2017年3月26日日曜日

リチャード・ドーキンス(著), 吉成真由美(編集・翻訳)「進化とは何か:ドーキンス博士の特別講義」


リチャード・ドーキンス(著), 吉成真由美(編集・翻訳)
「進化とは何か:ドーキンス博士の特別講義」
<https://www.amazon.co.jp/dp/415209513X/>
単行本(ソフトカバー): 248ページ
出版社: 早川書房 (2014/12/19)
言語: 日本語
ISBN-10: 415209513X
ISBN-13: 978-4152095138
発売日: 2014/12/19

※文庫版あり(2016/12/20)(<https://www.amazon.co.jp/dp/4150504822/>)

[書評] ★★★★★

英・オックスフォード大学の進化生物学者、リチャード・ドーキンスが1991年に英国王立研究所で行なった、子供たちを対象にした「生物はどのように進化してきたのか」の講義内容(全5回、本書では第1章~第5章に相当)。また、第6章は、本書の編・訳者:吉成真由美氏によるドーキンス博士へのインタビュー(2009年)の内容となっている。ドーキンス博士は英国の進化生物学者・動物行動学者で、『利己的な遺伝子』など何冊もの著作で有名。

さて、本書。ズバリ、非常にわかりやすいし、読みやすい(一部ツッコミ所はあるが… ←後述)。講義(1991年)から四半世紀以上経っているが、今読んでも面白いし、今だからこそ多くの人に読んで欲しい本。特に第6章は、教育に携わる人に是非読んで欲しい内容。

第1章~第5章は、生物の進化論と、その実例に関するレクチャー。
  • 地上の生物は、万物の創造主によっていきなり「今の形」に作られたのではなく、非常に単純な形の生命体が何十億年もかけて今の形に進化してきたものである。
    • 地球上の生物は、動物・植物・微生物・ウイルスを問わず、例外なくDNAという遺伝暗号で表現型(機能発現)を後世に伝えている。そういう意味で、地上の生物は(縁の遠近はあるが)皆「親類」である。
  • 進化論に懐疑的な人は「機能が半分だけの眼や翼は役に立たない」と主張するが、実際の生物を見ると、0%の眼より1%の眼の方が、そして49%の眼より50%の眼、99%の眼より100%の眼のほうが生存上有利となる。ごく僅かずつのバリエーションのうち、生存上有利な形質が後に残り、数多くの世代を経て、今の動植物の形に至っている。
  • このような進化の過程を経ると、「わずか数万世代」で、生物は新たな機能を獲得する。人間の場合、1世代は20年くらいなので「数万世代」というと理解を超えた長さだが、地質学的な時間尺度で見れば、実はこれは非常に短い時間である。植物や昆虫、小型動物の場合、1世代が1年未満ということも多く、数百年~数千年で大きく進化するものもある(人為的に品種改良を行なった食用植物や家畜がその良い例である)
  • 生物の中には進化の袋小路に陥ってしまっているものもある。たとえばアンモナイトやオウムガイの眼。構造のシンプルさゆえに、複雑で未熟なもの(レンズを有する眼)より優位に立つことができ、当初は爆発的に繁殖した。が、レンズを持つ眼が進化するに従い優位性を失ってしまった。
    • これら、自然選択による進化であたかもデザインされたように見える「デザイノイド」物体は、本質的に誰か(人間)がデザインした物体とは違うと言うドーキンス博士に叱られてしまうが:馬車が自動車に、真空管がトランジスタによって陳腐化されてしまった技術イノベーションにも似たところがある。
    • 現在のヒト(人間)も進化の最終形態ではないし、もしかしたら進化の袋小路に陥っているのかも知れない。この先、他の生物ヒトを超えた存在に進化する可能性はゼロではない(人間は他の生物に滅ぼされる可能性が出てきた段階でその生物を殲滅するだろうし、もしかしたら自らの生み出した機械生命(超AIなど)に滅ぼされてしまうかも知れない)。
第6章は、ドーキンス博士の過去の著作のエッセンス、特に彼の主張をまとめたような内容。その内容は、『利己的な遺伝子』(1976、原題: The Selfish Gene)、『神は妄想である』(2006、原題: The God Delusion)などと重複するが、いくつか重要なポイントを押さえておきたい。
  • 人間を含む動物・植物の体を、遺伝子が自己複製を後世に残すための「乗り物」という見方ができる。ここで、遺伝子のバリエーションの機能発現の結果、環境に適応できたものが後世に残る(競争上有利な遺伝子が選択的に後世に伝わる)とする。
  • ドーキンス博士は、偉大なる創造主が世界を作ったという創造説を真っ向から否定する、いわゆる無神論者である。宗教は、人間が自己の存在理由・起源や、世界はなぜこのようにあるのかを知りたいという知的欲求から生まれたものであると考えられるが、帝国を統治する道具にもなった(政治的イデオロギーと似た面も持っている)。が、時代や地域によって変わる「真実」は宇宙の真実たりえないし、無批判に物語を信じさせている点では、人々(特に子供)から真実を知る機会と手段を奪っているとも言える。この辺りに関し、ドーキンス博士は「宗教」や「イデオロギー」を言語により伝播・蔓延する「ウイルス」のようなものだと言う。
  • 科学的な真実は美しい。実学としての教育も必要ではあるが、純粋に楽しめる学問としての教育も必要なのではないか…という主張は100%同意したい。
なお、本書は文庫版も出ているが、写真も多いので、是非、サイズ大き目の単行本(ソフトカバー)を読むことをお勧めする。

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本書の構成・翻訳の質など

本書はとても読みやすい。これは、編・訳者:吉成氏による編集の功績が大きいだろう。ドーキンス氏の著作は情報過多で内容コッテリ目、時々流れが淀むことが多いように思えるが(笑)、本書は情報は必要にして十分、かつ流れ良く書かれている。吉成氏の正鵠を射たインタビュー、よく練られた構成が本書のクオリティを高めているのだろう。

ただ、ひとつだけ難点を挙げさせて頂きたい:それは、ですます調と断定形が混じっていること。最初はひどく違和感を感じた。まぁ読んでいるうちに慣れてしまうのだが(笑)。

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以下参考情報

◆著者:リチャード・ドーキンス(Wikipediaリンク)著作
◆編・訳者:吉成真由美氏の編・訳本

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