2013年11月27日水曜日

カール・アルブレヒト(著)「なぜ、賢い人が集まると愚かな組織ができるのか」


カール・アルブレヒト(著), 秋葉 洋子・有賀 裕子(翻訳)「なぜ、賢い人が集まると愚かな組織ができるのか―組織の知性を高める7つの条件 [単行本]」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4478374465/>
単行本: 304ページ; 出版社: ダイヤモンド社 (2003/9/12); ISBN-10: 4478374465; ISBN-13: 978-4478374467; 発売日: 2003/9/12
[書評] ★★★★☆

組織はうまく機能している時、1+1が3にも4にもなる。逆に機能不全に陥っている時には、1+1が2未満にもなり得る。本書は、組織は往々にしてこの「2未満」の状態になりがちとなる理由と(これが「あるある」と思えてしまう…のは私の所属する組織が機能不全に陥りかけている証拠だ)、どのようにしたらうまく機能するようになるかを説く。この説明に本書では「構成員の知性」「組織の知性」という考え方を使い、この「組織の知性」を高めるための7つの条件を示している。

組織の知性を高めるための条件。物凄く簡単に言ってしまえば、企業のトップも従業員も「足並みを揃える」こと。これに尽きるのだが、実際の組織では色々な力学が働いて、足並みを揃えることが実に難しい。これに対応するためにトップが出来ること。そのヒントも書かれている。

タイトルこそ毒々しいが、内容はそれほど強烈でもない。いたってマトモなことが書かれている。サブマネジャークラスからトップまでの誰もが、読んで得るものがあると思う。

2013年11月24日日曜日

近藤 史恵 (著)「サヴァイヴ [単行本]」


近藤 史恵 (著)「サヴァイヴ [単行本]」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4103052538/>
単行本: 234ページ; 出版社: 新潮社 (2011/06); ISBN-10: 4103052538; ISBN-13: 978-4103052531; 発売日: 2011/06
[書評] ★★★☆☆

サイクルロードレースの世界選手権大会に日本代表として出場する選手を中心とした数人について、それぞれ関わりのある複数のエピソードからなるサスペンス小説。テンポよく読ませるし、読者をグイグイ引き込む力を持った作品だ。必要以上の言葉を使っていないのだが、状況や各登場人物の気持ちの描き出し方が光っており、途中までつい、単なるドラマだと思って読んでしまった。が、突然、本シリーズはサスペンス作品だということを思い出される。
 本作品でのテーマは、八百長ドーピング。非常にタイムリーな話題だ(特に後者)。本作品では、どのように自転車スポーツ業界が腐敗して行くのかを描き出す。特に、腐敗しつつある業界の中で、当事者たる選手たちの心理描写は非常に魅力的。

  • 才能や人気のある若手を祭り上げることなら、どのスポーツだってやっている。どこまでなら許されるのか、どこが越えてはいけないラインなのか。俺たちは怪我と隣り合わせで走っている。ひとつ間違えば、死ぬことだってあり得る。それでも取り替え可能な部品に過ぎないのだろうか。 (本書p.195より)

などは、選手側としての悲痛な心の叫びだろう。モラルが無くなりつつある現代ビジネス社会において、組織の歯車の1つに過ぎない我々はこういった辺りに強い共感を感じるのだ。元プロロード選手ポール・キメイジ氏がドーピングについて訴えた本、「ラフ・ライド」(Amazon拙書評)を読んで日が浅かったこともあるが、ガツンとやられた感じがした。

ただ、本書が結末らしい結末が無く、問題提起のみで終わっており、読後感があまりスッキリしない(というのは私の勝手な意見だが)。「もう嫌、こんなスポーツ!」と思わせてしまう感すらあり。なので、勝手ながら少し減点、★3つとさせて頂く。

・・・・・・

書き方のスタイルは、本作に至るまでのシリーズ作「サクリファイス」(Amazon拙書評)、「エデン」(Amazon拙書評)と同様だ。各エピソードの主人公(選手)の視点から描いている。本作品では、日本国内と海外の両方が舞台となっていて、この描き出し方が全然違うのが非常に面白い。たとえば、日本国内の描き出し方は、基本的に1文が短い。文と文の間の論理的繋がりはあまり明示されていない。「ポツン、ポツン、…」と短い状況説明や台詞を並べる手法を効果的に用いている
(読者はその間を自動的に補って読んでいる)。人物同士の会話など、多少ブッキラボウに過ぎるのではないかという程だ。海外の描き方と比較すると、昭和の映画のようなイメージだ。恐らく、彼等の会話は(今の我々の普通の会話よりも)訥々としており、会話スピードも速い。

これに対し、海外の場所や人物の描き方は、流れるように描かれている。現地に行ったことがない人にも非常にイメージしやすい描き方をしている。

  • ポルトガル人らしく、2Bの鉛筆でぐりぐりと描いたような濃い顔立ちをしている。眉も髪も黒々としているが、日本人の黒とはその線の太さが違う。(本書p.216より)

等、所々にコミカルな描き方もあり、読んでいて楽しい気持ちにさせる。ツールやジロといった海外の有名なレースに時々出てくるような地名が多く、私のような自転車ファンには場所やイメージがつかみやすい。単なるサスペンス小説ではなく、本シリーズがテーマに用自転車スポーツのファンも満足させる作りになっている。

本シリーズの次の作品、「キアズマ」も既刊となっている(Amazon)。早く読みたい。

2013年11月20日水曜日

中森 鎮雄 (著)「世界最高の戦略家クラウゼヴィッツ―強い企業の戦法」


中森 鎮雄 (著)「世界最高の戦略家クラウゼヴィッツ―強い企業の戦法」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4766780280/>
単行本: 206ページ; 出版社: 経済界 (1987/04); ISBN-10: 4766780280; ISBN-13: 978-4766780284; 発売日: 1987/04
[書評] ★★☆☆☆

本書発行当時、日本企業に流行し始めた(著者ら経済研究所が主体となって流行させた?)、欧米流の「企業戦略」としてクラウゼヴィッツの『戦争論』を引用し、その内容を説明する為に、当時の実例を示した本。①新聞ネタを整理しただけでクラウゼヴィッツの本質には全く触れていないようにも見えるし、②何より(2013年という)現在においては内容(引用例)が古すぎる。という訳で、申し訳ないが★2個という低いレーティングとした。

昭和末期に発行された本であり、発行当時の時代背景として、高度成長期・2度のオイルショックを経、日本の経済低成率が鈍化した頃であるというのは無視できない。日本企業が貿易摩擦と円高に苦しめられ始めた時期で、それまでとは異なる経営手法を模索していた時期の本なのだ。そのような時代背景もあるのだろう。三菱総合研究所に所属していた著者が、欧米流の「企業戦略」という考え方を広める際に引用したのが、クラウゼヴィッツの『戦争論』だということになろう。

今では国内企業でも「企業戦略」は必須であり、製造業など、企業活動の中で技術開発が重要な位置を占める場合、中長期的な「技術戦略」というものが必須だ。本書に書かれている戦略策定手順は、随分とシンプルだ。この辺りは、技術戦略策定の初心者(サブマネジャークラス)の人にとって入門書として多少は価値があるかも知れないので、★は1個とせず2個とした。現在では、わざわざ入手して読むほどの本でも無いと思う。

2013年11月17日日曜日

水島 温夫 (著)「『技術者力』の高め方―戦略思考で研究開発・製品開発が変わる!」


水島 温夫 (著)「『技術者力』の高め方―戦略思考で研究開発・製品開発が変わる!」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4569632386/>
単行本: 262ページ; 出版社: PHP研究所 (2004/02); ISBN-10: 4569632386; ISBN-13: 978-4569632384; 発売日: 2004/02
[書評] ★★★★★

著者は著名な経営コンサルタントの方。バブル崩壊以降低迷するわが国の製造業界を憂いて書かれた(であろう)本。各個人における仕事のあり方とか、「本書は技術者に『喝!』を入れるために書いた」(冒頭)等、微妙に今の時代とのズレも感じなくもないが(約10年前の本だからその辺は仕方が無い)、内容は概ね今でも充分通用すると思う。

本書はその題名通り、技術者として会社業績に貢献できる“力”について書いている。“力”というより、業績に貢献できる“仕事の進め方”といったほうが正確か。

バブル崩壊と前後し、日本にはMBA(経営学修士)やMOT(技術経営)に代表される、数多くの欧米流の経営手法が多く取り入れられてきた。モノ作りも組織作りも、その手法は組合せ的に行なう。組織についても、業務遂行はトップダウン、管理は個人単位。

でもそれだけじゃ日本の強さは活かせませんよね、わが国の高度成長期~バブル期の製造技術を強力に支えてきた手法もうまく組み合わせて、必勝パターンを作りましょうという話です。製品や市場のタイプに応じて、旧来日本で用いられてきた手法の代表例、摺り合わせによるモノの作り込みや、QCなどに代表される現場主導型の解決手法を用いると、それらを持たない欧米型の物作りに勝てるぞ!という内容です。

中には、技術者「個人」がやるべきことというより、マネジャー以上が考えるべき組織運営に関わることも多少あるのだが、数年以上の技術者経験(研究開発、営業技術、製造技術)を積んだ人には納得できる内容が多いのではないだろうか。

著者の主張は非常に明快で解り易く、すんなり頭に入ってくる。また、東レが国内で作って世界中に輸出しているABS樹脂の素を「秘伝のタレ」と言ってみたり、平易でイメージしやすい表現が多い。本書では、各製品のユーザ側から見た価値によって、欧米方式の良い所と、日本方式の良い所を使いわけ、必勝パターンを作りましょうという内容。本書の構成自体、和洋折衷となっており、そこも面白かったりする(全体のおおまかな構成は最初に結論を述べてから説明をする欧米風、各節は解り易い例から入って最後に結論に持っていく日本風)。

今ではもう入手困難というのが勿体無い。是非再版して多くの技術者に読んで欲しい本である。

・・・

余談:ここ数ヶ月、ビジネス書を殆ど読まずに過ごして来てしまいました(夏前から暫く、ラノベなぞにはまったのも大きな理由の1つ)。ので、これから暫く「巻き」でビジネス書中心に行きます。年末に向けて書庫一掃セール、みたいな。(ほんまかいな?どこまで出来ることやら。)

2013年11月13日水曜日

山中 千尋 「ジャズのある風景」


山中 千尋 (著)「ジャズのある風景」(晶文社、2013/8/2)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4794969090/>
単行本: 288ページ; 出版社: 晶文社 (2013/8/2); 言語 日本語; ISBN-10: 4794969090; ISBN-13: 978-4794969095; 発売日: 2013/8/2
[書評] ★★★★☆

2001年に彗星のように現われて今に至るまで、ずっと業界トップで活躍されているジャズ・ピアニスト、山中千尋さんの書かれた本です。本書の内容は、ジャズ系雑誌数種と山中さんの出身地・桐生の地方新聞新聞への寄稿文が主ですが、書き下ろしの所もあります。

※山中さんの経歴等は、UNIVERSAL MUSIC JAPANのWeb PageWikipedia(日本語)等に詳細に書かれていますので省略しますが、パ無いです。学歴だけでなく、デビュー後の実績もカナリなモノですよね。音楽系雑誌に度々登場していらっしゃるので、音楽好きな方は既に御存知かと思います。

私は当初、美人だから売れてるだけでしょ?だなんて、失礼にも程があるだろ!と皆様から叱られてしまいそうなコトを思っていたのですが、何枚目かのアルバムを聴く機会があった時に、完全ノックアウトされてしまいました。グイングインとスウィングの効いたリズムに乗せて、かなりキワドイ弾き方(勿論危ういのではなく解釈や表現が非常に斬新だという意味です)を聴かせてくれます。特に、スタンダード曲などを演奏した時、ある意味アクが強い音楽になっています。でもこれがどういうことか、ちゃんと本書に書かれていました。
  • 何百年も弾かれ愛され続けるクラシックは古典ではなく、現在進行形のナマの音楽だ。土壌に染み付いた音楽は、強靭でしなやかでやたら丈夫な実用品。多少の我田引水的な解釈に悪用されたくらいでは、へこたれない (本書p.15より)
…うーん、成程。

ちなみにワタシ、ノックアウトの直後に既出アルバム全購入。リリース毎に即買い→即聴き…というパンチドランカー状態(笑)。

ワタシのようなフツーの音楽好きも楽しめる音楽ですし、結構コアな聴き方をする方々の理解の半歩位先を行っているのではないでしょうか。ワタシのレベルでも「そう来たかぁ!」と膝を叩きたくなるような演奏、しかもそういう箇所が濃密です。ジャズのビバップに近い様式をとった、完全な現代音楽。

まぁ彼女の音楽内容がどれだけハイクオリティかは、CD/DVDのレーベルが証明しています。最初のアルバム3枚は「澤野工房」という、日本のジャズ・ピアノ名門レーベル(かなり渋い所/笑)から、4枚目以降のレーベルはVerve/Universal(これまた超ビッグアーティストしか扱わない有名ドコロ)です。

・・・・・・

やっと本書について書けるようになりました(マクラ?が長くて申し訳ないです)

バークリーを主席で卒業して以来メインに活動しているニューヨークでの話題や、ツアーでの話も多々あり、音楽に関係の有ること・無いこと(彼女の生活の一部や、彼女が見ている様々なアートについて)、等々色々書かれています。彼女が音楽をどう捉えているのかとかも、色々書いていますし、業界の内情についても多少触れています(ファンにはたまらんです!/笑)。本書の3章「行儀のわるいジャズ評論」辺り、他人について書いている時は、それなりに気を遣っているでしょうけど、ビシッビシッとジャブを決め、ご自身の物の観方とかスタンスについて書いている時はズシッズシッとボディーブロー、時々パコーンとアッパーカットが来ます。読みながら、「そうだよね~♪」とか、「マジっすか?!」とか、音楽とは違う方法で読者を楽しませてくれます。いやぁ、彼女はやっぱり、音楽以外の手段でも我々を楽しませてくれる「天才的エンターテイナー」ですね!

雑誌・新聞で書いた文章と書き下ろしの組み合わせなので、内容は結構バラバラですが、その分、どこからでも読めますし、適度に休みながらも読めます(ランダムアクセス可能な本です)。でもこの本、彼女の演奏ほど緊張せず、軽~く読めます。でもイキナリ「ドキッ!」っとさせてきたりしてね。山中さんの音楽が好きな人は勿論、彼女がどういう風に物を観て考えているか、結構判る面白い本だと思います。ま、ワタシなんかが書く前に、彼女のファンはとっくに買って何度も読んでいるでしょうけどね。

・・・・・・

ちなみに彼女曰く、
  • 「聴いて面白かったらそれでいいんじゃないの」音楽はそれにつきるはずですし。 (本書p.49より)
だそうです。「聴いて」の「聴」とは、「聴衆」の「聴」であって、耳だけじゃなくて目も入っています。やっぱり、エンターテイナーとして、間違いなく頂点の1人ですね。これからも彼女の様々な活動期待しちゃいま~す♪

2013年11月8日金曜日

しげの 秀一 (著)「頭文字D(48)<完>」 (コミック)


しげの 秀一 (著)「頭文字D(48)<完> (ヤングマガジンコミックス) [コミック]」(講談社、2013/11/6)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4063823776/>
コミック: 208ページ; 出版社: 講談社 (2013/11/6); 言語 日本語, 日本語; ISBN-10: 4063823776; ISBN-13: 978-4063823776; 発売日: 2013/11/6
[書評]★★★★☆

 とうとう完結してしまいました。面白かったです。
 とうふ屋ハチロクはゴール直前にエンジンブローするも、ゴールラインは先に通過(まず有り得ないカタチでですが)。相手方のドライバーはドッグファイト慣れしていないので対応できずじまい。ストーリー的には妥当な結末でしょうか。あんなイカレた旧車で公道ドッグファイトを続けてもねぇ、という気もしますし。Project Dは神奈川遠征で完了、で良かったのだと思います。
 1~48巻、ぶっ通しで再読しちゃいました。メカの絵が少しずつ洗練されて来ているのがよく解ります(人物描写は…姿勢が少ないとか雨の時の傘の向きが全員一緒とか、…まぁ色々ありますが/笑)。
 にしても。とうふ屋ハチロクにはもう1回生き残って欲しいところかも知れませんけどね。連載開始当時、既に旧車だったハチロク。漫画の長期化につれ、どんどん「過去の遺物」化が進み、同じ車でのストーリーがこれ以上描けなくなっちゃったというのが実情かも知れませんね。とか言いつつ、内心、完結→終了って、ちょっと残念な気も。。

2013年11月3日日曜日

伊藤 綾子 (著) 「うちのタマ知りませんか?」

伊藤 綾子 (著) 「うちのタマ知りませんか? [単行本]」(角川書店(角川グループパブリッシング)、2012/11/30)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4041103371/>

単行本: 246ページ; 出版社: 角川書店(角川グループパブリッシング) (2012/11/30); 言語 日本語; ISBN-10: 4041103371; ISBN-13: 978-4041103371; 発売日: 2012/11/30
[書評] ★★★★☆

 TVキャスター、伊藤綾子さんの小説家デビュー作。ラジオ番組(Podcastにもなっている)の『鈴木敏夫のジブリ汗まみれ』で昨年末に紹介されていたのだが、“積読”になっていたものを漸く読んだという訳だ。
 さて、本書について。一言で言って「良い作品だ」と思う。4本のショートストーリーからなる小説だが、家を出た子猫タマが、それぞれの作品を繋いでいる。一種の多視点的作品にもなっている。全体としての構成もよく出来ていると思う。
 バブル期へと向かう1980年代の日本を振り返りながら、平成不況長引く現代日本における家族といったもの焦点を当てている辺りに、これらの時代を体験した者として共感を感じる(著者の伊藤さんの実体験も多く含まれるのだと思います)。また、心理描写が非常に繊細で、ドキリとさせられたりしつつも、優しい気持ちになれる(気がする)。

 伊藤さんの次回作、急かすのもナンなので、のんびりと、待ちたいですね。