2012年12月21日金曜日

神舘和典・白土恭子「上原ひろみ サマーレインの彼方」(単行本)


神舘 和典 (著), 白土 恭子
「上原ひろみ サマーレインの彼方 (単行本)」
<http://www.amazon.co.jp/dp/4344010566/>
単行本: 197ページ ; 出版社: 幻冬舎 (2005/10) ; ISBN-10: 4344010566 ; ISBN-13: 978-4344010567 ; 発売日: 2005/10 ; 商品の寸法: 18.6 x 13 x 2 cm
[書評] ★★★★★
 いつも全力投球! すごい、の一言に尽きる。 上原ひろみのCD・DVD映像などから、 彼女が日本人離れしたパワフルなアーティストであることは知っているつもりだったが、その彼女のパフォーマンスの根底にあるものを、本書は十分に明らかにしてくれている。
 著者の文章が良いことや、写真家の腕が良いこともあると思うが、 全編にわかって心地良い疾走感を感じさせる。 十分なメッセージを持ちつつも重すぎず、非常に読みやすい。 上原ひろみというアーティストに興味のある人は必読。
 上原ひろみという音楽家はJAZZ LIFEなどの雑誌でもよく取りあげられており、 気になっているアーティストの1人だったが、 彼女の演奏を初めて聞いたのは、チックコリアとのデュオのCDだった。これまでに演奏を聴いた日本人の女性ピアニストと言えば、 国府弘子、大西順子、綾戸智絵…といった辺りが中心だったが、 上原ひろみの演奏は、誰ともタイプが違うと思った。
 黒人並みの力強いタッチ、精確でありながら繊細かつ野生的な演奏、 完璧な技術と燃え上がるような感情表現。 「凄い」の一言に尽きる。チックとのデュオでは、チックの手癖が無かったら、 左右どちらのチャネルがチックでどちらが上原なのか分からなくなるような演奏だ。
 このデュオのCDに附属するDVDを見た時、さらに衝撃を受けた。ピアノを弾くのが楽しくて楽しくて仕方が無いという彼女の気持ちが、 観ているこちらにまで伝わってくる。もしかしたら、この演奏する喜びの気持ちは、チックよりも強いんじゃないだろうか(チックは才能ある若い音楽家を暖かく見守りながら、 音の世界を通じてコミュニケーションをとることを存分に楽しんでいるようにも見える)。 彼女の演奏は、全身全霊での演奏、全力疾走しながらの演奏。しかも、音のコラボレーションを楽しんでいる。また、演奏家同士のコミュニケーションの他、 聴衆とのコミュニケーションも強力だ。 一部の音楽家だけに許された、濃密な時間。 性的な関わりでも絶対に得られない位に深い、心と心の交流、 観る人の魂をぐわっと掴んでしまうような魅力を持った音楽家/演奏家だと思った。
 一発で彼女のファンになった。 慌てるように、彼女の過去のCDを買い漁って聴いた。3rd Album「スパイラル」に附属のDVDは、レギュラーバンド(ピアノトリオ)での演奏。Nordのアナログ・シンセと生ピアノ(グランド・ピアノ)とを自由に行き来しながら、パンクでありファンクでありロックでありジャジーであり、 色々な音楽の粋を集めたような新しい音の試みが、そこでは繰り広げられていた。
 この若さでこの完成度、本当に大丈夫なのだろうか? 世間は若い才能ともてはやすが、年齢以上の完成度とすごいテンション、なんだか危なっかしいものも感じる。しかし、それも彼女の魅力のひとつ。この先も彼女の創り出す音楽には注目してみたいと思う。

0 件のコメント:

コメントを投稿