2012年7月31日火曜日

ティナ・シーリグ「20歳のときに知っておきたかったこと」

ティナ・シーリグ (著), Tina Seelig (原著), 高遠 裕子 (翻訳)
「20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義 [ハードカバー] 」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4484101017/>
ハードカバー: 231ページ; 出版社: 阪急コミュニケーションズ (2010/3/10); 言語 日本語; ISBN-10: 4484101017; ISBN-13: 978-4484101019; 発売日: 2010/3/10
[書評] ★★★★☆
 「スタンフォード白熱教室」で有名なティナ・シーリグ教授の著作。 副題に「スタンフォード集中講義」と付いているが、これから社会に出ようとする学生に向けた、ティナ・シーリグ教授によるメッセージ。
 曰く、学生の時に出題される問題の正解は1つかも知れないが、実社会では答えは何通りもある、 社会では失敗が許される、失敗は人生の学習プロセスの重要な一部であり失敗を財産と見ることが出来るかどうかで人生の質が変わる、云々。また、「運が良い人」は単に運が良いというよりも、目の前に転がってきたチャンスを活かすことの出来る人だと言う。
 学生に向けたメッセージではあるが、社会人として経験を積んだ後に読むと、また違ったものが得られると思う。 学生、社会人、広い読者層に薦めることが出来る良書だ。

2012年7月29日日曜日

池谷裕二「進化しすぎた脳」

池谷 裕二 (著)
「進化しすぎた脳 (新書)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4062575388/>
新書: 397ページ、出版社: 講談社 (2007/1/19)、ISBN-10: 4062575388、ISBN-13: 978-4062575386
[書評] ★★★★★
 「海馬」に続けて読んだ、池谷先生の著。US留学中の高校生を対象に、脳・神経科学の分かりやすい説明、 脳・神経科学の現状と今後の進む方向について述べる。 新書版出版にあたり、東大薬学部の池谷先生の研究室の学生(大学院生)との対談を追加収録している。
 帯に「しびれるほど面白い」と書いてあるが、こういう売り文句の常(大抵裏切られる)とは違い、本当に「しびれるほど面白い」。 人間の(というか全ての動物の)脳がどのような働きをし、どのような性質を持ち、…といった辺りに興味のある人や、 脳科学のイントロを知りたい人にはオススメできる本である。

池谷裕二・糸井重里「海馬―脳は疲れない」

池谷 裕二 (著), 糸井 重里 (著)
「海馬―脳は疲れない 新潮文庫」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4101183147/>
文庫: 344 p ; 出版社: 新潮社 ; ISBN: 4101183147 ; (2005/06)
[書評] ★★★★☆
 最近、脳や脳科学に関する書籍が非常に多いように思える。 素人向けに易しく書かれた本もあれば、難しい本もある。 人間のゲノムの解釈が一段落ついた現在、次なる生命の神秘は、 脳・脳科学と言えるのかも知れない。
 本書は、その道のプロ(大学の研究者)が、脳科学/医学の素人、 糸井重里氏と対談するという形をとった、軽い読み物。でも、軽い読み物とは言え、内容は非常に面白い。 池谷先生の説明が良いのか、それとも糸井氏のリードが良いのか(おそらく両方なのだろう)、人間の脳の特性や、脳の活かし方を分かりやすく説明する。
 本書は、脳科学の最前線や全体的なレビューではないが、 素人でも分かりやすく読める良書だ。あまり難しく考えずに、人生を楽しむには、 本書のような本も役に立つのではないだろうか。 脳の特性を知った上で、この特性を生かしたり、時には逆らってみたりして、 自分の脳を活かそう、という前向きな読者にオススメ。

2012年7月28日土曜日

デイジー・ウェイドマン「ハーバードからの贈り物」

デイジー・ウェイドマン (著), 幾島 幸子 (翻訳)
「ハーバードからの贈り物 Harvard business school press」
<http://www.amazon.co.jp/dp/427000035X/>
単行本: 190 p ; 出版社: ランダムハウス講談社 ; ISBN: 427000035X ; (2004/09/15)
[書評] ★★★★★
 バーバード・ビジネススクールで、教授たちが最後の授業で生徒に語った話を集めた本。この話は、授業内容にもビジネスにも直接関係の無い話ばかりだが、 人生の転機となった恩師との出会い、誰かの言葉、得がたい体験等々、 教授たちが巣立ってゆく生徒たちに対して言ったはなむけの言葉である。
 卓越した人たちも生身の人間であるのと同時に、彼らがどのような環境で育ち、どのように卓越した人たり得たかを理解するの助けになる。 助けになるだけでなく、非常に面白い。すぐに役に立つ本ではないが、一読をお薦めできる一冊だ。

2012年7月27日金曜日

菊池誠「若きエンジニアへの手紙」


菊池 誠 (著)
「若きエンジニアへの手紙」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4478890056/>
出版社: ダイヤモンド社 (1990/06)、言語 日本語、ISBN-10: 4478890056、ISBN-13: 978-4478890059
[書評] ★★★★★
 東京電気研究所(その後の電総研、現在の産総研)~ソニーで半導体の研究を続けた著者が、 自身の経験と交友から知った・感じたことを、若い技術者宛のメッセージとして まとめた本。
 ショックレー(ベル研にて、世界で最初にトランジスタを作った人)との交友を通じて胸に刻んだ言葉や研究・開発に取り組む姿勢などに始まり、 研究者・開発担当者として心がけるべきこと、 社会人・企業人として身につけておくべきこと、 等などを非常に分かりやすく綴った本。
 とにかく良書だ。 研究者、エンジニア(と自分を思っている人)は読むべし!

※本書は現在入手困難だが、工学図書から再版本が発行されている(<http://www.amazon.co.jp/dp/4769204760/>参照)。

西堀栄三郎「ものづくり道」

西堀 栄三郎 (著)
「ものづくり道」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4898310761/>
単行本: 339 p ; 出版社: ワック ; ISBN: 4898310761 ; (2004/07)
[書評] ★★★★★
 前半はリーダーシップ論が中心、後半は技術者論が中心となる本である。 作者は第1回南極越冬隊の隊長、エベレスト登頂隊の隊長などを経験した人で、 先頭を切って戦場を駆け回り、人を勝利に導き続けた武将といった感のある人である。
 前半部では、人を動かすための秘訣について解く。その中身は、恐怖政治型・プッシュ型の指導ではなく、モチベーションを上げる指導が中心である。この本を読んで非常に感じたことは、 「やってみて、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」という山本五十六の言葉と同じ内容だ。
 後半は、技術論・技術者論について解く。 日本のものづくりに関する話で、似た話は他の色々な本でも読むことの出来るものだが、 優れたリーダーの視点を通した技術論・技術者論が展開されているので面白い。
 本書は、社内研修(選抜研修)でY上席執行役員(研究開発副統括)(当時)が推薦し、 希望者間に回覧していた本である。 Y上執が本書を回覧した理由は、この本の内容が「技術論・技術者論」であると同時に「リーダーシップ論」であり、「研究開発リーダー」に求められるものと多くの共通点を持つからだと思われるが、そういうコトを抜きにしても面白い本だ。 前半は、これから人を率いる立場になる人・なろうとしている人全員にお薦めできる。また、1冊を通して、「志ある」技術者全員に推薦できる。

2012年7月26日木曜日

クレイトン・クリステンセン、ほか「イノベーションのDNA」

クレイトン・クリステンセン (著), ジェフリー・ダイアー (著), ハル・グレガーセン (著), 櫻井 祐子 (翻訳)
「イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4798124710/>
単行本: 352ページ; 出版社: 翔泳社 (2012/1/18); 言語 日本語; ISBN-10: 4798124710; ISBN-13: 978-4798124711; 発売日: 2012/1/18
[書評] ★★★★☆
 クリステンセン教授の「破壊的イノベーション論」に関する最新刊。
 イノベーティブな起業家や組織の行動原理を分析し、 一般的な社員(マネジャー以上)や組織をどうすればイノベーティブになれるかを書いた本。
 結論を言ってしまうと、優れたイノベータは「他人と全く違う行動をとる」ことに特徴があるという。その内容を整理すると、
  ①現状に異議を唱、正しい質問をする
  ②世界(顧客や顧客の行動)を観察する
  ③さまざまな人脈(ネットワーク)を通して、斬新なアイデアを触発する
  ④実験を何度でも行い、有効な解決策を見出す
  ⑤まったく異なるアイデアや経験を関連づけて、驚くような解決策を導く
といった辺りなのだが、詳しくは本書を手に取って読んで欲しい。
 本作も、企業幹部・研究開発メンバー・営業メンバーの全てにとって 必読の課題図書であると思う。

 なお、研究開発に携わる技術者ならば、クリステンセン氏の破壊的イノベーション論の本は全て網羅しておいた方が良い。
  ①イノベーションのジレンマ、
  ②明日は誰のものか イノベーションの最終解、
  ③イノベーションへの解 実践編
  ④教育×破壊的イノベーション 教育現場を抜本的に変革する (←この1冊だけ毛色が違うので飛ばしても良いかも)
  ⑤イノベーションのDNA
 これらは21世紀の教養だ。

2012年7月25日水曜日

クレイトン・クリステンセン、他「教育×破壊的イノベーション」

クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ホーン (著), カーティス・ジョンソン (著), 櫻井 祐子 (翻訳)
「教育×破壊的イノベーション 教育現場を抜本的に変革する」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4798117730/>
ハードカバー: 288ページ; 出版社: 翔泳社 (2008/11/20); 言語 日本語; ISBN-10: 4798117730; ISBN-13: 978-4798117737; 発売日: 2008/11/20
[書評] ★★★★★
 日本における理系離れが叫ばれて久しい。 日本の産業に競争力をもたらすのはイノベーティブな技術者となる人材を多く供給しなければならないが、 本書はこれに対するヒントをもたらす。 教育に携わる人に是非読んで欲しい1冊。 教育関係者でなくても、子どもを持つ全ての人、子どもを持つ予定のある人にとっても、 非常に重要な研究結果が示されている。
 しかし、破壊的イノベーション論を知らない人には「何のこっちゃ」な内容かも知れない。 本書の中に、ハイテク技術の破壊的イノベーションの例が引用されていて、説明はされているのだが、 予備知識無しで読むのは厳しいかも知れない。クリステンセン氏による破壊的イノベーション論4分冊のうち、 「イノベーションのジレンマ」をナナメ読みするだけでも良いので、一読した上で本書を読むと良いと思う。 本書を読むと、今の日本の教育は(「ゆとり教育」からは脱却したものの)まだまだ改革が必要であることが解ると思う。 文科省の職員の方々や、学校の先生方など、広い層に読んで欲しい1冊だ。

2012年7月24日火曜日

クレイトン・クリステンセン、ほか「明日は誰のものか」

クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著), 宮本 喜一 (翻訳)
「明日は誰のものか イノベーションの最終解 Harvard business school press」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4270000716/>
単行本: 568 p ; 出版社: ランダムハウス講談社 ; ISBN: 4270000716 ; (2005/09/16)
[書評] ★★★★☆
 教育、航空(航空機産業、航空運輸業)、半導体、ヘルスケア(医療)、通信といった業界に対して、 破壊的イノベーションの分析を行う。 過去の事例の分析だけでなく、現状把握や将来の方向性も予見する意欲作だ。 本書もクリステンセン教授の前作(「イノベーションのジレンマ」「イノベーションへの解」)に続き、 企業の企画・統括部門の主要メンバーや研究開発の意思決定者にとって必読の書だろう。
 残念なのは翻訳者が各業界に通暁していないように見受けられる点だ。よく勉強して翻訳したのだとは思うが、特に半導体業界や通信業界に関する分析で、 意味は通じるがニュアンスが違う・国内では違う表現が一般的なのではないか、と思われる箇所が多数目立った。 原著(英文で300ページ超)を読むより低いハードルで日本語で読めるメリットは大きいのだが、 翻訳の質の分だけ★1つ減点させて頂く(原著の内容に対する減点ではない)。

2012年7月23日月曜日

クレイトン・クリステンセン&マイケル・レイナー「イノベーションへの解」

クレイトン・クリステンセン(著),マイケル・レイナー(著),玉田 俊平太, 櫻井 祐子(翻訳)
Harvard business school press
「イノベーションへの解―利益ある成長に向けて」

<http://www.amazon.co.jp/dp/4798104930/>
単行本: 373 p ; 出版社: 翔泳社 ; ISBN: 4798104930 ; (2003/12/13)
[書評] ★★★★★
 前作「イノベーションのジレンマ」はおよそ以下のメカニズムを述べている:
 ①イノベーションには(1)持続的イノベーションと(2)破壊的イノベーションとがある、
 ②一般に大企業(創業後長年にわたり成長を続けている企業)は(1)持続的イノベーションには長けており、また持続的イノベーションに必要な経営資源を十分に持っているが、(2)破壊的イノベーションを自ら起こせる体質を持っておらず、また、(3)他社による破壊的イノベーションに遭遇した際にも充分な対処ができず、 最悪の場合は市場から去ることになると述べる。
 特に、大企業が自ら破壊的イノベーションを発生させることが不得意な理由として、 成長に伴い定着した企業の「文化」や「プロセス」がそれを妨げることと(この企業「文化」や「プロセス」は、持続的イノベーションに特化している)、また、発生直後の小さな市場では大企業に十分な成長の機会を与えないために、 破壊的イノベーションはめったにテーマの取捨選択のフィルタを通らない(大企業内で破壊的イノベーションを継続することは殆ど不可能)という問題と そのメカニズムを示す。
 前作では、他社による破壊的イノベーションに遭遇した際に大企業がとるべき道を示したが、 本作では、大企業が自ら破壊的イノベーションを創造する手法について述べる。 前作に引続き、切れ味鋭い良書だ。 本作も、企業幹部・研究開発メンバー・営業メンバーの全てにとって必読の書である。

2012年7月22日日曜日

クレイトン・クリステンセン「イノベーションのジレンマ」

クレイトン・クリステンセン (著), 玉田 俊平太, 伊豆原 弓
Harvard business school press
「イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき」

<http://www.amazon.co.jp/dp/4798100234/>
単行本: 327 p ; 出版社: 翔泳社 ; ISBN: 4798100234 ; 増補改訂版 版 (2001/07)
[書評] ★★★★★
 本書は、企業のイノベーションを(1)持続的イノベーションと、(2)破壊的イノベーションとに分類し、 大企業は(1)には長けているが、(2)のイノベーションには不得意であるという。 不得意であるだけでなく、 他社の(2)の破壊的イノベーションに出会った際に、 経営危機に陥るという。HDD(ハードディスクドライブ)や掘削機を例に、 著者は自らの主張の裏づけをし、 破壊的イノベーションへの対処法(のキッカケ)を示す。
 破壊的技術・破壊的イノベーションの特徴として、次のようなものを挙げる:
①世の中に出てきた時には、既存の市場(主流市場)には受け入れてもらえない、
②既存の市場とは異なる、別のモノサシで測った特性(価格、サイズ、等)で別の市場に受け入れられる、
③最初は小さな市場しか持たず、(既存事業を推し進める)大企業の成長を賄うことはできない、
④技術の革新に従い、既存市場(主流市場)にも受け入れられるだけの特性を持つに至る、
⑤既存市場のみを相手にしていた大企業は、破壊的技術の上位市場への食い込みに従い、シェア縮小(→最悪の場合には)企業の破綻へと至る。
 こういった問題にどう取り組めば良いか、 大企業が破壊的技術を扱い、 破壊的技術で市場を得るには どのようにしたら良いかを説く。
 たとえば、破壊的技術の展開の方法の例として、 誰もが知っている電気自動車を使った説明をしており、 非常にわかりやすい。(電気自動車は現在のガソリン/ディーゼル自動車並みの性能要求を満たしておらず主流市場には受け入れられないが、確立された自動車の分野以外に活路があるのではないか と(例としてだが)筆者は述べている。)

 以前いた部署で、新規事業探索というミッションを与えられ、 前提条件として示されたハードルに色々な問題を感じていた。 本書は、それらの疑問に明確・明快に答えを与えてくれた。 目から鱗が落ちたなんて生易しいものではない、衝撃を与えた本である。「新規事業探索」担当者は勿論、研究開発メンバー・営業メンバーの全てに必読の書である。ベストセラーになった本には、話題性のみの本と、実を伴う本とがあるが、 本書は間違いなく後者だ。 全ての社会人に強く推薦する。

【余談】この翻訳監修者(玉田 俊平太氏)の名前は、 経済学者ヨゼフ・シュンペーターの名前をモジッた ペンネームに違いないと思っていたが、どうやら本名らしい(大学時代に玉田氏と同じサークルに所属していたという某先輩による)。 玉田氏のご両親も、ずいぶん思い切った名前をつけたものだ。

2012年7月21日土曜日

デビッド・シロタ「熱狂する社員」

デビッド・シロタ (著), スカイライトコンサルティング (翻訳)
「熱狂する社員 企業競争力を決定するモチベーションの3要素 (ウォートン経営戦略シリーズ) (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4901234803/>
単行本: 320ページ; 出版社: 英治出版 (2006/2/2); ISBN-10: 4901234803; ISBN-13: 978-4901234801; 発売日: 2006/2/2
[書評] ★★★☆☆
 ウォートン経営戦略シリーズの本。 発売後暫くの間、結構売れた本のようだが、書かれていることはごく当たり前のことが中心。こういう本が売れているということは、その「ごく当たり前」のことが出来ている企業が少ないということの現われか。
 とは言え、チームメンバーや部下のやる気を引き出す為に大切なこと、 職場で後輩を指導する立場の人や部下を持つ人が忘れがちな大切なことが沢山書かれているのも事実。 読んでおいて損は無い。

トム・ピーターズ、ロバート・ウォーターマン「エクセレント・カンパニー」

トム・ピーターズ (著), ロバート・ウォーターマン (著), 大前 研一 (翻訳)
「エクセレント・カンパニー Eijipress business classics」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4901234331/>
単行本: 555 p ; 出版社: 英治出版 ; ISBN: 4901234331 ; (2003/07/26)
[書評] ★★★★★

面白い!

本書には、優れた企業とはどういうものか、という問いに対する答えとして、(財務面ではなく)企業文化としての共通項を挙げ、読者の企業を良くするための参考として非常に役に立つ情報を与えてくれる。

エクセレントな企業・組織とはどのような組織か。 一言で言えば、状況の変化に柔軟に対応し、学習することのできる組織だ、と言うことができよう。そのためには、従業員のモチベーションを維持する仕組みも必要だし、 風通しの良い企業文化を作ることも必要だ。さらに、上から下・下から上への情報の流れの良さ、 異端なことを言う構成員を排除しない組織文化も必要だ。

今、某社(私の勤務先)は過去の負の遺産に引きずられて苦しんでいる。また、安定的に付加価値を生み出し続ける事業が無いことに苦しんでいる。なぜ苦しいのかと言えば、過去とのしがらみに雁字搦めにされているからだ。 私の勤務先は社長が交代した後、エクセレントなカンパニーにしようという動きが見られる(私の見たところ、経営コンサルは、本書「エクセレント・カンパニー」や その他のビジネス書の「流行りモノ」の熱心な読者だと思う)。5年~10年といった長期的な視点で会社を時代の変化に生き残れる企業にしようという意気込みは感じられるが、きちんとマネジメントしきれていないのを感じる。企業としての存在意義、将来像、存在価値を策定し、トップダウン式に研鑽会を行などを行い、企業文化を染み付かせようとする動きはあるが、 実際の運用は各部署に任せ、そこから上がってきた報告だけで満足しているのではないだろうか。また、この“存在意義”も“将来像”も抽象的にすぎ、末端の社員がどう行動すべきなのか、までは分からないままである。私の勤務先の、特に古い文化が色濃く残されている部署は、 基本的に「上には良いことだけを報告する」「臭い物には蓋」の文化が強い。こうしたことを鑑みるに、本質のところから企業文化を変えようとするならば、 各部署の研鑽会には必ず経営理念を策定したメンバー自身を出席させて具体的な指導に当たる等の処置が必要だと思う。 企業文化を本当に変えたいと思うのならば、看板をブチ上げてあとは他人任せで満足するのではなく、本当にそれを組織の末端まで行き渡らせる地道な努力が必要だと思う。

閑話休題。

本書について難点を挙げるとすれば、ただひとつ。 日本語訳が不自然なことだ。 日本語としてこなれた表現になっていない所が多い。また、漢字・かな・カタカナの使い分けが不自然だ。 訳者(大前研一氏)には訳者のなりのコダワリがあるのかも知れないが、それによって本書が若干読みにくくなっているのは非常に残念。ドラッカーが自著の訳者、上田惇生氏の翻訳・編集を、 著者以上に理解している、名訳は十分以上の理解が無いと生まれない、等とベタ褒めしている。 逆を言えば、翻訳のクオリティが低いということは、 訳者が原著の内容を十分に理解していないことの裏返しかも知れない(…というのは深読みのしすぎか?)。

2012年7月20日金曜日

野村克也「弱者の兵法―野村流 必勝の人材育成論・組織論」

野村 克也 (著)
「弱者の兵法 野村流 必勝の人材育成論・組織論 (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4757216483/>
単行本: 240ページ; 出版社: アスペクト (2009/7/24); ISBN-10: 4757216483; ISBN-13: 978-4757216488; 発売日: 2009/7/24
[書評] ★★★★★
 楽天イーグルス名誉監督・野村克也氏の著作。WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で日本が2連覇を果たした点から始め、 日本の野球の良さ、米国の大リーグ野球に足りないプレーを解説しつつ、 組織のあるべき姿・選手(⇒社会人)はどうあるべきか・監督/コーチ(⇒管理職)は どうあるべきか、等を説く。
 「巨人軍論」が集団/組織のあるべき姿を中心とした展開となっていたのに対し、 本書は個人のあるべき姿を中心とした展開となっている。 「巨人軍論」同様、企業などの戦う集団にも広く通用する人生哲学が読める。 非常に面白く、かつ一般の社会人にも参考になる点が多い。
良書。

野村克也「巨人軍論―組織とは、人間とは、伝統とは」

野村 克也 (著)
「巨人軍論 ――組織とは、人間とは、伝統とは (ワンテーマ21) (新書)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4047100366/>
新書: 176ページ ; 出版社: 角川書店 (2006/2/10) ; ISBN-10: 4047100366 ; ISBN-13: 978-4047100367 ; 発売日: 2006/2/10 ; 商品の寸法: 17.3 x 11 x 1 cm
[書評] ★★★★☆
 巨人軍がV9を達成しつつあった巨人黄金時代の巨人軍の分析を通じ、 野村克也氏が考える結果の出せる戦う集団に関する論を著した本。 本書の中で、現在の巨人がタレントを持った選手を数多く擁していながら何故勝てないのか、ヤクルトはどのように強いチームに生まれかわったのか、そのような組織を率いる監督の仕事とは何か、等々について熱く語る。 球団という戦う集団以外に、他のスポーツチームは勿論、 企業などの戦う集団にも広く通用する人事哲学が本書の通奏低音となっている。とても面白いし、一般企業に勤務する社会人としても、非常に参考になる。
 本書のオビに「私は自慢話をしているのではない」と書きつつも、あちこちに現役選手時代~南海の選手監督~ヤクルト監督時代の自慢話が散りばめられているのは ご愛嬌。
 閑話休題。
 野村克也氏は自分をアンチ巨人というが、少年時代からファンである巨人軍に対して、その監督にも選手にも、強い思い入れ・大きな愛情を持っていることがよくわかる。でも、これまで巨人とは中からではなく、外から関わってきた立場も非常によくわきまえている。 今の巨人の凋落を何とかしたいという気持ちが強い一方、でも自分の立ち位置として、巨人を中から変えるのは自分の役割ではない、という気持ちが、チョット屈折した形で現れている。そのような野村克也氏に、暖かい人間性を感じる読者は、私一人だけではないだろう。
 繰り返すが、非常に面白い。良書。

2012年7月19日木曜日

ダニエル・ピンク「ハイ・コンセプト―「新しいこと」を考え出す人の時代」

ダニエル・ピンク
「ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代 (単行本) 」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4837956661/>
単行本: 349ページ ; 出版社: 三笠書房 (2006/5/8) ; ASIN: 4837956661
[書評] ★★★★☆
 故ドラッカー教授の言う「知識社会」の次の時代が来ているぞ、という話。
 産業革命以降の大量生産時代、人々は体力や手先の器用さでメシを食っていたが、20世紀の終わり頃から現在にかけて、知識の時代が到来した。 故ドラッカー教授が言うところの「ナレッジ・ワーカー」が時代の中心である。ナレッジ・ワーカーは、大学で学んだ知識や、その後学んだ知識でメシを食っている。ナレッジ・ワーカーの労働内容は、左脳型活動である。
 しかし、これからは、大量生産は機械や労働単価の安い地域で行われる仕事となり、 先進国では立ち行かなくなるという。また、頭脳労働も、低次の頭脳労働は、計算機がやるようになる。 中位の頭脳労働は、やはり労働単価の安い地域のホワイトカラーが仕事を持って行ってしまうという。 例えばマイクロソフトやインテルがインドに研究所を置き、インドの優秀で低賃金のホワイトカラー層を使って、次期の商品開発を行っているのは有名な話である。
 このような時代、欧米や日本などの先進各国の知識層は、 計算機やインドのSEなどに出来ないことをやらないと、メシが食えなくなる。これからは、異種の物を組み合わせたり、新しい物を考え出したりすることや、 人のメンタルに訴える物事が重要になる。 仕事の内容は、左脳型+右脳型のハイブリッドな活動となる。
 いわゆる流行本なので、どうかなぁと思っていたのだが、読んでみると結構面白い。 大前研一が翻訳しているので、 「エクセレント・カンパニー」張りに変な日本語じゃないかと覚悟(期待?)していたが、ちゃんと読みやすい日本語になっていました。ちゃんちゃん。

ダニエル・ピンク「モチベーション3.0」

ダニエル・ピンク(著), 大前 研一 (翻訳)
「モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4062144492/>
ハードカバー: 306ページ; 出版社: 講談社 (2010/7/7); 言語 日本語; ISBN-10: 4062144492; ISBN-13: 978-4062144490; 発売日: 2010/7/7
[書評] ★★★★☆
 「ハイ・コンセプト」のダニエル・ピンクの新刊。
 本書は、これからの企業に必要とされる、動機づけに関する本である。 社会経済の発展に伴い、人間の動機づけが変わって来ていることを述べ、それを以下のように表現している。
●モチベーション1.0…生物としての生存のために行動するという考え方。
●モチベーション2.0…人には報酬と処罰(アメとムチ)が効果的だとする考え方。フォーディズムにも通じる。
●モチベーション3.0…創造的な活動、右脳的な仕事の動機づけのために、必要とされる考え方。人間には、学びたい、創造したい、世界を良くしたいという動機づけがあると考える。本書がフォーカスするもの。
 企業として、基本的な報酬は必要であるとしながら、それ以外の外発的動機づけに頼らずに、内発的動機づけを強調している。すなわち、人に生来備わっている、①(能力を発揮したいという)有能感、②(自分でやりたいという)自律性、③(人々と関連を持ちたいという)関係性、という3つの心理的要素を満たすことにより、 我々は動機づけられ、生産的になり、幸福を感じると述べる。
 人の動機づけに関して、議論の余地はまだある気もするが、モチベーションを云々する本が沢山出ている中、本書はそれらの「1歩先」を行き、ひとつ違った観点から議論をしていることに好感が持てる。よくあるモチベーション本とは議論のポイントが違う為、 誰もに読み易い本ではないかも知れないが、 後輩を指導する立場の人や、部下を持つ人にとって大切なことが沢山書かれていると思う。 社会人として、本書は読んでおいて損は無い。

2012年7月18日水曜日

デイヴィド・クレイグ「コンサルタントの危ない流儀」

デイヴィド・クレイグ (著), 松田和也 (翻訳)
「コンサルタントの危ない流儀 集金マシーンの赤裸々な内幕を語る (単行本) 」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4822245713/>
単行本: 359ページ ; 出版社: 日経BP社 (2007/3/9) ; ISBN-10: 4822245713 ; ISBN-13: 978-4822245719
[書評] ★★★★★
 非常に刺激的な本だ。
 コンサルタントに関する他の本として、G.M.ワインバーグ著「コンサルタントの秘密―技術アドバイスの人間学」があるが、こちらは、コンサルタントを使う上で知っておくべきことを書いている。これに対して本書は、悪徳コンサルタントのやり口をコンサルタント経験者が暴き、 要注意事項・チェックすべき点を挙げた良書だ。コンサルのプロジェクトに参加した人が本書を読むと、その多くが、見に覚えのある内容に出くわすだろう。
 私の勤務先が雇っているコンサルタントはどうか?  少なくとも私の知るかぎり、コンサルタントの報酬は出来高制ではないし、 結果に責任を負っていない。そんなコンサルタントの雇い方で、本当に意味のある結果が導き出されるのか? 
ワインバークの書よりも、さらに高いレベルで、 「コンサルティングをしている人、これからしようと考えている人、それにコンサルタントを使おうと考えている人」が読むべき書だと思う。 従業員が汗水流して稼ぎ出した利益を無駄遣いしないために。また、会社を滅ぼさないためにも。
 会社の経営者の方々に、是非ご一読頂きたい書である。 耳が痛い内容が多いかと思うが、途中で読むのを止めないで、 是非最後まで通読して頂きたい……。

D.C.ゴース・G.M.ワインバーグ「ライト、ついてますか」

ドナルド・C・ゴース (著), G.M.ワインバーグ (著), 木村 泉 (翻訳)
「ライト、ついてますか―問題発見の人間学」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4320023684/>
単行本: 161 p ; 出版社: 共立出版 ; ISBN: 4320023684 ; (1987/10)
[書評] ★★★★☆
 本書を読むと、禅問答に付き合わされているような気になってくる。 時々、本書の著者は、読者をバカにして高笑いをしているんじゃないか、と勘ぐってみたくもなる。が、それでもパラパラとページをめくって行くと、 時々本質的な所を鋭く突いてきて、目が覚める思いがする。この本自体は、何の解答も与えてはくれない。が、頭の中を整理するキッカケを与えてくれる。
 今、問題解決法が流行している(特に私の勤務先)。その影響か、「とりあえず何かやってみよう」 「コンサルタントを雇ってそれなりのことをやったから、成果があるに違いない」といった空気を非常に強く感じる。しかし、それで本当に問題を解決出来たのであろうか?  問題のポイントすら見えていない状況で、ジタバタしているだけなのではないだろうか?  「問題」と言っているものは一体何であるのか? そして、どのように「解決する」ことを望んでいるのだろうか? コンサルに踊らされる前に、ひとつ落ち着いて考えてみようじゃないか。…といった様々なことを考えさせてくれる、良書だと思う。

2012年7月17日火曜日

G.M.ワインバーグ「コンサルタントの秘密」

G.M.ワインバーグ (著), 木村 泉 (翻訳), ジェラルド・M・ワインバーグ
「コンサルタントの秘密―技術アドバイスの人間学」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4320025377/>
単行本: 254 p ; 出版社: 共立出版 ; ISBN: 4320025377 ; (1990/12)
[書評] ★★★☆☆
 本書は「コンサルティングをしている人、これからしようと考えている人、それにコンサルタントを使おうと考えている人」を対象としている、となっている。が、しかし、コンサルティングというのは、何もコンサルタントだけが行うものでは無い。 誰か他の人の自発的意思決定に何らかの影響を及ぼす行為は、全てコンサルティングである。と考えると、チームで協力して仕事をしている人や、お客様や業者さんと接点のある人といった、 他人とのコミュニケーションが仕事の上で重要な役割を持っているような人にとっては示唆に富んだ内容となっている。 良書。

G.M.ワインバーグ「スーパーエンジニアへの道」

G.M. ワインバーグ (著), 木村 泉 (翻訳)
「スーパーエンジニアへの道―技術リーダーシップの人間学」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4320025636/>
単行本: 288 p ; 出版社: 共立出版 ; ISBN: 4320025636 ; (1991/10)
[書評] ★★★★☆
 技術集団の中でのリーダーシップ論。 理屈よりも実例とその説明が豊富で解り易い。リーダーシップというと、集団のリーダーのみに求められるものであると捉えがちだが、 本書ではリーダー役以外の人の発揮する「リーダーシップ」についても言及されている。 筆者はコンピュータプログラミングに関わるコンサルタントを本業としているが、 本書の内容は技術集団に広く当てはまると思う。 良書。

2012年7月16日月曜日

M・ミッチェル・ワールドロップ「複雑系」

M.ミッチェル ワールドロップ (著), M.Mitchell Worldrop (原著), 田中 三彦 (翻訳), 遠山 峻征 (翻訳)
「複雑系―科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4102177213/>
文庫: 683 p ; 出版社: 新潮社 ; ISBN: 4102177213 ; (2000/05)
[書評] ★★★★★
 非常に面白い! 経済に興味のある人が読んでも、生物の進化に興味がある人が読んでも、はたまた計算機科学(特にアルゴリズムの理論)に興味のある人が読んでも、面白いと感じるだろう。 副題が「サンタフェ研究所の天才たち」となっていたので、 天才と呼ばれる人が何を考えているのか知りたくて買ったというのが本音だが、そんなことはどうでも良くなる程読ませる。 内容の豊かさもさることながら、作者の構成力・表現力が凄く良いのだろう(勿論、翻訳も)。
 複雑系とは、ケインズ経済学で説明できなくなってきた現代の経済活動の記述に使える(かも知れない)とか、メンデレーエフらの「遺伝の法則」や「適者生存」の理論だけでは説明できない生命の進歩(特に「突然変異」などの現象)を説明する手段の有力な候補として、 数年前に発生したムーヴメントを説明する有力な候補である。
 複雑系を注目する2大分野と言えば、経済学(経済理論)・生物学(進化論)となろう。
 経済理論は、古くはマルクス経済学に始まる。マルクス経済学は自由経済(の初歩)とその功罪を述べ、共産主義の理想を説く。 理想的な共産主義経済は、確かに自由経済(資本主義経済)と違って貧富の差の小さい、 理想郷の経済理論である。しかし、20世紀に見る共産主義経済の崩壊で、マルクス経済学の限界が見えてしまった。これに変わったのが、20世紀の後半にもてはやされたケインズ経済学である。ケインズ経済学は成長を続ける経済社会を説明し、 予測するのには役に立ったようだが、バブルの崩壊等といった経済現象を説明することが出来なかった(日本のバブル崩壊~「失われた10年間」より先にあった、 世界恐慌や70~80年代のアメリカの凋落と復活を説明することも出来ていないと思われる)。 日本がバブルの崩壊に続く10年間を喘いでいた頃、アメリカで注目され出したのが、 本書に書かれた複雑系による経済理論である。
 ※大学教養課程時代、経済企画庁・新保先生の経済学の講義を受講していた。 講義の内容は、ケインズ経済学に基づく理論で、 高度成長時代までの「繰り返す」経済変化を説明することが出来るというものであった(一言で言えば、「マルクス経済では説明できない“現在経済”の動きも、ケインズ経済で説明できる」となろうか)。が、バブルが弾けた後の世代となった今、その内容を見ると、やはり古いと言わざるを得ない。
 生物学(進化論)でも経済学同様、適者生存・状況の変化に適応したものが多く残る。 特に重要なのが、この「状況の変化に適応出来るか否か」である。これにより、メンデレーエフらの「遺伝の法則」と「適者生存理論」とだけでは説明しきれない「突然変異」などの説明が出来ることになるようだ。
 複雑系は、そのベースの中に、「強いものが生き残り、弱いものは淘汰される。 富めるものはより富む(「収穫逓増」)。それと同時に、状況の変化に対応できたものが生き残り、 適応できなかったものは消えゆく」という仕組みを確率論的な形で持っていることで、 多様性に富むもの(人や団体、生物種)が生き残ることをうまく説明できるようだ。しかし残念なことに、この複雑系は、現象を説明することは出来るが、(少なくとも現在のレベルでは)将来を予想する手法を与えるものではないようだ。

デヴィッド・タカーチ「生物多様性という名の革命」

デヴィッド・タカーチ (著), 岸 由二 (編集), 狩野 秀之 (翻訳), 新妻 昭夫 (翻訳), 牧野 俊一 (翻訳), 山下 恵子 (翻訳)
「生物多様性という名の革命 (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4822244865/>
単行本: 436ページ; 出版社: 日経BP社 (2006/3/16); ISBN-10: 4822244865; ISBN-13: 978-4822244866; 発売日: 2006/3/16
[書評] ★★☆☆☆
 本書は、近年米国を中心に近年ホットなテーマとなりつつある、「生物多様性(biodiversity)」に関して、 現状やその混乱状況を伝える本。 生物多様性を保全するということは、環境を保護する活動とも言えるが、 特定の種や地域に限定した「環境保全」ではなく、 種の中の多様性・種と種の間の多様性・地域を超えた多様性、 全生物の複雑なつながりを保全するということを意味するようだ。
 自然が何故保存されるべきかという問いに対して、本書は答えを示していない。「自然はその美しさゆえに保存すべき」という主張は、 美しいと感じて美しさに価値を見いだす人間を中心とした傲慢な主張であると言う。また、遺伝子などの研究対象としての「知的宝庫」だからという主張もあるが、これも人間中心的な傲慢な主張だ。また、人類がこの地球上に持続的に存在するために必要だから、という主張もあるが、(この主張自体は私にも否定できない主張ではあるが)人間中心的な“傲慢な主張”の枠を出ていない。この他にも「倫理的に」云々の主張はあるが、何の倫理か…と考えると、いずれも人間中心的な観点から一歩も踏み出せていないように思えるのは気のせいだろうか。 「人間中心的な傲慢な考え」を超えた視点に至っていない辺りは、このテーマがまだ揺籃期(混乱期?)にあることを示していると言えるだろう。 本書でも正直にこのことを述べている。すなわち、『「持続可能な開発」とは一種の撞着語法であり、 「生命政治的な動機による、きわめてあやふやなパラダイム」にすぎない』としている。
 なお、自然破壊が進行しつつあるコスタリカに、近年、コスタリカ国立生物多様性研究所(INBio)という組織が設立され、 生物多様性を保全するための活動が開始されていることを詳細に述べている。しかし、この組織は種々の生物から製薬に役立つものを抽出するという経済活動を通じて存続している。 組織が組織として持続するためには、何らかの経済的効果をもたらさなければならないのは理解できるとしても、 経済的に存続しうるということ自体、「人間中心の傲慢な態度」から脱却できないのかも知れない。
 最後になるが、本書の翻訳文は、お世辞にも読みやすいとは言えない。また、導入部は著者の独善にすぎ、読者をぐいぐいと引きつけるパワーに欠けるうらみがある。 訳者あとがきに『原文が「数十人もの関係者へのインタビューが、 読みやすさや筋の通りを考えて編集されることなく、まったく「生のまま」に収録されていること。しかもその量が生半可ではない。 意味を正確に把握することは不可能だと、匙を投げたくなるほどだった。』と翻訳の困難さについて述べたくだりがあるので、 読み難さの原因の多くは原著者に因るのだろう。
 内容的には★3~4個でも良かったのだが、読み難いということで、 私の書評としては★2個にしておく。

福岡伸一「生物と無生物のあいだ」

福岡 伸一 (著)
「生物と無生物のあいだ (講談社現代新書 1891) (新書)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4061498916/>
新書 ; 出版社: 講談社 (2007/5/18) ; ISBN-10: 4061498916 ; ISBN-13: 978-4061498914 ; 発売日: 2007/5/18 ; 商品の寸法: 17.2 x 10.6 x 1.4 cm
[書評] ★★★★★
 生物とは何だろうか? この問いかけに対する(著者なりの)定義を与えてくれる。 著者によると、生物とは、意図的に様々な原子/分子を取り込み、そして排出する、その「流れ」の中に辛うじて存在するモノだとする。 流れの中に一時存在しているものこそが生物である、という意味では、たとえばウイルスは単なるメカにすぎず、 生物でないとする。
 新書ですぐに読めてしまうが、内容は非常に深い。また、難しい内容でありながら、知的刺激に溢れており、どんどん読めてしまう。とにかく非常に面白い。
 万人にオススメできる本。

2012年7月15日日曜日

W・チャン・キム&レネ・モボルニュ「ブルーオーシャン戦略」

W・チャン・キム (著), レネ・モボルニュ (著), 有賀 裕子 (翻訳)
「ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する Harvard business school press」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4270000708/>
単行本: 294 p ; 出版社: ランダムハウス講談社 ; ISBN: 4270000708 ; (2005/06/21)
[書評] ★★★★☆
 既存企業がひしめき合い、血みどろの戦いを繰り広げる「レッド・オーシャン」での戦いではなく、 既存企業が存在せず、したがって競争も存在しない、 新たな事業領域「ブルー・オーシャン」を開拓して、 事業を大きく成長させる方法について述べた本。 非常に興味深いことを述べているが、以下に挙げる3点の問題点がある。すなわち:
 ①競争の無い領域とは言っても、代替財(20世紀初頭における馬車と自動車のような関係の物)すら無い事業領域というものは滅多になく、 本書で述べている「ブルー・オーシャン」の商品・サービスの多くが、 別領域の別商品と競合関係にあり、そういう意味では真に「競争の無い世界」とは言えない。多くの企業は、このような自社製品と競合する別分野の製品/サービスには目もくれていないと述べるが、世の中でエクセレントなカンパニーと呼ばれている企業は大抵、そういった分野まで目を配り、必要な対策をとっている。そういう意味で、「競争の無い世界」というのは、どんなものかと。
 ②本書でもNTT DoCoMoのi-modeなどを挙げているが、i-modeは成功の美酒に酔いしれている間に他社の追い上げを受け、なかなか二の矢を継ぐことの出来なかった、ある意味「失敗例」としても有名である。 一発狙いならば、本書に書かれたようなアプローチで良いのだろう。しかし、企業を存続させる為には、二の矢、三の矢を継ぐ必要がある。 本書の論点からはずれるかも知れないが、 二の矢、三の矢を出し続け、継続的なイノベーションを起こす方法についても述べられていればより良かったのではないだろうか。
 ③既存の競合他社が存在しない領域は、 言い換えれば「今まで誰も振り向いてこなかった領域」でもあり、 当たれば大きいが(どうして今まで誰も気づかなかったんだろう)、 外れる時は大空振りに終わる(やっぱり誰も欲しがらない商品/サービスだった)、というリスクもある。このようなリスクに対する対策等については、 若干議論が甘い気がする。
 結論としては、世の中で騒がれているほど凄い本でも無い、という感じ。勿論、新規事業創出等に関する本をあまり読んでいない人が読むと、 当然のことながら、色々得るものは多いと思うし、また、よくまとまった書き方をされているので、多くの本を読んだ人が読んだ場合も、 様々なことが確認できて良いのではないだろうか。
また、本書の特徴である、社内外の抵抗者層への対処方法は、 企業の方針転換や制度の変更時など、様々なシーンで役に立つ方法だと思う。この辺りも色々と参考になって良い。

C.K.プラハラード「ネクスト・マーケット」

C.K.プラハラード (著), スカイライト コンサルティング (翻訳)
「ネクスト・マーケット 「貧困層」を「顧客」に変える次世代ビジネス戦略 ウォートン経営戦略シリーズ」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4901234714/>
単行本: 496 p ; 出版社: 英治出版 ; ISBN: 4901234714 ; (2005/09/01)
[書評] ★☆☆☆☆
 従来のビジネス(B to Cビジネス)は、裕福層を対象として商品・サービスを提供する というのがこれまでの常識であったが、貧困層も対象にした場合、市場は何倍もの大きさになる。もちろん、貧困層を対象に商品・サービスを提供するには、 富裕層を対象としたマーケティングとは全く異なるアプローチが必要になる。また、独占的既得権益を持つ一部の人々をどのように扱うかも問題になる。 本書では、義足や眼科手術といった医療サービス、さらには消費財、既存商品に対する流通革命等々について述べる。
 インド全体を「貧困」と言ってしまえば、本書の議論は成り立つ。しかし、どれ程妥当な議論が出来ているかはよくわからない。よく知られている通り、インドにはカースト制度がいまだに根強く残っているが、たとえば最下層の人たち(いわゆる不可触賎民)も同じ商品・サービスを手に入れることが できているか? 本書でマーケットとして対象としているのは、 社会階層の最上層の次に位置する新・富裕層の人たちだけではないか?  市場が広がったという実例には富むが、本当に貧困層全てを対象としているか否か、 十分なデータが示されていないように思える。また、インドという社会が非常に特殊な状況にあるので、 他の国で参考になる情報は、意外にも少ないような気がする。
 さて。本書を読んで驚くのが、インドの現代医学・医療は非常に進んでいる!ということだ。 義足や眼科手術が驚くべき低コストで実現できていることなどは注目に値する。
 注目の書ということで、つい手にとってしまったが、言われている程新しい内容は無いのではないか。…という訳で、★1つ。

2012年7月14日土曜日

ヘンリー・ミンツバーグ「MBAが会社を滅ぼす」

ヘンリー・ミンツバーグ (著), 池村 千秋 (翻訳)
「MBAが会社を滅ぼす マネジャーの正しい育て方 (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4822245160/>
< http://bpstore.nikkeibp.co.jp/item/main/148222451600.html>
単行本: 556ページ ; 出版社: 日経BP社 (2006/7/20) ; ASIN: 4822245160 ; サイズ (cm): 21 x 15
[書評] ★★★★☆
 なかなか刺激的な題名の本だ。
 この本は、前半部で現在のMBA教育の問題点を実例とともに示し、 後半で今後のマネジメント教育がどうあるべきかを説き、カナダのマギル大学での取組とその成果を示す。
 20世紀終盤から、米国と日本(の一部の人の間)でMBAが大流行している。が、この学位(MBA=Master of Business Administration)は、元はと言えば、1908年に経済学・経営学の傍流として誕生した学位に、1950年代末に唱えられた戦略を取り入れたものである。もともと、米国(そして日本の戦後)の大量生産時代のマネジメントのメソッドを学問としたものである。
 過去、イノベーティヴな経営を行って大きな成果を残した経営者の中に、MBA取得者は実に少ない。 社会の変化に伴い、会社のあり方も変わってきている中、 旧態依然のMBA教育を受けた者が、本当の意味での「成果」を出せる筈もないのだ。にもかかわらず、今でもMBA取得者がマネジャーとして、 企業での出世階段に乗れるのは何故か。それは、MBA取得者の(ごく)一部が過去に大きな成果を残したという事実と、 彼らのネットワーク(「学閥」による人脈とも言い換えられよう)によるものである。
 本書はMBAの優れた点には一切目もくれず、 暗い点にばかり焦点を当てている。だから、本書の内容「だけ」を信じてはいけないと思う。たとえば、前のIBM社長のルイス・ガースナーはMBA取得者である。 彼はMBA取得と自らの経験から得た手腕で、瀕死のIBMを生き返らせた。
 本書の意義は、世の中でもてはやされている「MBA」が良いばかりでないことを世の中に知らしめ、かつ、今後のマネジメントのあるべき姿を示すことにあるのだろう。 本書とは別に、岩瀬大輔・著「ハーバードMBA留学記 資本主義の士官学校にて」(日経BP社、2006/11/16)と比較して読んでみるのも面白いだろう。

岩瀬大輔「ハーバードMBA留学記」

岩瀬 大輔 (著)
「ハーバードMBA留学記 資本主義の士官学校にて (単行本(ソフトカバー))」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4822245527/>
単行本(ソフトカバー): 327ページ ; 出版社: 日経BP社 (2006/11/16) ; ASIN: 4822245527 ; サイズ (cm): 21 x 15
[書評] ★★★★☆
 本書の作者は東大法学部3年生在学中に司法試験(1次試験)に合格、コンサルティングファームに就職、2年後に転職、その後HBS(ハーバード・ビジネス・スクール)に留学(現在は保険会社の副社長)。この時、ブログを運営していたが、 留学終了後にブログの内容をまとめて本として出版したのが本書だ。 作者は親の仕事の都合で、小学校のときから渡米したりしている、いわゆる帰国子女枠に入るタイプ。 最初からものの見方がグローバルだ。 日本の企業ではなく外資系のファームにいきなり就職したこともあるし、その後約2000万円の自己資金を投資した留学ということで、 普通の日本企業に勤める社会人と比べると、多少トンガっている感は否めない。しかし、留学中の生活や活動について生々しい記述が多く、非常に刺激的だ。
 ただ、ものの見方がグローバルではあるが、 過度にアメリカナイズされた人とは毛色が違い、 日本人としての誇り、日本人としての物の見方がきちんとしており、 好感が持てる。
 「株主価値の最大化」に偏りすぎているアメリカの資本取引に疑問を持ち、 株主以外のステークホルダー(顧客はもとより、社員や取引業者、地域社会)を見なければいけないと理性面では分かっているようだが、しかし国内の一般社員10年生の視点から見ると、 最初から経営者層を狙った階層の人の考え方しかできておらず、 一般社員の「目」は持っていないように思える。…という点で★1つ減点。
 とは言え、この本は向上心の大切さを教えてくれるし、 自分も頑張ろうというファイトを分けてもらえる。 会社生活に刺激が欲しい向きにはオススメできる。
 また、日米のビジネス感覚の差こそあれ、ビジネスの基本は自分に正直であること、 「人として一番大事なのは何か」、 「他の物を捨ててでも自分が一番大切にしたい物は何か」、であるという点は、稲盛和夫氏の「アメーバ経営」とも通じるものがある。また、組織を運営していく上で重要なことは、アカウンティングやらビジネスプランやらのスキルも勿論大切だが、 人によって成り立っている「組織」というものを率いていく「リーダーシップ」が最も大切だということも教えてくれる。
 日本と異なり、会社経営に携わる者としては円熟味に足りない感は否定できないが(こればっかりは年齢を重ねないと身に付かないものなのだろう)、 管理職、経営にかかわる方々にも読んでみて欲しい1冊だ。

2012年7月13日金曜日

A.トフラー「富の未来」(上・下)

 

A. トフラー (著), H. トフラー (著), 山岡 洋一 (翻訳)
「富の未来 上巻 (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4062134527/>
単行本: 426ページ ; 出版社: 講談社 (2006/6/8) ; ASIN: 4062134527
A. トフラー (著), H. トフラー (著), 山岡 洋一 (翻訳)
「富の未来 下巻 (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4062134535/>
単行本: 409ページ ; 出版社: 講談社 (2006/6/8) ; ASIN: 4062134535
[書評] ★★★☆☆
 今後は、知識社会の次を行く新しい“何か”が市場をドライブするという話。ダニエル・ピンク著/大前研一訳「ハイ・コンセプト」にも通じる話。
 結構面白い。ただ、本書は問いかけるだけで、答えを与えてはくれない。 問題提起をするだけだ。 「ハイ・コンセプト」と比べて、未来に対して広く扉を開いていると言えば響きは良いかも知れないが、ただそれだけである。 読んで何かを得たいと思うのであれば、ダニエル・ピンク著「ハイ・コンセプト」や故ドラッカー教授の著作の方が良い。ベストセラーにランキングされていたが、それほどでもないかも。
 …という訳で、★は3つにさせて貰いました(もうチョット厳しく、2.5個でも良いかも?)。

アラン・グリーンスパン「波乱の時代」(上・下)

 

アラン グリーンスパン (著), 山岡 洋一/高遠 裕子 (翻訳)
「波乱の時代(上) (ハードカバー)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4532352851/>
ハードカバー: 400ページ; 出版社: 日本経済新聞出版社 (2007/11/13); ISBN-10: 4532352851; ISBN-13: 978-4532352851; 発売日: 2007/11/13
「波乱の時代(下) (ハードカバー)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/453235286X/>
ハードカバー: 400ページ; 出版社: 日本経済新聞出版社 (2007/11/13); ISBN-10: 453235286X; ISBN-13: 978-4532352868; 発売日: 2007/11/13
[書評] ★★★★☆
 米国FRB(Federal Reserve Board, 準備制度理事会)の前議長、アラン・グリーンスパン氏の自著。FRB議長を18年間務め、退任した後に表したもの。 上巻がFRBの議場を退任するまでの回顧録、 下巻が今後の経済・地勢の展望とアメリカをはじめとする諸国の進むべき道を示すなど、 批評中心となっている。
 世界の経済の司令塔となっている米FRBの最高指揮官とも言える著者は、 最終学歴がジュリアード音楽院で、音楽の道へ進もうともしたが、 興味の対象が経営・経済だったこともあり、色々な道を辿って前職に就く(流石は自由の国アメリカだなぁと思ってしまう)。FRB議長になる前から米国の政治の中心:ホワイトハウスに出入りする立場となり、ニクソンからブッシュ・ジュニアまでの歴代の大統領に経済政策での助言をする立場にあった。そういう人が書いた本であり、かつ米国経済以外にも大幅に紙面を割いており、 最近20年位の間の世界経済史を読むに匹敵する。
 グリーンスパン氏はFRB議長に就任すると間もなく、 米国経済の一大局面、ブラック・マンデーを体験する。 米経済の司令官が就任間もなく体験した修羅場は、本人が書いているだけに、圧巻である。また、世界経済の流れとして、東側の壁の崩壊、グローバリゼーション、等々についても詳しくかつ鋭く分析する。また、今後のアメリカを導く社会保障年金改革を成功させるために行なった政策についても、 解り易くかつ深きにわたり、述べる。
 FRB議長退任後、様々なメディアで、米国の住宅バブルの元凶のように書かれたり、とにかく悪く言われていることが多いが、就任中は霧の向こうの人だったのが退任するなり(現職のバーナンキ氏を差し置いて)やたらとメディアに露出したりしたことが原因だろう。あちこちで悪く言われているかも知れないが、本書はやはり読んでおくべき本の1冊だと思う。
 なお、翻訳が非常にこなれていて読み易いことも本書を良くしていることの1つだ。オススメ本です。

2012年7月12日木曜日

宋文洲「人が辞めない会社はヤバイ!」

宋 文洲 (著)
「人が辞めない会社はヤバイ! (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4584131767/>
単行本: 224ページ; 出版社: ベストセラーズ (2009/7/25); ISBN-10: 4584131767; ISBN-13: 978-4584131763; 発売日: 2009/7/25
[書評] ★★★☆☆
 弱っている会社・危ない会社の持つ特徴を47挙げ、それぞれの説明と対策等を書いた本。
 本書を読むと、自分の勤め先・会社のメンバーで、これらの特徴に該当する例が何と多いことか。ウチの会社は、暫くの間は大丈夫だろうとタカを括っていたが、 確実に弱体化は進んでいるのだろう。 私ひとりが声を上げても効果は小さいと思うが、 同じような考え方をする人が1人でも多く現れ、 一緒に会社を良くして行けるものと期待したい。
 …にしても。ドキッとさせられる記述が多い。。。

宋文洲「社員のモチベーションは上げるな!」

宋 文洲 (著)
「社員のモチベーションは上げるな! (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4344017110/>
単行本: 240ページ; 出版社: 幻冬舎 (2009/7/25); 言語 日本語; ISBN-10: 4344017110; ISBN-13: 978-4344017115; 発売日: 2009/7/25
[書評] ★★★★★
 ちょっとビックリするようなタイトルですよね。
 2章冒頭部で「この本を読んでいるあなたも、ひょっとしたら、やる気がないから、 読んでいるのではありませんか?/図星だったら、ごめんなさい。でも、やる気のないことに、コンプレックスを持つ必要はありません。」
 ヤラレタ。あとがきを読んで初めて、この本の本当の目的がわかる。 涙が出てきた。 弱っている自分を素直に認めよう。

宋文洲「うまい逃げ方」

宋 文洲 (著, 原著)
「うまい逃げ方―人生、できることだけやればいい! (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4766783638/>
単行本: 238ページ; 出版社: 経済界 (2006/06); ISBN-10: 4766783638; ISBN-13: 978-4766783636; 発売日: 2006/06
[書評] ★★★★☆
 宋文洲氏の本は、経営者の視点、あるいは日本の外から来た人の視点で書かれていることが多いが、本書は違う。 組織の中で苦しんでいる人に、ちょっと立ち止まって考えるキッカケを与えてくれる。
 オビにも書かれていることなのだが、 『「つらさ」を我慢したから成功したわけではない。努力したからこそ、いまがある。」 何と重みのある言葉だろう。 人生の隘路に苦しむ人、現状を辛いと思っている人全てにオススメできる書だ。

2012年7月11日水曜日

宋文洲「仕事ができない人は話も長い」

宋 文洲 (著)
「仕事ができない人は話も長い (単行本(ソフトカバー))」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4320025636/>
単行本(ソフトカバー): 264ページ; 出版社: 日経BP企画 (2006/10/30); ISBN-10: 4861302196; ISBN-13: 978-4861302190; 発売日: 2006/10/30
[書評] ★★★★★
 ドキッとするタイトルの本ですよね?
 宋文洲氏(ソフトブレーン社の創業者、中国人)の著作。 「宋文洲の傍目八目」よりも先に出版された、2004年からソフトブレーンで配信中のメールマガジンを書籍化した本。
 ホリエモン・堀江氏のビジネス手法に対して、その経営手法が社会問題・犯罪とされるはるか前から警鐘を鳴らしたり、村上世彰氏との問題、ソフトブレーン社の経営者を辞任するまでの経緯等々、読者からの反響と併せて掲載する。
 「傍目八目」同様、氏の著作には、彼を取り巻く沢山の人に対する愛(温かな愛、 厳しい愛)に溢れている。 会社経営・仕事・生き方・社会の見方/考え方、等々について、 数多くのヒントを爽やかに示す。キャッチーなタイトルに騙されてはいけない。 沢山の人にエールを送る、良書。

宋文洲「宋文洲の傍目八目」

宋 文洲 (著)
「宋文洲の傍目八目 (NB Online book) (単行本(ソフトカバー))」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4822245802/>
単行本(ソフトカバー): 212ページ; 出版社: 日経BP社 (2007/4/12); ISBN-10: 4822245802; ISBN-13: 978-4822245801; 発売日: 2007/4/12
[書評] ★★★★★
 ソフトブレーン社の創業者、中国人・宋文洲氏の著作。 「日経 ビジネスオンライン」の連載記事「宋文洲の傍目八目」を書籍化した本。いじめ、格差、日中関係、靖国問題、雇用・経済、‥‥といった、日本が抱える様々な問題と、これらにどのように取り組むべきかを示す。
 この本の面白いところは、当事者の「常識」を捨て、傍目八目(おかめはちもく)で眺めることにより、答えがちゃんと見えて来る、ということを示していること。 日本人(に限らないのだろうが)常識に凝り固まって偏った見方を捨てた視点で見て、これらの問題への処方箋を示す。
 彼は中国人だが、日本の社会を温かでかつ冷静な目で見つめ、 様々な問題への解決策(解決案)を示している。これらが現在の日本に処方可能な策かどうかはともかく、 処方可能な社会にしなければイケナイと示す。
 著者は、中国人ではあるが、下手な日本人以上に日本の将来を考えている。が、日本人に媚びたり阿[おも]ねたりすることなく、ストレートに問題を論じている点に好感が持てる。 日本のアウトサイダーでありながら、インサイダー。インサイダーの視点とアウトサイダーの視点、これらをバランス良く持っている氏の今後の著作にも期待。

宋文洲「やっぱり変だよ日本の営業」

宋 文洲 (著)
「やっぱり変だよ日本の営業―競争力回復への提案」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4931466656/>
単行本: 244 p ; 出版社: 日経BP企画 ; ISBN: 4931466656 ; (2002/04)
[書評] ★★★☆☆
 日本の営業スタイルの無理・無駄を解き、チームワークで売上・利益を伸ばす営業方法を提案している。 後半は筆者の会社の製品のCMに見えてしまう傾向が見られるが、 顧客情報(従来顧客、潜在顧客)との取引情報を一元管理して、 社員に使いやすいインタフェースを持たせることで、 取引の効率・顧客満足度が大幅にアップするということを説いている。筆 者は中国人であり、日本人スタイルというものを醒めた眼で見、 冷静かつ客観的な判断をしていると言える。 現在の自分の勤め先にこのやり方をそのまま導入できるかどうかは別として、 日本的スタイルを脱した、より効率的な営業活動の進め方の提案として読むと面白い。

2012年7月10日火曜日

デビッド・スミック「世界はカーブ化している」

デビッド・スミック (著), 田村源二 (翻訳)
「世界はカーブ化している グローバル金融はなぜ破綻したか」
<http://www.amazon.co.jp/dp/419862738X/>
単行本: 351ページ; 出版社: 徳間書店 (2009/5/19); 言語 日本語; ISBN-10: 419862738X; ISBN-13: 978-4198627386; 発売日: 2009/5/19
[書評] ★★★☆☆
 トーマス・フリードマン著「フラット化する世界」を受けて、 実は世界(特に世界金融市場)は完全にはフラット化していないよ、という本。グローバル金融市場では市場参加者の様々な思惑によってさまざまな現象が発生しており、 著者はこれを「カーブ化している」と表現した。  本書は世界金融市場に着目し、特に、07-08大信用危機(リーマンショックに端を発する世界金融危機)が起こったのかを解説する。また、グローバリゼーションが終わりつつある(自由経済ではなくなりつつある)ことも示す。  本書の面白いことは、日本の財政状況にも目を着けているところ。 日本が全世界経済に対して大きなインパクトを持つプレーヤーであるということでもあるのだが、アメリカの経済学者が、日本の取るべき道を示しているのは興味深い。
 「フラット化する世界」に対するコバンザメ的な本かなぁとは思うが、それなりに興味深く読める。

トーマス・フリードマン「フラット化する世界(増補改訂版)」(上・下)

 
トーマス フリードマン (著), 伏見 威蕃 (翻訳)
「フラット化する世界 [増補改訂版] (上) (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4532313775/>
単行本: 424ページ; 出版社: 日本経済新聞出版社; 増補改訂版版 (2008/1/19); ISBN-10: 4532313775; ISBN-13: 978-4532313777; 発売日: 2008/1/19
トーマス フリードマン (著), 伏見 威蕃 (翻訳)
「フラット化する世界 [増補改訂版] (下) (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4532313783/>
単行本: 424ページ; 出版社: 日本経済新聞出版社; 増補改訂版版 (2008/1/19); ISBN-10: 4532313783; ISBN-13: 978-4532313784; 発売日: 2008/1/19
[書評] ★★★★★
 グローバル化が進展し、国際的な競争が激化する現象と、インターネットの普及により、 世界中での競争条件が等しくなりつつあることを本書では「フラット化」と言っている。この現象を解説するとともに、国家は、そして個人は今後どのように行動すべきかを示す。
 詳細は訳者が巻末の「解説」に書いているのでここには書かないが、 本書の優れている点は、現象の解説・主張にとどまらず、論理的に解を示していることにある。 著者が米国の将来について抱く危機感の多くは、そのまま日本の将来への警鐘でもある。
 日本語版第1版(原著第2版)にIT関連と最近の事象を大幅に加筆しており、 旧版を読んだ人にも、そうでない人にも参考になる良書だと思う。また、翻訳がミステリーやスリラー、ノンフィクション等を始めとして「こなれた」翻訳の得意な伏見威蕃氏。翻訳文が読みやすいのも非常に良い。

トーマス・フリードマン「フラット化する世界」(上・下)

 

トーマス・フリードマン (著), 伏見 威蕃 (翻訳)
「フラット化する世界(上) (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4532312795/>
単行本: 396ページ ; 出版社: 日本経済新聞社 (2006/5/25) ; ASIN: 4532312795 ; サイズ (cm): 19 x 13
トーマス・フリードマン (著), 伏見 威蕃 (翻訳)
「フラット化する世界(下) (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4532312809/>
単行本: 416ページ ; 出版社: 日本経済新聞社 (2006/5/25) ; ASIN: 4532312809 ; サイズ (cm): 19 x 13
[書評] ★★★★★
 メチャクチャ面白い!
 経済競争の競技場が、今では全世界になった! 著者はこれを「グローバリゼーション3.0」と定義し、 全世界がフラットな競技場となり、今では国家・企業だけでなく、個人もこのフラットな競技場で戦う必要があると説く。
 フラット化とはインターネットに代表される技術で、距離や政治での障壁がなくなる事を指す。 物だけでなく知的サービスも海外とやり取りされると、我々の生活やビジネスはどう変わっていくのかが述べられており、非常に興味深い。
 フラット化した世界で戦う為に、国家・企業・個人はどうしたら良いのか? 逆に、フラット化から取り残された企業や個人はどうなってしまうのか? 本書を読んで、今後の世界のあり方、国家・企業・個人がどう変化していくべきであるのかを考えさせてくれる。
 非常にテンポ良く書かれており、ぐいぐいと引き込まれる。 単に情報を与えてくれるのみならず、読者に自発的に考えさせるきっかけを与えてくれる、 優れた著作だと思う。オススメ!
※今では増補改訂版(上巻下巻)が出ているので(2008/01/19発行)、こちらを参照されたい。

2012年7月9日月曜日

P.F.ドラッカー「見えざる革命―年金が経済を支配する」

P.F. ドラッカー (著), Peter F. Drucker (原著), 上田 惇生 (翻訳)
「新訳 見えざる革命―年金が経済を支配する (ドラッカー選書) (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4478320845/>
単行本: 276ページ; 出版社: ダイヤモンド社 (1996/11); ISBN-10: 4478320845; ISBN-13: 978-4478320846; 発売日: 1996/11
[書評] ★★★☆☆
 副題「年金が経済を支配する」の通り、今後、社会において年金が取る役割を分析し、 年金基金が企業株式の4割を所有している現実に即し、 年金制度の現状と今後を分析し、年金はどうあるべきかを説いた本。 日本は米国とは事情が違うものの、急速に高齢化が進んでいる現実を見るに、 年金制度等については、米国以上に深刻だと言えよう。
 米国では、年金基金が企業株式の4割を所有しており、年金基金が「大株主」になっているという。 資本主義の根幹を年金基金が支える形になる。 日本も年金制度の米国化が進んでおり、決して他人ごとではない。
 自分の仕事に直接は関係の無い話題だが、教養として読んでおいて損は無いと思った。

P.F.ドラッカー「現代の経営」(上・下)

 

P.F. ドラッカー (著), Peter F. Drucker (原著), 上田 惇生 (翻訳)
「新訳 現代の経営〈上〉 ドラッカー選書」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4478320780/>
単行本: 293 p ; 出版社: ダイヤモンド社 ; ISBN: 4478320780 ; 上 巻 (1996/01)
P.F. ドラッカー (著), Peter F. Drucker (原著), 上田 惇生 (翻訳)
「新訳 現代の経営〈下〉 ドラッカー選書」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4478320799/>
単行本: 321 p ; 出版社: ダイヤモンド社 ; ISBN: 4478320799 ; 下 巻 (1996/02)
[書評] ★★★★★
 訳者の上田惇生氏が「訳者あとがき」に書いている通り、 「役に立つうえに面白い。 企業経営の全容が見え、すべてを位置づけられるようになる。あらゆる経営論の位置づけまでできるようになる。いつになっても古くならない不思議な本である。 古典の古典たるゆえんであろう。」 本当にその通りである。
 企業は利益を上げなければいけない;すなわち、富を生み出さない企業は存在価値がない。 企業は様々な経営資源(人材、資本、不動産・動産等の資産、知的財産、等)から成り立っているが、 人材だけが唯一再生産可能な経営資源であると説く。また、人材が生み出す「知」は使っても減らない、 今後の企業は「知」を中心としたものになっていく等々、 他の多くの著書とも通ずる主張をする。さらに、これらの資源の正しい“使い方”についても言及する。
 比較的若い人が読んでも、必ず得るものはある筈だ。 仕事をする上で、色々と役立つ視点を与えてくれる。 技術屋・事務屋を問わず、先輩方はもちろん、 若い社会人にもオススメできる。

 会社の諸先輩方の中には、ドラッカー氏の著作などは「一介の下っ端社員が読むべき本ではない」といった考えをお持ちの方もいらっしゃることだろう。しかし、私はそう思わない。この手の本は、仕事の経験がない人が読んでも得るものは少ないかも知れないが、たとえ経験が少なくとも、その人なりに得るものは必ずある。また、それなりの立場になると、若い時よりさらに自由時間が減る。こういう本は、入社5~10年くらいの年次の社員にも積極的に読んで欲しい、と私は思う。

【追記】
上記の本は絶版となっているが、装丁を新たにした本が出ているので参考までに記しておく:
・P.F.ドラッカー (著)
 「ドラッカー名著集2 現代の経営[上] [単行本]」
 <http://www.amazon.co.jp/dp/4478307008/>
・P.F.ドラッカー (著)
 「ドラッカー名著集3 現代の経営[下] [単行本]」
 <http://www.amazon.co.jp/dp/4478307016/>

2012年7月8日日曜日

P.F.ドラッカー「創造する経営者」


P.F. ドラッカー (著), Peter F. Drucker (原著), 上田 惇生 (翻訳)
「新訳 創造する経営者 ドラッカー選書」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4478320748/>
単行本(ソフトカバー): 329 p ; 出版社: ダイヤモンド社 ; ISBN: 4478320748 ; (1995/03)
[書評] ★★★★☆
 成果に結びつくマネジメント、というテーマについて書かれた本。 非常に内容が濃い。 他の本もそうなのだが、ドラッカーの本は内容が濃すぎて、熟読するのは結構大変だと思う。だが、その苦労はきっと報われるはずだ。
 訳者あとがきにもこうある。 「特に本書は、ドラッカーが最初につけようとした書名が“ビジネス・ストラテジー”(「事業戦略」あるいは「企業戦略」)であったことからもうかがえるように、 企業に働く者や企業とかかわりをもつ者にとって、必読の書と言ってよい。 企業あるいは組織、さらにはそれらのマネジメントに対し、 多少なりとも関心をもつならば、ということは、現代社会というものに対し関心をもつならば、たとえ斜め読みでも、まずドラッカーを読んでおくことが必要であり、得であると思う。 数ある流行ものからは手に入れられない基本を知ることができる。」 本当にその通りだと思う。
 本書の邦題は「創造する経営者」となっているが、 原題“MANAGING FOR RESULTS”の方が内容をよく表していると思う。 企業活動を成果に結びつけるためのマネジメントについて、 順序だてて、かつコッテリと書いている。 最近のMBA・MOT的教科書のような整理された形での手法・ケーススタディは示されていないが、マネジメントという観点から必要なものが全て網羅されていると思う。 自社の事業環境や製品・サービスの分析手法など、非常に解り易く書かれていると思う。 今でこそコンサルティング会社や著名なコンサルタントから多数の教科書が売られているが、 本書の原著は1964年に出版されている。あらゆるテキストに先駆けた手本なのではないだろうか。
 1997年にハーバード・ビジネス・スクール教授のクレイトン・クリステンセン(Clayton M. Christensen)が、その著書 The Innovator's Dilemma: When New Technologies Cause Great Firms to Fail (邦訳: 玉田俊平太監修、伊豆原弓訳『イノベーションのジレンマ - 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』 翔泳社、増補改訂版 2001年)の中で「破壊的イノベーション」について初めて提唱したとされ、この考え方が一世を風靡したが、 本書でも、製品を置き換えてしまうイノベーションについて述べられている。すなわち(以下引用):
 「企業が売っていると考えているものを、顧客が買っていることは稀である。もちろんその第一の原因は、顧客は製品を買っているのではないということにある。 顧客は、満足を買っている。しかし、だれも、満足そのものを生産したり供給したりはできない。 満足を得るための手段をつくって、引き渡せるにすぎない。」
 「直接の競争相手とみなしている製品やサービスが、本当の競争相手であることは稀である。(…中略…) あらゆる製品とサービスが、突然、まったく異なった生産、流通、販売のされ方をしている他産業の製品やサービスと、競争関係に置かれる。まったく異なる機能や形態だが、しかし得られる満足は同じ種類のものであるという製品やサービスと、 激しい競争関係に置かれる。」
 クリステンセンが破壊的イノベーション論で似たことを述べる33年も前に、このようなことを述べているのである。ただならぬ先見の明である。

本書も、志ある人にとって、必読の書だと思う。

【追記】
上記の本は絶版となっているが、装丁を新たにした本が出ているので参考までに記しておく:
・ピーター・F・ドラッカー (著), 上田 惇生 (著)
 「創造する経営者 (ドラッカー名著集 6) [単行本]」
 <http://www.amazon.co.jp/dp/4478000565/>

P.F.ドラッカー「経営者の条件」


P・F. ドラッカー (著), Peter F. Drucker (原著), 上田 惇生 (翻訳)
「新訳 経営者の条件 ドラッカー選書」
<http://www.amazon.co.jp/dp/447832073X/>
単行本(ソフトカバー): 243 p ; 出版社: ダイヤモンド社 ; ISBN: 447832073X ; (1995/01)
[書評] ★★★★★
 ★5つでは評価しきれない位の良書。
 本書の内容は“はじめて読むドラッカー”シリーズの「プロフェッショナルの条件」と広い部分で重複するが、本書の方が子供に対する母親の説教のように(失礼!)、 畳み込むような説明で解り易いと思う。
 本書でちょっと残念なのが、邦題があまり正しくないこと。 原題は“The Effective Executive”、直訳すれば「有能なエクゼクティブ」とでもなろうか(訳者あとがきには「真意を訳せば『できる人』である」と書かれている)。 旧訳(1966年)当時の邦題をそのまま使っており、時代を反映しているのかも知れないが。エクゼクティブと言うと経営サイド寄りの存在を指すことが今でも多いかも知れないが、 本書の内容は、少なくとも、「経営者」に限定したものではなく、 知的労働者一般に通用するものとなっている。
 それはともかく。
 企業(特にメーカー)や、企業の中の単位組織を引っ張って行く立場にある人、そういう立場に就きたいと考えている人、これら全てに読んで欲しい本。また、一度読むだけではなく、時々読み返してみると良いと思う。

【追記】
上記の本は絶版となっているが、装丁を新たにした本が出ているので参考までに記しておく:
・P.F.ドラッカー (著)
 「ドラッカー名著集1 経営者の条件 [単行本]」
 <http://www.amazon.co.jp/dp/4478300747/>

2012年7月7日土曜日

大前研一「続企業参謀」

大前 研一 (著)
「続企業参謀 (講談社文庫)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4061836773/>
文庫: 218ページ; 出版社: 講談社 (1986/2/7); 言語 日本語; ISBN-10: 4061836773; ISBN-13: 978-4061836778; 発売日: 1986/2/7
[書評] ★★★★★
 本書は同名のハードカバー版(http://www.amazon.co.jp/dp/B000J8XY3S/、1977)の文庫版である。
 前著「企業参謀」に続き、低成長時代の企業戦略の考え方、 事業をどのように考えれば良いか、色々とヒントを与えてくれる。 本書を通し、自分の勤める企業やその業界について、色々と考えさせてくれる良書だ。 前著に引続き、意欲的な社会人は是非読んでおくべき1冊だと思う。

大前研一 「企業参謀」

大前 研一 (著)
「企業参謀 (講談社文庫)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4061836307/>
文庫: 218ページ; 出版社: 講談社 (1985/10/8); 言語 日本語; ISBN-10: 4061836307; ISBN-13: 978-4061836303; 発売日: 1985/10/8
[書評] ★★★★★
本書は同名のハードカバー版(http://www.amazon.co.jp/dp/B000J9U1EM/、1975)の文庫版である。
1970年代に入り、石油ショック後の低成長時代において、企業が生き抜くために何をすべきか、 解りやすく説いた本。30年以上過ぎた今も、バブル後の失われた10年を経て、超低金利・低成長時代に入っている。そんな今だからこそ、この本の価値が再発見されるのではないだろうか。 良書だ。 意欲的な社会人は読むべき書の1冊だと思う。

余談になるが、最近の大前氏の著書と異なり、自慢話が無く、非常に読みやすいということも付け加えておこう。