2015年4月18日土曜日

ジェリー・ポラス他 「ビジョナリー・ピープル」

ジェリー・ポラス, スチュワート・エメリー, マーク・トンプソン(著), 宮本 喜一(翻訳)
「ビジョナリー・ピープル」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4862761003/>
単行本: 408ページ
出版社: 英治出版 (2007/4/7)
ISBN-10: 4862761003
ISBN-13: 978-4862761002
発売日: 2007/4/7

[書評] ★★☆☆☆

『ビジョナリー・カンパニー』(下記参照)の共著者、ジェリー・ポラスを含む著者陣による本で、カンパニー(企業)ではなくピープル(人間)に焦点を当てたもの。『ビジョナリー・カンパニー』シリーズは卓越した組織を作り率いる方法について述べた本だが、本書『ビジョナリー・ピープル』は個人が卓越した人生を生きる方法について述べた本。

他人が作った価値基準に沿って生きるのではなく、自分自身が大好きなこと(愛情を注いで取り組めること)、かつ誰かの為になることを仕事とすること。挫折への接し方、良いアイデアを出すための議論の仕方、…etc., etc.、組織人として仕事をする上で参考になる話が多い。

が、しかし…。

◆翻訳の質に関する文句:

解り難い文章が多い。特にPART 3(9~11章)は原英文が思い浮かべられる程お粗末な翻訳。見事に英語の論理に引きずられている(日本語の論理構造になっていない)。翻訳作業の締切り等の都合もあったのっだと推察するが、Excite!さんGoogleさんに機械翻訳をしてもらったまま殆ど手直し無し…みたいな雑な訳文だ。特に、10章「論争を盛り上げる」が日本人にとって馴染みの薄い内容であること、11章「すべてを結集させる」が本書を締め括るための重要なパートであることを考えると、この2章の訳文の質が低いというのは致命的かも知れない。

このショボい翻訳により、この訳書の完成度は低くなってしまっている。翻訳の専門家ではないが、その分野で著名な先生が翻訳した本では、こういうことがままあるものだ(例えば昭和時代の理系の専門書など)。が、平成になって20年以上、グローバル化時代のビジネス書だ。多くのビジネスパーソンを読者層とした本である筈だ。出来ればもっと質の高い、読み易い翻訳にして欲しかった。

◆さらに文句(恨み節):

本書の訳者・宮本喜一氏については、C・クリステンセン(著)「明日は誰のものか」の翻訳も質が悪かったと記憶する。
質の悪い翻訳者がのさばると、我が国にとって損失だ…というのは言い過ぎかも知れないが、少なくとも原著者に対して失礼ではあろう。彼ら翻訳者は日常的に英語に触れていて、物の考え方自体が英語化しているのだろうが、日本語アタマの読者に真摯に内容を伝える努力はして欲しい。翻訳の質が高いもので同じ“ビジネス書”の分野で最近読んだ本では、例えばE・シュミット他(著)/土方奈美(訳)「How Google Works―私たちの働き方とマネジメント」(Amazon拙書評)の翻訳は一級品だ(上記の櫻井祐子氏もビジネス、科学と幅広い分野で翻訳をしているが、名訳が多い)。多くの翻訳業者さんに、こういう質の翻訳を目指して欲しいと思う。

原著者と、邦訳版権を取った英治出版との、いずれの意図かは判らないが、どうにもベストセラー「ビジョナリー・カンパニー」シリーズの尻馬に乗って稼いでやろうという意図があったのではないか? …というのは深読みだろうか? (「ビジョナリー・カンパニー」の原題“Built to Last”に対して、本書「ビジョナリー・ピープル」の原題は“Success Built to Last”と似たものになっている。邦題もよく似ている。)

◆参考図書:「ビジョナリー・カンパニー」シリーズの既刊
  • ジム・コリンズ、ジェリー・I・ポラス「ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則」(1995) (Amazon拙書評)
  • ジム・コリンズ(著), 山岡 洋一(翻訳)「ビジョナリー・カンパニー② - 飛躍の法則」(2001) (Amazon拙書評)
  • ジェームズ・C・コリンズ(著), 山岡洋一(翻訳)「ビジョナリーカンパニー【特別編】」(2006) (Amazon拙書評)
  • ジム・コリンズ (著), 山岡 洋一 (翻訳)「ビジョナリー・カンパニー③ 衰退の五段階」(2010) (Amazon拙書評)
  • ジム・コリンズ, モートン・ハンセン(著), 牧野洋(翻訳) 「ビジョナリー・カンパニー④ 自分の意志で偉大になる」(2012) (Amazon拙書評)

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