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2017年5月21日日曜日

タル・ベン・シャハー「ハーバードの人生を変える授業2 ~Q 次の2つから生きたい人生を選びなさい~」


タル・ベン・シャハー(著), 成瀬まゆみ(翻訳)「ハーバードの人生を変える授業2 ~Q 次の2つから生きたい人生を選びなさい~」
<https://www.amazon.co.jp/dp/4479305912/>
文庫: 368ページ
出版社: 大和書房 (2016/5/12)
言語: 日本語
ISBN-10: 4479305912
ISBN-13: 978-4479305910
発売日: 2016/5/12

[書評] ★★★☆☆

前著「ハーバードの人生を変える授業」(リンク等は後述)の続編。前著が人生や生活におけるネガティブな経験・記憶よりもポジティブなものに焦点を当てなさい、ネガティブなことから学ぶべきことを学んだら心から切り離しなさい、といった内容だったのに対し、本書は「頭で判っている“正しい選択”をキチンと選び、行動しなさい」という本。訳者あとがき(p. 364)の
  • 「正しい選択は、わかっていますよね。
    でも、それを、本当に、あなたは、選ぶことができますか?
    そして今日も、明日も、それを選び続けることができますか?」
    この本は、そう問いかけてきます。
    ある意味、「覚悟」を問う本です。
が、この本の全てとも言える。

前著同様、「分かっちゃいるけど、なかなかね…」な内容が多いのだが(苦笑)、幾つか良い点もあったので示しておく。
  • 面倒くさいこと、気の進まないことをやるのに以下の方法は有効だと思う。とりあえず始めてみて、勢いをつける作業を、筆者は「5分間テイクオフ」と呼んでいる。
    • ベストタイミングなどを待ったりせず、「いますぐ始める」という選択をしてください。(p. 54、強調は引用者)
  • 「あら探しする」よりも「いいこと探し」をし、自分や他人の長所に目をつける。
  • 失敗から学ぶことと同様、成功からも学ぶべき。
  • 現代社会のストレス対処法として、流れに身を任せることを勧める本が多い。が、本当に幸せになる為には、自ら積極的に選択~行動をすることが必要。
  • 夢をあきらめて現実的になることを勧める書籍が多いが(確かにこれで傷つくことは減るだろう)、夢を追い求め続けることこそが人生だ。
本書の主旨を乱暴にまとめると、感情主体の「自動反応」よりも、理性主体の「熟慮」により行動を選択しなさい、とでもなるだろう。しかし、日常生活で行なっている「選択」の多くを「熟慮」するのは、現実には難しいのではないか
  • 我々は日常的な判断の多くを「無意識」あるいは「流れ」で行っている。これを「意識的」に「熟慮」するスタイルに変えるのは、非常にシンドイ生き方ではないのか。
  • ひらめき、耽溺、無謀といった「自動反応」無しでは、生活に面白味が無くなってしまうのではないか。少なくとも、ある程度は「自動反応」任せにしないと、精神がもたない。
  • 理性では「こちらの選択が正しい」と分かっていても、感情面からなかなか行動できない人が多いのではないだろうか。本書は、この心理的・感情的な障壁の克服法については全く触れておらず、その点については突き放しているとも言える(人生を「自分自身が行う選択の連続」とする捉え方は、アドラー心理学(自身に対して厳しい生き方を求める)との共通点が多いように思う)
本書では「流れに身を任せる生き方」「目の前にある人生を生きること」を否定する。流れに身をまかせ、可もなく不可もない「ヌルい生き方」をしている人には、良い刺激を与える本と言えるだろう。だが、困難な状況にある人は、ある程度「流れに身を任せ」、「全ての責任を他人のせいにする」ことも必要だと思う。自身が「ヌルい」と思っている部分は本書に書かれたように意識的な選択を行うと有効だろうが、自動反応(感情)-熟慮(理性)のバランスは崩さない方が賢明だろう(シーナ・アイエンガー著『選択の科学』(後述)の方がバランスの取れたものの見方だと思う)。精神的に強い人はどんどん意識的な選択をしても良いのかも知れないが、凡人は「話半分」で良いと思う。

関連図書
余談1:著者・訳者について
  • 著者:タル・ベン・シャハー(Tal Ben-Shahar、英語版Wikipediaリンク)はテルアビブ(イスラエル)生まれ、ハーバード大学に学んだ人だが、ヒンドゥー教や仏教などの思想、そしてヨガなどの東洋文化に傾倒しているように見える。洋の東西を問わず、「心」や「周囲との調和」を研究する人が東洋思想に行き着くのは、昔も今も変わらないのかも知れない。
  • 訳者:成瀬まゆみ氏は専業翻訳家ではなく、ポジティブ心理学を使った「アタラシイジブン」づくりのコンサルタント(講演やセミナー等の活動を行なっている)。前訳でもそうだったが、読みやすく綺麗な日本語には好感を持てる(近年、ビジネス書の邦訳などで多少日本語が乱れているものが目につくようになって来ているが、本書の邦訳は正統派の日本語だ)
余談2:ポジティブ心理学

ポジティブ心理学」という言葉を初めて使ったのは、エイブラハム・マズローとされる。マズローは、企業研修などでよく聞く「自己実現理論」で、有名な「マズローの5段階欲求ピラミッド」を提唱した心理学者(1908-1970)。マズローのモデルは科学的ではないとの批判もあるが、社会組織における心理学や動機付けに関するひとつの見方として、今でも参考になると思う。

2017年5月7日日曜日

タル・ベン・シャハー「ハーバードの人生を変える授業」


タル・ベン・シャハー(著), 成瀬まゆみ(翻訳)「ハーバードの人生を変える授業」
<https://www.amazon.co.jp/dp/4479305165/>
文庫: 240ページ
出版社: 大和書房 (2015/1/10)
言語: 日本語
ISBN-10: 4479305165
ISBN-13: 978-4479305163
発売日: 2015/1/10

[書評] ★★★★☆

本書は、「ポジティブ心理学」の本。乱暴なまとめ方をすると、
  • 感謝すること、良かったこと、に意識を向ける
  • 悪いこと(現在自分が直面している問題や嫌な記憶など)からは、そこから学ぶべきことを学んだら、悪い感情は意識の外に追い出してしまう
  • 自分はどうありたいのか/理想的な未来をイメージする
このような意識を持つ習慣を持つことによって、本当に人生は変わる、という内容。

また、自分の人生を良くするために、ポジティブな意識・学び/気付きを得るために、
  • 良いことも悪いことも自分の心の中に留めず、人と話し合うこと
  • 紙またはPCに書き出してみること
  • 自分が価値をおくことを書き出して、優先順位をつけ、自分の実際の生活と照らし合わせ、一貫性を持たせるように時々軌道修正を行うこと
といった作業を定期的に行なうことを勧めている。

良い経験や良い感情に焦点を合わせる、過去の辛い経験や現状自分の力ではどうにもならないことについてクヨクヨ悩むのはやめる、というのはポジティブな生き方をする上で重要かも知れないし、ポジティブに生きている(ように見える)人は決まってそうやっていると思う。ただ、本書で勧めている
  • 悪い経験の記憶からネガティブな感情を捨て去ること
  • あれもこれも欲張って頑張ってやるのではなく、現実的な時間配分をする
は最初は難しいのではないか。良い意識を保つことは、日頃から意識的に取り組む必要があり、仕事や家庭を抱えた人が習慣化するのはハードルが高いかも知れない。が、最初から出来ないと言っていると何もできないので、出来ることから少しずつ…なのだろう。

「言う(読む)は易し、行うは難し」な項目が多いような気もするが、日頃から意識して取り組むことで、気の持ちよう・生活習慣は少しずつ変えられるかも知れない。

・  ・  ・  ・  ・

文庫本サイズだが、小説などと違って文字数少な目、紙面はスカスカ(笑)、内容も比較的軽いタッチで書かれており、読みやすい。実は本書、本屋(実店舗)で平置きされていたのをタイトルから衝動買い(笑)。700円と比較的安い本の割に、内容は悪くない。強くオススメできる本かと聞かれると微妙だが(苦笑)、値段・読書時間の費用対効果を考えると、外れではない本だとと思う。

2017年4月30日日曜日

ヤマザキマリ(著), ウォルター・アイザックソン(原著)「スティーブ・ジョブズ (1~5)」(コミック)


ヤマザキマリ(著), ウォルター・アイザックソン(原著)「スティーブ・ジョブズ (1~5)」(コミック)

[書評] ★★★☆☆

ウォルター・アイザックソンによるスティーブ・ジョブズ公式評伝(「STEVE JOBS: THE BIOGRAPHY」)のコミック版。描いたのは、人気漫画『テルマエ・ロマエ』の作者、ヤマザキ マリ氏。

アイザックソンによる原作を大幅に翻案・再構築しつつも、Jobsの有名な台詞をしっかり残すなど、印象深い作品になっている。Apple IIに始まり、Appleから追放された後に作ったハイエンドワークステーション・NeXT (コンピュータ) & NEXTSTEP (OS)、CGアニメ会社Pixar、Appleに返り咲いた後のiMac・iPod・iPhone・iPad…といった華々しい業績。その一方で、XEROX社パロアルト研究所(PARC)からの強引とも言える技術(GUI & ビットマップディスプレイ)の“剽窃”(もう少し後年であったら間違いなく大規模な知的財産訴訟になっていただろう)、自身が養子であったこと・実の娘を認知しなかったこと、…等、闇の部分にも触れる。

原作は、ハードカバー上下合わせて約880頁の本。文字ばかりの本を読むのは苦手だけど、スティーブ・ジョブズの伝記を読みたいという人にはオススメ。ただ、作り込まれたドラマというものは無いので、多くの漫画(コミック)のような起承転結は期待しないように!(笑) アイザックソンの原書(やその訳書)を読んだ人は読まなくて良いかも知れない…。が、私の場合、アイザックソン本(井口訳)を読んでから時間が経っていたので、おさらい的な意味で楽しむことが出来た。

ところで、本書は5巻では完結していない気がするのだが、第6巻はいつ出るのだろう? これまでの出版ペースから見て、今年(2017年)夏頃発売の第6巻にて完結、という運びになりそうだが…ちょっと待ち遠しい。

・  ・  ・  ・  ・

以下書誌事項:
  • ヤマザキ マリ(著), ウォルター・アイザックソン(原著)「スティーブ・ジョブズ (1)」(講談社 KCデラックス、2013/8/12)
    <https://www.amazon.co.jp/dp/4063768759/>
  • ヤマザキ マリ(著), ウォルター・アイザックソン(原著)「スティーブ・ジョブズ (2)」(講談社 KCデラックス、2014/4/11)
    <https://www.amazon.co.jp/dp/4063769631/>
  • ヤマザキ マリ(著), ウォルター・アイザックソン(原著)「スティーブ・ジョブズ (3)」(講談社 KCデラックス、2014/12/12)
    <https://www.amazon.co.jp/dp/4063770974/>
  • ヤマザキ マリ(著), ウォルター・アイザックソン(原著)「スティーブ・ジョブズ (4)」(講談社 KCデラックス、2015/9/11)
    <https://www.amazon.co.jp/dp/4063773043/>
  • ヤマザキ マリ(著), ウォルター・アイザックソン(原著)「スティーブ・ジョブズ (5)」(講談社 KCデラックス、2016/8/12)
    <https://www.amazon.co.jp/dp/4063930041/>
 
 

【余談:表紙の絵について】

1巻の表紙は、アイザックソンの原著とほぼ同じ。2巻・3巻は若かった頃のJobsですね(Jobsの外見ですが、各時期に合わせているようです…ヤマザキさん芸が細かい!)。4巻の表紙でJobsが膝の上に載せているのは、初期型のMacintoshですね。当時他社製マシンがキャラクタベースのいわゆるDOSマシンだった(通信機能は後付けでRS-232Cを介したモデム通信くらいしかなかった)のに対し、標準でGUI・ネットワーク機能(AppleTalk)を搭載した先進的マシンでした(動作は遅かったけど面白かったです)。5巻の表紙ではiMac (G3)。CD-ROMドライブがスロットローディングになる前の、初代モデルですね。絵がやたらとリアルですよね←ヤマザキさんご本人も使っていたのではないでしょうか。4~5巻の間で、Jobsは一度Appleを追い出されています。5巻表紙でJobsが一気に老けているのは、この間に何年もの時間があったからでしょう。

・  ・  ・  ・  ・

以下、ウォルター・アイザックソンによる原作の書誌事項:

 
・  ・  ・  ・  ・
【余談:私の最近の書評について】

4月の書評が全部コミックになってしまった…。1か月でコミック計61冊+アニメDVD 13巻って、大人としてどうなのよ?>ワタシ。4月1日だけじゃなく、月末までずっと「4月馬鹿」ってか?(苦笑)。

2016年11月27日日曜日

丸山 正明(著), 三島 良直(監修)「プロジェクトマネージャー養成講座 東工大COE教育改革 PM編」


丸山 正明(著), 三島 良直(監修)「プロジェクトマネージャー養成講座 東工大COE教育改革 PM編」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4822232042/>
単行本: 253ページ
出版社: 日経BP社 (2005/9/3)
言語: 日本語
ISBN-10: 4822232042
ISBN-13: 978-4822232047
発売日: 2005/9/3

[書評] ★★★★★

10年少し前の本。東京工業大学の博士課程で、経理や財務といった経営的視点も持った技術者を育てるコース「東工大COE改革」が始まったが、その取り組みのうち「プロジェクトマネージャー養成コース」の内容を紹介する書籍。COE拠点のリーダーは、LCD (液晶ディスプレイ)等に使われている透明導電膜の「IGZO」を基礎研究のレベルから商用化まで牽引した、東京工業大学の細野秀雄教授(IGZO以外にも色々な研究成果があるが、本論から外れるのでココでは割愛させて頂く)
  • COEとはCenter Of Excellence Programの略で、2001年の文科省「大学の構造改革の方針」に基づいて2002年に「21世紀COEプログラム」という研究拠点形成等補助金事業が開始された。これは、ひと言でいえば、大学発のベンチャー企業など、一定の段階に達した研究成果を積極的に市場に出す仕組みのこと。欧米の大学から新製品・新技術がどんどん市場に出るようになっているのに対抗して、日本でも同様の流れを作ろうという動き。短期的に成果を出せる研究分野に国庫(要するに税金)がどんどん注ぎ込まれる仕組みであり、長期にわたる研究には予算が振り分けられないという問題点もある。長期的な研究にも一定の予算を割くべきと私は考える。
今となっては入手困難な本だが(日経BP書店では「完売」、Amazon等で中古本が少量出回っている程度)、技術マネジメントについておさらいしたい人には今でも有効・非常にオススメだと思う。技術者だけでなく、人事部教育担当にも有用な本だろう(社員研修のメニュー策定の参考になると思う)。財務諸表等も含めて事業計画を作り、事業をインキュベートし、プロジェクトが軌道に乗るまで強力に牽引することの出来るR&Dエンジニア…何だかステキではありませんか?
  • 内容的には、どうしても発行当時('00年代半ば)の流行に乗った「研究開発リーダー育成」本ではある。が、この考え方自体は、今でも有効だろう。
  • 日経BP社さんって滅多に増刷しないんですよね。年月を超えて役立つ書籍は、ダイヤモンド社さん・翔泳社さん・英治出版さんのように長期にわたり増刷し続けて欲しいものです。
  • 入手困難品ですが、私の個人所有品は書込み&付箋紙ベタベタでかなりお見苦しいので、古本か図書館でアクセスして下さい(笑)。
・  ・  ・  ・  ・

以下、興味ある人向け(お急ぎの方は読み飛ばして下さい/笑)

研究開発のマネジメント(技術マネジメント)の手法としては、これまでにも色々な物が提唱されてきた。栄枯盛衰というか、諸行無常というか、…実は10年以上有効であり続けている手法は殆ど無いというのが私の実感。だが、本書の骨子部分は今でも有効だと思う(基本に立ち返る必要を感じ、10年振りに再読)。プロジェクトマネジメントというキーワードで書籍を探すと、ITベンダー系の物ばかりが目立つが、私が求めていた技術マネジメントの処方箋は、機械系・電子系・化学系といった幅広い製造業に通用する方法論だ。

本書が書かれた頃の時代背景について述べておく:
  • 昭和末期(1980年代)、世の中の消費傾向が、画一的な商品の大量生産・大量消費から、製品のカスタム化と少量多品種生産にシフトし始めており、ボリューム効果による利益は得にくい時代になり始めていた。工業製品は部品規格の統一が進むと同時に、顧客のニーズに合わせた(特に軽・薄・短・小・高性能の路線での)「オーダーメイド製品」が増え始めていた。製品開発については顧客密着型&提案型の外は、特に良いとされる手法があまり確立されていなかった(自動車・建設等一部業界は例外)
  • 20年位前(1990年代半ば)は、MBA (Master of Business Administration; 経営学修士)花盛りの時代で、企業をやめてビジネススクールに飛び込み、ベンチャー企業を立ち上げる人が多くいたし、MBAを取得した学生を経営幹部として採用する企業も多かった。そういう野心的な社員を引き留めて「社内起業」の形で新たなビジネスを試す企業も多かったように思う。
  • 10年位前(2000年代半ば)は、特に製造業においてMOT (Management of Technology; 技術経営)が大流行した。この頃は、会社を辞めずに、夕方や週末に大学院に通って学位を取るようなビジネスマンが増えたと思う。ちょうどこの頃、大学の独立行政法人化(文科省主導の大学改革)が進められ、研究のアウトプットとは何かの議論が多くなった頃でもある。大学側でも従来の枠に収まった研究一筋ではいけないと、学部・学科の境界を超えた研究(学際研究)、事業化さえ怪しい産学共同プロジェクトが乱立した、そういう時期でもある(笑)。
  • 近年は、「ズバリこれ!」な技術マネジメントの新しい手法は…無さそう。MOTやPMの考え方が浸透してきている段階か?
で、本書に書かれた通り、東京工業大学は10年少し前(MOT流行時&国立大独法化の時期)に、「21世紀型COE教育改革」(COE=Center Of Excellence)に取り組んだ。これは、MOTとは少し違うアプローチで、現在起きている現象を分析する「リアルビジネス」を重視する、PM (プロジェクト・マネジャー)養成コースである。本書に書かれている内容は東京工業大学での取り組みに関する骨子だが、極端な話、博士号取得者が非製造業で活躍しても良いという、「工業大学」らしくない(笑)とも言える懐の深さが良い。
  • 企業側から、入社後即戦力になるリーダーを育てて欲しいというニーズもあったことも、この教育改革の背景にあるだろう。
  • 大学の独法化により、研究者魂を惹きつけるがどのように世の中の役に立つかどうかイマイチよく分からないテーマは続行が難しくなっているとも言われている。が、そのような分野にも一定以上の、金と人を割り振って研究をするべきだと思う。
    • 特に2000年代以後、日本の大学の基礎研究に割り当てる資金については非常に厳しい状態となっており(本書にも競争によってJSTやNEDO等から資金を得られない研究員は食っていけなくなる生々しい事情が語られている)、テーマもカナリ近視眼的になっているようだ。
    • この辺りの事情は、外国(特に米国)で大学発のビジネス・インキュベーションが巧く働いていることの影響と、「2番ではいけないのですか?」の発言に代表されるように、研究資金の財源を握る人たちが基礎研究の重要性を理解してくれなくなったことの表れだろう。今のままでは早晩(5~10年以内、概ね2020年頃~)には、基礎研究分野に関して言えば、日本人研究者はノーベル賞・フィールズ賞といった国際的な学術賞を殆ど受賞できなくなるだろう。
    • 近年、毎年のように日本人がノーベル科学省/医学・生理学賞を受賞しているが、彼ら多くの日本人受賞の研究はバブル時代、潤沢に資金を使えた1990年頃までであり、当時まだ「よくわからないものの研究」にも日本が多額の資金と優秀な人材を投下してきた結果だと思う。2000年位からそのような、一見無駄にも思える研究への資金投下は激減したのは上述の通り(iPS細胞の山中伸弥先生と、青色LEDの中村修二先生のお二方はチョット事情が特殊かも知れないが)。
ちょうどこの本が売られていた頃(2005年発行)、私も「研究開発リーダーを育てる」と銘打った企業内研修を受講しており(受講資格がある物は積極的に受講していた)、財務諸表の読み方・書き方や他社ベンチマーク、新規事業・新商品提案、ケーススタディ研究等、一通りは勉強した。今回はその復習といったトコロ。
  • 本書を買った当時、斜め読みして当たり前のことが多いな~と思ったことは記憶しているが、当たり前のことをキチンとやるのがビジネスの基本ではある。本書はその基本を思い出させてくれる良い本となった。
  • 本PMコースの参考書リスト(p. 83)は今でも十分使える本が多いと思う。
  • 第4章の、企業トップや出資者に「聴いてもらえるプレゼン技術」は、他のプロマネ指南書には少ないかも知れない(他の本で「エレベーター・プレゼンテーション」を推奨する記述を見たことはあるが)。
    • 参考:エレベーター・プレゼンテーション…会社のエレベータにたまたま乗り合わせた自社役員などに向かって、自分の企画を15~30秒でプレゼンする…という所から言われる名称で、事業/商品企画のエッセンスだけを非常に短い時間内に伝える技術のこと。非常に難しく、かなりの練習が必要。
  • 本書の内容に、プロジェクト管理技術も加えると、鬼に金棒なのではないだろうか(プロジェクトの種類によって適切な管理手法・体系が違うので、適宜学ばなければならないが)。当然のことながら、本書だけを読めばスーパーな技術者になる訳でもない。さらに勉強すべきことが色々出てくるが、本書を入口にするのは有効だと思う。

2016年11月13日日曜日

細川義洋「プロジェクトの失敗はだれのせい? ~紛争解決特別法務室“トッポ―"中林麻衣の事件簿」

久しぶりの、ビジネス書(…で良いのかな?)。物語形式で読み易く、厚い割にサクッと読める本です。


細川義洋「プロジェクトの失敗はだれのせい? ~紛争解決特別法務室“トッポ―"中林麻衣の事件簿」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4774179515/>
単行本(ソフトカバー): 400ページ
出版社: 技術評論社 (2016/2/26)
言語: 日本語
ISBN-10: 4774179515
ISBN-13: 978-4774179513
発売日: 2016/2/26

[書評] ★★★★☆

大手ITベンダーRMKジャパン(架空の会社ですよ)に勤務するシステムエンジニア、麻衣。特別法務室(通称“トッポー”)に突然放り込まれる。そこで出遭う紛争の数々。

著者はITベンダー出身の、東京地裁民事調停委員IT専門委員。IT関連の企業間紛争と和解の実態については非常に詳しいようだ。本書では、ご都合主義的な人脈戦略あり、場外乱闘(?)ありと、小説としてはベタな展開が多いが(ストーリーテラーとしては専門家ではないようだ/笑)、物語形式で読み易い。ストーリーを楽しみたい人はじっくり読んでも良いし、結論だけ知りたい人は本文は斜め読みして、巻末の解説(25ページ+2行)だけじっくり読めば良いと思う。

ITプロジェクトの成功率は低いという。「納期、コスト、品質を遵守して完了するプロジェクトの割合は約7割」とのこと(本書「おわりに」より)。つまり3割のプロジェクトはどういう形にせよ失敗になるということだ。IT業界で失敗プロジェクトが多いというのは古くからの定説であり、対処法/指南書としては、(10年以上前の本だが)以下の本が有名だ。
  • エドワード・ヨードン『デスマーチ 第2版 ソフトウエア開発プロジェクトはなぜ混乱するのか』(Amazon拙書評)
しかし、これはIT業界だけの話だろうか? 確かに数万行、時に億単位のステップからなるプログラムを多人数でコーディングし、開発スパンが(他業界と比べて)短い物が多いという特徴はあるだろう。また、設計変更・機能改良に留まらず、「イチから開発」する要素が多いこともIT業界の特徴と言えるかも知れない。ここ10~20年くらいの間に、ソフトウェアの品質管理とプロジェクト・マネジメントに関して、システマティックな方法が色々出てきており、実用面でも役立っているようだ。

この手法、実はソフトウェア開発に限った話でなく、ハードウェアについても、サプライヤと顧客が一緒になって新製品を開発する際などにも使える手法なのではないか。重要部品の納品が遅れて製品リリースが遅れたり、各社の開発の足並みが崩れてプロジェクトが中断する等の事例は、ハードウェア業界でも少なくないのではないかというのが私の実感。製品の仕様(品質)・納期・価格等、顧客の要望に出来るだけ応えるというのが「顧客満足度の高い仕事」と思われがちだが、無理を重ねてプロジェクト自体が頓挫したりする可能性も考え、自社に出来ること・出来ないこと・仕様等の変更に伴う価格上昇・納期変更をキチンと顧客に伝えることはベンダー(サプライヤ)の“義務”だとまで言い切る書籍は珍しいと思った。
  • 建設業界や自動車業界など、古くから下請け・孫請け…を含み垂直統合・サプライヤ指導を上手に行っている業界もあるが(トヨタの例が有名)、あらゆる技術に精通した「主導者」が不在となりやすい業界では、IT業界における品質管理・プロジェクトマネジメント(PM)の手法が参考になると思う。
そういう意味において、興味深く読める本だった(ハードウェア系技術屋には「隣の芝生が青く見えているだけ」なのかも知れないが/笑)。プロジェクトを牽引する立場の人(予定のある人)は、IT業界以外にもオススメ出来ると思う(巻末の「解説」の箇所は2度、3度読む価値ありだと思う)

なお、本書はあくまでもイントロ本、しかもプロマネ(PM)よりも紛争回避に重点が置かれている。本当のプロマネについては、メンバー・レベルなら例えば日経BP社の技術誌『日経エレクトロニクス』の「NE Academy」等の連載記事がオススメ。プロジェクト・マネジャーに求められるレベルに到達するには、社外研修も有効だろうが、一番良いのはメンバー・サブリーダー・リーダーとしての実経験(試行錯誤)を積むこと。つまり、失敗と成功を経験することしか無いのかも知れない(何の救いもない答でスミマセン)

2016年9月4日日曜日

田濤・呉春波(著),内村和雄(訳)「最強の未公開企業ファーウェイ――冬は必ずやってくる」

朝晩が少し涼しくなって来ましたね(1~2週間前まで夜もセミが鳴いていましたが、今ではすっかり秋の虫の声です)。読書意欲復活です。久し振りにビジネス書行きます。


田濤・呉春波(原著),内村和雄(翻訳)「最強の未公開企業ファーウェイ――冬は必ずやってくる」
<https://www.amazon.co.jp/dp/4492502661/>
単行本: 242ページ
出版社: 東洋経済新報社 (2015/2/13)
言語: 日本語
ISBN-10: 4492502661
ISBN-13: 978-4492502662
発売日: 2015/2/13

[書評] ★★★☆☆

「世界で最も革新的な企業ランキング」(Most Innovative Company Ranking by FAST COMPANY, 2010.02)で、①Facebook、②Amazon、③Apple、④Google、に次いで⑤中国企業・華為技術(Huawei Technogolies Co. Ltd.、ファーウェイ)がランクインした。

正式名称、華為技術有限公司(英:Huawei Technologies Co. Ltd.)。中国広東省深圳に本社を置く通信機器メーカー。日本では通信端末で馴染みがあるが(ハイエンドのスマホも有名だが、ポケットWi-Fiルータのシェアが結構大きいようだ)、世界的には、基地局・中継局供給とネットワーク構築が主業。世界最大規模の製造業で売り上げは40兆円に迫る。(一部Wikipediaより)

世界有数のグローバル企業でありながら、非上場。単なるセットメーカ(機器製造)でなく、通信システムの構築・敷設を行システムメーカでもある。15万人以上の従業員を抱え(2015年データでは17万人:百度百科より)、うち3万人以上が外国籍(非中国籍)。日本にも錦糸町・大手町・横浜にR&D等の拠点を持つ。ビジネス形態はB to B (対法人ビジネス)なので、一般人には解りにくい「謎」の中国系グローバル企業。そんなファーウェイの創業者・社長の任正非氏の経営哲学と、ファーウェイの過去・現在の説明、そして未来に向いている方向を示す本。

中国企業でありながら、成長の早い段階から欧米のビジネスシステムを取り入れ、グローバル化に対応。それでいて、白黒はっきりさせすぎない東洋的な経営思想も併せ持つ(「灰度哲学」)。日米欧のどの企業ともチョット違うファーウェイの実像に迫ることの出来る、面白い本だ(自社の経営状況と比較して、良い点・悪い点をチェックしながら読んでみても面白い)

・  ・  ・  ・  ・

以下、雑感。

本書を読むと、以下を通じて高い業績を挙げ続けていることが分かる。
  • 非上場(1.4%が任会長保有、残り98.6%は社員持株制度)…資本市場からの四半期毎の業績圧力や株価変動に惑わされず、10年単位で戦略策定・実行が可能…他の企業よりも長期戦略に基づいた行動が取れる。また、世間に企業の経営情報を公開する義務が無く、顧客へのサービスのみで勝負が出来る。
  • 他の多くの企業(特に米国企業)のような利益至上主義、株価至上主義とは一線を画している…利益の少ない製品も地道に作り、着実にシェアを伸ばして行っている。
  • 政治と極力無関係な立場を維持…政治的な順風に乗ることもないが、逆風も最小限で済む。社員も政治活動は御法度(デモ参加、政治意見の表明等を含む)
  • 「奮闘者を根幹とする」経営方針を緩めない一方で、市場・拠点のグローバル化に当たり、各国の法律(そして世界的には米国の法律)を遵守し、商取引上の問題・労働問題等が起きないようにしている。
  • 中国流のシブトい経営体質に、欧米の先進的ビジネスシステムを取り込み、世界的な商慣習・労働条件に適合した企業として上手くグローバル展開している。
  • 物事の白黒をはっきりさせず、灰色のものを受け入れる経営体質(「灰度哲学」)。幹部・管理職にも大きな度量が求められる。
  • 独り勝ちを目指さず、バランスの取れた競争環境を維持する。「すべての敵を滅ぼし、一人で天下を取りたいと願ったチンギス・ハーンやアドルフ・ヒトラーは、どちらも自滅してしまった。(中略)ライバルとは競争も必要だが、協力もまた必要だ。要は自分にとってプラスになればよいのだ」(p. 68)
  • 経営者と管理職は常に危機感を抱いており、常に危機に備えている。任社長の考えでは「有線や無線の情報伝送能力が一定のレベルに達した時、情報通信技術のイノベーションはスローダウンすると考えている。その時に生き残れるのは、グローバル市場を網羅し、マネジメントに優れ、良質のサービスを低コストで提供できる企業だけだろう。ファーウェイは自分が消滅する前にそのような水準に到達しなければならない」(p. 132)。また、ファーウェイでは太平の時期が長すぎ、平時に昇進した幹部ばかりというのが頭痛の種とのこと(平時任官した軍人は「官僚」としては有能だが、有事の際に全然役に立たないと言っているのと同じか)
反面、従業員に優しくない会社という印象は拭えない。たとえば:
  • 「社内事情に詳しいある人物によれば、ファーウェイの経営幹部のうち少なからぬ人数が精神的プレッシャーに起因する何らかの疾病――不安神経症、鬱病、高血圧、糖尿病など――を抱えているという」(p. 124)
  • 会社が小さかった頃の「マットレス文化」(新入社員に仮眠用のマットレスとタオルケットを支給していた)の体質が色濃く残っている。(pp. 124-125)
  • 長期雇用が約束されていない。「ファーウェイでは終身雇用制を約束したことは一度もない」「会社と社会の間の人材交流も必要だ」「社内のポストや人材の流動性が重要である」(pp. 185-186, 233-234)
  • これまでに数度、1000人単位のレイオフを行っている(再雇用した場合も勤続年数等はリセットされる)
  • 意地の悪い観方をすると、社員持株会制度を悪用?しているようにも見える。①中国の会社法から見て、ファーウェイの持株会制度はグレーである…持株会制度は法律施行前に開始していたとはいえ、非上場企業でもあり自分の持株を自由に売り買いすることは出来ない。②企業業績を反映した配当を餌に、従業員の通常収入(月収)を削っているように読めるフシもある。
また、日米欧の企業(メーカ系)と比較しての話だが、気になる点:
  • 非上場ゆえに企業情報が表に出てこない。(一般的な上場企業と比較して)会社情報・経営データがかなり不透明(社長・任正非氏の経歴もわからないことが多い)
  • 自社主導のイノベーションを軽視しているのでは?という傾向が少し見られる。
    • 「1人当たり生産性を伸ばす」を重要な経営目標にしていると、必然的に失敗が多くなるR&D部門では直近の製品開発しか出来なくなるのでは? それで良いのか?
    • 「リードしてよいのは常にライバルの半歩先までだ。3歩先まで進むと顧客ニーズから乖離してしまいかねない」(pp. 202-204)と言っているが、R&Dステージでは2~3歩先を見つめ、技術開発・特許出願は先行して行わないと、「戦力になる特許」は決して取れないのでは?
    • スマホでは、まだまだ他社の後追い。Huawei P6はApple iPhone 6sのcopycatだとWIRED誌でもこき下ろされていた。
  • 2013年版R&D案内パンフには「特許申請数6万8,895件、取得特許数3万0,240件、LTE必須保有特許829件以上 (2012年現在)」とある。出願数がとにかく多い(2000~2010年頃シスコ等の競合他社から特許侵害を訴えられる等の手痛い経験から学んだ結果なのだろう)。このうち、自社技術の保護に役立っている特許がどれだけあるかは不明。また、特許を出願すると、特許査定/拒絶査定/最終処分未決を問わず(つまり権利保護能力の有無に関係なく)、18カ月で公開されてしまうという欠点(?)がある(技術の独占の引き換えに技術内容を公開する…というのが特許のフィロソフィなのだが、何でもかんでも出願していると、自社のR&Dの活動内容が1年半後には社外にバレバレになるし、費用もかさむ)。知的財産重視は中国企業としては珍しいし、だいぶ前から世界標準でもあるのだが、自社知財の保護方法は特許出願の他にもあるのでは?とも思える。この辺り、今後はどのように進めて行くのだろうか。
中国IT企業(製造業)に関しては、過去にレノボ(聯想)の本を読んでいる。聯想と華為、中身は大きく違う。「中国系IT関連メーカ」などという単純な括りは出来ないようだ(共通点もあるのだが、違いの方が目立つ)
以上

2016年5月15日日曜日

ハワード・シュルツ&ドリー・ジョーンズ・ヤング「スターバックス成功物語」

久しぶりのビジネス書です。


ハワード・シュルツ&ドリー・ジョーンズ・ヤング(著)、小幡照雄&大川修二(訳)「スターバックス成功物語」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4822241130/>
単行本: 462ページ
出版社: 日経BP社 (1998/4/23)
言語: 日本語
ISBN-10: 4822241130
ISBN-13: 978-4822241131
発売日: 1998/4/23

[書評] ★★★★☆

1998年発売のビジネス書の定番。長年「積読」で放置している間に、すっかり古典になってしまった(汗)。

筆者シュルツ氏は、スターバックス(STARBUCKS)の会長兼CEO (最高経営責任者)。シアトルのコーヒー豆小売店に過ぎなかった同社を、世界的な規模に成長させた中興の祖。シュルツ氏本人による「すばらしい企業の作り方」のマニュアルとして一世を風靡した本。

労働者階級出身(シュルツ氏の両親は高校も卒業していない)の筆者のサクセス・ストーリーであると同時に、新しいビジネスを始め、企業を成長させ、社会に貢献する存在となる為に、社長/CEOがやるべきことが盛り込まれたビジネス指南書でもある。原書1997年・邦訳1998年発行と20年近く前の本ではあるが、今でも通用する内容が多いと思う。

本書に書かれた、スターバックスを小さなコーヒー豆小売店から世界的企業に導いた基本理念は、概ね以下の通りである:
  1. 会社のミッション・ステートメント(社訓)を定め、全ての社員の行動基準(業務上の判断に迷った時などにも参考にできる指針)として浸透させる。
  2. 1. が形骸化しないような仕組みを作る:スターバックスの場合は、経営者の判断(施策決定)について、ミッション・ステートメントに反していないかどうか一般社員が監視し、必要に応じて経営陣にコメントできる「ミッション・レビュー」制度を導入している。
  3. 会社と従業員の間の信頼関係を築き上げる。約束したことは必ず実行し、従業員を厚遇する。
    • 社員の福利厚生を充実させる。
    • 一般の従業員にもストックオプションを与える。
  4. 起業家は、初心・基本理念を忘れてはならないが、その一方で、起業家→経営者→指導者へと自己改革を続ける必要がある。また、自分よりも優秀な人材を確保し、大幅に権限委譲しないと企業という組織は回らなくなる。権限委譲には恐怖を伴うが、価値観に共感してくれる優秀な人材を見つけなければならない。
本書が書かれたのがスターバックスが「イケイケ」だった時代であり、ストックオプションなどは成長が鈍化した現在は通用しない手法だが(同社の成長は2007年まで、2008年は減収・減益)企業経営の哲学(フィロソフィー)は多くの企業に通用するだろう。ただし、スターバックスはバイト学生であろうと健康保険等の福利厚生が充実しているとのことだが、その反面給与水準が低いことでも知られており(小売・飲食業の中では高い方らしいが)、ある意味本末転倒とも言える。

周知の通り、コーヒーショップとしては、タリーズ(Tully's)やエクセルシオール(EXCELSIOR)等の似た業態の競合社が現れ、市場は飽和傾向。スターバックスは自社店外(スーパー・コンビニ等の一般店)で、ボトル入り飲料や、コーヒー豆の販売を始めた。業容の変更に伴うものだと思われるが、ミッション・ステートメントも本書記載の物から一部書き直されているようだ。色々な市場が成熟した今、筆者・シュルツ氏がスターバックス社の現在・未来について書くとしたら、どのような内容になるだろうか。ちょっと読んでみたい気もする。

◆参考にする際に気をつけたいこと

本書(や関連図書:下記参照)が発行され、日本の企業でも基本理念や価値観を掲げるところが増えたが、私の知る限り、期待したように機能している企業は少ないようだ。それは、第1に、経営者と従業員の間に信頼関係が醸成されていないからだろうし、第2に下(従業員)から上(経営者)を監視し理念に背いた判断を修正する仕組みを作ることが出来なかったからでもあろう。

2000年~05年頃から、朝礼時に全従業員が社是を唱和したり、社訓を社内のあちこちに掲示したりする会社が増えだしたようだ(日本企業の成功例を真似したケースも多いだろう)。が、上から下への「経営理念」「価値観」の一方的な押しつけは、従業員から見てただの失笑の対象となってしまう(たいていの場合、従業員は表向き従っている振りをするが心から受け入れている訳ではない)。このような「形だけの改革」では、経営者と従業員との間で経営理念や価値観を共有・共鳴するなどありえないと心得るべきだ。社員は新入社員の時から理念・価値観を浸透させる必要があるし、その為には中堅以上の社員も同じ理念・価値観を心から信じているようにしなければならない。

企業文化が確立した後で、途中からこれを変えることは非常に難しい。だからこそ、会社創業時に理念・価値観を確立しておくことが非常に重要だ。経営者は、本気で社風を変えたいと願うなら、従業員から経営陣に対するクレームに耳を傾けなければならないし、そのためには経営陣と従業員の間の相互の信頼関係が非常に重要だ(自分たちの為に動いてくれない経営者の言うことなどに従業員は耳を傾けない)。これ無しで変革を実行しようとすると、経営陣は非常に強い逆風にさらされることになる(そして、経営陣がこれに耐えきれない場合、改革は大抵失敗に終わる)。急に企業文化を変えることはできない。じっくり腰をすえて、何年もかけて、会社全体と従業員の意識を良い方向に向け直す必要がある。

…この辺り、書き出すと止まらなくなるので、この辺でやめておきます(笑)。

◆翻訳の質

ソコソコ、としか言いようがない。たまに見られる訳注は非常に良い(米国文化を知らない日本人が本書を理解する助けになる)。が、気になったのは、明らかに誤変換と思われる箇所が所々にあったこと(校正が不充分で、増刷を重ねている版でも修正されていない)。前後関係から判るのだが、たとえば「企業」と「起業」といった同音異義語の誤変換に出会う度に、思考が中断されてしまうのは残念(原文を読むより遥かに効率的なので、あまり強く文句は言えないのだが/笑)

・  ・  ・  ・  ・

【以下参考情報】

◆スターバックス社のミッション・ステートメント(リンク)

◆「偉大な企業」を作る方法に関する参考文献(リスト)

偉大な企業(世界的な企業)を作るアプローチとしては、既存のビジネス書に書かれた内容と共通する部分が多い。
  • トム・ピーターズ&ロバート・H・ウォーターマンJr.『エクセレント・カンパニー』(英治出版、2003/07/26) (Amazon拙書評)
  • ジム・コリンズ&ジェリー・I・ポラス『ビジョナリー・カンパニー』(日経BP社、1995/9/26) (Amazon拙書評)
  • アルフレッド・P・スローンJr.『GMとともに』(ダイヤモンド社、2003/6/6) (Amazon拙書評)

◆異業種の企業理念・経営方針との類似性

顧客に「手の届く贅沢」と「すばらしい体験」を従来になかった形で提供できる偉大な企業を作るという経営方針は、業種は全く異なるが、AppleやGoogleとも共通していて興味深い。もしかしたら、IT系・飲食/小売業以外の企業でも、似たアプローチは有効なのかも知れない。
  • ウォルター・アイザックソン『スティーブ・ジョブズ』(Ⅰ・Ⅱ) (講談社、2011/10/25 & 2011/11/2) (Amazon上巻Amazon下巻拙書評)
  • E・シュミットほか『How Google Works―私たちの働き方とマネジメント』(日本経済新聞出版社、2014/10/9) (Amazon拙書評)
  • スティーブン・レヴィ 『グーグル ネット覇者の真実 追われる立場から追う立場へ』(阪急コミュニケーションズ、2011/12/16) (Amazon拙書評)

2016年4月23日土曜日

佐藤優「「ズルさ」のすすめ」


佐藤優「「ズルさ」のすすめ」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4413044401/>
新書: 216ページ
出版社: 青春出版社 (2014/12/2)
言語: 日本語
ISBN-10: 4413044401
ISBN-13: 978-4413044400
発売日: 2014/12/2

[書評] ★★☆☆☆

元・駐露大使館員~外務省主任分析官。鈴木宗男氏がらみの事件で逮捕・起訴され、09年有罪確定。チョット変わった経歴をお持ちの佐藤氏。論者として、時々ニュース解説等に現れる。話は非常に整理されていてわかり易い。国際感覚は確か(外交官僚やっていた位だからそうでなくては困るが/笑)。右でも左でもない。ストレートな視点から、日本国民の生命と財産と幸福な人生を送る上で、国はどうあるべきかを考える人。

閑話休題。

本書は佐藤氏の専門分野ではなく、一般のビジネスマン向け処世術のような本。章立ては以下の通り:①人と比べない(他人のモノサシだけで自分を評価しない)、②問題から目をそむけない(問題を整理し正しく対処する)、③頭で考えない(経験を積んで直観力を養う)、④時間に追われない(自分の時間を管理する)、⑤酒に飲まれない、⑥失言しない、⑦約束を破らない、⑧恩を仇で返さない、⑨嫌われることを恐れない、⑩人を見た目で判断しない(見た目や肩書だけで判断しない)、⑪上下関係を軽んじない。ビジネスパーソンとしては至極当たり前のことばかり。が、時々ハッとさせられる記述がある(だから面白いんですよね)

人間が社会や組織の中でしか生きられないことと、そこには必ず上下関係と権力構造があり、自由や平等が幻想にすぎない(だからこそ自由や平等を求め続けなければいけないのだが)。また、今後グローバル化の波で企業の「戦闘集団化」は避けられない流れ。そんなアンビバレンツの中で、組織の中でうまくやりすごすにはどうしたら良いか、自分らしい生き方をするにはどうしたら良いか、…等について助言をくれる。

厳しい評価をすると、毒にこそならないが、あまり薬にもならない本(この辺りが青春出版社クオリティなのかも知れない)。政治(&経済&軍事)ジャーナリスト・作家として名が売れてきた佐藤氏の「小遣い稼ぎ本」のようにも思える。佐藤氏は、一般的なビジネスの領域ではなく、やはり政治経済のことを書いてくれた方が面白いと思う。

2015年4月18日土曜日

ジェリー・ポラス他 「ビジョナリー・ピープル」

ジェリー・ポラス, スチュワート・エメリー, マーク・トンプソン(著), 宮本 喜一(翻訳)
「ビジョナリー・ピープル」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4862761003/>
単行本: 408ページ
出版社: 英治出版 (2007/4/7)
ISBN-10: 4862761003
ISBN-13: 978-4862761002
発売日: 2007/4/7

[書評] ★★☆☆☆

『ビジョナリー・カンパニー』(下記参照)の共著者、ジェリー・ポラスを含む著者陣による本で、カンパニー(企業)ではなくピープル(人間)に焦点を当てたもの。『ビジョナリー・カンパニー』シリーズは卓越した組織を作り率いる方法について述べた本だが、本書『ビジョナリー・ピープル』は個人が卓越した人生を生きる方法について述べた本。

他人が作った価値基準に沿って生きるのではなく、自分自身が大好きなこと(愛情を注いで取り組めること)、かつ誰かの為になることを仕事とすること。挫折への接し方、良いアイデアを出すための議論の仕方、…etc., etc.、組織人として仕事をする上で参考になる話が多い。

が、しかし…。

◆翻訳の質に関する文句:

解り難い文章が多い。特にPART 3(9~11章)は原英文が思い浮かべられる程お粗末な翻訳。見事に英語の論理に引きずられている(日本語の論理構造になっていない)。翻訳作業の締切り等の都合もあったのっだと推察するが、Excite!さんGoogleさんに機械翻訳をしてもらったまま殆ど手直し無し…みたいな雑な訳文だ。特に、10章「論争を盛り上げる」が日本人にとって馴染みの薄い内容であること、11章「すべてを結集させる」が本書を締め括るための重要なパートであることを考えると、この2章の訳文の質が低いというのは致命的かも知れない。

このショボい翻訳により、この訳書の完成度は低くなってしまっている。翻訳の専門家ではないが、その分野で著名な先生が翻訳した本では、こういうことがままあるものだ(例えば昭和時代の理系の専門書など)。が、平成になって20年以上、グローバル化時代のビジネス書だ。多くのビジネスパーソンを読者層とした本である筈だ。出来ればもっと質の高い、読み易い翻訳にして欲しかった。

◆さらに文句(恨み節):

本書の訳者・宮本喜一氏については、C・クリステンセン(著)「明日は誰のものか」の翻訳も質が悪かったと記憶する。
質の悪い翻訳者がのさばると、我が国にとって損失だ…というのは言い過ぎかも知れないが、少なくとも原著者に対して失礼ではあろう。彼ら翻訳者は日常的に英語に触れていて、物の考え方自体が英語化しているのだろうが、日本語アタマの読者に真摯に内容を伝える努力はして欲しい。翻訳の質が高いもので同じ“ビジネス書”の分野で最近読んだ本では、例えばE・シュミット他(著)/土方奈美(訳)「How Google Works―私たちの働き方とマネジメント」(Amazon拙書評)の翻訳は一級品だ(上記の櫻井祐子氏もビジネス、科学と幅広い分野で翻訳をしているが、名訳が多い)。多くの翻訳業者さんに、こういう質の翻訳を目指して欲しいと思う。

原著者と、邦訳版権を取った英治出版との、いずれの意図かは判らないが、どうにもベストセラー「ビジョナリー・カンパニー」シリーズの尻馬に乗って稼いでやろうという意図があったのではないか? …というのは深読みだろうか? (「ビジョナリー・カンパニー」の原題“Built to Last”に対して、本書「ビジョナリー・ピープル」の原題は“Success Built to Last”と似たものになっている。邦題もよく似ている。)

◆参考図書:「ビジョナリー・カンパニー」シリーズの既刊
  • ジム・コリンズ、ジェリー・I・ポラス「ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則」(1995) (Amazon拙書評)
  • ジム・コリンズ(著), 山岡 洋一(翻訳)「ビジョナリー・カンパニー② - 飛躍の法則」(2001) (Amazon拙書評)
  • ジェームズ・C・コリンズ(著), 山岡洋一(翻訳)「ビジョナリーカンパニー【特別編】」(2006) (Amazon拙書評)
  • ジム・コリンズ (著), 山岡 洋一 (翻訳)「ビジョナリー・カンパニー③ 衰退の五段階」(2010) (Amazon拙書評)
  • ジム・コリンズ, モートン・ハンセン(著), 牧野洋(翻訳) 「ビジョナリー・カンパニー④ 自分の意志で偉大になる」(2012) (Amazon拙書評)

2015年4月15日水曜日

マイケル・E. ポーター「競争戦略論 (Ⅰ・Ⅱ)」

しばらくエンタメ系の本が続いたが(ダン・アリエリーの行動経済学はエンタメ本ではないが読み味はライトだった)、久しぶりにチョットお堅い本を。

 

マイケル・E. ポーター(著)、竹内 弘高(翻訳)「競争戦略論 Ⅰ」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4478200505/>
単行本: 270ページ
出版社: ダイヤモンド社 (1999/06)
ISBN-10: 4478200505
ISBN-13: 978-4478200506
発売日: 1999/06

マイケル・E. ポーター(著)、竹内 弘高(翻訳)「競争戦略論 Ⅱ」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4478200513/>
単行本: 355ページ
出版社: ダイヤモンド社 (1999/08)
ISBN-10: 4478200513
ISBN-13: 978-4478200513
発売日: 1999/08

[書評] ★★★★☆

◆概要:

ハーバード・ビジネススクールのポーター教授による、企業や産業、国家の競争戦略に関わる著作。業界団体・関連産業・産業地域(クラスター)や国家の競争戦略に関わる内容も見られるが、メインは企業戦略。経営戦略の古典とも言える本であり、一部古い情報もあるが、考え方については今でも充分参考になる。

日本企業にとって特に参考となるのは、以下の2章だと思う。特にⅡ-第2章は、Ⅱ巻の4割のページを割いており、力の入りようが分かるというものだ。
  • Ⅰ-第2章 「戦略とは何か」
    企業のポジショニング;誰を顧客とし、誰を顧客としないか。潜在顧客の全てを追おうとすると、自社のポジショニングが曖昧になる。競合他社のベンチマークに注力すればするほど、他者と類似した事業となってしまう(均一化が進んでしまい、商品やサービスの差別化が出来なくなってくる)。競争戦略の本質は差別化である。売上げやシェアに目が眩むと、ターゲットを絞るのは難しいが、得意とする市場・顧客・商品に絞り込むことで、高い収益性を確保できるというのは、考えてみれば当たり前の話ではある。
    • 顧客を絞るということは、潜在的な売上・シェアを見捨てるようなもので、心理的に難しいかもしれない。しかし、事業の利益率を向上させるには、このポジショニングを明確にすることが重要だと述べる。
    • ポジショニングを明確にするということは、やみくもな成長の対極である。顧客を絞らず売上げ・シェアの拡大に走ると、多くの場合、事業の利益率を悪くしてしまう(最悪の場合、拡大する資金繰りに行き詰まり、「黒字倒産」に至ってしまう場合もある)。
    • なお、自社のポジショニングの設定は事業部マネジャーの決めるべきものである。企業内の全ての活動は、これにフィットした形で進めなければならない。誰を顧客にするか/しないかは、開発・製造は勿論、社内の多くの(全ての)部署で徹底されなければならない。例えば、営業部門の従業員の業績評価にも反映させなければならない。営業部隊は「売上増」「シェア拡大」で評価されることが多いが、この業績評価の仕方自体を自社のポジショニングにフィットするように変えなければならないということだ(これが実践できている日本企業は少ないだろうが、日東電工の「グローバル・トップ・ニッチ」戦略はポジショニング絞り込みの好例である)。
  • Ⅱ-第2章 「クラスターと競争」
    業界団体、関連産業(企業集団)、学術団体、産業地域といったクラスター全体の競争力を上げる処方箋について書かれている。
    事業の競争力を、クラスター(企業をとりまく関連企業、業界、地域)といった観点から考えるのは、ある意味新鮮だ。
    なお、以下については別途検討が必要。
    • クリステンセン教授の言うところの「破壊的イノベーション」に襲われてしまうと、新興産業が出来て、既存業界が衰退してしまうこともあり得る。この対処法については、別途検討する必要がある(市場や業界の狭い範囲でなく、より広い範囲での技術動向などに注目する目利きの担当者を置く必要があろう)。
    • 業界団体の競争力向上に関するテーマであっても、工業規格や業界標準を策定する際は、企業同士の綱引きが起こり得る(規格制定はゼロサムゲームになりやすい)。これについても別の戦略が必要となろう(多くの場合、リーダー企業がデファクト・スタンダードを作り、これを業界規格にしてしまうという手法が用いられるが)。
◆内容(目次より):

Ⅰ-第1章:競争優位が戦略を決める
Ⅰ-第2章:戦略とは何か
Ⅰ-第3章:情報をいかに競争優位につなげるか
Ⅰ-第4章:衰退産業における終盤戦略
Ⅰ-第5章:競争優位から企業戦略へ
Ⅱ-第1章:国の競争優位
Ⅱ-第2章:クラスターと競争
Ⅱ-第3章:グローバル企業に学ぶ勝ち方
Ⅱ-第4章:多くの立地にまたがる競争
Ⅱ-第5章:資本の損失

◆関連図書
  • M.E.ポーター「競争優位の戦略―いかに高業績を持続させるか」(ダイヤモンド社、1985/12) (Amazon拙書評)
  • M.E.ポーター「競争の戦略」(ダイヤモンド社、1995/3/16) (Amazon拙書評)

2015年2月14日土曜日

E・シュミットほか「How Google Works―私たちの働き方とマネジメント」

E・シュミット、J・ローゼンバーグ、A・イーグル、L・ペイジ(序文)
「How Google Works―私たちの働き方とマネジメント」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4532319552/>
単行本: 376ページ
出版社: 日本経済新聞出版社 (2014/10/9)
言語: 日本語
ISBN-10: 4532319552
ISBN-13: 978-4532319557
発売日: 2014/10/9

[書評] ★★★★☆

Googleの経営者による、Googleがどのように成功したかという本。

本書の結論を乱暴にまとめると、成功する企業になるには、①最高の人材を惹きつけること、②従業員が充分に力を発揮して大きな成果を出せる環境を準備すること、そして③単に表層的なものに留まらない本当の企業文化を作る、これに尽きる。従来型の企業組織や情報伝達プロセスは100年前の物であり、従業員が社内の情報やリソースにアクセスできる現代型企業には合わないモデルだという。テクノロジー(特にIT・ICT)の業界では、従来型の経営手法は通用しないと考えた方が良さそうだ。
  • 上記の3つの条件の中で最も重要なのは企業文化だ。例えば、ビジョンやミッションステートメントは、従業員が心から信じられるものでなければならない。単に紙に書かれた文字の羅列ではなく、繰り返し伝え、報奨によって強化されたものでなければならない。企業経営者が率先垂範して、時間をかけて定着させたものでなければならない。自分たちが教祖・宣教師となることなく、都合の良い従業員に囲まれたいだなんて、ムシの良すぎる話というものだ。たとえば、部下に質素を要求しておきながら贅沢をしている社長などは尊敬されないだろう。
  • 悪い情報がバイアス無しに素早く経営陣に届く組織になっているか(マネジャーが保身の為に「良い情報は大袈裟に」「悪い情報は控え目に」報告されるバイアスがかかることが多い;マネジャーが悪い情報を積極的に報告したことをキチンと評価する組織であれば、状況は多少は改善されるだろう)。経営者は、社内外からの「嫌な質問」に対して真摯に答えているか。「オープンドア・ポリシー」を掲げている会社は多いが、実際にそのドアをくぐろうとする社員はいるか。…等々。
  • この辺り、耳の痛い経営者も多いのではないだろうか。私にもこの辺りについて思うところがあり、語りだすと止まらなくなる。…が、そろそろ止めておきます(苦笑)。
Google経営者による自画自賛(自社自賛)の感は否めないし(本書では“グーグル・ウェーブ”を「良い失敗だった」と言い切っているがカナリ無理がある)、情報開示に意図的なフィルタリングが掛かっているのを感じる。だが、従来型組織に属している人間にとって、ナカナカ刺激的な本だし、大いに参考になる話題も多い。中堅以上の会社員は、Googleとは全く違う自分の組織を呪いたくなるかも知れない(笑)。

◆懸念事項

面白い本だが、ここに書かれたGoogleの経営方法、経営者に都合の良い部分だけをツマミ食い的に導入すると、あっという間にブラック企業が出来上がる。社員に有能でヤル気にあふれることを要求する。狭い仕事場で、猛烈な量の仕事を要求する。失敗することへの寛容さ(トライしたことと頑張りに充分報いる)・充分な給与・充分な福利厚生、…どれか1つが欠けただけで、地獄の職場ではないか。

世の経営者の方々には、是非とも悪用(中途半端なツマミ食い)をしないで頂きたい

◆サラリーマンとして役立つ点

35~37頁の「スマート・クリエイティブ」の定義は、自分が「出来るヤツ」であるかどうか、足りない点は何かを考える上で非常に参考になる。だが、ここに書かれた通りを実行しようとすると、あっという間に処理すべきモノに押し潰されてしまうだろう。

その1が、業務量だ。Googleのやり方を実行出来る人間というのは決して多くない(むしろ少数派だろう)。猛烈なハードワーカーであり、同時に幾つものプロジェクトに関わり、全てで成果を出し続ける。100メートル走のスピードでマラソンを走り続けるような働き方だ。家庭や趣味に充分な時間を割きたい人には受け入れ難い働き方だろう。

その2が、情報量だ。Googleでは可能な限りあらゆる情報を共有化するとのことだが、これは従業員にあらゆる文書(メールやファイルサーバ上の文書、他)に目を通していることを要求する。この量が閾値を超えると、当然1人の人間には処理出来なくなる。対処方法として、情報の取捨選択・読んだ「ことにする」・自分が知らない情報への対処方法…こういった「手抜き」の技術、そして「綻びへの対処」の技術が重要にになってくる。会社員にしても公務員にしても誰もが行っていることではあるが、Google型組織に所属している場合、この能力がズバ抜けて高い必要があるだろう。

Googleのやり方が何処でも通用するとは思いこまない方が良いだろうが、参考になる話題も多い。

◆翻訳の質について

本書は、内容もさることながら、翻訳が非常に良い! これは強調しておいて良いと思う。例文として、裏表紙に書かれている箇所を引用させて貰おう。
  • As Larry spoke, it dawned on Jonathan that the engineers he was talking about weren't engineers in the traditional definition of the role.
    ⇒ ラリーの話を聞きながら、ジョナサンはようやく気づいた。ラリーの言う「エンジニア」は、従来型の定義に当てはまるような存在ではないのだ。
  • Yes, they were brilliant coders and system designers, but along with their deep technical expertise many of them were also quite business-savvy and possessed a healthy streak of creativity.
    ⇒ たしかにグーグルのエンジニアはとびきり優秀なプログラマやシステムデザイナーだが、卓越した技術知識に加えて経営にも詳しく、発想力も豊かだ。
  • Coming from an academic background, Larry and Sergey had given these employees unusual freedom and power.
    ⇒ 大学院の雰囲気をそのまま経営に持ち込んだラリーとセルゲイは、そんなエンジニアたちに常識を超える自由と権限を与えた。
  • Managing them by traditional planning structures wouldn't work; it might guide them but it would also hem them in.
    ⇒ 彼らを従来型の経営計画の枠組みで管理しようとしても、うまくいくはずがない。参考にはなるかもしれないが、手足をしばるリスクもある。
  • "Why would you want to do that?" Larry asked Jonathan. "That would be stupid."
    ⇒ 「なんでそんなことをしなきゃならないんだ? バカげてるよ」とラリーは言った。
原文は英語の論理構造で書かれていて、日本語アタマな人には少々読み難い。でも、これを見事に日本語の論理構造に組み直している。それでいて、元の文章で伝えたいことを正しく伝えることが出来ている。こういうのを名訳と言うのだろう。こういう翻訳家がもっと増えると日本の政治や経済に貢献できるのではないだろうか。

2015年2月12日木曜日

篠原 匡 「腹八分の資本主義 日本の未来はここにある!」

篠原 匡 (著)「腹八分の資本主義 日本の未来はここにある!」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4106103273/>
新書: 191ページ
出版社: 新潮社 (2009/8/12)
ISBN-10: 4106103273
ISBN-13: 978-4106103278
発売日: 2009/8/12

[書評] ★★★☆☆

本書の内容は、目次を見てもらうのが良いだろう。
  1. 出生率2.04はどうして実現したのか――長野県下條村
  2. 「あるもの探し」で地域は活性化する――宮崎県児湯郡
  3. 林業が栄えれば水源も守れる――長野県根羽村
  4. 超高収益を実現した障害者企業、サムハル――スウェーデン・ストックホルム市
  5. 企業と農村の幸せな結婚――岩手県住田町、北海道赤平市、千葉県富里市
  6. 腹八分の資本主義――長野県伊那市
暴走する資本主義に対して正しい道を説く本ではなく(そういう意味ではタイトルはあまり正しくない)日本再生へのヒントを与える本

企業に勤務している人間としては、第6章に書かれた「会社は社員を幸せにするために存在する」(株主だけのために存在しているのではなく、社員・取引先・社会のために存在している)「会社は急成長ではなく、持続できる低成長をするべきだ」という内容には色々と考えさせられた。コリンズ&ハンセン『ビジョナリー・カンパニー④ 自分の意志で偉大になる』(Amazon拙書評)記載の「20マイル行進」(下記参照)と共通した考え方だ。持続可能な組織に必要な経営スタイルとして、今後ますます重要になる考え方となるだろう。

  • 「20マイル行進」…景気などに左右されず、確実に仕事を進める。状況が悪い時も結果を出し続けなければいけないが、好況の時に「やりすぎない」ことも非常に重要、という考え方。

2015年2月7日土曜日

水野 和夫「資本主義の終焉と歴史の危機」

水野 和夫「資本主義の終焉と歴史の危機」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4087207323/>
新書: 224ページ
出版社: 集英社 (2014/3/14)
言語: 日本語
ISBN-10: 4087207323
ISBN-13: 978-4087207323
発売日: 2014/3/14

[書評] ★★★☆☆

資本の自己増殖は利子率となって現れる。近年、この利子率が低下している。世界各国が金融緩和を行っているが(米国は最近軽く引き締めに入ったが日欧はまだジャブジャブだ)、市場にマネーが出回っても大規模なインフレは発生していない。どころか、デフレが続いている。過去の経済モデルには当てはまらない状態が続いている。これはどういうことか。

本書では、この状況は、従来型の資本主義経済が終焉を迎えつつあり次の経済モデルに移行する段階に入って来ているからであると述べる。

我々は、消費者としては安価にモノを求められる供給業者を求め、投資家としては成長する企業(基本的に安価に製品を供給する業者)に投資している。市民としては低所得者層の増加に心を痛めながら、経済活動としては低所得者層をむしろ増やす行動を取っている。だから物価は下がるし、経済全体として成長は望むべくもない。グローバル経済の発展がこの状況に拍車をかけている。第1次世界大戦後の米国や太平洋戦争後日本の「1億総中流化」みたいな状況は終わり、現在は中産階級の没落の段階にあるという。

本書の以下のような資本主義の歴史分析は解り易い
  • 12~13世紀:「1回限りの資本主義」…事業(主に海運事業)の度に出資者を募り、事業が終了すると、そこで利益を出資者に配分して、会社を解散するスタイル
  • 16世紀~:空間革命(資本が集中する「中央」に対して、生産地/消費地としての「周辺」を広げる重商主義~植民地主義~帝国主義)
  • 戦後:情報革命とさらなるグローバル化→世界の均質化→新たな「周辺」を作り出す必要性→情報・金融空間の発明→バブルの発生~崩壊→公的資金の投入(国民負担の増加);「富者と銀行には国家社会主義で臨むが、中間層と貧者には新自由主義で臨む」
また、以下のような資本主義の現状分析も鋭い
  • 利子率の低下は「資本主義の卒業証書」であり、資本を回転して利潤を生み出すのが難しい世界になった。
  • 利潤を生み出せなくなった資本主義は、資本家のみを潤し、中産階級を没落させる。
    →これこそが市民にとっての「下流社会」(三浦展著、Amazon拙書評)の到来と言えそうだ。
  • アベノミクスの成長戦略は資本主義の崩壊を速めるだけで良いことはあまりない。
しかし、本書は「歴史と現状の分析」にとどまっており、処方箋が書かれていない。これが一番問題だ。今後政治家や経済人が取るべき方針としては、ロバート・ライシュ著「暴走する資本主義」(Amazon拙書評)にはヒントが数多く書かれており、書籍としての完成度はライシュの本の方が優れているのは否めないだろう。

資本主義の今昔の解説書としては良いかも知れないが、それだけの本…のような気がする。ライシュの本を丁寧に読めば、本書は読書不要かも知れない。

2015年2月4日水曜日

ロバート・ライシュ 「暴走する資本主義」


ロバート・ライシュ(著), 雨宮 寛/今井 章子(翻訳)「暴走する資本主義」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4492443517/>
単行本: 379ページ
出版社: 東洋経済新報社 (2008/6/13)
言語: 日本語
ISBN-10: 4492443517
ISBN-13: 978-4492443514
発売日: 2008/6/13

[書評] ★★★★☆

著者はクリントン政権で労働長官、バラク・オバマが民主党大統領候補だった時代に政策アドバイザーを務めた人。経歴はこれだけでないのだが、長くなるので詳しくはWikipedia等を見て欲しい。

・  ・  ・  ・  ・

本書を乱暴にまとめると、資本主義が民主主義を食い潰しているという現実とそうなった理由、そして民主主義に手綱を戻す処方箋を示した本。

資本主義が民主主義を食い潰している理由は、主に以下の2点だと思う。
  1. 経済的主体としての個人の在り方が変わってしまったこと。すなわち、仕事をして給与を貰う「市民としての私」よりも、より安い商品を買い求める「消費者としての私」、そして投資をして大きなリターンを得たいと考える「投資家としての私」が勝ってしまっているのが原因だと言う。物を買う時は、従業員がまっとうな生活を送れるような消費行動をする必要があると述べる(実際問題として難しいだろうが)。本件については、篠原 匡 (著)「腹八分の資本主義 日本の未来はここにある!」(新潮社、2009/8/12)からの引用が良いだろう(ここに書かれている小売とは明らかにウォルマートのことだ)
    • どんなに儲けている会社があったって、従業員が貧しくて、社会に失業者が溢れていれば、それには何の意味もない。世界一売る小売が米国にあるけど、従業員の10%近くが生活保護を受けているという。それで『エブリデーロープライス』。いったい何なのって思うだろう (篠原著、p. 168より)
  2. 政治に大企業のカネが流れ込んだことが原因と述べる。近年顕著なロビー活動に代表される一連の活動だ。これに対する処方箋は、ロビイストの活動を制限する・ロビイストの金銭の出入りを明確にする、等を示す。既得権益層(大企業・ロビイスト・政治家)の多くは嫌がるだろうが、もしこれが実現できたら薮の中にある大企業と政治のカネの流れが明るみに出て、政府と大企業の癒着が多少クリーンとなり、資本主義の暴走を減速させることはできるだろう。
処方箋については、既得権益層の抵抗等を考えると今すぐ導入するのは難しそうだ。だが、社会と経済を持続可能とするために、指導者層だけでなく、一般層も社会を変えて行く意識を持たなければならないと考える。

資本主義の行き詰まりを感じている今日この頃、非常に刺激的な本だと思う。

2015年1月31日土曜日

雨宮鬱子 「証券会社で働いたらひどい目にあった」(コミック)

雨宮鬱子(著)「証券会社で働いたらひどい目にあった」(コミック)
<http://www.amazon.co.jp/dp/4776738988/>
コミック
出版社: 宙出版 (2014/10)
ISBN-10: 4776738988
ISBN-13: 978-4776738985
発売日: 2014/10

[書評] ★★★☆☆

2008年のリーマンショック以降、金融会社(証券会社)は限りなくブラックな企業になってしまった。本書は、そのような職場に勤務し、うつ病になった経験を漫画にしたもの。社内の常識(世間一般では非常識)と殺伐とした人間関係。この状態がいかに恐ろしいかを的確に表現していると思う。人間、精神的に追い詰められると簡単に壊れる。

楽しい漫画ではないが(読むだけでガックリと疲れる)、人を指導する立場にいる人には一読をお薦めしたい。従業員を精神的にダウンさせてしまう職場環境(業務量・人間関係)を理解し、自職場で同様のことが起きるのを未然に防止する助けになると思う。

ただ、主人公(たぶん著者本人)は会社を辞めるのだが、最後の
  • 夫は29歳で出世して、家族で海外駐在。今は専業主婦で二児の母(妊娠中)。好きなことを仕事にできています。
というオチは興醒めだ(不幸自慢に続いて勝ち組自慢ですか?)。著者が職場でいじめられた理由として、こういう著者の姿勢があったのではないか(外見や学歴、家庭環境に対する嫉妬からくるいじめも多いだろう)。また、主人公が健気に描かれているのに対し、パワハラの加害者が非常に醜く描かれていて、個人への復讐、ひいては証券会社業界の人たち全員への復讐とも読める。

…と書いたところで。本書を読んで、どう思うか・感じるかは、各自の勤務先・職場環境次第だろう。自身が非常識な常識の中にいることを自覚できていない人の心には、本書の作者の思いは届かないかも…。

2015年1月25日日曜日

水沢あきと 「アイドルとマーケティングの4P」

水沢あきと 「アイドルとマーケティングの4P」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4048669109/>
文庫: 370ページ
出版社: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス (2014/8/23)
言語: 日本語
ISBN-10: 4048669109
ISBN-13: 978-4048669108
発売日: 2014/8/23

[書評] ★★★★☆

駆け出しアイドルの売り込みとタイアップした携帯電話売上向上作戦、というストーリーで書かれた、マーケティングの入門書。AIDMA・AISASといった消費者心理モデルと、マーケティングの4Pという販売戦略の考え方を、解り易く説明する。内容に比して、ストーリーが少し長すぎるが、若手社員にも読み易そうな本(専門的な知識を身につけたい人は「ちゃんとした本」で勉強して下さい/笑)。本書の内容は、営業宣伝の部署に配属された人にとっては必須知識。それ以外の部署の人も知っておいて損はないと思う。
  • AIDMA…Attention (認知)、Interest (興味)、Desire (欲求)、Memory (記憶)、Action (買う)、の5つを顧客の購買行動に結び付けるルールと考えるマーケティングの考え方。
  • AISAS…Attention (認知)、Interest (興味)、Search (検索)、Action (買う)、Share (情報を共有する)、の5つを顧客の購買行動に結び付けるマーケティングの考え方。
  • マーケティングの4P…Product (製品戦略)、Price (価格戦略)、Promotion (販促戦略)、Place (流通戦略)を有機的に連携させる販売戦略の考え方。
久しぶりのユル系ビジネス本でした。小説(フィクション)も含めればユル系の本は結構読んでいますが…(笑)。

2014年12月11日木曜日

日野 瑛太郎 「あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。」


日野 瑛太郎 「あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4492223347/>
単行本: 168ページ
出版社: 東洋経済新報社 (2014/1/10)
言語: 日本語
ISBN-10: 4492223347
ISBN-13: 978-4492223345
発売日: 2014/1/10

[書評] ★★★★★

ナカナカ刺激的な題名だ。会社員として「タブー」と言っても良い台詞が、そのままタイトルになっている。

従業員に仕事に「やりがい」を感じるように求めるのは、終身雇用制度が成立していた時代の遺物だ。だが、会社側にとって、「やりがい」は従業員に与えるには都合の良い飴だ。「やりがい」を餌に、給与(や残業代)に見合わない仕事を押しつけるのに利用されている。しかし、会社が、従業員の一生を保証できなくなった今、このような仕事のさせ方には問題があると本書では説く。

残業の定常化や残業代の不払いは、マネジメントによる不法行為だ。有給休暇が自由に取れないのは、仕事の計画の立て方が正しくないからだ。従業員に「経営者目線」を求めるのは、会社にとって都合の良い考え方を押し付けるのに等しい。

本書では、日本企業がどのように従業員を「社畜」化しているのかを解き明かすとともに、労働が本来あるべき姿を示す。すなわち、終身雇用制が崩れた現代日本における、新しい働き方の提案だ。会社と従業員は対等な関係にあるべきで、従業員も会社と対等に取引するために労働市場における自分の価値を高める努力を続ける必要があると述べる。

本書から引用したい箇所はたくさんあるが、一番衝撃的だったのは以下の項。
  • たとえば、サービス残業のような違法行為は明確な契約違反として対処すべきことです。「残業代を払ったら会社が潰れてしまう」と会社が言うのであれば、きっちりと残業代を払ってもらった上で、潰れてもらえばいいだけです。 (p. 148より)
自分がいかに「社畜」化してしまっていたか、目を覚まされた…という感じもする。

社会人(従業員)は今後、労働基準法等をきっちり勉強して自分自身の身を守るとともに、より良い組織で価値提供出来るように自己研鑚をしましょう、と言えば概ね本書の結論となろうか。

会社員全員(上司にも部下にも)オススメの本。就職前の学生にもオススメできる良書だ。

2014年11月12日水曜日

谷光 太郎 「青色発光ダイオードは誰のものか―世紀の発明がもたらした技術経営問題を検証する」


谷光 太郎 「青色発光ダイオードは誰のものか―世紀の発明がもたらした技術経営問題を検証する」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4526055735/>
単行本: 183ページ
出版社: 日刊工業新聞社 (2006/01)
ISBN-10: 4526055735
ISBN-13: 978-4526055737
発売日: 2006/01

[書評] ★★★★☆

今年のノーベル物理学賞受賞者、中村修二教授著「ごめん!」(Amazon拙書評)のレビューを先日(19th/Oct./2014)書いた。青色発光LEDの基材・GaN(窒化ガリウム)製造方法の発明者の、一方的な意見だけを読むのも不平等なので、より中立的な視点を持っていると思われる人が書いた本を読んでみた(「ごめん!」と一緒に買っておいたまま積読本だったものを続けて読んだ…が実態/笑)

内容は、GaNの製法特許に関わる裁判の統括と、同様の発明の対価に関する訴訟についてのレポート。多くの資料からの引用が中心で筆者によるコメントは少ないが、よくまとまっている。

発明の価値や知財戦略について、どう考えれば良いか/どう取り組めば良いか、についての明確な答えは無し。しかしながら、これらの裁判をキッカケに始まった、日本の司法の取り組み(特許法の改正、知財高裁の設立など)についても解り易く書かれている。内容は本書発行時のものであり最新ではないが、非常によくまとまっており、参考になる。

メーカ従業員として、あるいは1人の技術者として、「知的財産の価値」や「知財戦略」をどう考えれば良いかのヒントにはなる。

・  ・  ・  ・  ・

以下雑記:

中村氏の発明の対価について。
  1. 青色LEDの製造技術全般の中で、中村氏の寄与が全てではないこと(窒化ガリウム以外の半導体素子製造技術も非常に多いこと、窒化ガリウムの製造技術自体が中村氏1人だけで実現したのではない)
  2. 「世界初」「世界一」のトップ技術(中村氏の担当)だけでなく、「安定」かつ「高良品率」に製品製造する量産技術(他の人が担当)も非常に重要であり、特に後者が無いことにはメーカは利益を生み出せない
  3. 製品開発にあたって、経営者側もリスクを取って投資を続けたこと
等を鑑みるに、高裁審の判決結果(6億円、利息込で8.4億円で和解)は、まぁ妥当な所ではないか(少なくとも桁違いには多くも少なくもない)、と思う。本書はそんな私の考えを裏付ける(補強する)ものとなった。

「業界内で無理と言われていた技術を、世界に先駆けて実現した」発明に対して、もう少し報いてくれても良いのではないかな~とか思うのがイチ技術者としての正直な感想(笑)。でも、ノーベル賞のニュース、それに中村教授-日亜化学工業の関係改善のニュースもあり、まぁ良い落とし所だったのでは、とも思う。

2014年11月9日日曜日

竹内 一正 「スティーブ・ジョブズvsビル・ゲイツ」


竹内 一正 「スティーブ・ジョブズvsビル・ゲイツ」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4569776973/>
新書: 222ページ
出版社: PHP研究所 (2010/2/19)
ISBN-10: 4569776973
ISBN-13: 978-4569776972
発売日: 2010/2/19

[書評] ★★☆☆☆

アップル創業者、スティーブ・ジョブズ氏と、マイクロソフト創業者、ビル・ゲイツを色々な観点で比較した本。

IT・電子部品関連の雑誌・書籍に、両氏の仕事の仕方については散々書かれてきた。PCやネットの黎明期(1980~90年代)、ゲイツ氏は堅実な経営も営んで大富豪になった人だ。これに対して、ジョブズ氏は時々ホームランを打ち続け(そして時々大コケして)アップルを世界トップクラスの企業にまで導いた人だ。

本書では、ジョブズ氏とゲイツ氏、全く異なるタイプの経営者2人を同じ俎板に乗せて比較しているのは面白いかも知れない。2人の経営者の色々なエピソードが読めるのは興味深いが、殆どどこかで読んだ話ばかり…という気もする。一時だけの流行本ではないだろうか。

2014年11月8日土曜日

今野 晴貴 「ヤバい会社の餌食にならないための労働法」


今野 晴貴 「ヤバい会社の餌食にならないための労働法」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4344420268/>
文庫: 137ページ
出版社: 幻冬舎 (2013/6/11)
ISBN-10: 4344420268
ISBN-13: 978-4344420267
発売日: 2013/6/11

[書評] ★★★★☆

2006年に若者の労働相談を受け付けるNPO法人「POSSE」を設立した筆者による、ブラック企業?に悩まされている個人が、どのような行動をとれるのかを示した指南書。良書。

同じ著者による「ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪」(文藝春秋、2012/11/19) (Amazon, 拙書評)は、ブラック企業がどのように従業員を食い物にし、社会悪となっているかを具体的に書いた本。よく整理されている。

んで、本書。労働基準法が定める基本的なことがらが網羅されている。退職や解雇に関する条件がしっかり書かれており、会社が簡単には従業員を解雇できないことが書かれている。自分や周りの人が会社を去る場合、ちゃんと手順を踏んでいるか確認することが出来る。より詳しくは労働基準監督署や社労士、労働担当の弁護士などに相談するのがベストなのだろうが、最初に参照すべきものとして有効だろう。

うちの会社ヤバくないか?と思っている会社員は勿論、就職前の学生も読んでおいて損はない本。