2016年9月4日日曜日

田濤・呉春波(著),内村和雄(訳)「最強の未公開企業ファーウェイ――冬は必ずやってくる」

朝晩が少し涼しくなって来ましたね(1~2週間前まで夜もセミが鳴いていましたが、今ではすっかり秋の虫の声です)。読書意欲復活です。久し振りにビジネス書行きます。


田濤・呉春波(原著),内村和雄(翻訳)「最強の未公開企業ファーウェイ――冬は必ずやってくる」
<https://www.amazon.co.jp/dp/4492502661/>
単行本: 242ページ
出版社: 東洋経済新報社 (2015/2/13)
言語: 日本語
ISBN-10: 4492502661
ISBN-13: 978-4492502662
発売日: 2015/2/13

[書評] ★★★☆☆

「世界で最も革新的な企業ランキング」(Most Innovative Company Ranking by FAST COMPANY, 2010.02)で、①Facebook、②Amazon、③Apple、④Google、に次いで⑤中国企業・華為技術(Huawei Technogolies Co. Ltd.、ファーウェイ)がランクインした。

正式名称、華為技術有限公司(英:Huawei Technologies Co. Ltd.)。中国広東省深圳に本社を置く通信機器メーカー。日本では通信端末で馴染みがあるが(ハイエンドのスマホも有名だが、ポケットWi-Fiルータのシェアが結構大きいようだ)、世界的には、基地局・中継局供給とネットワーク構築が主業。世界最大規模の製造業で売り上げは40兆円に迫る。(一部Wikipediaより)

世界有数のグローバル企業でありながら、非上場。単なるセットメーカ(機器製造)でなく、通信システムの構築・敷設を行システムメーカでもある。15万人以上の従業員を抱え(2015年データでは17万人:百度百科より)、うち3万人以上が外国籍(非中国籍)。日本にも錦糸町・大手町・横浜にR&D等の拠点を持つ。ビジネス形態はB to B (対法人ビジネス)なので、一般人には解りにくい「謎」の中国系グローバル企業。そんなファーウェイの創業者・社長の任正非氏の経営哲学と、ファーウェイの過去・現在の説明、そして未来に向いている方向を示す本。

中国企業でありながら、成長の早い段階から欧米のビジネスシステムを取り入れ、グローバル化に対応。それでいて、白黒はっきりさせすぎない東洋的な経営思想も併せ持つ(「灰度哲学」)。日米欧のどの企業ともチョット違うファーウェイの実像に迫ることの出来る、面白い本だ(自社の経営状況と比較して、良い点・悪い点をチェックしながら読んでみても面白い)

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以下、雑感。

本書を読むと、以下を通じて高い業績を挙げ続けていることが分かる。
  • 非上場(1.4%が任会長保有、残り98.6%は社員持株制度)…資本市場からの四半期毎の業績圧力や株価変動に惑わされず、10年単位で戦略策定・実行が可能…他の企業よりも長期戦略に基づいた行動が取れる。また、世間に企業の経営情報を公開する義務が無く、顧客へのサービスのみで勝負が出来る。
  • 他の多くの企業(特に米国企業)のような利益至上主義、株価至上主義とは一線を画している…利益の少ない製品も地道に作り、着実にシェアを伸ばして行っている。
  • 政治と極力無関係な立場を維持…政治的な順風に乗ることもないが、逆風も最小限で済む。社員も政治活動は御法度(デモ参加、政治意見の表明等を含む)
  • 「奮闘者を根幹とする」経営方針を緩めない一方で、市場・拠点のグローバル化に当たり、各国の法律(そして世界的には米国の法律)を遵守し、商取引上の問題・労働問題等が起きないようにしている。
  • 中国流のシブトい経営体質に、欧米の先進的ビジネスシステムを取り込み、世界的な商慣習・労働条件に適合した企業として上手くグローバル展開している。
  • 物事の白黒をはっきりさせず、灰色のものを受け入れる経営体質(「灰度哲学」)。幹部・管理職にも大きな度量が求められる。
  • 独り勝ちを目指さず、バランスの取れた競争環境を維持する。「すべての敵を滅ぼし、一人で天下を取りたいと願ったチンギス・ハーンやアドルフ・ヒトラーは、どちらも自滅してしまった。(中略)ライバルとは競争も必要だが、協力もまた必要だ。要は自分にとってプラスになればよいのだ」(p. 68)
  • 経営者と管理職は常に危機感を抱いており、常に危機に備えている。任社長の考えでは「有線や無線の情報伝送能力が一定のレベルに達した時、情報通信技術のイノベーションはスローダウンすると考えている。その時に生き残れるのは、グローバル市場を網羅し、マネジメントに優れ、良質のサービスを低コストで提供できる企業だけだろう。ファーウェイは自分が消滅する前にそのような水準に到達しなければならない」(p. 132)。また、ファーウェイでは太平の時期が長すぎ、平時に昇進した幹部ばかりというのが頭痛の種とのこと(平時任官した軍人は「官僚」としては有能だが、有事の際に全然役に立たないと言っているのと同じか)
反面、従業員に優しくない会社という印象は拭えない。たとえば:
  • 「社内事情に詳しいある人物によれば、ファーウェイの経営幹部のうち少なからぬ人数が精神的プレッシャーに起因する何らかの疾病――不安神経症、鬱病、高血圧、糖尿病など――を抱えているという」(p. 124)
  • 会社が小さかった頃の「マットレス文化」(新入社員に仮眠用のマットレスとタオルケットを支給していた)の体質が色濃く残っている。(pp. 124-125)
  • 長期雇用が約束されていない。「ファーウェイでは終身雇用制を約束したことは一度もない」「会社と社会の間の人材交流も必要だ」「社内のポストや人材の流動性が重要である」(pp. 185-186, 233-234)
  • これまでに数度、1000人単位のレイオフを行っている(再雇用した場合も勤続年数等はリセットされる)
  • 意地の悪い観方をすると、社員持株会制度を悪用?しているようにも見える。①中国の会社法から見て、ファーウェイの持株会制度はグレーである…持株会制度は法律施行前に開始していたとはいえ、非上場企業でもあり自分の持株を自由に売り買いすることは出来ない。②企業業績を反映した配当を餌に、従業員の通常収入(月収)を削っているように読めるフシもある。
また、日米欧の企業(メーカ系)と比較しての話だが、気になる点:
  • 非上場ゆえに企業情報が表に出てこない。(一般的な上場企業と比較して)会社情報・経営データがかなり不透明(社長・任正非氏の経歴もわからないことが多い)
  • 自社主導のイノベーションを軽視しているのでは?という傾向が少し見られる。
    • 「1人当たり生産性を伸ばす」を重要な経営目標にしていると、必然的に失敗が多くなるR&D部門では直近の製品開発しか出来なくなるのでは? それで良いのか?
    • 「リードしてよいのは常にライバルの半歩先までだ。3歩先まで進むと顧客ニーズから乖離してしまいかねない」(pp. 202-204)と言っているが、R&Dステージでは2~3歩先を見つめ、技術開発・特許出願は先行して行わないと、「戦力になる特許」は決して取れないのでは?
    • スマホでは、まだまだ他社の後追い。Huawei P6はApple iPhone 6sのcopycatだとWIRED誌でもこき下ろされていた。
  • 2013年版R&D案内パンフには「特許申請数6万8,895件、取得特許数3万0,240件、LTE必須保有特許829件以上 (2012年現在)」とある。出願数がとにかく多い(2000~2010年頃シスコ等の競合他社から特許侵害を訴えられる等の手痛い経験から学んだ結果なのだろう)。このうち、自社技術の保護に役立っている特許がどれだけあるかは不明。また、特許を出願すると、特許査定/拒絶査定/最終処分未決を問わず(つまり権利保護能力の有無に関係なく)、18カ月で公開されてしまうという欠点(?)がある(技術の独占の引き換えに技術内容を公開する…というのが特許のフィロソフィなのだが、何でもかんでも出願していると、自社のR&Dの活動内容が1年半後には社外にバレバレになるし、費用もかさむ)。知的財産重視は中国企業としては珍しいし、だいぶ前から世界標準でもあるのだが、自社知財の保護方法は特許出願の他にもあるのでは?とも思える。この辺り、今後はどのように進めて行くのだろうか。
中国IT企業(製造業)に関しては、過去にレノボ(聯想)の本を読んでいる。聯想と華為、中身は大きく違う。「中国系IT関連メーカ」などという単純な括りは出来ないようだ(共通点もあるのだが、違いの方が目立つ)
以上

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