合)の内政干渉、テロリズムを取材した経験をまとめた本。橋田氏がジャーナリストとしてデビューし、 経験を積み、成長して行く過程がわかる。
 ただ、何と言えば良いか分からないが、 同じ戦場ジャーナリストの“不肖”宮嶋茂樹氏がどんな状況でも生き抜いてやる、 楽しみを見つけ出してやる、といった前向きな姿勢なのと違い、 橋田氏は根っこの部分は非常にシリアス、かつ暗い。 後述の「世界の戦場で、バカと叫ぶ」では「人懐こい性格で明るく、誰からも好かれた」とあるが、 読みやすい文書の書き手であることからも分かるように、 人との接しかたは上手い人だったのだろう。しかし、心の中は(経験や仕事を通じてかも知れないが)深い闇を持っているように思えてならない。
 戦争というものをシリアスに考えたい人には、色々と知ることのできる良書である。 「イラクの中心で、バカと叫ぶ」や「世界の戦場で、バカと叫ぶ」と同じ“ノリ”を期待すると裏切られるが、読んでおいて決して損はない。

2012年9月20日木曜日

橋田信介・橋田幸子「世界の戦場で、バカとさけぶ」

橋田 信介 (著), 橋田 幸子
「世界の戦場で、バカとさけぶ」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4776202166/>
単行本: 267 p ; 出版社: アスコム ; ISBN: 4776202166 ; (2004/12)
[書評]★★★★★
 橋田夫人が、橋田氏の遺稿を集め、整理・出版した本。 上記「イラクの中心でバカと叫ぶ」同様、ホニャッとした読みやすい文章が特徴。 「イラクの~」と違うのは、 世の中、特に日本の政治・社会システム・教育等を痛烈に批判していること。 「イラクの~」が厭世観・無常観を感じさせる文章であるのに対し、 本書の根底に流れているのは世の中、 特に日本の政治(特に外交政策)に対する怒りのように思える。
 イラク戦争でアメリカに加担して、国際社会における日本の地位はどうなったか?  金権まみれの政治を是とし、そういう社会の中で居場所を確保するために子供はどのような家庭教育を受けているか?
 日本の国民は、戦中は情報統制によって、戦争の実態を知らされて来なかった。また、戦後もまた教育の不足によって、戦争というものを知らされていない(戦争を否定した戦後の憲法を楯に、戦争について充分な教育がなされていない、というのが実体だろうか)。 数々の戦争映画やドラマで「戦場」や「銃後」の物語は知られてはいるが、 国家間の利害の不一致の際に政治的駆け引きとして発生する「戦争」について、 色々と考えさせる本である(そういった本の中では、 一般国民の視点を持っているのが本書だと思う)。
 誰にでもお薦めできる良書だと思う。

《参考》日本は戦後60年以上となってもまだ、靖国問題を決着できていない。 「戦後」は終わっていないのだ。しかし、戦中の国民は情報統制によって、また戦後の国民は教育の不足によって、日清戦争に始まり、日露戦争、 日中戦争~太平洋戦争へと突っ走って行った当時の日本を理解していない。だから、国連の創立直後にその理想と信念を受け継いで作られた日本国憲法の崇高さを理解していない。 第9条を変えようというのは、ワシントン講和条約により国際社会への復帰を許されて以来の日本の国際社会での活動を全否定する行いなのだ。(※戦中戦後の国際社会における日本の位置づけと今後の指針は、たとえば日経BP社のWebページに'05年春から連載されている『立花隆の「メディア ソシオ-ポリティクス」』で靖国問題を論じている記事に詳しい。 興味のある向きは、そちらを参照されたい。

2012年9月19日水曜日

橋田信介「イラクの中心で、バカとさけぶ」

橋田 信介 (著)
「イラクの中心で、バカとさけぶ―戦場カメラマンが書いた」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4776201321/>
単行本: 285 p ; 出版社: アスコム ; ISBN: 4776201321 ; (2004/01)
[書評] ★★★★★
 2004年5月に「日本人ジャーナリスト2名、イラクにてゲリラに襲撃されて死亡」という事件があったが、本書はそのジャーナリストの遺作となってしまったエッセイである。
 本書で橋田氏は、ホニャッとした感じの文章で、 戦場取材を通じて経験した面白おかしかったことや辛かったこと等を綴りつつ、 先の読めない社会の中での生き抜きかた、色々な人生を伝える。 非常に読みやすい文章だが、底流は痛烈な政治批判である(特に自衛隊派遣など、 戦場を知らない日本政治家の無能ぶりや、 海外各国の反応を無視した政治家の言動などを強く批判する)。 政治批判・社会批判にとどまらず、厭世的な空気すら漂わせる。
 数々の戦場取材で、人間の馬鹿さ加減を思い知らされ、 日本人の脳天気ぶりに落胆し、アメリカの内政干渉に怒りを感じ、…としているうちに、 橋田氏は何やら仙人めいた領域に到達してしまったかのようだ。
 戦場ジャーナリストとして橋田氏と同じように知られた人として“不肖”宮嶋茂樹氏がおり、 橋田氏と並んで面白く読ませる文章を書いている。 宮嶋氏の文章が、逆境にも負けず(好んで逆境に飛び込んで行く?)、常に前向きなのに対し、 橋田氏の文章は厭世観・無常観を漂わせている点が決定的に違うと言えよう。

2012年9月18日火曜日

高橋伸夫「できる社員は「やり過ごす」」

高橋 伸夫 (著)
「できる社員は「やり過ごす」 日経ビジネス人文庫」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4532191351/>
文庫: 261 p ; 出版社: 日本経済新聞社 ; ISBN: 4532191351 ; (2002/07)
[書評] ★★★★☆
 タイトルから予想される内容を期待すると、裏切られる。この本は、「できる社員」の条件を説いたものではない。 最近導入されつつある、欧米流の仕事の進め方・人事考課に警鐘を鳴らしている本である(中にストレートにその旨書かれている訳ではないが)。 従来の日本型経営で有名な年功序列制度が持つメリットや、 上司の命令は絶対ではなく各担当が判断を行うことで優先順位付けを行って業務を進めるという業務スタイルの良さを述べる。その中で、日本企業においては、優れた社員は正しい優先順位づけを行い、 必要に応じて「やり過ごし」をするのだと説いている。
 本書によると、欧米スタイルでは、上司の命令は絶対であり、また、現在が未来よりも重い。 私が思うに、狩猟民族であり、古くから契約に基づいて他人との役割分担をする欧米では、これが自然な方式なのだろう。
 これに対し、日本スタイルでは、社員は上司の命令を自分で判断し、 自分の判断で優先順位づけをして、重要なものから取りかかる。 業務量が多過ぎる場合などは、重要性の低い業務は「やり過ごす」。 欧米の考え方では、上司の命令をやり過ごすなどもっての外なのだが、 日本ではこれが意外に会社をきちんと回転させるミソになっているのだ。また、未来のために現在多少の犠牲を払うのは仕方がない(というより寧ろ当然)、という「未来傾斜原理」が働いている。これは、各自の役割分担の境界線が悪く言えば不明瞭・曖昧、 良く言えば担当領域に重複があってメンバーが互いに補佐し合える仕組みをもち、 個より全体を優先する、日本型の仕事であるが故に可能な形態なのだろう。
 筆者によると、現在多少我慢をしてでも未来の成果を期待する・未来のために現在努力をするという「未来傾斜原理」の働く日本の経営スタイルは、 欧米型の経営スタイル(「刹那主義」の経営)に負けるはずがないという。1970~1980年代の日本企業は確かに強かったが、1990~2000年代はそうとも言い切れないようだ。 欧米型に勝てて当然の日本経営が、こうも欧米企業に打ち負かされてしまっているのはどういう訳か。ひとつには、欧米企業のスタイルはうまく回っている時は、この上なく効率が良く、 意思決定が複数階級で行われる日本式経営では実現できないスピードが実現出来る(こともある)、ということが挙げられるだろう。またひとつには、優秀な欧米の大企業には、日本の古い体質の企業と同様、 師匠と弟子の関係があり、教育も兼ねて部下に大きな裁量を与えている場合が往々にしてある(各ステージの社員が判断するという、 「日本式」とほぼ同じスタイルになる)ということも挙げられるだろう。
 欧米人は狩猟民族であり、全より個を尊重し、未来より現在が大切で、 個人対個人/個人対組織/組織対組織は契約にもとづいて動く。これに対して日本人は農耕民族であり、個より全を尊重し、未来のために現在は多少の我慢をし、 組織は契約を超えた領域で個のパフォーマンスの総計を超えた力を発揮する。これから世界に伍していくためには、日本の風土に根付いた、日本の風土にあった経営方策をとり、 日本人の長所を最大限に生かした経営が必要だと思う。

イーサン・M・ラジエル「マッキンゼー式 世界最強の問題解決テクニック」

イーサン・M.ラジエル(著),Ethan M. Rasiel(著),嶋本 恵美(翻訳),上浦 倫人(翻訳)
「マッキンゼー式世界最強の問題解決テクニック」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4901234218/>
単行本: 286 p ; 出版社: 英治出版 ; ISBN: 4901234218 ; (2002/04)
[書評] ☆☆☆☆☆
 上記「仕事術」を半分も読んでいない頃に出版されたので、コレクター魂でうっかり買ってしまった。 「仕事術」と同様、表層的なことしか書かれておらず、 「テクニック」の本質については全然触れられていない。 読む必要無し。

イーサン・M・ラジエル「マッキンゼー式世界最強の仕事術」

イーサン・M.ラジエル(著),Ethan M. Rasiel(原著),嶋本 恵美(翻訳),田代 泰子(翻訳)
「マッキンゼー式世界最強の仕事術」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4901234110/>
単行本: 262 p ; 出版社: 英治出版 ; ISBN: 4901234110 ; (2001/04)
[書評] ☆☆☆☆☆
 マッキンゼー・アンド・カンパニーから引退・独立してコンサル業を始めた人の、 体験を元にした本。マッキンゼーの仕事スタイルの表層しかわからない。 読んでも得るものは少ない。マッキンゼーかぶれの人以外は読む必要無し。
 題名に「マッキンゼー」と入れているのは、 日本側の出版社(本書の場合は英治出版)の商魂によるものだろう。こんな物に踊らされるくらいなら、 書評をちゃんと読んで購入する・しないを自分で決めた方が良い。
 この本に限らず一般論として、本を書店で購入する場合は、目次は目を通し、 中身みぱらぱらと頁をめくって見るべし。できれば、即購入するのではなく、Amazon.co.jpなどの書評を見ると非常に参考になる。また、Amazonや7andYなどオンラインショッピングで購入する場合も書評はちゃんと見て参考にし、メジャーな本であれば書店で実際に見てみて、購入の要否を判断するのが良いのではないだろうか。 私はよくAmazon.co.jpを利用しているが、書店に置いてあるようなメジャーな本は通常、 書店で一回見てからオンラインショップで買うようにしている(すぐに読みたい物と雑誌のみ書店で購入)。2度手間のようだが、本は重いので宅配便で配送してもらうのはメリットあり。Amazon.co.jpは一定以上の購入により配送料が無料になるので、重いのを我慢する分のコストはかからなくて良い。

2012年9月15日土曜日

チップ・ハース、ダン・ハース「アイデアのちから」

チップ・ハース (著), ダン・ハース (著), 飯岡 美紀 (翻訳)
「アイデアのちから (単行本(ソフトカバー))」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4822246884/>
単行本(ソフトカバー): 360ページ; 出版社: 日経BP社 (2008/11/6); ISBN-10: 4822246884; ISBN-13: 978-4822246884; 発売日: 2008/11/6
[書評] ★★★★★
「アイデアのちから」というタイトルは目を引くが、 原題「Made to Stick --Why Some Ideas Survive and Others Die」の方が本書の内容をよく表していると思う。 本書の主題は、記憶に焼きつくメッセージ、人の心に訴えるメッセージだ。
勝間和代さんが出版社(日経BP社)に押し掛けて解説をさせてもらったという本書。 日経BP社に押し掛けたというくだりは彼女の別著に書かれてあったが、そこに本書の推薦も書かれていた。

2012年9月8日土曜日

川喜田二郎「発想法―創造性開発のために」

川喜田 二郎 (著)
「発想法―創造性開発のために (中公新書 (136)) (新書)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4121001362/>
新書: 220ページ; 出版社: 中央公論社 (1967/06); ISBN-10: 4121001362; ISBN-13: 978-4121001368; 発売日: 1967/06
[書評] ★★★☆☆
 発想法で著名な「KJ法」の創始者自身による著。KJ法をひと言で言うならば、「野外で行なった観察事実等を個別の紙片にまとめ、これらの事実の間の関連性に基づき、紙片を並べかえたりして、 奥底の事実に気づくための手法」、とでもなろうか。
 KJ法の実施方法について順序だてて分かりやすく書いた本ではないが、 著者の実際の“野外科学の方法”を示し、実例で示されているので、KJ法の具体的な実施方法を垣間見るには良い本と言えよう。
 ただ、KJ法を正しく行なうためには「正則な型での訓練が必要」とある。KJ法を銘打って、その実、似て非なる活動を行っている人・団体があまりにも多いのを見、これらを「正しいKJ法」にせんとする思いが、このような書き方をさせているのだと推察するが、100団体がKJ法に取り組めば100通りの展開があってもおかしくないのではないだろうか。KJ法を実施する上で「必ず押さえるべきポイント」を曖昧模糊とさせたまま、 「正則な型」を求めることにも多少無理があるように思える。 本書の最後(あとがき)にKJ法の実施方法に関する導入書の案内があるので、 本気で取り組みたい人はそちらを当たるように、ということなのかもしれないが。
 本書はKJ法へのイントロとしては悪くないかも知れないが、KJ法の実践的内容を知りたい場合は、他の本(もしくは講習会・セミナー等への参加)も必要かも知れない。

2012年9月7日金曜日

ジャック・フォスター「アイデアマンのつくり方」

ジャック フォスター (著), Jack Foster (原著), 青島 淑子 (翻訳)
「アイデアマンのつくり方」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4484021021/>
単行本: 172 p ; 出版社: ティビーエスブリタニカ ; ISBN: 4484021021 ; (2002/09)
[書評] ★★★☆☆
 自分自身が優れたアイデアマンになる為の本ではなく、マネジャーあるいはリーダーとして、 部下や仲間を優れたアイデアマンにする方法について述べた本。
 人のやる気・アイデアを出すには、まず否定的な雰囲気を作らないことが大事…これはいいだろう。 相手のアイデアは否定せず、さらに良いものを引き出す…これもなるほど、納得。
 まぁそんなコンナで、当たり前といえば当たり前のことばかり書いてある訳だが、 所々にハッとさせられる部分がある。 自分自身の気づきのためには、結構良い本ではないかなぁと思った。

2012年9月6日木曜日

ジャック・フォスター「アイデアのヒント」

ジャック フォスター (著), Jack Foster (原著), 青島 淑子 (翻訳)
「アイデアのヒント」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4484031019/>
価格: ¥1,470 (税込)
単行本: 240 p ; 出版社: ティビーエスブリタニカ ; ISBN: 4484031019 ; 新装版 版 (2003/01)
[書評] ★★★☆☆
 本書は、はっきり言って、アイデアを出すのに有効な方法として、 当たり前のことを当たり前のように書いている本である。 当たり前でない部分としては、「自分は出来ると信じること」等、 少々宗教がかったことを書いているのも気になる。 物事が巧く進まず、ダメダメモードに突入している人々が、それでも「自分は出来る」と信じるのは容易なことではない。それでいて、追い詰められた人に、それでも「自分は出来る」と思わせる手法が この本には全く書かれていない。そういう意味で、★2つマイナス。
 ただ、行き詰まった時に、気分転換を兼ねて本書を開いてみるのは良いことかも知れない。 凝り固まった頭が、少しはほぐれるかもしれない(ただし、「んなアホな!」 「馬鹿言っちゃいけねぇよ!」といった怒りもまた出てくるので、 気の短い人は読むのをやめておいた方が良いかも知れない)。
 ま、人の言うことを信じ易い人にとっては、値段以上の価値がある本だろうし、 疑り深い人にとっては、値段相応か、それ以下の本だと言えそうだ。

2012年9月5日水曜日

ジェームスW.ヤング「アイデアのつくり方」

ジェームス W.ヤング (著), 今井 茂雄 (著)
「アイデアのつくり方」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4484881047/>
単行本: 102 p ; 出版社: ティビーエス・ブリタニカ ; ISBN: 4484881047 ; (1988/03)
[書評] ★★★★☆
 まず、本文が非常に短い。これだけの短い文章の中に色々詰め込んであり、 著者(ジェームス・ヤング)が相当頭の良い人だということがわかる。しかし、その分、さらっと読んでも表層的な部分しか理解できず、 本質を読み取るにはそれなりに考えながら読む必要がある。
 竹内均の解説が非常に長い。こちらを読むことで、実は本書のエッセンスの大部分が分かってしまうのではないか。
 アイデアというものについて、また、アイデアを出すということについて、 自分なりに考えるキッカケを与えてくれる本。
 良書だとは思うが、すべての人に薦められるではないかも知れない。

桑島健一「不確実性のマネジメント 新薬創出のR&Dの「解」」

桑嶋 健一 (著)
「不確実性のマネジメント 新薬創出のR&Dの「解」 (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4822245411/>
単行本: 216ページ ; 出版社: 日経BP社 (2006/9/28) ; ISBN-13: 978-4822245412 ; ASIN: 4822245411 ; サイズ (cm): 19 x 13
[書評] ★★★☆☆
 医療用医薬品開発は他業界とは異質である。 大手製薬会社でも10年に1件か2件しか新薬の開発には成功せず、 1つの画期的な新薬の開発に成功すれば、年間1,000億円以上の多大な売上げに貢献する。 医薬品開発は「一攫千金」「宝探し」「ハイリスク・ハイリターン」というイメージそのままの世界である。 本書は、医療用医薬品開発の実態に関する調査と、他業種との比較を、一般向けに書いたもの。
 大手製薬会社では、R&Dプロセスの上流段階では大きく網を張ってタイミング良く一気に絞り込むパターンをとり、 臨床開発を中心とした下流段階では「go or no-goの判断」「プロトコル・デザイン」で進める。
 非医薬品業界でも、新規事業探索は「千三つ(1,000のうち当たりが3つ)」と言われる(医薬品はさらに確率が低いと言われるが、新規事業探索も0.3%未満の確率だろう)。そういう意味で、新規事業探索等に適用できそうなアプローチである。 非医薬品業界では、新規事業探索関連の担当者向けの本と言えそうだ。

2012年9月4日火曜日

大江建「なぜ新規事業は成功しないのか―「仮説のマネジメント」の理論と実践」

大江 建 (著)
「なぜ新規事業は成功しないのか―「仮説のマネジメント」の理論と実践」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4532149673/>
単行本: 325 p ; 出版社: 日本経済新聞社 ; ISBN: 4532149673 ; 新版 版 (2002/06)
[書評] ★★★☆☆
 「新規事業」とは、大別して以下の4種類が挙げられる── (1)本業を充実させる事業~従来の顧客に対して、 従来の技術(の延長線上のもの)で行う事業、(2)顧客開拓型の事業~従来の技術(の延長線上のもの)を用いて、 従来とは異なる新規の顧客を対象として行う事業、(3)技術開拓型の事業~従来と同じ顧客に対して、 新規の技術を用いて行う事業、そして(4)多角化事業~顧客・技術ともに新規のものである事業。 本書は、これらのうち(2)(3)(4)の検討の進め方とその際の留意点をまとめた本である。 特徴的なのが、顧客・技術とも未知の領域に関して持っている情報(完全な情報であることは無く、 仮定・仮説に基づくものであることが普通である)としての「仮説」の立て方、仮説の検証方法、仮説の修正方法等を中心とした内容となっている(このことを「仮説のマネジメント」と言っている)。
 系統立った書き方になっていて判りやすいが、内容が単調で、読むのに疲れる。あと、筆者の大江建氏(コンサル業)の方法は、 基本的に海外から入れた方法論の日本向け修正版(焼き直し)であり、 説得力がちょっと弱い気もする。という訳で、★2つマイナス。まぁ、悪くはないが…(系統的な進め方がフローチャートになっていたりして、この方が判りやすい、という向きもいるだろう)。

池沢直樹「やらなきゃ良かったあのテーマ―臨床的事業開発論」

池沢 直樹 (著)
「やらなきゃ良かったあのテーマ―臨床的事業開発論」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4902312077/>
単行本: 245 p ; 出版社: オプトロニクス社 ; ISBN: 4902312077 ; (2004/11)
[書評] ★★★★☆
 筆者は野村総研の人(光情報通信に関するコンサルティング経験が長い人のようだ)。 本書の書き出しが、新年会パーティか何かでのくだりで、 企業トップが「研究開発部隊は何をやっとるんじゃ」 「夢を語るのでそれに賭けたのに、騙された」のようなことから始まる。しかも、出版がオプトロニクス社ということからも判る通り、情報通信周辺の話だ。 耳が痛い。
 本書は、新規事業の探し方~検討の進め方~続行(事業化)判断の進め方などについての原理・原則を書いている。 比較的読みやすいが、ポイントとなる部分が分散していて、 通読しないと得るものは少ないような気がする。 読むなら一気読みが良い。

2012年9月2日日曜日

ジョエル・バーカー「パラダイムの魔力」

ジョエル バーカー (著), Joel Arhtur Barker (原著), 仁平 和夫 (翻訳)
「パラダイムの魔力―成功を約束する創造的未来の発見法 [単行本]」
<http://www.amazon.co.jp/dp/482274020X/>
単行本: 246ページ; 出版社: 日経BP出版センター (1995/04); ISBN-10: 482274020X; ISBN-13: 978-4822740207; 発売日: 1995/04
[書評] ★★☆☆☆
 パラダイムシフトの起こり方と、その際取るべき行動の仕方について書かれた本。クレイトン・クリステンセン教授(ハーバード・ビジネス・スクール)の破壊的イノベーションの本や、ジェフリー・ムーア氏(シリコンバレーの技術コンサルタント)のキャズム論と比較してしまうと、それらの方が論理的によく整理されているので、本書の御利益はあまりないかも知れない。 製造業の古いルール、新しいパラダイムなど、それなりに参考になる所もあるが、 最初に読むならば、やはりクリステンセン&ムーアだと思う。

大前研一「考える技術」

大前 研一 (著)
「考える技術」<http://www.amazon.co.jp/dp/4062124920/>
単行本: 271 p ; 出版社: 講談社 ; ISBN: 4062124920 ; (2004/11/05)
[書評] ★★★★☆
 刺激的で面白い。 会社(勤務先)や日本の政治・社会に問題意識を持っている人が読むと、 考えるきっかけを与えてくれる(大切なのは、解答を得ることではなく、それを実行することなのだけれど)。 激変の時代を生き抜くには、言われたことをやるだけのサラリーマンではダメで、 提案のできるサラリーマンにならなければイケナイ。でも、会社にいる人なら分かると思うのだが、これが言うは易し、…なワケで。 平凡な日々に飽きている人は、この本を読んで、行動のヒントにすると良いかも知れない。
 ただし、本書の(というか大前氏の著作に共通して言える)欠点として、 自分の体験を熱く語り過ぎていることが鼻につく点がある。これだけクドいと、単に自慢しているだけじゃないか、って勘違いしてしまう。 問題意識を掻き立てるため/問題解決のヒントを得るために本書を手にする人は この辺りは我慢できるのだろうが(でも正直言って、うざったい)、そうでない人から見たら、おそらく嫌味たっぷりの本に過ぎないかも知れない。その分だけ★ひとつマイナス。