2015年3月28日土曜日

酒見 賢一「泣き虫弱虫諸葛孔明 第参部」

酒見 賢一「泣き虫弱虫諸葛孔明 第参部」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4167902990/>
文庫: 527ページ
出版社: 文藝春秋 (2015/2/6)
言語: 日本語
ISBN-10: 4167902990
ISBN-13: 978-4167902995
発売日: 2015/2/6

[書評] ★★★★☆

「泣き虫弱虫諸葛孔明」の第参部(の文庫版)、とうとう発売。早速購入→読書。ハードカバー版は少し前に出ていたが(2012/7、Amazon)、文庫版が出るのを待っていたんだぉ(笑)。

タイトルの通り、後漢末期~三国時代に劉備玄徳に仕えた軍師、諸葛亮孔明をマトモには扱っていない本である(かなり茶化した書き方だ)。孔明だけでなく、この時代の色々な人物の性格や行動の問題点を挙げつらい(全然格好良くない描写が多い)、その上で三国志を現代風な解釈で分かり易く解説したエンターテインメント本。劉備一派(まだ蜀になっていない)だけでなく、曹操一派(魏)、孫権一派(呉)も各登場人物は変質者っぷりというかマニアっぷりを前面に押し出して描写されている。呉の人物に至っては会話は何故だか広島弁(呉は“ご”ではなく“くれ”だったのか?/笑)。で、地の文では突っ込み満載。一応小説の体裁をとってはいるが、歴史小説というより、三国志をネタにした歴史薀蓄本というか、裏話暴露本というか。そんな本である。

さて、内容(第壱部・第弐部の分も書いておく)。
  • 第壱部:諸葛亮孔明“臥竜”を号す~三顧の礼
  • 第弐部:臥竜出廬~博望坡(本書によると戦(いくさ)ではなく孔明が火をつけただけ)~長坂坡の戦い(劉備の大退却戦)
  • 第参部:劉備-孫権同盟~赤壁の戦い~周瑜の益州攻略(…と見せかけた劉備軍攻略;周瑜の死により中断)
相変らずストーリー展開は遅い(各冊とも500ページを超える本なのだが)。この調子で行くと、話が完結するまであと5~10年待たされてしまうんではないかぁ、みたいな(ハードカバー版はもう少し早いかな)。

後に書く通り、薀蓄・解説・裏話・チャチャ等が多く(非常に多く)、ダラダラと書かれた変な本である。ストーリーはナカナカ進まず、ある意味フラストレーションの原因となる(まぁ“本流”の三国志も数多(あまた)のドラマを作り込んであって、全編通読しようとするとカナリ長いのだが)。しかし、この薀蓄が(好きな人には)たまらなく面白く、ついつい読み進めてしまう麻薬的な本である。

なお、吉川英治でも陳舜臣でも北方謙三でも良いので、とにかく『三国志』の本流(“真っ当な”バージョン/笑)を読んで、ある程度のストーリーを頭に入れた後に読むことをオススメする。

◆以下、私も負けずにダラダラ書きます。

読みたい人だけお読み頂き、そうでない人はどうかお引き取りを(笑)。

第壱部、弐部にも言えることなのだが、以下に挙げられるような、本ストーリーと直接関係の無い内容が入り乱れており(かなりダラダラと書かれている/笑)、これによって話が全然進まない。
  • 解説文と薀蓄(うんちく)や例え話、前後の話との繋がりの解説
    • 第壱部の冒頭に以下のような記述があるが、何をおっしゃる兎さん、著者の酒見氏は、中国の歴史について大変深い知識と薀蓄をお持ちである。
      • そもそもわたしが初めて『三国志』を読んだのは、作家になって後のことである。わたしのデビュー作が、「シンデレラ+三国志+金瓶梅+ラストエンペラー」のおもしろさと評されていたので、どんなものか見てみようと思ったのであった。そのことが無かったら一生読んでいなかったかも知れない。(第壱部/文庫版、p. 12より引用)
        ※この“デビュー作”とは『後宮小説』(1993)のことで、第1回日本ファンタジーノベル大賞を受賞した作品(Amazon拙書評)。
  • 御本家(?)or本流(?)の「三国志」には見られない、新しい解釈・解説
    • 陳寿(正史「三国志」を書いた人)、裴松之(陳寿の「三国志」に注をつけた人)、羅貫中(脚色アリの「三国志演義」のアンカーマン)、その他の歴史書を調べ、何が史実で何が虚飾なのかを(筆者・酒見氏なりに)確認・分析した上でのストーリーになっている。
  • 人物像や行動の評価、及び単なるチャチャ(悪乗りも多々見られる)
    • しかも1960年代から2000年台までの歌謡曲、TVドラマ、アニメ、映画、ゲーム、プロレスまでカバーするマニアックなネタが多く(昭和臭く、「プ女子」には解らないであろうネタ多し)、分かる人だけニヤッと出来る作りになっている。
  • 中国の歴史書に対する批判
    • 「三国志」だけでなく中国の史書一般に共通して言える話なのだが、なぜか密談内容まで克明に書かれていたりする。それっておかしいじゃん?みたいな。
    • 「三国志」自体、一部史実も含まれているだろうが、話を面白くする為に様々な脚色が加えられており、前漢建国前後(三国志時代の約200年前)の因縁まで入った話になっている。二千年という時の流れを経て語り継がれる間に、捏造に捏造を繰り返されている…らしい。
本ストーリー2~3割、残り全てが解説・新説(?)・チャチャという変な本。「小説・三国志」or「小説・諸葛孔明」というより、時代や人物とその背景を語る「読本・諸葛孔明と愉快な仲間たち」と言えそうだ(そう言えば、北方三国志のBOXセットにも読本が附いていたけどコレは項目別に整理された解説書というマトモな本でした)

…と本書の御無体ブリを書いてしまったのだが、それでいて面白い。まったくもって変な本である。ダラダラした解説や変なチャチャが面白く、空き時間が出来るとついつい手に取って読んでしまうという、歴史の裏話・薀蓄が好きな人にはたまらない1冊

◆余談

著者によれば、「三国志」はイイ年をした男子の読む本ではないという。史実をネタに書かれたファンタジー、幼年向けマンガ誌のようなものであって、女子供の読む本である、と。このことは、第弐部冒頭と第参部冒頭とで二度書かれており、著者(酒見氏)も強調したいのかも知れない。が、今じゃ大人もマンガ読むしぃ、マンガで書かれた自己啓発本やビジネス本もある位なんだよぉ、別にいいじゃん~、みたいな(笑)。

それと。本書(第参部)冒頭では、日本では三国志が流行り過ぎていて、荒んだ世相を反映した悪い傾向なのではないかという。このまま行くところまで行くと…
  • 首相(役職名は丞相に変更か)は『三国志』の故事名言を引用して国会で語り、野党も好きだからうっかり納得する。どんな国民無視の許し難い法案も『三国志』に絡めれば豪快に素通りである。(p.13より引用)
…等と悪乗りした書きっぷり。こういうチャカし方、私は嫌いではないが。

それはそうと。ハードカバー版では第四部も既に出ているんだよな~(2014/11、Amazon)。これも早く文庫化して欲しいものだ。

◆既刊
 
  • 酒見 賢一(著)「泣き虫弱虫諸葛孔明 第壱部」(文庫版、2009/10/9、Amazon拙書評)
  • 酒見 賢一(著)「泣き虫弱虫諸葛孔明 第弐部」(文庫版、2011/2/10、Amazon拙書評)

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