2015年8月22日土曜日

上念 司「経済で読み解く大東亜戦争」


上念 司(著)「経済で読み解く大東亜戦争」(ベストセラーズ、2015/1/24)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4584136157/>
単行本(ソフトカバー): 256ページ
出版社: ベストセラーズ (2015/1/24)
言語: 日本語
ISBN-10: 4584136157
ISBN-13: 978-4584136157
発売日: 2015/1/24

[書評] ★★★☆☆

第1次世界大戦~第2次世界大戦前後、日本がどうして中国での戦線拡大~対米開戦に突き進んで行ってしまったかを、経済政策とその失敗を中心に解説した本。
  • 第1次大戦後長引いていた不況により、国民の心が荒んでいった。
    • 人心が「諸問題を一挙に解決する」と称するアブナイ思想に染まり易くなって行った。
    • 大マスコミ(新聞)が人々を目覚めさせる記事は書かず、売れる記事すなわち人々が求めるアブナイ思想を広めてしまった。
  • 経済政策の失敗
    • 金本位制によるデフレ(貨幣発行量が増やせず産業の発展にブレーキをかけてしまう)→不況・国民生活の困窮。
  • コミンテルンの意を受けて行動した日本のエリートが、日米を交戦させることによって日本を滅ぼそうとした。コミンテルンは米国でも反日キャンペーンを張り、日米の衝突を加速した。
    • レーニンは日米を衝突させ、日本の国力が低下した戦争終末期に、日露中立条約を更新しないと一方的に通達し、終戦の数日前に(後出しジャンケンのようなタイミングで)参戦してきた。
    • 大陸(旧満州国)で敗戦を知った多数の邦人を拘留し、シベリア等で強制労働に駆り出した。
    • 北方領土問題に至っては戦後70年を経た今でも解決していない。
その他にも当時の日本の首脳が色々とやらかした失敗や、ドイツでの出来事についても触れているが(「反ユダヤ主義」の歴史に関する記述だけでも一読の価値あり)、本論は概ね上記の通り。

過激な記述が多めなのが問題と言えなくもないが(多少ナショナリスト的)分析と論点は明確。戦争を生み出す経済状況を知り、戦争を回避するために取り得る経済政策を考える上で参考になる内容が多いと思う。

2015年8月16日日曜日

武田 綾乃 「響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のヒミツの話」


武田 綾乃(著)「響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のヒミツの話」(宝島社文庫、2015/5/25)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4800241197/>
文庫: 268ページ
出版社: 宝島社 (2015/5/25)
言語: 日本語
ISBN-10: 4800241197
ISBN-13: 978-4800241191
発売日: 2015/5/25

[書評] ★★★☆☆

「響け! ユーフォニアム」(1~3巻)のこぼれ話。吹奏楽部「あるある」話あり、本編(1~3巻)ストーリーに直接関係ない裏話あり。本編を読んだ人なら楽しめると思う。必読、というほどではないかな…(私が何を書こうと、ファンの方々は既に読んでいると思いますが/笑)

リンク:

2015年8月15日土曜日

山崎 豊子 「沈まぬ太陽〈1~5〉」

山崎 豊子(著)「沈まぬ太陽〈1~5〉」

[書評] ★★★★★

多くの人たちには説明するまでもない作品だが、30年前の1985年8月12日に起きた、航空史上最悪の事故、JAL123便の御巣鷹山事故(1985)を中心に、事故の温床となった組織の腐敗、政界・官僚との癒着の実態を描き出した作品(初出1995~1999)。
  • この作品は、多数の関係者を取材したもので、登場人物、各機関・組織なども事実に基き、小説的に再構成したものである。(1・2巻冒頭但し書き)
  • この作品は、多数の関係者を取材したもので、登場人物、各機関・組織なども事実に基き、小説的に再構築したものである。但し御巣鷹山事故に関しては、一部のご遺族と関係者を実名にさせて戴いたことを明記します。(3~5巻冒頭但し書き)
とある通り、小説とするために脚色は入っているものの、ベースは実話。10年以上にわたって海外の僻地に“流刑”された主人公も、実在の人物をベースにしている。臭い物に蓋の組織体質(事故を隠蔽し改善が行われない)、政財界・官僚との癒着、一部の従業員による業務上横領・特別背任行為が「既得権益」となっていた実態、…挙げたらキリがない。が、本作品を読むと、御巣鷹山事故が起こるべきして起こった人災であることと、また遺族がどんな扱いを受たかがよくわかる。

山崎女史の他の作品にも言えることなのだが、取材等を通じた事実確認は非常に丁寧だ。海外に赴任した人の生活が目に映るように描かれている。企業の中でどのように「裏金」が作られるのか、また一部の従業員がどのように私腹を肥やしているのかも生々しい。企業が政財界・官僚とどのように「癒着」しているのかの例もよく分かる。…読んでいて、腐敗臭に顔をそむけたくなる位だ。

本書を通して、御巣鷹山事故に関する詳しい話を知るのも良い(上述の通り、小説の体裁は取っているが、事実をベースとした作品である)。事故はどのように起こるのか、事故を未然に防ぐにはどうしたら良いのか、安全に関わる製品・サービスを扱う人と組織はどのようにあるべきかを考えるのも良い。政財界・官僚と企業の関係についてあるべき姿を考えても良い。…色々と考えさせられる作品。

人の生命や財産の安全に関わるサービスや製品に携わっている人には必読書と言って良いだろう。それ以外にも多くの人にお薦め出来る。

・  ・  ・  ・  ・

以下書籍情報:


山崎 豊子(著)「沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上)」(新潮文庫、2001/11/28)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4101104263/>
文庫: 409ページ
出版社: 新潮社 (2001/11/28)
ISBN-10: 4101104263
ISBN-13: 978-4101104263
発売日: 2001/11/28


山崎 豊子(著)「沈まぬ太陽〈2〉アフリカ篇(下)」(新潮文庫、2001/11/28
<http://www.amazon.co.jp/dp/4101104271/>
文庫: 483ページ
出版社: 新潮社 (2001/11/28)
言語: 英語
ISBN-10: 4101104271
ISBN-13: 978-4101104270
発売日: 2001/11/28


山崎 豊子(著)「沈まぬ太陽〈3〉御巣鷹山篇」(新潮文庫、2001/12/26)
<http://www.amazon.co.jp/dp/410110428X/>
文庫: 510ページ
出版社: 新潮社 (2001/12/26)
言語: 英語
ISBN-10: 410110428X
ISBN-13: 978-4101104287
発売日: 2001/12/26


山崎 豊子(著)「沈まぬ太陽〈4〉会長室篇(上)」(新潮文庫、2001/12/26)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4101104298/>
文庫: 510ページ
出版社: 新潮社 (2001/12/26)
言語: 日本語
ISBN-10: 4101104298
ISBN-13: 978-4101104294
発売日: 2001/12/26


山崎 豊子(著)「沈まぬ太陽〈5〉会長室篇(下)」(新潮文庫、2001/12/26)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4101104301/>
文庫: 420ページ
出版社: 新潮社 (2001/12/26)
言語: 日本語
ISBN-10: 4101104301
ISBN-13: 978-4101104300
発売日: 2001/12/26

2015年8月9日日曜日

エマニュエル・トッド 「『ドイツ帝国』が世界を破滅させる 日本人への警告」


エマニュエル・トッド(著), 堀 茂樹(翻訳)「『ドイツ帝国』が世界を破滅させる 日本人への警告」(文春新書、2015/5/20)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4166610244/>
新書: 232ページ
出版社: 文藝春秋 (2015/5/20)
言語: 日本語
ISBN-10: 4166610244
ISBN-13: 978-4166610242
発売日: 2015/5/20

[書評] ★★★★☆

表紙を開くと、“「ドイツ帝国」の勢力図”なる地図が現れてギョッとする。ドイツ周辺の数ヵ国が「ドイツ圏」、フランスは「自主的隷属」、その他の国のうち多くが「事実上の被支配」、…。

本書では、ドイツが冷戦終結、通貨統一(ユーロ)、米国のプレゼンスの低下を機に、欧州の政治と経済を支配し始めていると警鐘を鳴らす本。エマニュエル・トッド氏は本書で自国(フランス)はどうすべきかを説いているのだが、国際情勢を知る情報として、また日本の採るべき立場を考える上で、参考になる本だと思う(日本が危惧すべきはドイツと中国の接近であろう)。

①ドイツの科学技術力、②ロシアの国力、③中国の経済力と軍事力、を多少甘く見ている節があることや(※1)、「大不況の経済的ストレスに直面したとき、リベラルな民主主義の国であるアメリカはルーズベルトを登場させた。ところが、権威主義的で不平等な文化の国であるドイツはヒトラーを生み出したのだ。」(p. 63)といった、必要以上に恐怖感を煽るような表現が多いのはチョットいただけない。また、多少フランス視点に偏っている傾向も見られるが(これは仕方がない)、概ね世界情勢分析は鋭いと言って良いだろう。

※1: 本書の内容ではないが、世界を不安定にする3つの国はロシアと中国とドイツだという分析もある。トッド氏はこれらの国が嫌いな為過小評価してしまっているという読み方も出来る。

また、本書に「果たしてワシントンの連中は憶えているだろうか。1930年代のドイツが長い間、中国との同盟か日本との同盟化で迷い、ヒトラーは蒋介石に軍備を与えて彼の軍隊を育成し始めたことがあったということを。」(p. 37)とある。日本人の多くはそうは思っていないのかも知れないが、ドイツ国民には反日感情を持つ人も多いことも忘れてはいけない。有色人種に対する差別意識、第1次大戦(1914-1918)で租借地の青島と植民地の南洋諸島を攻略したことに対する恨み、高度経済成長によりGDPがドイツより日本の方が大きくなったことへの反感、…等々の色々な感情があるのかも知れない。

本書内、賛成できない意見、過激にすぎるな表現、評価分析が甘いのでは?と思える箇所、等が数ヵ所あったが、最近読んだこのテの本の中では断トツに面白かった。読んで損は無い

・  ・  ・  ・  ・

以下余談:ドイツがどのように欧州の政治・経済を支配するようになったのか。本書の内容から、この流れを簡単にまとめてみたい。
  • ・冷戦終結(1989)
    • 旧東ドイツ・旧東欧諸国の人々を、教育水準が高くかつ低賃金の労働力として上手に使い、自国の産業競争力を向上させた。
    • NATO、特に米国のお陰で軍事負担はほぼゼロである。(※2)
  • 欧州統合(1967:EC, 1993:EU)、通貨統一(1998)
    • ユーロ導入に対しドイツは当初は慎重だったが、ユーロに加盟した直後に自国内の給与水準を下げ、ユーロ圏内での圧倒的な貿易競争力を手にした。
    • ユーロ加盟各国は自国で通貨を発行できない(各国は通貨レート・物価水準を操作出来ない)。一国一通貨なら為替レートが変動するのだが(独マルク時代はマルク高になり輸出競争力が落ちる)、南欧・東欧の諸国が足を引っ張ってくれるお陰(?)でユーロ高にはならない。以後、ユーロ圏内では圧倒的な貿易黒字を出し続け、欧州を実質的に経済支配している。
    • ECB(欧州中央銀行)はフランクフルトにあり、ドイツはここからユーロ圏内の全ての国の銀行とカネの動きを監視することが出来る。
    • 現在では政治と経済は一体化しているので、ドイツはユーロ圏の経済と同時に政治も実効支配し始めている。それも、不平等な支配形態である(本書ではそう書いていないが「植民地」に近い支配形態)。この不平等を、本書ではたとえば「ギリシャ人やその他の国民は、ドイツ連邦議会の選挙では投票できない。」(p. 67)といった風に表わしている。
  • 欧州における米国のプレゼンスの低下(2010頃~)
    • 米国は第2次大戦の敗戦国の日独2国を長らくコントロールしていたが、近年はドイツのコントロールが出来なくなっているが、米国はこれを隠蔽するためにドイツに追従した動きをすることが多くなってきた。
    • ドイツとロシアは実質的に紛争状態。ウクライナ西部(親欧州側)の極右組織とドイツとはつながっている。
冷戦終結から後、時流に乗りor機を見て、ドイツはしたたかに国力と競争力を高めてきたことがよく分かる。また、文化も言語もメンタリティも違う国々(EU諸国)で通貨統合・経済統合をすること自体に無理があることもよく分かる。政治・経済とも日本と関わりの深い地域で起こっていることを知るうえで、貴重な情報と意見が読める本だ。オススメ。

※2: これについて本書の内容だけでは少し説明不足なので付記しておく。
  1. 第2次大戦後ドイツは武装解除されていたが、東西冷戦の激化を受けてドイツ連邦軍を組織(1950~準備、1955組織)、NATO加盟(1955)。
  2. 自国軍は持ったが「ドイツ連邦軍は自国領域およびNATO同盟国領域を防衛する目的で使われる。ただしNATO領域外へのその派遣は禁じられている」というのが長年のドイツ国内でのコンセンサスだった(「出せない」憲法解釈+「出さない」政治方針を堅持)。
  3. 湾岸戦争(1991)の時にはドイツ連邦軍は出さず(軍事財政の負担のみ)。NATO加盟諸国から、「小切手は切るが兵士は出さず、血を流さないのか」との批判が浴びせられる。
  4. この国際的批判に懲り、ボスニア危機(1994,1995)からは、NATO領域外にもドイツ連邦軍を派遣を出来るように憲法解釈と政治方針を変更。
つまり「EU内の他国並みの軍事負担(少なくとも費用負担)はしている」と言った方が正しいかも知れない。

2015年8月6日木曜日

ロバート・B. ライシュ(著)「格差と民主主義」

御無沙汰いたしております。久しぶりに書評をアップします。


ロバート・B. ライシュ(著)「格差と民主主義」(東洋経済新報社、2014/11/21)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4492444009/>
単行本: 219ページ
出版社: 東洋経済新報社 (2014/11/21)
言語: 日本語
ISBN-10: 4492444009
ISBN-13: 978-4492444009
発売日: 2014/11/21

[書評] ★★★★★

著者ライシュ氏は、労働長官(ビル・クリントン政権から3政権)、政策アドバイザー(バラク・オバマ政権)を務めた人。政府高官を経験していながら、ウォール街や米国大企業からの魔手に“汚染”されていない数少ない良識派である。

ズバリ、非常に分かりやすい。現在の資本主義の陥っている状況、政治と経済の一体化とその問題点をまとめ、我々市民が何をなすべきかを指し示す。

現在のグローバル資本主義社会の分析と問題解決への提言は、ピケティが「21世紀の資本」(2014) (Amazon)、「トマ・ピケティの新・資本論」(2015) (Amazon)を著しているが、本書はピケティ本ほど専門的でなく非常に読み易い。
  • ピケティの本は、本が大きく(A5サイズ+ハードカバー)、ページ数が多く(巻末付録まで入れると約700頁)、重く、字が小さく、専門的で難しい。話題の本として売れたようだが、一般読者には難し過ぎたようで、解説書もバンバン売れているらしい。
  • ライシュの本は、適度な大きさ(B6サイズ+ハードカバー)、適度なページ数(約200頁)、軽く、読み易い文字サイズ、解り易い。
…まぁ両者は本を書いた目的や対象読者層が違うので、難易度やページ数も違うのが当たり前なのだが、ともかく。ピケティは学者・専門家向け、ライシュ(本書)は万人向け

内容をざっくりまとめると、概ね以下のようになるだろうか。
  1. 政治と経済が一体化している。富裕層が政治を牛耳って自分達に都合の良くなる政治活動をしており、その結果として資本主義がもはや「富が集中するよう仕組みまれた不公正なゲーム」となっている。必然的に中間層は没落している。
  2. グローバル化した企業は株主と経営者のための経営を行っており、従業員や国民のための経営を行なわなくなってきている。雇用も市場も海外に求め、米国内に富を生み出さなくなって来ている。これら企業の経営者らによるロビィ活動は決して米国の為にならない。(同じことは日本企業にも言える。)
  3. 政治家にも逆進主義的右派が現われてきている(たとえば戦前日本のような極端な格差社会に戻そうとしている)。
  4. 私たちがすべきことは、政治に積極的に関与して民主主義を護り、発展させることである。投票に行くだけでなく、普段から政治家の動きをチェックし、国の為国民の為に活動している政治家を積極的にサポートし、裏切った政治家には次回選挙で罰を与えること。正しいと思えることのために人々と対話し、民意を盛り上げること。
いずれも、前著
  • 「暴走する資本主義」(2008) (Amazon拙書評)
  • 「余震(アフターショック) そして中間層がいなくなる」(2011) (Amazon)
と共通した問題分析・提言なのだが、本書はその集大成といったところ。米国民に向けて書かれた本だが、殆どの項目は日本にも当てはまる(日本では、政治を語る個人は少なく、政治に関わる個人はもっと少ないという点は違うが)。上述の通り、現在における資本主義の現実がハッキリ書かれていて、問題点もよくまとまっており(我々各個人の問題として書かれている)、これを解決するために我々個人が取れる(取るべき)行動も具体的かつ明快。好感の持てる本。

現在の政治・経済の分析や問題点について書かれた本は多いが、解決のための具体策と心構えをここまで明確に表した本はなかなか無いのではないだろうか。

良書。オススメ。